天候デリバティブ(てんこうデリバティブ、: weather derivative)や気象デリバティブとは、気象現象に対する金融派生商品先物オプション)。天候オプション取引では、オプション料の対価として、買い手から売り手に気象現象によって発生するリスクを引き渡す。損害保険とは異なり、発生した損害ではなく、気象現象を直接の対象とする。

歴史 編集

天候デリバティブは1997年アメリカエンロン社で開発され、1999年シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)において上場された。シカゴ・マーカンタイル取引所では全世界の天候が扱われていて、日本は東京の天候が扱われている[1]日本では1999年三井海上火災保険などで店頭デリバティブ取引として取扱いが開始された[2][3]

天候オプション取引 編集

天候オプション取引は、気象現象である気温湿度降雨量降雪量風速台風などを基準として条件(ストライク値)を定め、条件を上回れば(または下回れば)自動的に補償額が支払われる権利(オプション)を取引するものである。購入者はオプション料(一般的な保険の掛金とは異なる)を支払いオプションを購入し、気象の結果によって補償金が支払われる。主に、収益が天候に左右される事業のリスク・ヘッジに用いられる。

例としては、気温が低いと需要が減る(または気温が高いと需要が増える)ような産業と、逆に需要が増える(または気温が高いと需要が減る)ような産業の異なるリスクを、ストライク値によって互いに補償し合う約束(契約)をする。それにより、自分の事業が天候によって受けた場合の損失を補填することが出来る。損害保険とは異なるため、実際の損害発生の有無は問われない。

オプション購入者(加入者)同士が直接取引する場合もあるが、対象を拡大し、需要が増えそうな企業の株式に投資したり、範囲を世界規模にするなど、狭い地域内におけるリスクの分散と回避が出来るよう手法が組み合わされた商品となっている場合もある。個別の事業者の事情に適合できるような商品開発も行われている。

2007年の日本国内の市場規模(補償額ベース)は約700億円となっている。補償金額は数千万円規模のものが多く、現在は中小企業を対象とした小口契約のものも増加しており、最低オプション料が30万円程度のものもある。損害保険会社や銀行が取り扱うものが一般的だが、電力会社ガス会社は直接に契約を結ぶ例が多い。

天候オプション取引の仕組み(気温リスクを単純化した例)
事業の性質 補償条件(権利) 結果(天候と補償等)
寒かった場合 暑かった場合
事業損益 補償 事業損益 補償
寒いと損失を受ける事業 寒い場合 損失 あり 利益 なし(オプション料を失う)
暑いと損失を受ける事業 暑い場合 利益 なし(オプション料を失う) 損失 あり

補償は損害の有無は問わないが、事業損失が補填できる(実際は損害額と補償金との間に差が生じる場合が多い)。

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  • ビール販売
    • 夏が例年より暑いとビールの消費量が増える。冷夏であれば消費量は増えない。このような冷夏に対するリスク・ヘッジとして、夏の一定期間中の最高気温が25度以下の日が20日以上(ストライク値)ならば補償される、という天候デリバティブを事前に購入しておく。
    • 冷夏であったならば補償金が支払われ、猛暑であったならば購入オプション料を失う(つまり「掛け捨て」と同じ)。
  • 変わった例では「猛暑の場合はどら焼きの売り上げが減少する」ことに備える契約の例がある。
  • 小口の購入ではオプション料と補償額との差が比較的小さいため、損失の直接の補償を期待するというよりも、「雨の日ご来店サービス」等のサービス向上のための原資にするなどといった利用方法も考えられる。

天候先物取引 編集

天気先物取引は、気象現象のある数値 × 取引単位の乗数(20ドルなど)により金額に変換し、精算日にその金額を受け取れる(買いの場合)もしくは支払う(売りの場合)金融商品である。その金融商品自体をいくらで売買出来るかは市場デリバティブ取引の場合は市場の需給で決める。つまり、市場が予想している気象現象の数値 × 取引単位の乗数(20ドルなど)になる(厳密には無リスク金利分の調整が入る)。シカゴ・マーカンタイル取引所の場合、気象現象のある数値は、ある期間の1日の平均気温が18℃を超えた日数だったり、1ヶ月の平均気温だったりする[4]

市場デリバティブ取引の場合、天候オプション取引の原資産は天候先物取引となっている。

対象業種 編集

雑誌・参考文献 編集

関連項目 編集

参照 編集

外部リンク 編集