床山

大相撲力士や俳優の髷を結う人

床山(とこやま)は、力士や、役者・人形のなどを結い上げる職に就く者。

舞台・芸能における床山 編集

元禄時代(1688年 - 1707年)を中心に、京都や大阪などで発展した上方歌舞伎を完成に導いた坂田藤十郎の髪を舞台用に結い上げていたのが床山の始まりといわれている。

時代を経て全国に広がり、歌舞伎舞台映画テレビ日本舞踊(おさらい)などに使われるかつらの専門職となった。現在もその流れを継いでいる。

理容師美容師の免許は必要ないが、熟練した技術を習得するには長い年月が必要となる。

大相撲における床山 編集

日本相撲協会が採用し、力士行司呼出と同様に各相撲部屋へ所属して、相撲部屋で寝起きしながら大相撲力士の結髪を行う。定員は50名となっているが、力士が12名以上所属している相撲部屋で床山がいない場合には、定員を超えて床山を採用することができる。採用資格は義務教育を修了した満19歳までの男子、停年(定年)は満65歳である。経験は不問で、理容師美容師の免許資格は必要ない。明確な規定はないが力士経験者が床山に転向することも可能である。

髪結いには、関取が正式な場面で結う大銀杏幕下以下の力士や関取でも普段の生活時に行う丁髷がある。大銀杏は びん付け油、すき櫛、前掻け、揃い櫛、荒櫛、握りはさみ、髷棒、先縛り、束ねた髪を元の部分で結う細く丈夫な元結を使い力士の顔形に合わせ仕上げていく。元結を引っ張る際に歯で噛むため、歯や顎が強い人の方が良い[1]横綱の髷を結う程になると、その髪結いの手応えで調子の良し悪しまで分かるといわれている。また長く同じ力士の髷を結っていると、自然と結い方(力士本人の好みや髪質など)を覚えていき、信頼関係も生まれる。このためベテランの関取はずっと同じ床山に髷を結ってもらうことが多い[注釈 1]。力士との間の人間関係も重要視され、例として1993年の横綱昇進を期に大銀杏(おおいちょう)を結うのを、所属する東関部屋の床山ではなく高砂一門のベテランに頼もうとした際には、そのベテラン床山に「これまでの床山を大事にしろ」と諭され、素直に従ったという[2]

床山は大銀杏が結えるようになって一人前とされるが、そこまでに5年以上かかるとされ、慣れたベテラン床山でも大銀杏を結うには15分から20分を要する[3]

第二次世界大戦などの影響で戦後の床山は減少し、1960年頃には定員35名のところ20名弱しか床山がいなかった。当時は元力士や力士志望からの転向者も多かった。

床山名として、先頭の文字が「床」となる名前を名乗る。

現在の番付には、特等床山と一等床山が最下段の呼出の左側の欄に書かれている。ただし、番付に床山が載るようになったのは大相撲の歴史から見てもかなり最近の2008年(平成20年)1月場所からで、その当初は特等床山のみが書かれていた。2012年(平成24年)1月場所から現在のように一等床山まで書かれるようになった。

英語では、日本語からの音写によりtokoyamaと呼ばれるか、あるいは意訳によりhairdresserと訳される。

床山の階級 編集

最上位は特等、最下位は五等の6段階となっている。各階級における定員はない。特等は1994年7月の改正で新設。

なお、階級とは別に大銀杏を結えるようになると関取格扱いを受けるようになり、幕下(普段は大銀杏を結えないが十両との割が組まれたり初切弓取式に出る際には必要になる)以上の力士を担当できる。階級が上がるにつれ、番付の高い力士を担当するようになる。

床山の番付編成(階級の昇格等)は原則年1回で、9月場所後に開催される番付編成会議の理事会において決定し、翌年1月より適用される。床山も行司呼出と同様に、基本的にはほぼ年功序列で昇格していくが、時には序列の逆転等が起こる場合もある。その具体例は#床山の番付編成に関する事項を参照。

階 級 資  格
特等床山 勤続45年以上、年齢60歳以上の者で特に成績優秀な者。
2008年1月場所から番付に名前を掲載するようになった。
一等床山 勤続30年以上の者で成績優秀な者、または勤続20年以上30年未満の者で特に成績優秀な者。
2012年1月場所から番付に名前を掲載するようになった。
二等床山 勤続20年以上の者で成績優秀な者、または勤続10年以上20年未満の者で特に成績優秀な者。
三等床山 勤続10年以上の者で成績優秀な者、または勤続5年以上10年未満の者で特に成績優秀な者。
四等床山 勤続5年以上の者で成績優秀な者。
五等床山 勤続5年未満の者。

床山の給与 編集

床山の給与は月給制となっており、基本給とは別に各種手当が定められている。

階 級 基本給
特等床山 360,000円以上400,000円未満
一等床山 200,000円以上360,000円未満
二等床山 100,000円以上200,000円未満
三等床山 40,000円以上100,000円未満
四等床山 29,000円以上42,000円未満
五等床山 20,000円以上29,000円未満
見習期間(3年間) 14,000円以上20,000円未満

現役の床山 編集

2024年4月18日現在 総人数:50人(定員に対する欠員:0人)

