生産性
生産性(せいさんせい、Productivity)とは、経済学で生産活動に対する生産要素(労働・資本など)の寄与度、あるいは、資源から付加価値を産み出す際の効率の程度のことを指す。
一定の資源からどれだけ多くの付加価値を産み出せるかという測定法と、一定の付加価値をどれだけ少ない資源で産み出せるかという測定法がある。
概説編集
生産性はより少ない労力と投入物(インプット)でより多くの価値(アウトプット)を産みたいという人間の考えから生まれてきた概念である。リソースとリターンの関係性とも理解される。
- 生産性=アウトプット/インプット
より少ないインプットからより多いアウトプットが得られるほど、より生産性が高いという関係にあることがわかる。
生産性が高い方法は、生産性が低い方法よりも、より少ないコストで生産ができたり、労働の余暇をふやせたり、利益を沢山上げたりできる。仕組みにも因るが、より多くのアウトプット(付加価値)を実現できる。
また、国際的には生産性の高い産業は生き残ることが出来るため、各方面で生産性の改善が活発に行われている。実際、国際的な競争下にある製造業(貿易財)の生産性は、非貿易財であるサービス業に比べて概して高い。
生産性改善は、生産性という発想のもとである、製造業の生産ラインにおいては最も強く発揮されている。一方で、サービス業は、フローの把握や分業が進展していないこともあり、生産性の向上も遅れている。
なお、俗にサービス残業などに因る労働強度の増加に拠って生産、あるいは、利益を増やすことを生産性を上げると表現することがあるが、上記から明らかなようにその場合は労働力投入というインプットが増加しているため、仮にアウトプットが増加しても生産性が上昇するとは限らない。経済学者が生産性を上げるべきだと主張する時は、上記のようなあくまでインプット対比でのアウトプットについてであるが、これが「労働強度を高めて酷使されるという意味である」と混同される場合があり、注意が必要である。
生産性の種類編集
生産性には何を基準に置いて評価するかによって幾つか種類がある。これはインプットとアウトプットの対象によって、生産性という言葉の意味が異なるためである。またそれぞれの生産性の数値尺度は、それ単独で用いるよりも、他者の生産性と比較することによってさらに有用な指標(ベンチマーク)となる[1]。
- 資本生産性
資本(機械・貨物自動車等の設備)1単位に対してどれだけ価値が産めたかを指す。通常、資本が遊ばないようになるだけ多く労働者を充てると、資本の回転率が上昇し資本生産性が高まる。ただし、この場合は労働生産性が低下する。 関係式としては、資本生産性=生産量÷有形固定資産があてはめられる。
- 労働生産性
労働力(単位時間当たりの労働投入)1単位に対してどれだけ価値を産めたかを指す。その際、生産量を物的な量で表す場合を特に「物的労働生産性」、金額(付加価値)で表す場合を「付加価値労働生産性」と言い、一般的な経済指標で単に「労働生産性」と言った場合、通常は後者を指す。
通常、労働力が遊ばないようになるだけ多く資本を装備すると、労働力の回転率が上昇して労働生産性が高まる。ただし、この場合は資本生産性が低下する。 関係式としては、物的労働生産性=生産量÷従業者数、価値労働生産性=生産額÷従業者数=(生産量×製品価格)÷従業者数、付加価値労働生産性=付加価値額÷従業者数があてはめられる。
- 全要素生産性(TFP)
上記の2項の影響を除いた、生産の増加を表す。通常は緩やかな上昇基調であるが、技術革新の際に高い上昇を見せる。交通革命やIT革命などが、その革新に該当する(IT革命による全要素生産性の改善については、なお、議論の余地が有る)。
国民経済生産性 産出量としてのGDPを投入量としての就業者総数で除したもの。労働生産性の国際比較において使用される際には、各国の購買力平価でUSドル換算したGDPが用いられる。
生産性と景気循環編集
景気循環は生産性に大きく影響している。通常、大規模な技術革新が起こらない場合、労働生産性と資本生産性は逆の動きをする。
景気回復時には見かけ上での労働生産性の伸びが高めに出る傾向がある。これは労働者一人あたりの効率性が改善しなくても稼働率を高めることによって生産高を増加させることができるためである。逆に、景気後退時には、労働生産性の伸びが低めに出る傾向がある。
労働力の調整が硬直的な経済(終身雇用制など)の場合、資本がより循環するため、景気回復時には労働生産性が上昇し、景気下降時には労働生産性が低下する。
労働力の調整が柔軟な経済(解雇が比較的容易など)の場合、労働力がより循環するため、景気回復時には資本生産性が上昇し、景気下降時には資本生産性が低下する。
生産性の向上要因編集
- 投資による資本財(生産手段)蓄積の増加
- 教育による人的資本(労働力)の質の向上
- 低生産部門から高生産部門への資源の再配分による効率性の向上
- 研究開発による技術進歩[2]
- 最低賃金の引き上げ
ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマンは、近年の実証研究の蓄積に基づき、最低賃金の引き上げが雇用に正の影響を与えることを指摘する。そして賃金上昇が労働のターンオーバーを減らし生産性を高めると結論づける[3]。米国では、2016年までに最低賃金を10.10ドルまで引き上げる法案をトム・ハーキンが提出し、これに多くの主要経済学者が賛同している[4] [5]。また2020年までに米国の最低賃金を15ドルと設定する法案をバーニー・サンダースが提出した[6]。
生産性向上のための活動編集
大手広告代理店の悲しい出来事もあり、政府が過剰な残業をなくし(労働)生産性の向上を目指して働き方改革を進めている[7]。 人材への投資による生産性の向上による経済成長を目指している[8]。
- 生産性の向上
各企業では、働く人がモチベーション(動機付け)を高め、やりがいを感じ組織へのエンゲージメントを高めることで、顧客付加価値をもたらす業務に集中し生産性向上を実現する活動が行われている[9][10]。
脚注編集
- ^ http://www.jpc-net.jp/movement/productivity.html
- ^ スティグリッツ マクロ経済学[リンク切れ]
- ^ Liberals and WagesP. Krugman, The New York Times, The Opinion Pages, 17 June 2015
- ^ 75 economists back minimum wage hike CNN Money, January 14, 2014
- ^ Over 600 Economists Sign Letter In Support of $10.10 Minimum Wage Economist Statement on the Federal Minimum Wage, Economic Policy Institute
- ^ The rapid success of Fight for $15: 'This is a trend that cannot be stopped'S. Greenhouse, The Guardian, US-News, 24 Jul 2015
- ^ “働き方改革の実現”. 2017年12月13日閲覧。
- ^ “経済財政運営と改革の基本方針2017 人材への投資を通じた生産性向上”. 2017年12月13日閲覧。
- ^ 入江 2018.
- ^ “次世代 生産性向上方法論”. 2017年12月13日閲覧。
関連項目編集
参考文献編集
- 入江, 仁之『「すぐ決まる組織」のつくり方 ー OODAマネジメント』フォレスト出版、2018年。ISBN 978-4-866800-09-7。
外部リンク編集
- 生産性とは (日本語)
- 日本の生産性の動向 (PDF) (日本語) (2012年版)
- 生産性統計<産業別月次生産性統計> (日本語)
- 我が国産業の労働生産性向上における課題 (PDF) (日本語) 松井勇太, Mizuho Industry Focus, Vol.61, 2007. (マクロ経済パフォーマンスの労働生産性への影響の解説)
- What Determines Productivity? (PDF) (英語) Chad Syverson, Journal of Economic Literature 2011, 49:2, 326–365.
- 次世代 生産性向上方法論 (日本語)