石油元売(せきゆもとうり)とは、原油精製して石油製品として販売する企業のことである。「石油元売会社」や「元売会社」、「元売」とも呼ばれる。

石油精製設備(製油所)を持つと共にガソリンスタンド(給油所)等を多数展開し、マスメディア宣伝していることなどから、自動車運転者などの一般消費者にとっても良く知られた会社であることが多い。

日本では日本政府が認め登録した元売業者だけが石油元売会社であったが、現在そのような登録はなくなったため、公式な石油元売の定義は存在せず、精製と販売の事業を大規模に行う石油関連の企業を示すことが一般的である[1]。現在は、原油精製と製品販売の両方を行う石油会社(「精製元売」)の割合が高いが、一部、キグナス石油のように、原油の精製は行わず、他の石油会社から製品を購入し販売している会社もある。この様な会社を「純粋元売」と呼ぶ習慣も一部で存在した。かつての「純粋元売」としては、共同石油エッソ石油モービル石油などが存在した(昭和シェル石油も、1999年平成11年〉4月の新潟製油所の閉鎖後は「純粋元売」となった)。

また、自社ブランドの給油所を持たず、自社で原油を精製して製造した製品を自社ブランドを持つ石油元売会社に販売している石油会社を「精製専業」と呼ぶことがある。現在の「精製専業」には、鹿島石油富士石油東亜石油昭和四日市石油西部石油などがある。ただし、「精製専業」と呼ばれる石油会社でも、給油所で販売される製品(ガソリン灯油軽油等)以外の石油製品(ナフサ(粗製ガソリン)、重油アスファルト等)を、自社とコンビナートを形成する化学工業会社、近隣の火力発電所を有する電力会社、大規模な工場を有する産業需要家などに対して直接販売する事例も多いので、「精製専業」は厳密な表現ではない。

上記のような状況から、「石油元売」とは、「精製設備を保有しているか否かにかかわらず、自社ブランドでの石油製品の販売を行っている石油会社」と定義し得るとする識者もいる。

主要業務編集

石油元売が行う主な業務は以下の通り、原油・石油の流れに沿っていくつかに分かれる。

  1. 原油の購入
  2. 原油の輸送・輸入
  3. 貯蔵・備蓄
  4. 精製
  5. 輸送
  6. 販売

また、原油とは別に天然ガスの流通も大口需要者である電力会社やガス会社と共に石油元売や総合商社が行なっている。

原油の購入編集

1960年代 - 1970年代以降、産油国の立場が向上してからは、原油の購入は日本に限らず輸入国にとって政治的経済的に容易ではないものとなっている。探鉱段階から商業生産まで産油国に協力して油田の原油の優先購入権を得る「自主開発原油」を増やす努力が行なわれており、日本でも総合商社や石油元売が日本政府と共に積極的に関与してきた。20世紀末には日本の輸入原油の15 %程度がこの自主開発原油となったが、2000年(平成12年)2月に中立地帯サウジアラビア及びクウェート)のカフジ油田アラビア石油の採掘権が打ち切られ、10 %程度となった。その後の努力、国内需要の減少傾向もあり、その比率は15 %近くに回復している。石油公団は、日本の石油資源の確保のためという名目で長年、多額の投資を行い、その多くを失ったため、2004年(平成16年)2月29日に廃止された。その機能は石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) に引き継がれている。中華人民共和国(中国)などの積極的な石油開発競争相手の参入もあり、JOGMECでも積極的な海外石油開発投資が行なわれている。

原油の輸送・輸入編集

石油元売は、原油の採掘・生産を行なっている会社や産油国、またはその原油を購入し転売する会社(商社、トレーダー)から原油を購入している。日本国内では原油生産量が極めて限られているため、国内需要の殆ど(99.7 %)を産油国からの輸入により賄っている。輸入は、中東地域からが8割以上と、圧倒的に多い。

日本が輸入する原油の売買契約における受け渡し条項は、FOB(本船渡し)条件が多く、その場合、買い手である日本の石油精製会社はタンカー傭船し、海上貨物保険を付し、原油の積出港まで原油を取りに行くこととなる。

貯蔵・備蓄編集

輸入された原油は大きな貯蔵タンクに蓄えられる。日本では石油元売自身の原油貯蔵や石油製品貯蔵(民間備蓄)と共に日本政府の原油備蓄(国家備蓄)の2種類の石油備蓄を行うことで、国内の石油の安定供給を図っている。前者の民間備蓄とは、石油企業が緊急事態に備えて、それ専用の備蓄量を別個に維持しているのではなく、あくまでも商業在庫として、法律に決められた日数分(現在は70日分)の在庫を維持しているということである(原油の精製・製品の製造と販売・出荷の繰り返しにより、恒常的に在庫の入れ替えが行われている)。2011年(平成23年)3月の東日本大震災の後、「民間備蓄放出」などと言われたが、これは、上記70日分の日数を引き下げたに過ぎず、「放出」という言葉の一般的イメージには馴染まないものであった。

