日産・A型エンジン(2代目)は、かつて日産自動車が製造していた水冷直列4気筒OHVガソリンエンジンシリーズである。平凡な設計でありながら非凡な性能を実現した、傑作エンジンとして知られ、小型乗用車用として長期にわたり生産された。

日産・A型エンジン
A10型エンジン
生産拠点 日産自動車
製造期間 1966年3月 - 2008年7月
(自動車用)
タイプ 直列4気筒OHV8バルブ
排気量 1.0リットル
1.2リットル
1.3リットル
1.4リットル
1.5リットル
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概要 編集

原型は1966年昭和41年)に初代サニー用のエンジンとして開発され、当初クランクシャフトは3ベアリング式であったが、ほどなく5ベアリング式に改良された。

メカニズムはイギリス・BMCの「Aシリーズエンジン」(1951年-)など欧州車での先行例の影響を受けながら、小型軽量車であるサニーに搭載しての高速道路巡航を想定して、高速化・軽量化への改良が図られており、カムシャフトの位置はハイマウントとされ、プッシュロッドの軽量化(短縮)が図られていた。それ以外は排気レイアウトがターンフロー(カウンターフロー)、動弁系はOHVで鋳鉄ブロックと、当時においても全く特異な点はなく、競合する初代トヨタ・カローラ用K型エンジンのようなシリンダーの傾斜配置も行わない、シンプルかつ生産性・整備性を考慮した構造であった。

しかし軽量コンパクトかつ低重心な上、トルクフルで扱いやすく、しかも高回転まで軽快に吹け上がる特性を持つ。ダットサン・サニーを中心とした日産の小型乗用車・商用車用エンジンの主力として極めて広範囲に用いられ、1980年代初頭まで排気量の拡大や、種々の改良を受けながら大量生産された。

1975年昭和50年)からは自動車排出ガス規制の強化に伴い、混合気空燃比)の希薄化、酸化触媒EGR等を主体とした排気対策が行われ、NAPSのバッジが付された。1981年(昭和56年)以降は日産・Z型エンジンからのEGR制御技術移転も行われて、後輪駆動時代の歴代サニー用パワーユニットとしての寿命を全うし、乗用車用としての役目を終えた後も日本では1990年代までサニートラックの主力エンジンとして生き残り続けた。

A型の優れた資質はモータースポーツでも証明され、このエンジンを搭載したサニーはレースでも優れた成績を残した。日本国内のツーリングカーレース(TSクラス)では、「サニーのライバルはサニー」という状況となり、燃料噴射装置の採用や深度化したチューニングにより、本来高回転化に向かないと言われたOHVエンジンでありながら、175 hp /10,000 rpm (1,300 cc NA)を発揮するという驚異的なポテンシャルを示した(カーボンコンポジット製のプッシュロッドを採用し、13,000rpm回るようにした例も有ったという)。これを搭載したB110型サニーは1970年(昭和45年)から、大森ワークス(日産ワークス・チーム)が1974年に手を引いた後も1982年(昭和57年)まで、長きにわたって多くのチューナーやプライベーターに支持され、TSクラスで不動の地位を築いた。また全日本FJ1300選手権といったフォーミュラカーの世界でも一大勢力を築いた。

  • A10 - 988 cc (内径×行程:73mm×59mm)
  • A12 - 1,171 cc (内径×行程:73mm×70mm)
  • A13 (1974) - 1,288 cc (内径×行程:73mm×77mm)北アメリカ向けの輸出仕様
  • A14 - 1,397 cc (内径×行程:76mm×77mm)
  • A13 (1980) - 1,270 cc (内径×行程:76mm×70mm)
  • A12A - 1,237 cc (内径×行程:75mm×70mm)
  • A15 - 1,488 cc (内径×行程:76mm×82mm)

