火災積雲(かさいせきうん、pyrocumulus)、または 火災雲(fire cloud)とは、火災や火山活動に伴って生ずる濃密な積雲である[1]

1923年9月1日、関東大震災による大火災で形成された火災雲。
イエローストーン国立公園における山火事より形成された火災雲。

火災積雲は力学的に火災旋風とある側面で類似しており、これら2つの現象は同時に発生することもあり得るが、いずれか一方のみ発生する場合もある。

名称 編集

「火災積雲」あるいは「火災積乱雲」の名称は文部省「学術用語集 気象学編(増訂版)」には収録されていない。「気象科学事典」(日本気象学会[編])では「火災雲」と紹介されている。

世界気象機関の国際雲図帳(第I巻1975年版)ではII.6.4で「Clouds from fires」(火災による雲)として紹介されているのみで、特別な用語は与えられていない。

英語圏では「pyrocumulus」と呼ばれることもある。これはラテン語のcumulus(「積み重なったもの」の意。転じて積雲の学名となっている)にギリシャ語のpyro-(火炎)を付加した造語である。アメリカ気象学会の気象学用語集(AMS Glossary)には「pyrocumulus」の項目がある。

形成 編集

 
2009年8月のカリフォルニア山火事における火災積雲。

火災積雲は地面から空気が強く熱せられることにより形成される。例えば、火山噴火山火事、そして稀に工業活動により、火災積雲が形成され得る。これらを熱源とした強い加熱により大気の対流が起こり、それにより空気塊は、通常水蒸気の存在する条件の下で、浮力のなくなる高度まで上昇し、積雲ができる。また同じ仕組みで、大気中で核兵器が爆発した場合もキノコ雲の形の火災積雲が形成される。

なお、下層ジェットの存在は、火災積雲の形成を促進し得る。

周囲の水蒸気(大気中に既にある水蒸気)に加えて、燃えた植物から蒸発して生じた水蒸気は、速やかに灰の粉塵に凝結して雲になり得る。

 
イエローストーン国立公園における山火事より形成された火災雲。

火災積雲の中には激しい乱気流が存在し、それによって地表面でも強い突風が吹き、それが更に火災を助長し拡大させ得る。大きな火災積雲、特に火山噴火に伴うものは、雷電も伴う場合がある(火山雷)。火山雷の過程はまだ完全には解明されていないが、強い乱気流と、雲の中の灰の粒子の性質によって生じた電荷の分離に伴うものと考えられている。大きな火災積雲となると、その上部は氷点下となる場合があり、発生する氷の静電特性も火山雷の発生に寄与し得る。実際に、雷電を発生させる火災積雲は積乱雲(雷雲)の1種であり、それは「火災積乱雲(pyrocumulonimbus)」と呼ばれることもある。世界気象機関(WMO)は、「火災積雲」あるいは「火災積乱雲」を独立した雲の種類としては認めておらず、それらをそれぞれ積雲並雲あるいは雄大雲)および積乱雲の中に分類している。

外観 編集

 
上空から見た火災積雲。

火災積雲は、火災に伴う灰やの影響で、灰色か茶色に見える場合が多い。灰によって凝結核の量が増えるため、火災積雲は発達する傾向がある。これが別の問題を引き起こす。すなわち、火災積雲が雷電を発生させ得るほどに発達すれば、その落雷がまた別の火災を発生させるからである。

山火事への影響 編集

火災積雲は火災を助長する側面もあるし、妨害する側面もある。時には、大気中の水蒸気が雲の中で凝結して雨として降り、それが消火する役割を果たすことも多い。大きな火災旋風が起こり、それがそこから発生した火災積雲によって消火されてしまったという顕著な例は過去にいくつもある。しかしながら、火災が十分に大規模なものとなると、雲は成長し続けることができ、積乱雲(「火災積乱雲」)となる。火災積乱雲は雷電を発生させ、それが別の火災を発生させることもある[2]

参考文献 編集