NHKマイルカップ

日本の中央競馬の重賞競走

NHKマイルカップ(エヌエイチケイマイルカップ)は、日本中央競馬会(JRA)が東京競馬場で施行する中央競馬重賞競走GI)である。

NHKマイルカップ
NHK Mile Cup[1]
第28回NHKマイルカップ(2023年5月7日)
開催国 日本の旗 日本
主催者 日本中央競馬会
競馬場 東京競馬場
創設 1996年5月12日
2024年の情報
距離 芝1600m
格付け GI
賞金 1着賞金1億3000万円
出走条件 サラ系3歳牡馬牝馬(国際)(指定)
負担重量 馬齢(牡馬57kg、牝馬55kg)
出典 [2][3]
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競走名の「NHK」は寄贈賞を提供している日本放送協会の略称で、東京都渋谷区神南に本部を置く公共放送を提供する特殊法人[4]

正賞はNHK杯日本馬主協会連合会会長賞[2][3]

概要 編集

1953年から1995年まで東京優駿(日本ダービー)のトライアル競走として施行されていた「NHK杯」を前身としている[5]。当時はクラシック競走に出走できなかった外国産馬や短距離適性のある馬に目標となる大レースを4歳(現3歳)春季に創設しようという気運が高まり、1996年に春の4歳(現3歳)マイル王決定戦として新設された[5][注 1]。それゆえ、創設時は「マル外ダービー[7]といわれたこともある。ただし、こうした外国産馬を主体とするような見方に対しては異論もあり、当時業務部にて競馬番組の変更に関与していたJRA理事の吉崎一郎によれば、「短距離適性のある3歳馬のためのGI競走が必要」とする意見自体は以前からあり、そこに当時の外国産馬の状況を踏まえて「外国産馬が多く出走してくる」という予測があった[8]。それゆえに、レース設立の最大かつ本来の目的は外国産馬絡みのものがメインではなく、あくまで「3歳馬の短距離GI」であるとする見解もある[8]

創設当初より外国産馬が出走可能なほか、指定交流競走として所定の条件を満たした地方競馬所属馬も出走が可能となっている[5]。2009年より国際競走となり、外国馬も出走可能になった[5]

ただ、第1回の1996年は出走した18頭のうち14頭がマル外であるなど、ごく初期は「マル外ダービー」が示す通り、外国産馬が過半数出走しており、2001年まではいづれも外国産馬が優勝、内国産馬は3着(2頭)までという状態であったが、「外国産馬の出走制限緩和8カ年計画」(1992年策定)に呼応するように、国外からトニービンブライアンズタイムサンデーサイレンスを「3大種牡馬」として輸入されたタイミングで、その子孫を中心とした内国産馬の出走が増えるようになる。実際、2002年に内国産馬で初めて当競走を優勝したテレグノシス以後、2021年シュネルマイスタードイツ生産)が優勝するまでの延べ19年間、内国産馬の優勝が続いていた。その大半の父馬は血統にサンデーサイレンス系統が入っていた。また、この「3大種牡馬」導入の影響で、2000年まで過半数前後を占めていた外国産馬は、2012年・2016年のように出走が全くなしの年もあるなど、大幅に減っていった [9]

NHK交響楽団のメンバー(正式には、正団員以外を交えた「NHK交響楽団とその仲間たちによる金管アンサンブル」)が、発走前のファンファーレを生演奏するのが恒例となっている[10][11]。また、過去のダービートライアルとしてのNHK杯からの名残りで、八大競走のうちの牡馬三冠・天皇賞有馬記念などと同格扱いで、NHK総合テレビジョンから生中継されている。

競走条件 編集

以下の内容は、2024年現在[2][3]のもの。

出走資格:サラ系3歳牡馬・牝馬(出走可能頭数:最大18頭)

  • JRA所属馬
  • 地方競馬所属馬(後述)
  • 外国調教馬(優先出走)
  • 騸馬(去勢した牡馬)は出走できない[注 2]

負担重量:馬齢(牡馬57kg、牝馬55kg)

出馬投票を行った馬のうち優先出走権のある馬から優先して割り当て、その他の馬は通算収得賞金の総計が多い順に割り当てる(出走申込馬が出走可能頭数を超え、かつ収得賞金が同額の馬が複数いる場合は抽選)[12]

JRA所属馬の優先出走権 編集

競走名 競馬場 距離 必要な着順
ニュージーランドトロフィー GII  中山競馬場 芝1600m 3着以内
アーリントンカップ GIII  阪神競馬場 芝1600m 3着以内

収得賞金がない馬(未勝利馬・未出走馬など)は原則として出走できないが、ニュージーランドトロフィー及びアーリントンカップで2着以内の成績を収め、優先出走権を得れば出走できる[12][注 3]

地方競馬所属馬の出走資格 編集

地方競馬所属馬は、同一年度に行われる下表のステップ競走で所定の成績を収めた馬に優先出走権が与えられる[13][12]

