肉骨茶

ニョニャ料理の一つ。スープ煮。

肉骨茶(バックッテー)はマレーシアシンガポールスープ料理である。

バクテー
中国語
中国語 肉骨茶
発音記号
標準中国語
漢語拼音ròugǔchá
粤語
粤拼juk6 gwat1 caa4
閩南語
閩南語白話字bah-kut-tê
マレー語
マレー語Bak kut teh

「肉骨茶」は閩南語白話字表記では bah-kut-tê に由来するものであり、潮州語の発音は nêg8-gug4-dê5。アルファベット表記では「Bak kut teh」と綴られる[1]

概要 編集

ぶつ切りのあばら肉(皮付き)や内臓肉を、漢方薬に用いる生薬中国醤油で煮込んだ料理で、一般的には土鍋で供され、白米にスープを掛けながら食べる。刻み生ニンニク・刻み青唐辛子を好みに応じつけたり、スープに入れる。油条(中国式の揚げパン)を切ったものをスープに浸して食べる。Thick Soy Sauceと呼ばれる甘口のどろっとした中国醤油を提供する店が多い。

伝統的なスタイルは豚肉のみとされているが、野菜類、きのこ類、中国湯葉厚揚げなどが入ったメニューもある。

生薬にはスターアニス(大茴香)シナモン(桂皮)クローブ(丁子)コショウ(胡椒)ニンニク(大蒜)などがよく使われるが、他にも多様な組み合わせがあり、店によって個性がある。

「肉骨茶」の名の由来は諸説様々あり、『語音 由来説』料理に茶葉は使用しないが、料理を創ったとされる「李文地」の「地」から、あるいは、料理がもともと「肉骨地」と呼ばれていたため、ビン南語で「地」と「茶」の音が類似しており「肉骨茶」と呼ばれるようになったとされる。

『提供方法 由来説』では、肉骨茶と米や油条さらにお茶を共に頂く事にも由来すると云う。マレーシア、シンガポールの肉骨茶屋では「どのお茶にするか?」と聞かれることが良くあり、肉骨茶屋の看板にも「○○茶使用」と肉骨茶に欠かせない要素となっている。

外食として朝食や昼食で食べられることが多く、現地ではファーストフードのひとつであるが、その他の地域では薬膳料理としても紹介されている。

歴史 編集

マレーシアがまだ英国植民地であった頃、中国本土よりやってきた中国人(福建人)が故郷の料理に倣って作り出したのが発祥である。彼らは主に港で苦力として働いていたが、貧しく重労働の彼らにとって安くて良い栄養補給源になった。低賃金の苦力は解体した後に残った「削ぎ落しきれなかった肉片がついた骨」を利用したため、それが「肉骨」の名の由来と言われている。

また、マレーシアでは漢方薬医の子息が病弱だった為、息子の為に「食事療法」として、漢方を使用した滋養強壮になる薬膳料理として作ったとの説もある。

クアラルンプール近郊の港町クラン (Klang /旧 Kelang) は発祥の地として知られ、店も多い。一方でシンガポールが発祥の地であると主張される場合もあり、海南鶏飯(チキンライス)と共にマレーシア人・シンガポール人の間で発祥を巡り論争となっている。クラン近辺で伝統的とされているスープは濃い醤油色で濃厚な風味の物が多い。色が濃いのは、「熟地黄」という漢方を煮出しているためと言われる[2]。一方、シンガポールスタイルと呼ばれるものは、透明に近い色で塩味のスープに胡椒を利かせている。シンガポールの対岸のマレーシアの都市ジョホールバルでは、シンガポールスタイルが多く見られる。

一説には、マレーシア系のバクテーは上記の通り福建省の料理に由来するのに対し、シンガポール系のバクテーは広東省潮州出身の調理人の味に由来しているとも言われる[2]。現地在住の日本人の間では、スープの色にちなみマレーシア系のものを「黒バク」、シンガポール系のものを「白バク」と呼ぶことも多い[2]

現在 編集

労働者の朝食が由来であったため、クランやクアラルンプールでは早朝に開業し昼食時前に閉まる店もあるが、現在では夜まで営業している店も多い。

マレーシアでは人口の3割ほどを占める中国系の華人に好まれている料理であるが、豚肉を食べることが宗教上禁止されているマレー人ムスリム・最大民族)は口にすることはない。現在ではマレーシア風、シンガポール風、福建風、海南風に分類できるともいわれている。また、伝統的なものの他に近年様々なバリエーションが産まれており、海鮮や鶏を具にしたもの、汁なしバクテー(Dry Bak kut teh)、中華系ベジタリアンが食べる野菜の素食肉骨茶などもある。

外食が多いマレーシア人、シンガポール人ではあるが、スーパー薬局では肉骨茶の素が売られており、ティーバッグのものもあり家庭で手軽に作られている。この場合、煎じ薬である漢方薬の薬効を期待して特別なブレンドのものや、肉骨茶の豚肉以外にも鶏肉玉子などを使って作り医食同源を実践している。一部の薬局では各種の漢方薬を客の要望に応じて調合しており、民間療法になっている。

脚注 編集

  1. ^ 綴りの最後のhはマレー語のteh(茶)に合わせて付け加えられたと思われる。
  2. ^ a b c マレーシアVS.シンガポール 脈々と続く「バクテー」美味対決! - CREA・2015年2月19日