教育学院拼音方案(きょういくがくいんぴんいんほうあん)または『常用字広州話読音表』拼音方案(じょうようじこうしゅうわどくおんひょうぴんいんほうあん)とは、中国語の粤語(広東語)をラテン文字によって表記する方法の一つ。略称として教院式(きょういんしき)とも呼ばれる。香港の教育機関において広く使われているピンイン

歴史 編集

教院式は1971年、余秉昭が『同音字彙』に使用したピンインであり、当時は声調を直接「上平」「上上」「上去」「下平」「下上」「下去」「上入」「中入」「下入」(現在の「陰平」「陰上」「陰去」「陽平」「陽上」「陽去」「陰入」「中入」「陽入」)といった文字で表記していた。1990年、香港教育署語文教育学院中文系(後に香港教育学院の編入)が出版した『常用字広州話読音表』において声調の文字を「1」「2」「3」などの数字で表した。これによって教院式方案は香港の教育界における標準となり、初等教育において広く使われるようになった。また2000年には詹伯慧が『広州話正音字典』において教院式を沿用して方案の「長a音」を「aa」と固定して表記させている。その他、2003年の潘慧如等主編の『小学中文科常用字研究報告」や『小学中文科常用字表』などにより、広く教育界において採用されている。

声母 編集

19の声母が立てられている。

b
[p]
p
[pʰ]
m
[m]
f
[f]
d

[t]

t

[tʰ]

n

[n]

l
[l]
g

[k]

k

[kʰ]

ng

[ŋ]

h

[h]

gw

[kʷ]

kw

[kʷʰ]

w

[w]

dz
[t͡s]
ts
[t͡sʰ]
s
[s]
j
[j]

韻母 編集

56の韻母がある(うち2韻は鼻音独立韻)。

ø -i -u -y -m -n -ng -p -t -k
aa aa
[aː]
aai
[aːi]
aau
[aːu]
  aam
[aːm]
aan
[aːn]
aang
[aːŋ]
aap
[aːp̚]
aat
[aːt̚]
aak
[aːk̚]
a   ai
[ɐi]
au
[ɐu]
  am
[ɐm]
an
[ɐn]
ang
[ɐŋ]
ap
[ɐp̚]
at
[ɐt̚]
ak
[ɐk̚]
e e
[ɛː]
ei
[ei]
eu
[ɛːu]
  em
[ɛːm]
  eng
[ɛːŋ]
ep
[ɛːp̚]
  ek
[ɛːk̚]
i i
[iː]
  iu
[iːu]
  im
[iːm]
in
[iːn]
ing
[ɪŋ]
ip
[iːp̚]
it
[iːt̚]
ik
[ɪk̚]
o o
[ɔː]
oi
[ɔːi]
ou
[ou]
    on
[ɔːn]
ong
[ɔːŋ]
  ot
[ɔːt̚]
ok
[ɔːk̚]
u u
[uː]
ui
[uːi]
      un
[uːn]
ung
[ʊŋ]
  ut
[uːt̚]
uk
[ʊk̚]
oe oe
[œː]
    oey
[ɵy]
oen
[ɵn]
  oeng
[œːŋ]
  oet
[ɵt̚]
oek
[œːk̚]
y y
[yː]
        yn
[yːn]
    yt
[yːt̚]
 
        m
[m̩]
  ng
[ŋ̍]
     
  • mng は単独で音節を構成する鼻音独立韻「唔」(m)、「呉」「五」(ng) にのみ使われる。

声調 編集

広東語には九声があるが、入声が3声を占めるので音の高さとしては実質6つであり、1から9までの数字を使うが1、3、6が使われることもある。

 
広東語の6声調。
陰平[1] 陰上[2] 陰去 陽平 陽上 陽去 陰入(上陰入) 中入(下陰入) 陽入
番号 第1声 第2声 第3声 第4声 第5声 第6声 第7声 第8声 第9声
表記 1 2 3 4 5 6 7(1) 8(3) 9(6)
声調値 55 / 53 35 33 21 / 11 23 / 13 22 5 3 2
例字
fan1 fan2 fan3 fan4 fan5 fan6 fat7(fat1) faat8(faat3) fat9(fat6)

脚注 編集

  1. ^ 声調値 (55) は、「超平」と呼ばれることがある(本来の声調 (中・低調) から高平変調したものを含む)。(千島英一. 標準広東語同音字表. 東方書店. p. 16. ISBN 978-4-497-91317-3 
  2. ^ 入声の中には、一部、陰上と同じ調値の高昇変調(35)を取る「超入」も存在する。また、入声以外の本来の声調(中・低調)から高昇変調したものは「超上」と呼ばれることがある。(千島英一. 標準広東語同音字表. 東方書店. p. 11,16. ISBN 978-4-497-91317-3 

関連項目 編集

外部リンク 編集