A10 編集

日産・A10
製造期間 1971年 - 1988年
排気量 988 cc
内径x行程 73 mm x 59 mm
圧縮比 8.5:1 (1966年 - 1968年)
9:1 (1968年 - 1981年)
最高出力 62 PS (46 kW; 61 hp) / 6,000 rpm (1966年 - 1968年)
66 PS (49 kW; 65 hp) / 6,000 (1968年 - 1981年)
59 PS (43 kW; 58 hp) / 6,000 (輸出仕様)
最大トルク 83 N⋅m (8 kg⋅m; 61 lb⋅ft) (1966年 - 1968年)
81 N⋅m (8 kg⋅m; 60 lb⋅ft) / 4,000 (輸出仕様)
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1966年9月に発売されたサニーB10型から搭載された。このタイプのみ3ベアリング仕様であり、日立製の2バレルキャブレターを装備していた。1968年にエキゾーストマニホールドとキャブレターが改良され、圧縮比が変化し、最高出力と最大トルクが強化された。

搭載車種

A12 編集

日産・A12/A12GX (A12T)
 
サニーB110型に搭載されたエンジン
製造期間 1971年 - 2001年
排気量 1,171 cc[1]
内径x行程 73.0 mm x 70.0 mm[1]
圧縮比 9.0:1 (A12)
10:1 (A12GX)
最高出力 71 PS (52 kW; 70 hp) (A12)[1]
84 PS (62 kW; 83 hp) / 6,400 (A12GX)[1]
最大トルク 95 N⋅m (10 kg⋅m; 70 lb⋅ft) (A12)[1]
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A12は鍛造スチール製クランクシャフトに5つのメインベアリングを配した設計となっており、耐久性に優れている。

 
A12Tエンジン

A12のバリエーションに、前輪駆動用の「A12GX」と「A12T」エンジンがある。日立製サイドドラフトキャブレターを2基搭載し、カムシャフトの延長が行われ、最高出力は標準のA12エンジンから20%向上している。GXエンジンは、日本国内市場向けの日産サニー1200GXセダンとクーペに搭載された。前者は日本仕様のサニー1200GXセダンとクーペに、同じ仕様の後者はチェリーX-1に搭載された。

特にレースで注目されたエンジンは、このA12の派生モデルである、AY12である。1,300 cc以下のクラスで使用された。ピストンも特別な設計で、バルブロッカーシステムはレーシングエンジンにクロスフローレイアウトを採用したため、標準のA12とは異なる構造となった。

搭載車種

  • 270Xコンセプト(1970年)
  • サニー B110型系(1970年 - 1973年)
  • サニートラック B120型系(1971年 - 1994年)
  • チェリー 初代 E10型(1970年 - 1974年) 横置き
  • チェリー 初代 A12型 (1970年 - 1974年) 横置き 4ドア、クーペ
  • ダットサン・120Y(1974年 - 1976年) ※サニーB210型の北米仕様
  • ダットサン・120A(1974年 - 1976年) ※チェリー E10型の欧州仕様
  • チェリーF-II F10/11型(1974年-1978年)
  • サニーキャブ/チェリーキャブ C20型系(1975年 - 1978年)
  • バネット 初代 C120型(1978年 - 1988年)
  • バネット 2代目 C22型(1985年 - 1994年)
  • プレミア・118NE(1985年 - 2001年) ※インドのプレミア社による、フィアット・124のバッジエンジニアリング車

A12 シリーズ 2 編集

1974年モデルでは全面的に改良され、その後のエンジンは全て新しいブロックスタイルを採用した。エアコンや公害防止用エアポンプなどのアクセサリーのニーズが高まったため、ディストリビューターをエンジンの前面からブロックの中央に移動し、これらのアクセサリー用のスペースを確保した。また、モーターの取り付け位置を若干変更した。公害対策として、このエンジンにはNAPSと呼ばれる排ガス制御技術を導入した。

