稲垣良典

日本の中世哲学研究者 (1928-2022)

稲垣 良典(いながき りょうすけ、1928年昭和3年〉11月27日 - 2022年令和4年〉1月15日)は、日本中世哲学研究者、法哲学研究者。九州大学名誉教授。トマス・アクィナスの『神学大全』の訳者の一員で、中世スコラ哲学研究の第一人者[1]。関連著書を多数刊行している。

来歴 編集

佐賀県出身。1951年(昭和26年)東京大学文学部を卒業。1955年(昭和30年)アメリカ・カトリック大学大学院哲学研究科(CUA、Ph.D)修了。南山大学九州大学福岡女学院大学の各教授を経て、長崎純心大学教授・同大学キリスト教文化研究所所長(後に同研究所顧問)を務める。

2013年平成25年)、『神学大全』の翻訳で毎日出版文化賞(企画部門)受賞[1]
2015年(平成27年)、『トマス・アクィナスの神学』『トマス・アクィナス 『存在』の形而上学』で第27回和辻哲郎文化賞受賞[1]

2022年(令和4年)1月15日、胃がんのため死去[1]。93歳没。

人物 編集

エティエンヌ・ジルソンジャック・マリタンのトマス研究に大いに影響を受けたと述べている。

著書 編集

  • 『トマス・アクィナスの共通善思想 人格と社会』 有斐閣、1961年
  • 『トマス・アクィナス哲学の研究』 創文社、1970年、新版1990年、2000年  
  • 『現代カトリシズムの思想』 岩波書店<岩波新書 青版>、1971年、再版1977年、新版2017年
  • 『法的正義の理論』 成文堂〈基礎法学叢書3〉、1972年
  • 『平和の哲学』 第三文明社〈レグルス文庫〉、1973年
  • 『信仰と理性』 第三文明社〈レグルス文庫〉、1979年
  • 『トマス・アクィナス 人類の知的遺産 20』 講談社、1979年
  • 『トマス・アクィナス』 勁草書房〈思想学説全書〉、1979年、新版1996年
  • 『聖書のなかの人間』 あかし書房、1981年
  • 『習慣の哲学』 創文社、1981年
  • 『恵みの時』 創文社、1988年
  • 『抽象と直観 中世後期認識理論の研究』 創文社、1990年
  • 『トマス=アクィナス 人と思想』 清水書院、1992年、新版2016年。入門書
  • 天使論序説』 講談社学術文庫、1996年
  • 『トマス・アクィナス倫理学の研究』 九州大学出版会〈長崎純心大学学術叢書1〉、1997年
  • 『神学的言語の研究』 創文社、2000年
  • 『問題としての神 経験・存在・神』 創文社〈長崎純心レクチャーズ〉、2002年
  • 『人間文化基礎論』 九州大学出版会〈長崎純心大学学術叢書6〉、2003年
  • 『講義・経験主義と経験』 知泉書館、2008年
  • 『トマス・アクィナス「神学大全」』 講談社選書メチエ、2009年/講談社学術文庫、2019年
  • 『人格《ペルソナ》の哲学』 創文社、2009年/講談社学術文庫、2022年3月
  • 『トマス・アクィナスの神学』 創文社、2013年
  • 『トマス・アクィナス「存在」の形而上学』 春秋社、2013年
  • 『トマス・アクィナスの知恵』 知泉書館、2015年
  • 『カトリック入門 日本文化からのアプローチ』 筑摩書房ちくま新書〉、2016年
  • 『神とは何か 哲学としてのキリスト教』 講談社現代新書、2019年

翻訳 編集

  • トマス・アクィナス 『神學大全』 創文社(全45巻・全39冊)、1977年~2012年
     講談社「創文社オンデマンド叢書」(2022年)、オンデマンド出版および電子書籍[2]で再刊。
    ※第Ⅱ・Ⅲ部の20冊分を担当。1960年に刊行開始、約半世紀かけ完結した。
  • トマス・アクィナス 『法について』 有斐閣、1958年
  • トマス・アクィナス 『在るものと本質について ラテン語対訳版』 知泉書館、2012年
  • F・コプルストン 『トマス・アクィナス』 ソフィア双書10:未來社、1962年/上智大学出版部、1968年、再版1975年
  • R・E・ブレナン 『人間の研究 トマス的心理学入門』 ヴェリタス書院、1962年
  • E・ドリオトン『古代オリエントの宗教』 カトリック全書14:ドン・ボスコ社、1959年
  • レジス・ジョリヴェー『哲学者と知者の神』 カトリック全書15:ドン・ボスコ社、1960年
  • ジャック・マリタン『人間と国家』 久保正幡共訳、創文社、1962年
  • L.L.フラー『法と道徳』 有斐閣、1968年
  • J.M.エスタライヒャー『崩れゆく壁 キリストを発見した7人のユダヤの哲学者』 春秋社、1969年
  • ウォルター・M・アボットほか『新約聖書の基礎知識』 別宮貞徳共訳、春秋社、1973年
  • ウオルター・M・アボットほか『旧約聖書の基礎知識』 春秋社、1976年
  • カール・ラーナー 『人間の未来と神学』 中央出版社〈中央新書〉、1975年
  • ヨゼフ・ライネルス 『中世初期の普遍問題』 創文社、1983年
  • ピエール・リシェ 『聖ベルナール小伝』 秋山知子共訳、創文社、1994年
  • アレキシス・カレルルルドへの旅』 エンデルレ書店、1984年
  • ヨゼフ・ピーパー 『哲学するとはどういうことか』 エンデルレ書店、1962年
  • ヨゼフ・ピーパー 『愛について』 エンデルレ書店、1974年、再版1981年
  • ヨゼフ・ピーパー 『余暇と祝祭』 講談社学術文庫、1988年
  • フェルナンド・ファン・ステンベルゲン 『トマス哲学入門』 山内清海共訳、白水社文庫クセジュ〉、1990年、新装版2004年
  • モーティマー・アドラー 『天使とわれら』 講談社学術文庫、1997年

編著ほか 編集

  • 『季刊哲学11号 オッカム』 哲学書房、1990年
  • 岩下壮一カトリックの信仰』 校訂・解説、講談社学術文庫、1994年/ちくま学芸文庫、2015年
  • 『現代社会と正義 国際シンポジウム』 アンセルモ・マタイス共編 明石書店、1987年
  • 『人間の探究』 久保田勉共編、名古屋大学出版会、1988年
  • 『現代の思想と人間』 久保田勉共編、名古屋大学出版会、1995年
  • 『教養の源泉をたずねて 古典との対話』 創文社、2000年
  • 『中世の社会思想 中世研究第10号』上智大学中世思想研究所編、創文社、1996年
  • 『地球化時代のキリスト教』聖心女子大学キリスト教文化研究所編、春秋社、1998年
  • 『世界遺産への道標』創文社、2017年。副題:事例研究・芸術都市フィレンツェの経営政策

記念論集 編集

  • 『中世における知と超越 思索の原点をたずねて 稲垣良典教授の退官を記念して』(創文社、1992年)-詳しい紹介がある。

脚注 編集

  1. ^ a b c d “稲垣良典さん死去”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2022年1月18日). https://www.asahi.com/articles/DA3S15175368.html 2022年1月19日閲覧。 
  2. ^ 創文社が2020年に会社解散したため。他の著作も電子書籍で再刊。なお「神學大全」は2008年以降の刊行は表記上「連番」となった巻がある(5冊分)。
  3. ^ 後半2巻は山本芳久編訳・解説で、『神学大全』全体から重要な箇所を抜粋訳