一塩化ヨウ素(いちえんかようそ、iodine monochloride)は塩素ヨウ素が1対1で結合した無機化合物で、化学式IClで表される。赤褐色で、安定したα型と不安定なβ型があるが融点はいずれも常温に近い。ヨウ素と塩素の電気陰性度の違いから、I+の供給源として作用する。一塩化ヨウ素は、ヨウ素と塩素の1:1の単純なモル比で構成される。

一塩化ヨウ素
Iodine monochloride
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識別情報
CAS登録番号 7790-99-0 チェック
特性
化学式 ICl
モル質量 162.35 g/mol
外観 赤ないし茶色の固体
密度 3.10 g/cm3
融点

27℃ (α型)

沸点

97.4℃

への溶解度 加水分解
その他の溶媒への溶解度 二硫化炭素
酢酸
ピリジン
危険性
安全データシート(外部リンク) External MSDS
EU分類 腐食性 C有害 Xn
主な危険性 腐食性
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ヨウ素の結晶に塩素ガスを通すと一塩化ヨウ素の茶色の蒸気が生じ、冷却により一塩化ヨウ素の液体を得る。 塩素を過剰に供給することにより、可逆的に三塩化ヨウ素になる。

性質 編集

一塩化ヨウ素はα型とβ型の2つの同質異像を持つ。α型は黒色の針状結晶で、赤色の光を透過する。融点は27.2℃。β型は黒色の板状結晶で、赤茶色の光を透過する。融点は13.9℃[1]。β型は―10℃から+5℃の間で液体から固体になるときに生じ、―10℃と0℃の間でのみ安定して存在する。カリウムスズアルミニウム水銀砒素赤リンテルルなどとは激しく反応するが、ナトリウムマグネシウムニッケル硫黄などとは穏やかに反応する。金属との反応では、塩化物およびヨウ化物を生じる[2]。水に溶解して加水分解し、次亜ヨウ素酸塩酸を生じる。

 

多くの有機溶媒に溶けるが、四塩化炭素二硫化炭素クロロホルムベンゼンなど無極性の溶媒では褐色、メタノールエーテルアセトンピリジン酢酸など有極性の溶媒では黄色を呈する。

用途 編集

ウィイス法による油脂ヨウ素価測定に用いられる[2]芳香族ヨウ素化合物の製造においてはヨウ素供給源として働き[3]炭素ケイ素の結合を切断するなど、有機合成で重要な役割を果たす[1]。 また、アルケン二重結合に塩素・ヨウ素を含むアルカンを付与する。

 

この反応は、アジ化ナトリウムの存在下で行われる[4]

 

脚注 編集

  1. ^ a b Brisbois, R. G.; Wanke, R. A.; Stubbs, K. A.; Stick, R. V. “Iodine Monochloride” Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis, 2004 John Wiley & Sons. DOI: 10.1002/047084289X.ri014
  2. ^ a b 松岡敬一郎『ヨウ素綜説(第二版)』霞ヶ関出版、1992年。ISBN 9784760301355 
  3. ^ Wallingford, V. H.; Krüger, P. A. (1943). "5-Iodo-anthranilic Acid". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 2, p. 349
  4. ^ Padwa, A.; Blacklock, T.; Tremper, A. "3-Phenyl-2H-Azirine-2-carboxaldehyde". Organic Syntheses (英語).; Collective Volume, vol. 6, p. 893
ハロゲン間化合物
フッ素 塩素 臭素 ヨウ素 アスタチン
フッ素 F2
塩素 ClF ClF3 ClF5 Cl2
臭素 BrF BrF3 BrF5 BrCl BrCl3 Br2
ヨウ素 IF IF3 IF5 IF7 ICl I2Cl6 IBr IBr3 I2
アスタチン AtCl  AtBr  AtI At2?