軟口蓋側面接近音(なんこうがい・そくめんせっきんおん)とは子音の類型の一つ。後舌面軟口蓋で舌の中央を閉鎖し、舌の両脇から空気を通すことによって生じる音。国際音声記号[ʟ]と記述される。

軟口蓋側面接近音
ʟ
IPA 番号 158
IPA 表記 [ʟ]
IPA 画像
Unicode U+029F
文字参照 ʟ
JIS X 0213
X-SAMPA L\
Kirshenbaum L
音声サンプル

特徴 編集

言語例 編集

国際音声記号では1989年に正式にこの音のための記号が定義された。1970年代にパプア・ニューギニアカニテ語英語版にこの音が音素として存在することが報告されて、ようやく音声学者の間に一般的に知られるようになった[1]。現在この音を持つことが知られている言語には、ほかにメルパ語英語版、中部ワギ語英語版ヤガリア語英語版などのパプア・ニューギニアの諸言語があり、ほかにチャド語派の東チャド諸語に属するコトコ語などや、セイリッシュ語族のコモックス語も[ʟ]を持つという[2]

  • 中部ワギ語 aglagle [aʟaʟe] 「目が回る」[3]
  • メルパ語 [paʟa] 「垣根」[4]
  • カニテ語 [kaʟa] 「犬」[5]

南部アメリカ英語およびスコットランド英語において、音節末のいわゆる暗いL軟口蓋化した歯茎側面接近音)の異音として現れることがあるともいわれるが、ピーター・ラディフォギッドとイアン・マディソンによればそのような現象は認められず、おそらく別の音を勘違いしているのではないかという[6]

脚注 編集

  1. ^ International Phonetic Association (1999) 2.4
  2. ^ Ladefoged & Maddieson (1996) p.190
  3. ^ International Phonetic Association (1999) 3.1
  4. ^ Ladefoged & Maddieson (1996) p.199
  5. ^ Ladefoged & Maddieson (1996) p.211
  6. ^ Ladefoged & Maddieson (1996) pp.190-191

参考文献 編集

  • International Phonetic Association (1999). Handbook of the International Phonetic Alphabet: A guide to the Use of the International Phonetic Alphabet. Cambridge University Press. ISBN 0521637511 
  • Ladefoged, Peter; Maddieson, Ian (1996). The Sounds of the World's Languages. Oxford: Wiley-Blackwell. ISBN 978-0631198154
子音
肺臓気流
両唇 唇歯 歯茎 後部歯茎 そり舌 硬口蓋 軟口蓋 口蓋垂 咽頭 声門
破裂 p b () () () () t d ʈ ɖ c ɟ k ɡ q ɢ ( ʡˤ) ʔ
() m (ɱ̊) ɱ (n̪̊) () () n ɳ ɲ ŋ ɴ
ふるえ (ʙ̥) ʙ () r ʀ
はじき (ⱱ̟) ɾ ɽ (*) (*)
摩擦 ɸ β f v θ ð s z ʃ ʒ ʂ ʐ ç ʝ x ɣ χ ʁ ħ ʕ h ɦ
側面摩擦 ɬ ɮ
接近 (β̞) (ʋ̥) ʋ (ɹ̥) ɹ ɻ j ɰ
側面接近 () l ɭ ʎ ʟ
非肺臓気流
吸着 ʘ ǀ ǃ ǂ ǁ (ʞ)
入破 ɓ ɗ () ʄ ɠ ʛ
放出 (t̪ʼ) ʈʼ c’ ()
その他
同時調音 ʍ w ɥ ɕ ʑ ɧ
(k͡p) (ɡ͡b) (ŋ͡m)
喉頭蓋音 ʜ ʢ ʡ
舌唇音 () () () (θ̼) (ð̼)
その他側面音 ɺ (*) (ɫ)
破擦音 p͡ɸ b͡β p̪͡f b̪͡v t͡θ d͡ð t͡s d͡z t͡ʃ d͡ʒ ʈ͡ʂ ɖ͡ʐ t͡ɕ d͡ʑ c͡ç ɟ͡ʝ k͡x ɡ͡ɣ q͡χ ɢ͡ʁ t͡ɬ d͡ɮ ʔ͡h
記号が二つ並んでいるものは、左が無声音、右が有声音。網掛けは調音が不可能と考えられる部分。
丸括弧内はIPA子音表(2005年改訂版)に記載されていないもの。
国際音声記号 - 子音