獣人雪男

日本の映画

獣人雪男』(じゅうじん ゆきおとこ)は、1955年(昭和30年)8月14日に公開された、東宝制作の特撮映画。モノクロ、95分、スタンダード。同時上映は『初恋三人息子』。

獣人雪男
Half Human
Jujin Yuki Otoko poster.jpg
ポスター
監督 本多猪四郎
脚本 村田武雄
原作 香山滋
製作 田中友幸
製作総指揮 森岩雄[注釈 1][要出典]
出演者 宝田明
河内桃子
根岸明美
堺左千夫
山本廉
谷晃
瀬良明
高堂国典
小杉義男
中村伸郎
音楽 佐藤勝
撮影 飯村正(本編)
有川貞昌(特撮)[注釈 1][要出典]
編集 庵原周一
製作会社 東宝[1][注釈 1]
配給 東宝[1][注釈 1]
公開 日本の旗 1955年8月14日
上映時間 95分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
テンプレートを表示

キャッチコピーは「魔か原始人か? 怪力と戦慄の巨獸人、これが雪男だ!」。

概要編集

 
上記とは別バージョンのポスター。本多猪四郎の名前が「本田猪四郎」と誤植されている。

ゴジラ』『透明人間』『ゴジラの逆襲』に続く、戦後の東宝特撮第4作。原作者・制作者・監督・出演陣・特撮など、『ゴジラ』とほぼ同一のスタッフにより制作されている。

『ゴジラ』の製作当時から『S作品』[注釈 2]の仮題で企画が進行しており、1954年10月に香山滋による検討用台本の完成を経て、『ゴジラ』の公開後には『アルプスの雪男』のタイトルで製作決定が発表された。しかし、『ゴジラ』の大ヒットを機に製作本部長・森岩雄の指示で急遽製作が決定した『ゴジラの逆襲』の撮影に特技監督の円谷英二が専念するために製作は一時休止され、その間に監督の本多猪四郎も『おえんさん』の製作へ移ったため、両作の完成後の1955年6月に撮影が再開された[3]

アメリカでは『Half Human』または『The Story of the Abominable Snowman』のタイトルで公開され、DVDも発売されているが、ストーリー自体はジョン・キャラダイン演じるアメリカ人の生物学者ジョン・ライバーン博士が「日本でこんな話があった」と説明するというものになっている。そのため、シーンが追加撮影されている(子供の雪男の死体を検死するなど)一方、原典の本編が一部削除されている。

あらすじ編集

雨が降り続けるある日、かつて日本アルプスにて怪事件に遭遇したK大山岳部のメンバーは、駅の待合室へ取材に来た新聞記者にその不可思議な体験を語り始めた。

K大山岳部は冬山に挑んだが、雪崩に巻き込まれて山小屋に逃げ込んだ1人の部員が死亡し、もう1人の部員が行方不明になった。山小屋内には、雪男のものとしか形容しようがない未知の生物の体毛が残されていた。翌夏、再び日本アルプスを訪れた部員の飯島高志や武野道子、人類学者の小泉らは山中にキャンプを張り、部員と雪男を探す。その後方では、動物ブローカーの大場と彼の部下が雪男を捕獲するため、山岳部一同を尾行していた。まもなく、雪男を目撃して追跡を試みるも崖から足を滑らせた飯島は、大場たちに見つかって暴行されたうえに崖から突き落とされる。負傷した飯島を救助したのは、昨冬に出会った山村の部落の娘チカだった。だが、余所者を嫌う部落の人々により、飯島は断崖に吊るされてしまう。そこに現れた雪男は飯島を救出し、彼に危害を与えずに去っていった。

一方、飯島を慕うチカは大場に騙され、飯島に会わせる条件として雪男の住処を教える。その結果、雪男は大場たちに捕えられ、雪男を助けようとした雪男の子供は殺されてしまう。激怒した雪男は大場たちを皆殺しにし、部落を襲撃してチカ以外の部落民をも皆殺しにしたうえ、キャンプを襲撃して道子を拉致し、住処の洞窟へ逃げ込む。道子を救出しようと洞窟へ踏み込んだ一同とチカは、部員や雪男たちの白骨死体を発見する。部員の遺書には、彼もまた雪男によって救助されたものの、そのまま衰弱死したことが記されていた。小泉は、雪男が人前に姿を現すようになったのは、ベニテングダケの毒で仲間を亡くした孤独に耐えかねたためではないかと推測する。

