写真におけるボケ(ぼけ、英: bokeh)とは、レンズの焦点(被写界深度)の範囲外に生みだされるボヤけた領域の美しさ、およびそれを意図的に利用する表現手法である。基本的に主たる被写体にはピントが合っていることが前提であり、ソフトフォーカスレンズの効果とはまったく異なる概念である。この概念や手法は日本国外でもbokehと呼ばれている。

焦点距離85mm 絞りF1.2 (Canon EOS-1Ds MarkII + EF 85mm F1.2L)の時に生じたボケ

これとは対照に、画面のすべてにピントを合わせることをパンフォーカスやディープフォーカスという。

技術的には、意図的に被写界深度が浅くなるように設定することでそのような映像を撮ることができ、映画撮影での同様な表現は「シャロー・フォーカス」(shallow focus) と呼ばれる。

ボケ表現の効果 編集

  • ボケ表現は写真を見る人に注目させたい部分(主役)を浮き立たせる効果を持つ。たとえば上記の写真では少女のみにピントが合っており背景はぼけているが、この状態では見る人の多くは背景に注目しない。これは心理的な要因によるものであり、これによって写真内に写った余計なものから鑑賞者の目をそらすことができる。
  • また、ボケ表現はやわらかい印象を、パンフォーカス表現は硬い印象を与える効果がある。花、動物、子供、若い女性などにボケ表現が多く用いられるのは柔らかく印象付けるのが一つの目的である。
  • 逆光で点光源がうまくボケると、レンズによっては玉ボケが生じ、幻想的な効果が生ずる。(冒頭の写真に見られる)

ボケをつくる方法 編集

 
焦点距離300mm、絞りF4の時に生じたボケ。望遠レンズ。
 
マクロレンズを使用した際に生じるボケの例(焦点距離105mm、絞りF3.3)
 
超望遠レンズを使用し被写体を近接で撮影、背景と被写体の距離を離す事により背景の輪郭を完全にぼかしたボケ。この例は焦点距離600mm、背景は上から庭木・明るいコンクリート壁・暗いコンクリート壁。

ボケの作り方には大きく分けて三つの方法がある。

  1. 絞りを大きく開く(F値を小さくする)と被写界深度が浅くなり、ピントを合わせた部分の前後がぼける。F値が小さいほどボケの量も大きくなるが、開放絞りではレンズの収差も出やすくなるので、少し絞って撮影する場合も多い。
  2. 焦点距離の長いレンズ望遠レンズ)を用いるとやはり被写界深度が浅くなるのでボケを作るのに用いられる。この方法は前記1.と併用してポートレート(人物写真)に多く用いられる。右の花の写真はこの二つの方法を併用している。なお、被写界深度は画角でなく焦点距離に依存するので、同じ画角のレンズならば撮影フォーマットが大きいほどボケを得やすい。
  3. 被写体に近接して撮影するほど、背景がぼけやすくなる。この方法は花の写真などに用いられる。マクロレンズ接写リングの利用なども有効で、絞り開放と併用すると、幻想的な写真ができる。

(上記の通り望遠レンズを用いると被写界深度は浅くなるが、被写体から離れると被写界深度は深くなる。結果として、同じ被写体を同じ大きさで撮影する限り、どのような焦点距離のレンズを使ってもボケ方はほとんど変わらない。ボケを生かした撮影で焦点距離の長いレンズをよく用いるのは、ボケを作るためというよりも、画角を狭くして背景を整理するためである。)

ボケによる表現手法 編集

ボケによる表現手法は、いくつかの種類に分類できる(ただし、下記の名称は本編執筆時に便宜的に名付けたものであり、本来は画一された名称は存在しない)。

後ろボケ 編集

背景をぼかすことで主となる被写体(主役)を引き立たせる手法である。ポートレートを始め、最も使われている手法といえる。冒頭の少女の写真はじめ上の3枚の写真は典型的な後ろボケ表現である。

