YM2608(FM Operator type N-A、OPNA)はヤマハが開発したFM音源チップである。日本電気のプレスリリースによると、1987年10月発売の「PC-8801FA/MA」のサウンド機能の強化を目的に新開発された音源チップとされる[1][2][3]YM2203(OPN)とのソフトウェアレベルでの互換性を保ちつつ、文字多重放送およびキャプテンシステム端末の要求仕様[注 1][注 2]を満たすように拡張されている。[要出典]

4オペレータ・同時発音数6音ステレオのFM音源部、およびSSG3音モノラル、更にADPCM音源を1チャンネルと、リズム音源を内蔵している。

YM2203と同じく、プログラマブルタイマー英語版を2系統内蔵し、8bitI/Oポートもついている。5V単一電源で、マスタークロックは8MHz。パッケージは64ピンプラスチックSDIP(YM2608B)。DACには専用DACのYM3016(2ch出力)を使用する。

幾つかの機能の削除に加え、電気的特性、パッケージなどを変更した後継のチップであるYMF288(後述)も存在する。

PC-9801-86音源ボード上のYM2608
DAC YM3016

FM音源 編集

YM2203と比較すると、FM音源部は3チャンネルから6チャンネルへ、音声出力が二系統になることで、左右に音声の出力先を指定[注 3]可能になり、音色のパラメータにはLFO機能が拡張されている。

SSG音源 編集

SSG音源部の機能はYM2203との違いはないが、3チャンネルが内部でミキシングされてから出力される[注 4]

リズム音源 編集

YM2608に内蔵されたバスドラムスネアドラムライドシンバルハイハット(クローズ)タムタムリムショットの波形を独立したチャンネルとして制御可能。タムタムの音程は一種類のみで変更は出来ない。ボリュームも調整可能で、パン[注 5]させることも可能である。

ADPCM 編集

ADPCMは4bitサンプリングレート2kHz~16kHzの性能で、CPUメモリ、波形専用メモリ共にアクセス可能。外部メモリは最大256KiBまで搭載可能である。再生時には2kHz~55.5kHzの範囲で自由に周波数を設定できるため、音程を変える事が可能である。

YMF288 (OPN3-L) 編集

YM2608の機能のうち、NEC PC-9800シリーズにて使用された機能に絞ってシュリンクされた後継チップ。SOP28(YMF288-M)とQFP44(YMF288-S)の2種類のパッケージが用意され、SOP28はNEC向け、QFP44はサードパーティ向けに供給された。ハードウェア的には、AY-3-8910互換のパラレルI/Oポートが削除され、低消費電力のスタンバイモード、レジスタの扱いの異なるYMF288モードが新設されている。消費電力そのものが削減されると共に、FM音源部、SSG音源部共にデジタル出力に変更され、汎用のDACが使用可能となった。また、レジスタアクセス時のウェイトタイムが大幅削減されている。音源チップとしてはADPCM/PCM機能とCSMモード、プリスケーラ機能の削除に伴い、該当機能のレジスタについては互換性の維持のため存在はするが機能しなくなっている。

