可朱渾 元(かしゅこん げん、生年不詳 - 559年頃)は、中国北魏末から北斉にかけての軍人は道元[1][2]本貫太安郡狄那県[3][4]

経歴 編集

北魏の朔州刺史の可朱渾昌(字は買奴)の子として生まれた[5]。可朱渾氏は代々渠帥をつとめた家柄で、北魏に帰順し、曾祖父の可朱渾護野肱が懐朔鎮将となった以降は懐朔鎮に住んだ。可朱渾元は武略に長け、若いころから高歓と交友した。六鎮の乱が起こると、家族とともに定州に移ろうとしたが、鮮于修礼の乱に参加することとなった。葛栄が鮮于修礼の部衆を吸収すると、可朱渾元を梁王とした。可朱渾元は爾朱栄のもとに逃れて別将となり、爾朱天光の下で万俟醜奴らと戦った[1][2]永安3年(530年)3月、万俟醜奴の大行台尉遅菩薩が岐州を攻撃すると、可朱渾元は賀抜岳とともにこれを撃破した[6]。功績により東県伯に封じられた。孝武帝が即位すると、渭州刺史となった[1][2]

永熙3年(534年)、侯莫陳悦が賀抜岳を殺害すると、宇文泰が賀抜岳の部衆を引き継いで侯莫陳悦を攻撃した。可朱渾元はこのとき侯莫陳悦を援助したが、侯莫陳悦が敗走すると、可朱渾元は秦州で宇文泰の包囲を受け、ひとたび屈服した。可朱渾元は早くから高歓の知遇をえており、母や兄たちも関東にいたので、高歓に帰順しようとひそかに使者を往来させていた。宇文泰は可朱渾元が二心を抱いていることを察知して、兵を出して攻撃した。可朱渾元は部衆を率いて渭州を発し、西北の烏蘭津を渡河して宇文泰の出鼻をくじき、河州源州の境を越えて東方に出た。霊州劉豊の助けを借りて、霊州から東北に出て雲州に入った[7][8]天平2年(535年)1月[9][10][11][12]、高歓は平陽郡守の高嵩に可朱渾元を迎えさせ、可朱渾元が晋陽に到着すると、手を取って引見した。可朱渾元は元県公に封ぜられ、車騎大将軍に任じられた[13][8]

可朱渾元は西魏の儀同の金祚・皇甫智達を東雍で攻撃して捕らえ、并州刺史に転じた。諸将とともに征戦に参加して、しばしば戦勝した[13]武定5年(547年)1月、侯景が反乱を起こして潁川に拠ると、可朱渾元は韓軌賀抜勝・劉豊らとともにこれを攻撃した[14]。5月、司空に上った[14][15]。6月、潁州から軍を返した[14]天保元年(550年)、北斉が建国されると、可朱渾元は扶風王に封じられた[16][17][18]文宣帝に従って山胡柔然を攻撃し、戦功を重ねた[13]。天保5年(554年)8月に大将軍となり[19]、天保8年(557年)4月に太傅に上り[20][21][22]、天保9年(558年)12月に太師に転じた[23][24][25]。後に死去した。仮黄鉞・太宰・録尚書事の位を追贈された[13][8]

弟に可朱渾天元・可朱渾天和があり、子に可朱渾長挙(字は孝裕)・可朱渾長威があった。可朱渾長挙が扶風王位を継いだ[8][3]

脚注 編集

  1. ^ a b c 北斉書 1972, p. 376.
  2. ^ a b c 北史 1974, p. 1900.
  3. ^ a b 羅新 & 葉煒 2005, p. 226.
  4. ^ 『北斉書』および『北史』の可朱渾元伝は「自云遼東人」とする。本記事では可朱渾孝裕墓誌の記述を採用する。
  5. ^ 羅新 & 葉煒 2005, p. 228.
  6. ^ 魏書 1974, p. 264.
  7. ^ 北斉書 1972, pp. 376–377.
  8. ^ a b c d 北史 1974, p. 1901.
  9. ^ 氣賀澤 2021, p. 37.
  10. ^ 魏書 1974, p. 298.
  11. ^ 北斉書 1972, p. 18.
  12. ^ 北史 1974, p. 224.
  13. ^ a b c d 北斉書 1972, p. 377.
  14. ^ a b c 魏書 1974, p. 309.
  15. ^ 北史 1974, p. 193.
  16. ^ 氣賀澤 2021, p. 78.
  17. ^ 北斉書 1972, p. 52.
  18. ^ 北史 1974, p. 246.
  19. ^ 北史 1974, p. 251.
  20. ^ 氣賀澤 2021, p. 94.
  21. ^ 北斉書 1972, p. 63.
  22. ^ 北史 1974, p. 254.
  23. ^ 氣賀澤 2021, p. 96.
  24. ^ 北斉書 1972, p. 65.
  25. ^ 北史 1974, p. 256.

伝記資料 編集

  • 北斉書』巻27 列伝第19
  • 北史』巻53 列伝第41
  • 斉故尚書右僕射司空公可朱渾扶風王墓誌銘(可朱渾孝裕墓誌)

参考文献 編集

  • 氣賀澤保規『中国史書入門 現代語訳北斉書』勉誠出版、2021年。ISBN 978-4-585-29612-6 
  • 『北斉書』中華書局、1972年。ISBN 7-101-00314-1 
  • 『魏書』中華書局、1974年。ISBN 7-101-00313-3 
  • 『北史』中華書局、1974年。ISBN 7-101-00318-4 
  • 羅新; 葉煒『新出魏晋南北朝墓誌疏証』中華書局、2005年。ISBN 7-101-04320-8