競走名 競馬場 距離 必要な着順
ニュージーランドトロフィー GII  中山競馬場 芝1600m 3着以内
桜花賞 GI  阪神競馬場 芝1600m 2着以内
アーリントンカップ GIII  阪神競馬場 芝1600m 3着以内
皐月賞 GI  中山競馬場 芝2000m 2着以内

上記のほか、JRAで行われる芝の3歳重賞競走優勝馬にも出走資格が与えられる[5]

賞金 編集

2024年の1着賞金は1億3000万円で、以下2着5200万円、3着3300万円、4着2000万円、5着1300万円[2][3]

歴史 編集

年表 編集

  • 1996年 - 4歳牡馬・牝馬限定の重賞競走(GI[注 4])として新設[5]
  • 2001年 - 馬齢表示の国際基準への変更に伴い、出走資格を「3歳牡馬・牝馬」に変更[5]
  • 2007年 - 日本のパートI国昇格に伴い、格付表記をJpnIに変更[5]
  • 2009年
    • 国際競走に変更され、外国調教馬が9頭まで出走可能となる[5]
    • 格付表記をGI(国際格付)に変更[5]
  • 2020年 - 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため「無観客競馬」として実施[14](2021年も同様[15])。
  • 2024年 - 負担重量を馬齢表記に変更。

歴代優勝馬 編集

優勝馬の馬齢は、2000年以前も現行表記に揃えている。

コース種別を記載していない距離は、芝コースを表す。

回数 施行日 競馬場 距離 優勝馬 性齢 タイム 優勝騎手 管理調教師 馬主 1着本賞金
第1回 1996年5月12日 東京 1600m タイキフォーチュン 牡3 1:32.6 柴田善臣 高橋祥泰 (有)大樹ファーム 9200万円
第2回 1997年5月11日 東京 1600m シーキングザパール 牝3 1:33.1 武豊 森秀行 植中倫子
第3回 1998年5月17日 東京 1600m エルコンドルパサー 牡3 1:33.7 的場均 二ノ宮敬宇 渡邊隆
第4回 1999年5月16日 東京 1600m シンボリインディ 牡3 1:33.8 横山典弘 藤沢和雄 シンボリ牧場
第5回 2000年5月7日 東京 1600m イーグルカフェ 牡3 1:33.5 岡部幸雄 小島太 西川清
第6回 2001年5月6日 東京 1600m クロフネ 牡3 1:33.0 武豊 松田国英 金子真人
第7回 2002年5月4日 東京 1600m テレグノシス 牡3 1:33.1 勝浦正樹 杉浦宏昭 (有)社台レースホース
第8回 2003年5月11日 東京 1600m ウインクリューガー 牡3 1:34.2 武幸四郎 松元茂樹 (株)ウイン
第9回 2004年5月9日 東京 1600m キングカメハメハ 牡3 1:32.5 安藤勝己 松田国英 金子真人
第10回 2005年5月8日 東京 1600m ラインクラフト 牝3 1:33.6 福永祐一 瀬戸口勉 大澤繁昌
第11回 2006年5月7日 東京 1600m ロジック 牡3 1:33.2 武豊 橋口弘次郎 前田幸治
第12回 2007年5月6日 東京 1600m ピンクカメオ 牝3 1:34.3 内田博幸 国枝栄 金子真人ホールディングス(株)
第13回 2008年5月11日 東京 1600m ディープスカイ 牡3 1:34.2 四位洋文 昆貢 深見敏男
第14回 2009年5月10日 東京 1600m ジョーカプチーノ 牡3 1:32.4 藤岡康太 中竹和也 上田けい子
第15回 2010年5月9日 東京 1600m ダノンシャンティ 牡3 1:31.4 安藤勝己 松田国英 (株)ダノックス
第16回 2011年5月8日 東京 1600m グランプリボス 牡3 1:32.2 C.ウィリアムズ 矢作芳人 (株)グランプリ
第17回 2012年5月6日 東京 1600m カレンブラックヒル 牡3 1:34.5 秋山真一郎 平田修 鈴木隆司
第18回 2013年5月5日 東京 1600m マイネルホウオウ 牡3 1:32.7 柴田大知 畠山吉宏 (株)サラブレッドクラブ・ラフィアン
第19回 2014年5月11日 東京 1600m ミッキーアイル 牡3 1:33.2 浜中俊 音無秀孝 野田みづき
第20回 2015年5月10日 東京 1600m クラリティスカイ 牡3 1:33.5 横山典弘 友道康夫 杉山忠国
第21回 2016年5月8日 東京 1600m メジャーエンブレム 牝3 1:32.8 C.ルメール 田村康仁 (有)サンデーレーシング 9500万円
第22回 2017年5月7日 東京 1600m アエロリット 牝3 1:32.3 横山典弘 菊沢隆徳 (有)サンデーレーシング
第23回 2018年5月6日 東京 1600m ケイアイノーテック 牡3 1:32.8 藤岡佑介 平田修 亀田和弘 1億500万円
第24回 2019年5月5日 東京 1600m アドマイヤマーズ 牡3 1:32.4 M.デムーロ 友道康夫 近藤利一
第25回 2020年5月10日 東京 1600m ラウダシオン 牡3 1:32.5 M.デムーロ 斉藤崇史 (有)シルクレーシング
第26回 2021年5月9日 東京 1600m シュネルマイスター 牡3 1:31.6 C.ルメール 手塚貴久 (有)サンデーレーシング
第27回 2022年5月8日 東京 1600m ダノンスコーピオン 牡3 1:32.7 川田将雅 安田隆行 (株)ダノックス 1億3000万円
第28回 2023年5月7日 東京 1600m シャンパンカラー 牡3 1:33.8 内田博幸 田中剛 青山洋一