前ボケ 編集

 
前ボケの例 焦点距離50ミリ、F1.4

被写体の手前にある物体をぼかす表現方法。遠近感の強調や花畑や人ごみの群生・密集感を表現したり、ソフトフォーカスの様な柔らかい雰囲気を演出する表現に用いられる。

前後ボケ 編集

被写体の前後の物体をぼかす手法。マクロ写真などによく見られ、被写体を強調したりソフトフォーカスのような幻想的雰囲気を作る表現に用いられる。

被写体ボケ 編集

 
被写体ボケの例。手前の木の枝にピントが合っており、主たる被写体は半ボケの状態である。絞りF8。

主として表現したい被写体そのものをぼかし、その周囲にあるものにピントを合わせる表現方法。写真全体に古めかしい雰囲気を与える効果がある。

反射望遠レンズのボケ

機材 編集

レンズによるボケの違い (ボケ味) 編集

 
反射式レンズによるリング状のボケ

ボケ表現を用いた場合の背景 (および前景) のボケの風合いは、撮影時の設定が同じであっても、使用されるレンズによって異なってくる。

ぼけた像が具体的にどのようになるかは、(背景にある)被写体の、ピントから外れた場所におけるある点像が、フィルムまたは撮像素子上にどのような広がりをもって写し出されるかによる。平面から平面に移るピントの合った像とは異なり、ボケの像はレンズの設計によって千差万別であり、レンズの個性ともとらえられる。個々のレンズのボケの風合いのことをボケ味と称する(ボケ足と言われることもあるが、これは「味」を「足」と聞き間違えたことによる誤用と思われる。ただし、ボケの深さを足の長さと言う意味合いから捉え、積極的にボケ足と言う言葉を用いることもある)。

点像が、なだらかな広がりをもった像に移らないと、棒状の物体が2本に分かれたり(二線ボケ)、甚だしくは具合の違う複数のボケがゴースト状に重なって写りこむ。このような現象は、ある程度高解像度の映像を、拡大表示しなければ意識的に捉えられることはない。しかし、なんとなく「ガチャガチャとした感じ」になることから、特に芸術写真の場合には、かなり低解像度な状態でプリントした場合でも確実に閲覧者に心理的影響を与える。このようなレンズはボケ味が悪いと表現される。

一般にズームレンズなどでは良いボケ味を得るのが難しく、前述のような現象を嫌って単焦点レンズにこだわる人もいる。また、二線ボケなどの現象が発生していない状態をボケ味がなめらかであると称する。

レンズによっては、背景に同心円状の歪みが生じることがある。主にレンズ焦点距離位置を最短距離側あるいはF値開放で撮影するとこの現象は起き易くなる。この現象は、渦巻き収差(非点収差)と呼ばれる。

特異なボケが得られる例に、反射光学系がある。点像が反射鏡の形状を反映し明確なリング状になるため、リング状のボケが得られる。

デジタルカメラとボケ 編集

光学的理由から、撮影フォーマット(判型)とボケの大きさには相関がある。同じ画角・同じ明るさで撮影しようとしたとき、判型が小さいほど被写界深度が深いため、ボケは小さくなる。

デジタルカメラであってもコンパクトカメラなどレンズ一体型のカメラは、一般にライカ判よりもずっと小さなサイズの撮影素子を採用していることが多く、そのようなカメラで得られるボケは相対的に少なくなる。また、レンズ交換式カメラでは、同一のマウントであっても撮像素子のサイズが異なる場合があり(フルサイズ=ライカ判とAPS-C等)、同じレンズを使用してもレンズのボケの表現は撮影素子の大小により違ってくる。

デジタルカメラではライブビューモニタがあるため、フィルムカメラと異なり撮影したその場でボケの効果を比較的容易に確認でき、よりボケ量を調節した撮影が容易になった(一般に、一眼レフの光学ファインダーではボケ具合はうまく確認しにくく、フィルムコンパクトカメラのファインダーではボケ量の判断は不可能である。)。

特殊機材 編集

滑らかなボケ像のために特殊な設計がされたスムース・トランスファー・フォーカスレンズがある。またボケ像のためにミノルタTC-1等、完全に円形の絞りが採用されたレンズやカメラがある。

ボケを排する意見 編集

白川義員は『山岳写真の技法』において(2章 2-22頁 頁末など)、とくに山岳写真ではフレーム内にあるいかなる被写体にもピントが合っている(パンフォーカス)べきであり、意味のないものはフレームから外すべきである、と述べている。

関連項目 編集

外部リンク 編集