所属部屋の→は部屋の移籍、/は部屋の名称変更

階 級 名 前 所属部屋
特等床山 床鶴(とこつる) 君ヶ濱/井筒陸奥音羽山
一等床山 床朝(とこあさ) 三保ヶ関北の湖/山響
床中(とこなか) 押尾川錦戸
床辰(とこたつ) 立浪
床好(とこよし) 時津風
床貴(とこたか) 二子山藤島二子山/貴乃花阿武松
床岳(とこたけ) 九重
床仁(とこじん) 宮城野高島春日山追手風中川荒汐
床幸(とこゆき) 大島友綱/大島
床門(とこかど) 放駒芝田山
床大(とこだい) 陸奥→音羽山
床誠(とこせい) 伊勢ヶ濱桐山朝日山浅香山
床豪(とこごう) 尾車→押尾川
床哲(とこてつ) 高田川
床島(とこしま) 二子山→松ヶ根/二所ノ関/放駒
床勝(とこかつ) 二子山/貴乃花→千賀ノ浦/常盤山
床鳴(とこなる) 鳴戸/田子ノ浦
床健(とこけん) 武蔵川/藤島→武蔵川
床九(とこきゅう) 九重
床塚(とこつか) 玉ノ井
床将(とこまさ) 伊勢ノ海
床桑(とこくわ) 入間川/
二等床山 床武(とこたけ) 武蔵川/藤島
床秀(とこひで) 式秀
床作(とこさく) 桐山→追手風
床真(とこしん) 片男波
床隆(とこりゅう) 境川
床旭美(とこあみ) 安治川/伊勢ヶ濱
三等床山 床春(とこはる) 春日山→追手風→中川→伊勢ノ海
床熊(とこくま) 木瀬→北の湖→木瀬
床直(とこなお) 大嶽
床路(とこみち) 八角
床千(とこせん) 千賀ノ浦/常盤山
床風(とこかぜ) 追手風
床力(とこりき) 出羽海
床輝(とこてる) 境川
床雄(とこゆう) 阿武松
床東(とこあずま) 佐渡ヶ嶽
床光(とこみつ) 荒汐
四等床山 床匠(とこたくみ) 春日野
床響(とこひびき) 佐渡ヶ嶽
床竣(とこしゅん) 宮城野→伊勢ヶ濱
五等床山 床慶(とこけい) 立浪
床尚(とこしょう) 八角
床二(とこに) 二所ノ関
床欧(とこおう) 鳴戸
床元(とこつかさ) 宮城野→伊勢ヶ濱
床瑛(とこえい) 錣山
床桜(とこさくら)
床香澄(とこかすみ) 二所ノ関

引退した主な床山 編集

明治~昭和40年代まで
特等床山
一等床山
三等床山
  • 床浩
  • 床橋
  • 床花
  • 床池
  • 床泉(2016年6月3日死去、35歳没)
  • 床文
  • 床鶏
  • 床明[注釈 11]
四等床山
  • 床北
  • 床濱
五等床山

床山の番付編成に関する事項 編集

この節では、床山の番付編成における年功序列との差(追い抜き昇格、追い抜かれ、留め置き等)や、中途退職した床山が務め続けていればどうなっていたか等に関する事例を示す。以下には番付に掲載された範囲内(2008年1月場所以降の特等床山、2012年1月場所以降の一等床山)における事例を示す。なおこの範囲内に限っては、現役の床山が死亡した前例は2024年3月場所現在存在しない。

  • 床和
    • 2016年1月場所、番付序列上位の床淀を抜いて特等床山に昇進し、同年7月場所の停年退職まで特等床山を務めた。
  • 床淀
    • 前述の通り、2016年1月場所、番付序列下位の床和に抜かれ、床淀自身が特等床山に昇進したのは床和の停年退職後の2019年1月場所であった。
  • 床貴
    • 2016年3月場所で一等床山から一旦五等床山まで降格し、2017年1月場所で一等床山に復帰している。
  • 床弓
    • 2024年3月場所限りで中途退職したが、床山を続けていれば、特等床山昇進の可能性もあり、2026年9月場所で停年を迎える予定であった。

髷を結う以外の仕事 編集

髷を結うのみではなく、実際には相撲部屋においてちゃんこ番や掃除等、様々な仕事をしている。 入門間もない若い衆に対し、浴衣や着物の扱いを指導する場合もある。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ かつて出羽錦がなじみの床山が来なくて別の床山に髷を結ってもらったがどうにもうまく行かずに土俵入り休場したことがある(その日の取組には出場)
  2. ^ 尾車部屋所属
  3. ^ 出羽海部屋所属
  4. ^ 高砂部屋所属
  5. ^ 最終所属は貴乃花部屋
  6. ^ 史上初めて、番付に名前が掲載された床山の1人。
  7. ^ 史上初めて、番付に名前が掲載された床山の1人。
  8. ^ 三保ヶ関部屋所属
  9. ^ 出羽海部屋所属で戦前から歴代の横綱の大銀杏を結った床山。
  10. ^ 木瀬部屋桐山部屋所属、2005年9月場所退職
  11. ^ 最終所属は西岩部屋
  12. ^ 友綱部屋所属、2003年3月場所退職
  13. ^ 中村部屋所属
  14. ^ 友綱部屋所属、2011年1月場所退職
  15. ^ 尾上部屋所属
  16. ^ 木瀬部屋所属、2016年3月場所退職

出典 編集

  1. ^ ベースボールマガジン社『大相撲名門列伝シリーズ(3) 高砂部屋』p44-48
  2. ^ 指導不足また露呈 協会、乏しい防止策 朝日新聞DIGITAL 2008年8月22日10時59分
  3. ^ 田中亮『全部わかる大相撲』(2019年11月20日発行、成美堂出版)pp.86

関連項目 編集

外部リンク 編集