その時、道子を手にした雪男が現れた。道子を救出しようとする一同に対し、雪男は道子を人質にして洞窟深部の噴火口に陣取る。チカは雪男の気を惹こうと囮になって道子の救出に成功するが、雪男はチカを捕えたまま足を踏み外して噴火口へ落下し、溶岩に呑み込まれる。こうして、雪男と部落民は滅び去ったのだった。

体験談を語り終えた頃、雨は止んでいた。一同は到着した汽車に乗り、日本アルプスを去っていった。

雪男の造形・エピソード編集

雪男の造形に当たっては、各種猿人の資料で裏付けをとってリアルさを追求し、特技監督の円谷は「単なる怖がらせのためのものではないと自信を持って言えるものだ」と自負している。

雪男のぬいぐるみの造形は、当初大橋史典が中心となって行われ[注釈 3]、巨大さを表現しようと足元を高下駄式にしていたが、危険であるために取り止めとなった。顔面は数回作り直されたが、約半年を費やした果てに造形チーフの利光貞三によって制作された顔面が採用され、胴体も八木勘寿や八木康栄によって子供の雪男ともども作り直された。また、下半身のみの着ぐるみも作られた[5]

大橋の雪男は牙をむき出した凶暴そうな顔つきが特徴で、利光の雪男は口元の下がった穏やかな顔つきをしている。全身の体毛には、ヤギの毛が植え付けられている。顔面はスーツアクターを担当した相良三四郎のライフマスクが石膏で型取りされ、演技者の表情に連動して動くように工夫された。相良は俳優兼造形技術者だった大橋史典の芸名でもあるが[4]、当時の『東宝ニュース』では、スーツアクターは「全国から巨人コンクールで選んだ日本一の巨人」と宣伝される。なお、後年に開設された本多の公式サイトでは、スタジオで撮影された写真に「コンクールで選ばれた相良三四郎が扮する雪男」と表記されている[6]

ただ、長身の大橋が自ら制作した雪男を試着している現場写真は現存しており、『東宝ニュース』では「相良は美校の出身で、渡辺明の助手も務めた」とあり、大橋の経歴と一致している。また、「相良がロケ先の宿でマスクを着けて仕事をしているのを見た女中が悲鳴を上げて腰を抜かし、ちょうど泊まり合わせた剣道三段の猛者に散々な目に遭わされた」との逸話が渡辺明によって語られている。

ロケは日本アルプスの白馬で行われた[6]。撮影現場では雪男の巨大感を出すため、河内桃子を小脇に抱えるシーンで子役を使ったが、河内との体格の違いが一目瞭然でうまくいかず、円谷は崖を上る雪男などを一部コマ撮り(ストップモーション)撮影している。屋外でのコマ撮り撮影もされたが、日光の動きを計算していなかったために背景の樹木の影が移動し、不採用となってしまった。

公開当時、「ゴジラより強い雪男」というフレーズで、雪男が『ゴジラの逆襲』に使用されたゴジラのぬいぐるみと対峙している宣伝用スチール写真も撮影されている[3]

スタッフ編集

ノンクレジット編集

海外版編集

  • 製作:ロバート B. ホーメル
  • 撮影:ルシアン・N・アンドリオ
  • 美術:ニコライ・レミソフ
  • 録音:ジャック・ウィラー
  • キャスティング:リン・スタルマスター
  • 編集、監督:ケネス・G・クレイン

キャスト編集

ビデオソフト化について編集

テレビ放送や完全な形での本編のビデオソフト化は一切行われていない。ただし劇場での上映は可能で、近年でも名画座での上映が行われている[注釈 5]。1997年6月には東芝EMIからサウンドトラックCDが発売されたが、廃盤。2016年12月にCINEMA-KANレーベルより再発が行われた。収録内容は同一だが、一部音源のデジタル修復を施している。

