略取・誘拐罪

略取・誘拐罪(りゃくしゅ・ゆうかいざい)とは、人を略取若しくは誘拐する行為のうち、未成年者に対するもの、又は身代金、国外移送、営利、わいせつ、結婚若しくは生命身体への加害の目的で行うもののことであり、刑法 (日本)ではこれを犯罪としている(同法224条 から 229条)。

目次

保護法益編集

被拐取者の身体の自由である。間接的に生命も保護法益となっている。被拐取者が未成年や制限能力者など保護を受けた者である場合は、親権者後見人等の監護権も保護法益とされる。

行為編集

略取(りゃくしゅ)とは、暴行脅迫その他強制的手段を用いて、相手方を、その意思に反して従前の生活環境から離脱させ、自己又は第三者の支配下に置くことをいう。誘拐(ゆうかい)とは偽計・誘惑などの間接的な手段を用いて、相手方を従前の生活環境から離脱させ、自己又は第三者の支配下に置くことをいう。略取と誘拐とを併せて講学上「拐取」(かいしゅ)と呼ぶ。

処罰類型編集

未成年者略取及び誘拐罪(刑法224条
拐取の対象が未成年であることが要件である。法定刑は3月以上7年以下の懲役。
営利目的等略取及び誘拐罪(刑法225条
営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的があることが要件である。法定刑は1年以上10年以下の懲役。
身の代金目的略取等の罪(刑法225条の2
身代金要求目的がある拐取。あるいは拐取者の身代金を要求すること。法定刑は無期又は3年以上の懲役。上記「営利目的」とは異なる。
所在国外目的略取及び誘拐罪(刑法226条
所在を国外に移送する目的があることが要件である。法定刑は2年以上の有期懲役。
被略取者等所在国外移送罪(刑法226条の3
法定刑は2年以上の有期懲役。

営利目的編集

225条に言う営利は、判例によれば、営業で用いられる概念とは異なる。すなわち、反復継続して利益を得る目的は必要ではなく(大判大正9年3月31日刑録26輯223頁)、拐取行為によって財産上の利益を得ることを動機とすることをいう。典型的には、被拐取者を強制的に労働させる目的などがこれにあたる。

安否を憂慮する者編集

225条の2では「近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」の憂慮に乗じる目的で人を略取、誘拐したり、また憂慮に乗じて財物を交付させ、又はこれを要求する行為を罰しているが、「その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」とは誰のことか、その範囲が問題になるが、社会通念上親身になって憂慮するのが当然の立場の者がこれに含まれるとされる。判例では被拐取者の勤める会社の役員がこれにあたるとされた(最決昭和62年3月24日刑集41巻2号173頁)こともある。

解放による刑の減軽編集

刑法第228条の2第1項に、「第225条の2又は第227条第2項若しくは第4項の罪を犯した者(いわゆる共犯)が、公訴が提起される前に、略取され又は誘拐された者を安全な場所に解放したときは、その刑を減軽する。」とある。

身代金を目的とした拐取等の罪では、口封じなどを目的として被拐取者が殺害される危険が少なくない。この規定は、解放について犯人にメリットを与えることで被拐取者の生命の安全を守るという刑事政策的見地によって定められた。

ここでいう「安全な場所」とは、被拐取者がその近親者及び警察当局などによつて安全に救出されると認められる場所をいい、その場合の安全とは、被拐取者が救出されるまでの間に具体的かつ実質的な危険にさらされるおそれのないことを意味する。例えば、身代金目的の誘拐犯人が、小学校一年生の被拐取者を、夜間、同児の自宅から直線距離で数キロメートル離れた農村地帯の脇道上に解放したとする。この場合、解放された場所自体が危険なものでなく、付近民家の者らによって救出される可能性も見込まれ、また犯人が同児をその自宅に復帰させるため種々努力したことなどの事情のもとにおいては、「安全な場所」に解放したものといえる(最高裁判所第三小法廷昭和53(あ)1407)。

罪数に関する判例編集

略取・誘拐罪同士編集

225条に規定される目的で未成年者を誘拐したときは、225条の単純一罪である(大判明治44年12月8日刑録17輯2168頁)。

わいせつ目的で女性を誘拐し、更に営利目的で別の場所に誘拐したときは、225条の包括的一罪である(大決大正13年12月12日刑集3巻872頁)。

営利目的で人を誘拐した者が、身の代金を要求した場合、両罪は併合罪の関係に立つ(略取・誘拐罪を状態犯と理解した判例)(最決昭和57年11月29日刑集36巻11号988頁)。

身代金目的誘拐(刑法225条の2第1項)と身代金要求罪(刑法225条の2第2項)は牽連犯の関係にある。(監禁罪(刑法220条)との関係に付いては併合罪)(最決昭和58年9月27日刑集37巻7号1078頁)。

他罪との関係編集

監禁を手段として営利目的略取が行われた場合、両罪は観念的競合の関係に立つとされる(大阪高判昭和53年7月28日高刑31巻2号118頁)。

人を略取した者がその者を監禁し、その後身の代金を要求した場合、監禁罪と身の代金要求罪は併合罪の関係に立つ(最決昭和58年9月27日刑集37巻7号1078頁)。

その他編集

本罪が継続犯であるか状態犯であるかについては争いがある。多くの類型については未遂も罰せられ(刑法228条)、また一部については親告罪となる(刑法229条)。一部の幇助行為は227条で独立して処罰される。225条の2第1項については予備も罰せられるが、225条の2又は227条2項又は4項の罪を犯した者が、公訴が提起される前に、略取され又は誘拐された者を安全な場所に解放したときは、その刑を減軽する(228条の2)。

関連項目編集