NHKマイルカップの記録 編集

  • レースレコード - 1:31.4(第15回優勝馬ダノンシャンティ)[5]
    • 優勝タイム最遅記録 - 1:34.5(第17回優勝馬カレンブラックヒル)
  • 最多優勝騎手 - 3勝
    • 武豊(第2回・第6回・第11回)、横山典弘(第4回・第20回・第22回)[16]
  • 最多優勝調教師 - 3勝
    • 松田国英(第6回・第9回・第15回)
  • 最多勝利種牡馬 - 3勝
  • 最年少優勝騎手 - 藤岡康太(第14回・20歳4ヶ月22日)
  • 最年長優勝騎手 - 内田博幸(第28回・52歳9ヶ月12日)
  • 親子制覇
    • クロフネ - クラリティスカイ・アエロリット

脚注・出典 編集

注釈 編集

  1. ^ 回次は1996年の競走を第1回としているが、JRA-VANでは「NHK杯のGI昇格[6]」とする考え方も示されている。ただしNHK杯は距離2000mであった。
  2. ^ ただしクラシック競走と違い、本競走では騸馬排除の根拠とされる「繁殖馬の選定」を明確に謳っているわけではない。これは朝日杯フューチュリティステークスニュージーランドトロフィーでも同様である。
  3. ^ 重賞競走では収得賞金が2着まで加算される[12]ため、未勝利馬がトライアル競走で2着以内に入れば収得賞金を得ることができる。
  4. ^ 当時の格付表記は、JRAの独自グレード。

出典 編集

  1. ^ IFHA Race Detail NHK Mile Cup”. 2022年5月2日閲覧。
  2. ^ a b c d 重賞競走一覧(レース別・関東)” (PDF). 日本中央競馬会. p. 16. 2023年9月11日閲覧。
  3. ^ a b c d 令和5年第2回東京競馬番組(第1日 - 第6日)” (PDF). 日本中央競馬会. 2023年9月11日閲覧。
  4. ^ 2023年度第2回東京競馬特別レース名解説” (PDF). 日本中央競馬会. p. 4. 2023年9月11日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k 歴史・コース:NHKマイルカップ 今週の注目レース”. 日本中央競馬会. 2023年9月11日閲覧。
  6. ^ 「第14回NHK杯マイルカップ特集(歴代優勝馬ピックアップ:タイキフォーチュン)」 - JRA-VAN、2015年4月12日閲覧
  7. ^ JRA優駿×JRAレーシングビュアー東京優駿物語・豪脚を武器に他馬をねじ伏せ ついに誕生した“新・二冠馬”キングカメハメハ
  8. ^ a b 外国産タイキフォーチュン初代王者/NHKマイルC”. 日刊スポーツ (2018年5月1日). 2023年5月7日閲覧。
  9. ^ 様相一変、脅威はいずこに? 外国産馬盛衰史 2017年5月6日 6:30日本経済新聞野元賢一寄稿)
  10. ^ NHKマイルカップでファンファーレ 活動報告 NHK交響楽団 2015年5月19日
  11. ^ 平成30年第2回東京競馬(第1日~第8日)開催日イベントのお知らせ』(PDF)(プレスリリース)日本中央競馬会、2018年4月14日https://company.jra.jp/7403/press/201804/201804141103.pdf2019年4月27日閲覧 
  12. ^ a b c d 競馬番組一般事項 「V 出馬投票」” (PDF). 日本中央競馬会. p. 18 (2023年). 2023年9月11日閲覧。
  13. ^ 「地」が出走できるGI競走とそのステップ競走について【令和5年度】” (PDF). 日本中央競馬会. 2023年9月11日閲覧。
  14. ^ 4月25日(土曜)から5月31日(日曜)までの中央競馬の開催等について”. 日本中央競馬会 (2020年4月23日). 2021年5月4日閲覧。
  15. ^ 4月25日(日曜)からの無観客競馬の実施とウインズ等の営業取りやめ”. 日本中央競馬会 (2021年4月23日). 2021年5月4日閲覧。
  16. ^ 連覇としてはミルコ・デムーロ(第24回・第25回)が記録

各回競走結果の出典 編集

馬主名義を含む競走結果
馬主名義を除く競走結果

関連項目 編集

  • NHK杯 - NHK主催の各種競技大会
  • きさらぎ賞 - 1962年から2023年までNHKより優勝杯が提供されており、「NHK賞」の副称が付いていた

外部リンク 編集