1998年8月には東宝の協力を得たとするメーカー「グリフォン」から、本作と同じくビデオソフト化が自粛状態にある『ノストラダムスの大予言』と同時発売で、音声のみを収録したドラマCDが発売された。すると間もなく海賊版ビデオが出回りはじめた[注釈 6]。ドラマCDの発売元との関連を指摘する声もあるが、真相は不明。

1984年に発売された東宝特撮映画のダイジェスト集ビデオ『東宝怪獣・SF大百科6』(VHSβ、1997年にLD-BOXとして発売)には10分間のダイジェスト映像が収録されており、唯一公式な形で本編映像の一部を見ることができる。予告編は1980年代に発売された歴代東宝映画の予告編集ビデオ『特撮グラフティー1』(VHS・β版が発売)に収録されている[注釈 7]

1993年に竹書房から発売された、東宝特撮の網羅本『ゴジラ画報』及びその改訂版『ゴジラ画報第2版』では本作が紹介されていたが、本作と『ノストラダムスの大予言』のビデオが流出した後の1999年に改訂された『ゴジラ画報第3版』では、この2作品の紹介部分が削除されている。

サウンドトラック編集

  • 獣人雪男オリジナルサウンドトラック(2016年12月21日、Cinema-Kan Lebel、音楽:佐藤勝[8]
  • 獣人雪男 劇場公開完全版ドラマCD (1998年、グリフォン)[9]

ノベライズ編集

香山滋自身の手により、ノベライズが『小説サロン』1955年8月号から同年10月号まで連載された。単行本は東方社より同年9月20日発行。単行本収録の際に付されたまえがきは、映画原作「S作品検討用台本」中の「『雪男』に関するメモ」からの流用である。ノベライズでは、滅びゆく生物である雪男が人間の女性を誘拐して繁殖を試みるが、彼女を死なせてしまう結果に終わる、といった映画にない描写がある。

備考編集

ティム・バートン監督の『エド・ウッド』(1994年)で、マーティン・ランドー演ずるベラ・ルゴシの生前最後のショットにおける背後に、『Half Human』のポスターが貼られている。

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ a b c d ノンクレジット
  2. ^ 「S」は「Snowman」(スノーマン)の頭文字から取られている[2]
  3. ^ a b 大橋について、開米栄三は「ぬいぐるみ役者」としての参加であったと証言しており、造形については開米らとは別行動であったとしている[4]
  4. ^ 香山滋の原作は2004年に筑摩書房から発売された文庫版『ゴジラ』に併録されている[7]
  5. ^ 2010年12月4日の新文芸坐、2014年10月11日 - 10月12日の京都みなみ会館など。
  6. ^ 出回っている海賊版ビデオでは、通常の東宝のセルビデオと同じく「TOHO VIDEO」の表示から始まり本編終了後にも「複製・改変の禁止」という通常の注意書きが収録されている。したがって、過去に一度は東宝からビデオ化の企画があり、結局発売されなかった映像が流出したものと思われる。
  7. ^ ノンテロップの映像に電子テロップを合成しての収録となっており、オリジナルのものではない。

出典編集

  1. ^ a b c d e f 映画資料室”. viewer.kintoneapp.com. 2020年3月31日閲覧。
  2. ^ 『コレクション ゴジラ大全集』 講談社〈テレビマガジンデラックス(2)〉、1979年、9頁。雑誌コード:66575-02。 
  3. ^ a b 『東宝特撮映画大全集』 ヴィレッジブックス、2012年、19頁。ISBN 9784864910132 
  4. ^ a b 友井健人「特撮界の怪人 大橋史典」『別冊映画秘宝電人ザボーガー』&ピー・プロ特撮大図鑑』洋泉社〈洋泉社MOOK〉、2011年11月14日、86-87頁。ISBN 978-4-86248-805-3
  5. ^ 中島春雄 『怪獣人生 元祖ゴジラ俳優・中島春雄』 洋泉社、2010年、347頁。ISBN 978-4-86248-589-2 
  6. ^ a b c 獣人雪男 - 本多猪四郎オフィシャルサイト
  7. ^ 香山滋 『ゴジラ』 筑摩書房、2004年。ISBN 4480420347 
  8. ^ 獣人雪男 オリジナルサウンドトラック -Disk Union
  9. ^ 獣人雪男 劇場公開完全版ドラマCD

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集