嫌悪

拒絶や否定、苦手を示す感情

嫌悪(けんお)とは、憎み嫌うこと。嫌厭(けんえん)や厭悪(えんお)ともいう。反義語は愛好

嫌悪した顔の例(チャールズ・ダーウィンの本より)

汚い物、食用に適しない物、伝染性がある物、逆らいたい物、存在してほしくない物など、不愉快な思いを催す物事に関連した感情である。 チャールズ・ダーウィンは、『人間と動物の表情について』で嫌悪感が不愉快な物に関連していると書いた。

類義語に憎悪(ぞうお)があるが、「憎悪」は相手に対する敵意や攻撃性を示唆するのに対して、「嫌悪」「嫌厭」「厭悪」は不愉快だとして拒否したいという意図を示唆する(用例:自己嫌悪)。

英語における’’hatred’’は、広く「嫌いだ」「消し去りたい」と念ずる感情を指すのに対して、’’disgust’’は、第一に味覚によって惹き起こされ、次に嗅覚、触覚、視覚によって惹き起こされる「むかつき」を指す。嫌悪感はロバート・プルチック英語版によって基本的な感情の一つと書かれた。またポール・エクマンの基礎的な六感情の一つにも含められている。恐れ怒り悲しみなどと異なり、嫌悪感は心拍数の低下を引き起こす。

概要 編集

嫌悪感は、食中毒を防ぐか、感染症のリスクを低減できる傾向に起源を持ち、自然選択によって進化したと考えられている。嫌悪感は多くの場合、糞尿や人体からの分泌物、解体された肉、昆虫などと結びついている。他の直観的な感情と同様に、嫌悪感にも本能的な側面と社会構築的な側面がある。心理学者ポール・ロジン英語版は子供たちの嫌悪感の発達を調査した。ジョナサン・ハイトは嫌悪感と道徳に関するさまざまな伝統的な概念の結びつきを調査した。ハイトは社会的・直観的な理論で道徳的規範の違反に対しておきる明らかに合理的でなく感情的な反応(規範を破った人への嫌悪、処罰的な態度)を説明しようと試みている。

進化人類学者ウィリアム・マコークルは、人間が死体を特殊化された方法で取り扱いたいと願う儀式化された衝動が、感染症の接触感染に関連しており、嫌悪感の起源と結びついていると考えている[1]。マコークルは嫌悪感の伝播が、実際の毒性や感染症の危険性と無関係に起きると主張した。しかし死体は行動の主体性に関する様々な精神的システム、例えば心の理論を刺激し、また捕食者の存在などを示唆することによって社会的知性を刺激する。このような刺激が死体(と遺骨のような残りの物)の儀式化された取り扱いの起源となった。さらにマコークルは嫌悪感の伝播が、嫌悪のような生物学的警報システムを利用する進化的精神システムの一種だと推論した。

アメリカの指導的な哲学者マーサ・ヌスバウムは『Hiding From Humanity: Disgust, Shame, and the Law』と題された2004年の著書で、嫌悪感や恥と社会的規則の関係を論じている。近年の研究では、女性と子供は男性よりも嫌悪感に陥りやすいことが明らかになっている[2]。研究者は進化の視点からこの発見を説明しようとした。

脳の構造 編集

fMRIでの調査は、人が嫌悪感を覚えたとき、不快な味を感じたとき、嫌悪の表情を見せられたときに前島皮質島皮質の前部)が活発に反応することを明らかにした[3]

ハンチントン舞踏病 編集

ハンチントン舞踏病をわずらう多くの患者は嫌悪の表情を認識することができず、また嫌悪感を催す味や匂いに反応することができない[4]。嫌悪感に対する認識の欠如は、ハンチントン舞踏病の患者の中で他の兆候より早く現れる[5]

脚注 編集

  1. ^ McCorkle Jr., William W. Ritualizing the Disposal of the Deceased: From Corpse to Concept. Peter Lang, 2010.
  2. ^ Druschel, B. A., & Sherman, M. F. (1999). Disgust sensitivity as a function of the Big Five and gender. Personality and Individual Differences, 26:739-748.
  3. ^ Phillips ML et al. A specific neural substrate for perceiving facial expressions of disgust. Nature. 1997 Oct 2;389(6650):495-8. PMID 9333238
  4. ^ Mitchell IJ, Heims H, Neville EA, Rickards H. Huntington's disease patients show impaired perception of disgust in the gustatory and olfactory modalities.[リンク切れ] Journal of Neuropsychiatry and Clinical Neuroscience, 17:119-121, February 2005. PMID 15746492
  5. ^ Sprengelmeyer R, Schroeder U, Young AW, Epplen JT. "Disgust in pre-clinical Huntington's disease: a longitudinal study." Neuropsychologia. 2006;44(4):518-33. Epub 2005 Aug 11. PMID 16098998

関連項目 編集