搭載された機種 編集

  • YM2608
    • PC-8800シリーズ - NEC、PC-8801FA/MA/MA2/MC/PC-88VA2/VA3に搭載。それ以外の機種には「サウンドボードII」の名称で、オプションボードが用意された。
    • PC-9800シリーズ - NEC、PC-98DO+[注 6]PC-98GSPC-9821シリーズに搭載。拡張ボード「PC-9801-73」「PC-9801-86」でも使用されている。後者については、外付けのPCM出力を行う回路が存在し、ADPCMバッファが割愛されている。後に、有志の手により、PC-9801-86に実装されたYM2608に被せる形でADPCM用バッファを追加する基板(製品名「ちびおと」)が開発された。また、サードパーティーから、純正「PC-9801-26K」の上位互換ボードとして、「スピークボード」が発売されている。ただし、スピークボードにはPC-9801-86に搭載されたようなPCM音源は実装されていない。PCM音源も搭載するYM2608を採用したFM音源製品の例として、コンピューターテクニカのオールサウンドプレーヤ98が挙げられる。PCM音源はアナログ・デバイセズAD1848KPでMS-DOS上のソフトウェアで対応する製品はほぼ無かったが、FM音源がYM2608BであるためYMF288を搭載したボードと比べてデータの再現性では優れていた。
    • ジャンボヘキサ(プライズゲーム機) ユウビス
  • YMF288
    • PC-9801-86互換音源ボードの一部 - BUFFALO製SRN-F、SXM-F等、QvisionのWaveStarやWaveSMIT[注 7]など
    • PC-9821の一部機種の内蔵音源 - PC-9821Cb,Cx,Cf,Cb2,Cx2,Na7,Nx[注 8]
    • X68000用の音源ボードMK-MU1OにもOPNAの代用品として搭載

参考文献 編集

  • YM2608 OPNA アプリケーションマニュアル YAMAHA

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ キャプテンのメロディ機能(オプション)及び文字放送の付加音機能の基本機能においては「メロディ6音+リズム5音同時発音」のスペックが要求されており、YM3526やYM2413もこの仕様に基づいて設計されている[4][5][6]
  2. ^ YM2608が搭載される以前のPC-8801シリーズ用のNECのキャプテンアダプタ「PC-CM301」では、本体及びサウンドカードに搭載されたYM2203を1個から2個使用してメロディ機能を部分的に実装していた[7]
  3. ^ YM2608では、中央、左、右、無音の4段階。
  4. ^ YM2608 OPNA アプリケーションマニュアル 図1-2 ブロックダイアグラム および 図1-3 端子配置図。
  5. ^ FM音源部と同じく4段階。
  6. ^ PC-9800シリーズ本体内蔵のうちPC-98DO+内蔵のものだけは、88モードにおけるサウンドボード2互換のため、ADPCM用のメモリを搭載している。98モードからも使用可能である。
  7. ^ PCM音源にはWSS互換のCS4231が使用されていたが、DOS上で86音源と同等の操作で使用可能とする独自機能を搭載し、加えてローランドのGS互換音源などを追加する汎用ドーターボードも装着できる仕様となっていた。WaveSMITに関しては、これらに加えてSMIT転送を利用できるSCSIインターフェース機能も複合していた。
  8. ^ Windows上では98CanBe Soundと表示。

出典 編集

  1. ^ 日本電気、日本電気ホームエレクトロニクス「パーソナルコンピュータ「PC-8800シリーズ」の新製品2機種の発売について」『情報科学』第197号、情報科学研究所、1987年10月15日、168-170頁、doi:10.11501/3273690 
  2. ^ 丹治佐一「88がさらに機能アップ! ステレオ12音声 デジタル・サンプリング機能 NEC PC-8801FA/MA」『マイコンBASICマガジン』1987年12月号、電波新聞社、46-48頁。 
  3. ^ YK-2「PC-8800シリーズ新音源ボード サウンドボードIIを使ってみよう!」『マイコンBASICマガジン』1988年2月号、電波新聞社、45-47頁。 
  4. ^ 「パソコンも楽器に」『日経産業新聞』、1984年10月31日、8面。
  5. ^ 「メロディ15音色,リズム5音色を内蔵したFM音源LSI」『月刊アスキー』1986年8月号、アスキー、105頁、doi:10.11501/3250703 
  6. ^ 岡兼太郎「ニューメディアと音楽」、音楽情報研究会編『コンピュータと音楽(コンピュータ・サイエンス誌 bit別冊)』、共立出版、1987年9月、75-83頁、doi:10.11501/3299536NCID BN03936860
  7. ^ 井口哲也「パソコンをキャプテンの端末にしよう」『月刊マイコン』1985年6月号、電波新聞社、243-251頁。