TraceTogether

シンガポールの政府機関によって開発された接触追跡を可能にするスマートフォンアプリ

TraceTogether(トレース・トゥギャザ)は、 シンガポール政府によってリリースされたアプリケーションソフトウェア(アプリ)である。このアプリを使うことで、シンガポール政府が専用に作った BlueTrace英語版プロトコルを利用して、電子的な接触追跡英語版が可能になる[1][2]。アプリは政府デジタルサービス (Government Digital Services) によって開発され、2020年3月20日にリリースされた。4月21日時点で、Google Play でリリースされている Android 向けアプリは50万回以上ダウンロードされている[3]。アプリに使われているプロトコル BlueTrace はオープンソースで提供されている。

TraceTogether
(トレース・トゥギャザ)
開発元 政府電子サービス
リポジトリ ウィキデータを編集
プログラミング
言語
対応OS AndroidiOS
ライセンス GPL-3.0
公式サイト www.tracetogether.gov.sg
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接触追跡 編集

利用者は、アプリを使い始める際に自身の電話番号を政府のデータベースに登録する[4]。登録時にIDが発行され、電話番号情報はこのIDと紐づけられる[4]。アプリ利用者の二人がすれ違うと、両者の端末はお互いのIDを交換し、接触者履歴に保存する[5]。この記録には、過去21日間に利用者が接触したすべての利用者のIDが記録されており、自身の端末以外の場所に保存されることはない[5]。アプリ利用者の新型コロナウイルス陽性が確認されると、保健省職員は当該感染者の接触者履歴を政府のデータベースへとアップロードさせる[注釈 1][4][6]。アップロードされた履歴は、人間を介在させて (Human-in-the-loop) [6]接触距離・接触時間の条件で篩い分けし、濃厚接触者と認定されたIDに紐づけられた電話番号に連絡する[4]。アプリ利用者はいつでもアプリの登録を解除することができ、解除されると政府データベースに登録されたIDのデータも削除される[5]

TraceTogether では、データ集約型の接触追跡を採用している[7]。これはすなわち、感染者の濃厚接触者情報を中央サーバーで管理するということを意味しており[7]TraceTogether ではシンガポール保健省が管理している[5]。接触追跡の手段として、BlueTooth(ブルートゥース)と呼ばれる近距離通信規格を用いており、GPSによる位置情報は用いていない[8]。BlueTooth を用いた接触追跡では、人と人との接触のみを記録し、接触した場所については記録されないように配慮できる[4]

保健省では、感染者に対してヒアリングを行い、陽性が確認されるまでに訪れた場所を聞き出している[6]。この情報により、当該感染者が他の人に感染させてしまっている可能性(リスク)を見積り、濃厚接触者の洗い出しを行う際のしきい値の設定に用いている[6]。これは、TraceTogether が位置情報を取得しておらず、偽陽性(濃厚接触者ではないのに濃厚接触者であると認定してしまう誤り)・偽陰性(濃厚接触者であるのに濃厚接触者でないと認定してしまう誤り)が高く出てしまうのを抑えるための施策である[9]

効果 編集

TraceTogether の使用率は、全国民の2割[7]から3割[10]程度にとどまっており、電子的な接触追跡が効果を発揮するとされる人口カバー率7割の目標には達していない[10]。アプリ開発者は、「自動接触追跡はコロナウイルスの万能薬ではない」と題したブログを公開し[11]、感染者に対するヒアリングを重要視している[9]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 接触者履歴のアップロードは、あくまでも「感染者の同意のもと」行われるが、シンガポールの感染症法により、これを拒否した場合は罰則が科せられる恐れがある。アプリのQ&Aでも「データのアップロードを断れるのか」という質問に対し、「保健省から連絡を受けた場合、アプリで収集したデータの提供が法律で義務付けられている」と明記されている。

出典 編集

  1. ^ Home” (英語). bluetrace.io. 2020年4月12日閲覧。
  2. ^ Sharwood. “Singapore to open-source national Coronavirus encounter-tracing app and the Bluetooth research behind it” (英語). www.theregister.co.uk. 2020年4月12日閲覧。
  3. ^ TraceTogether - Google Play Store”. 2020年4月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月13日閲覧。
  4. ^ a b c d e 私たちの「個人情報」は大丈夫か?コロナ騒動の裏で進む動きについて(三木 由希子) @gendai_biz”. 現代ビジネス. 2020年5月22日閲覧。
  5. ^ a b c d Jason Bay, Joel Kek, Alvin Tan, Chai Sheng Hau, Lai Yongquan, Janice Tan, Tang Anh Quy. “BlueTrace: A privacy-preserving protocol for community-driven contact tracing across borders”. Government Technology Agency. 2020年4月12日閲覧。
  6. ^ a b c d 日経クロステック(xTECH). “シンガポールのコロナ感染追跡アプリ、日本でそのまま導入できない理由”. 日経クロステック(xTECH). 2020年5月22日閲覧。
  7. ^ a b c データは世界を救えるか? 海外・日本のITx新型コロナの取り組み”. Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) (2020年5月20日). 2020年5月22日閲覧。
  8. ^ テクノロジーの“反撃”はコロナ終息へ導けるか、各国はどう戦っている?”. ビジネス+IT. 2020年5月22日閲覧。
  9. ^ a b Bay, Jason (2020年4月20日). “Automated contact tracing is not a coronavirus panacea” (英語). Medium. 2020年5月22日閲覧。
  10. ^ a b 新型コロナ、各国で異なる「出口戦略」 4つの…(写真=ロイター)”. 日本経済新聞 電子版. 2020年5月22日閲覧。
  11. ^ Hamilton, Isobel Asher (2020年5月19日). “アイスランドは接触者追跡アプリ普及率40%…それでも足りない。プライバシーの懸念も”. www.businessinsider.jp. 2020年5月22日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集