PL/0(ピーエルゼロ)はプログラミング言語の名称。少なくとも2種類の言語が知られており、その1つは IBM の汎用プログラミング言語 PL/I のサブセットである。

本項で詳述するもう一方のPL/0は、教育目的でPascalを簡略化したバージョンのプログラミング言語である。主にコンパイラの設計開発の実例として使用される。1975年、ニクラウス・ヴィルトの著書 Algorithms + Data Structures = Programs で紹介されたのが最初である。言語の構成要素は非常に小さく、実数はサポートしておらず、算術演算子も必要最小限で、"if" と "while" 以外の制御構文を持たない。そのような様々な制限があるため、この言語で実用的プログラムを書くのは現実的ではないが、コンパイラ自体は非常に小さく単純に作成可能である。

文法 編集

以下はEBNFで定義されたこの言語の構文規則である。

program = block "." .

block = [ "const" ident "=" number {"," ident "=" number} ";"]
        [ "var" ident {"," ident} ";"]
        { "procedure" ident ";" block ";" } statement .
statement = [ ident ":=" expression | "call" ident |
            "begin" statement {";" statement } "end" |
            "if" condition "then" statement |
            "while" condition "do" statement ].
condition = "odd" expression |
            expression ("="|"#"|"<"|"<="|">"|">=") expression .
expression = [ "+"|"-"] term { ("+"|"-") term}.
term = factor {("*"|"/") factor}.
factor = ident | number | "(" expression ")".

このような単純な文法に対して再帰下降パーサを書く方が学生にとっては易しい。従って、PL/0 コンパイラは世界中の教育機関で広く使われている。本来の仕様に機能が少ないため、学生は言語とコンパイラの拡張に時間をかけることになる。例えば、REPEAT .. UNTIL を導入したり、プロシージャへの引数渡しを実装したり、配列・文字列・浮動小数点数といったデータ型を追加したりといった拡張である。

コンパイラ構築 編集

1976年12月、ヴィルトはコンパイラ構築に関する小さな本を出版したが、その中に PL/0 コンパイラの全ソースコードが含まれていた。前述の構文規則はそのヴィルトの本 Compilerbau の初版にあったものである[1]。同書の後の版ではヴィルトの研究の進展の影響も受けて、PL/0 の文法は変更されている。例えば、constprocedure といったキーワードは大文字に変更された。この変更で PL/0 は Modula-2 に見た目が似ることとなった。同時にヴィルトの友人アントニー・ホーアCommunicating Sequential Processesの中で感嘆符 ! と疑問符 ? を通信プリミティブの記法として採用した。ヴィルトはこれらを PL/0 に導入したが、その意味を書籍で解説していない。

使用例 編集

以下の例は PL/0E という拡張された言語によるものである[2]

VAR x, squ;

PROCEDURE square;
BEGIN
   squ := x * x
END;

BEGIN
   x := 1;
   WHILE x <= 10 DO
   BEGIN
      CALL square;
      ! squ;
      x := x + 1;
   END
END.

このプログラムは 1 から 10 までの数の二乗を出力する。大学などで教える際には感嘆符の代わりに WriteLn プロシージャを使用することが多い。

以下の例はヴィルトの Compilerbau 第二版に掲載されたものである(1986年、ドイツ)[1]

CONST
  m =  7,
  n = 85;

VAR
  x, y, z, q, r;

PROCEDURE multiply;
VAR a, b;

BEGIN
  a := x;
  b := y;
  z := 0;
  WHILE b > 0 DO BEGIN
    IF ODD b THEN z := z + a;
    a := 2 * a;
    b := b / 2;
  END
END;

PROCEDURE divide;
VAR w;
BEGIN
  r := x;
  q := 0;
  w := y;
  WHILE w <= r DO w := 2 * w;
  WHILE w > y DO BEGIN
    q := 2 * q;
    w := w / 2;
    IF w <= r THEN BEGIN
      r := r - w;
      q := q + 1
    END
  END
END;

PROCEDURE gcd;
VAR f, g;
BEGIN
  f := x;
  g := y;
  WHILE f # g DO BEGIN
    IF f < g THEN g := g - f;
    IF g < f THEN f := f - g;
  END;
  z := f
END;

BEGIN
  x := m;
  y := n;
  CALL multiply;
  x := 25;
  y :=  3;
  CALL divide;
  x := 84;
  y := 36;
  CALL gcd;
END.

Oberon-0 編集

ヴィルトはコンパイラ構築に関する本の第三版(最新版)で PL/0 から Oberon-0 に置き換えている。コンパイラ全体は同書の中で紹介されているが、PL/0 よりも Oberon-0 の方が言語としての機能は充実している。例えば、Oberon-0 には配列、レコード、型宣言、プロシージャ引数がある。ヴィルトの書籍の出版社(Addison-Wesley)は彼の書籍を絶版にすることを決定したが、ヴィルトは 2005年に第三版を完成させ、それをオンラインで公開した[3]

関連項目 編集

脚注 編集

  1. ^ a b Wirth, Niklaus (1986), Compilerbau, B.G. Teubner, Stuttgart ISBN 3-519-32338-9
  2. ^ PL/0E
  3. ^ The (2005) of Compiler Construction, Niklaus Wirth, 1996, ISBN 0-201-40353-6第三版の印刷された書籍は滅多にないが、オンラインで公開されている。

参考文献 編集

外部リンク 編集