この「新しい」A12は、以前のA12と同じボア、ストローク、およびその他のほとんどの設計がそのままの状態で量産された。

搭載車種

  • サニー 3代目 B210型系(1973年 - 1977年)
  • チェリー E10型系(1974年 - 1976年)
  • チェリーF-II 2代目 F10型(1974年 - 1978年)横置き
  • サニー 4代目 B310型系 (1977年11月 - 1982年)
  • サニートラック (1974年 - 1995年)
  • ダットサン・チェリー N10型(1978年 - 1982年) ※パルサーN10型の欧州仕様
  • バネット 初代 C120型系(1978年 - 1988年)

A13 (1974) 編集

排気量1,288cc, アメリカ合衆国向け輸出仕様。ストロークは77mmに増加し、圧縮比は8.5:1に減少した。このエンジンは、以前設計された同系列のエンジンよりもデッキの高さが15 mm高い「トールブロック」を特徴としている。

搭載車種

A14 編集

排気量1,397cc。ボアは76mmに拡大された。以前のA13エンジンと同様に、A14は「トールブロック」の造りになっている50 PS から 92 PS (37 kW から 68 kW) までのさまざまな出力のエンジンが生産された。

このエンジンのツインキャブレター装備仕様「GX」(A14T)は一部の市場の車両に搭載された。

搭載車種

  • サニー 3代目 B210型系(1973年 - 1977年)
  • サニー 4代目 B310型系(1977年 - 1980年)
  • バネット 初代 C120型系(1978年 - 1980年)
  • バッキー(南アフリカ製 日本名:サニートラック 1972年 - 2008年)
  • チェリーF-II 2代目 F10型(1974年 - 1978年) 横置き
  • パルサー 初代 N10型系(1978年 - 1982年)横置き

A12A 編集

日産・A12A
製造期間 1977年 - 1982年[2]
排気量 1,237 cc[2]
内径x行程 75.0 mm x 70.0 mm[2]
最高出力 69 PS (51 kW; 68 hp) / 6,000 rpm[2]
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基本的にはA12と同様の鋳造であるが、同じストロークでボアを2 mm増加し、排気量を66cc増加させた。また、再設計されたA12およびA13エンジンと共通のブロックとクランクシャフトを共有していた。

搭載車種[2]

  • サニー 4代目 B310型系(1977年 - 1980年)
  • ダットサン 210(1979年 - 1982年) ※上の車両の北米仕様
  • チェリーF-II 2代目 F10型(1974年 - 1978年)
  • ダットサン・チェリー N10型(1974年 - 1979年) ※パルサーN10型の欧州仕様

A13 シリーズ 2 編集

排気量1,270cc。基本はA12と同じブロック鋳造、ストロークは70mmだが、ボアを76mmにしている。このエンジンは、フォーミュラ・パシフィックやフォーミュラ3のレース用エンジンのベースとしても使用された。

搭載車種

  • サニー 4代目 B310型系(1980年 - 1981年、ライトバンは1983年まで)

A15 編集

日産・A12A
 
製造期間 1979年 - 2009年
排気量 1,488 cc
内径x行程 76 mm x 82 mm
最高出力 80 PS (59 kW; 79 hp) / 6,000 rpm[2]
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ボアは76mmのままストロークはA14エンジンから5mm拡大し、82mmとなった。ブロックの鋳造番号は異なるが、A14と同じ「トールブロック」デッキの高さ、寸法、正味平均有効圧は維持された。

搭載車種

  • サニー 4代目 B310型系(1980年 - 1981年)
  • バネット 初代 C120型系(1980年 - 1988年)
  • バネット 2代目 C22型系(1985年 - 2009年)
  • F型フォークリフト(日産製・フォークリフト) ※F01M10、F01A15等
  • H型フォークリフト(日産製・フォークリフト) ※H01M10、F01A15等

脚注 編集

  1. ^ a b c d e Sergei Wers (2024年1月27日). “NISSAN A12”. Engine Specs. 2024年2月1日閲覧。
  2. ^ a b c d e f Sergei Wers (2024年1月27日). “NISSAN A12A”. Engine Specs. 2024年2月1日閲覧。

関連項目 編集