精製編集

原油は製油所と呼ばれる工場の精製設備によって、LPガスガソリンナフサジェット燃料灯油軽油、A重油C重油アスファルト石油コークス潤滑油グリースなどに分留・調合・加工される。

輸送編集

精製過程により生産された石油製品は、製油所や輸入基地(一次基地)からタンクローリー内航タンカー、パイプライン、鉄道貨車タンク車などによって販売地などへ配送される。配送先は以下のように民生用産業用で大きく分かれる。

民生用

  • 持ち届け - 石油製品販売業者(石油元売の特約店・販売店)が運営する給油所(ガソリンスタンド、サービスステーション/SS)などに対して石油元売の輸送費用負担で納品する。
  • 倉取り - 石油製品販売業者側のタンクローリー等が石油元売の製油所や油槽所(二次基地)に出向いて製品を受け取る。この場合、販売業者側は石油元売側から「倉取り運賃補助」を支給されることがある。

産業用

  • インタンク直販方式 - 火力発電所、石油化学プラント、製紙工場空港などの産業用では、直接顧客の貯油施設に届ける。

販売編集

石油製品の販売は、一般消費者向けの小売販売店(サービスステーション/SS)と大口需要家への直接販売がある。石油元売と特約店契約がある小売販売店へは系列取引で、ガソリンの売買では「系列玉」と呼ばれる取引になる。石油元売との特約店契約がない小売販売店へは系列外取引となって、ガソリンの売買では「業転玉」(業者間転売玉、業者間転売品)と呼ばれる取引になる。

歴史編集

過去にはセブン・シスターズのような原油探鉱からガソリン等の販売までを一貫して行う欧米の巨大石油企業が世界中の石油取引を寡占していた時代もあったが、石油産出国の立場が強くなった20世紀半ば以降からは、原油採掘と精製・流通・販売の過程は必ずしも同じ企業が行うとは限らず、現在は、従来の巨大石油企業と新規参入企業とが競合や提携を行ない、多様なブランドで石油製品を販売している。

日本の石油元売編集

2020年令和2年)7月時点で、日本の石油元売は5社ある。1980年代初めには国内15社を数えたが[2]燃料油の国内需要減少に伴い、1981年(昭和56年)に石油審議会が出した提言に沿って再編が進展した[3]。これは日本の人口減少脱石油など、世界的な自動車の環境対応の進展が背景にあるとされる。

日本でのガソリンスタンドは上記の5社の直営と特約店、販売店(俗に言うスーパーディーラーを含む)の他に、大手総合商社系(伊藤忠エネクス三菱商事エネルギー丸紅エネルギー兼松ペトロなど)や農業協同組合(JA)系(JA-SS北海道ホクレンSS)が存在し、ガソリンスタンド総数は30,070店(2019年3月末時点)である。商社系は日本国内のガソリンの1割以上を販売しており、JA全農も約5 %を販売しているが近年は直営系の比率が増大傾向にある[4]。石油元売以外は基本的に精製設備を持たないため、これら元売以外の企業では、ガソリンなどの石油製品は元売から購入するか輸入することになる。総合商社は海外で原油の開発から関わることもあり、石油製品の輸出入も手がけるが、輸入のほとんどは灯油や軽油である。

石油元売から直接の契約によって石油製品を購入する特約店は「二者」と呼ばれ、特約店から購入する比較的小規模な販売業者は「三者」(「サブ」)と呼ばれる。三者は二者の販売マージン分だけ購入コスト高となり、経営上不利な立場となる。或いは、「二者」が「三者」に卸す分に関して、元売から「二者」への卸し価格が割り引かれ、「二者」、「三者」それぞれが一般消費者へ売る分の自社の仕入れ値が同じに揃えられる場合もある(製品の配送を元売が、「二者」の給油所、「三者」の給油所のそれぞれに対して直接行う場合は各数量の明白な区別が出来るので、このような卸値の2本建てが可能となる)。また、「二者」の取り扱い数量が巨大な場合(「二者」がスーパーディーラーと呼ばれるほど大きい場合)、「三者」の先に「四者」が存在する場合もある。

日本の石油元売を資本で分類すると外資系元売民族系元売に分けられる。外資系元売会社にあたるコスモ石油の持株会社であるコスモエネルギーホールディングスは、2007年(平成19年)9月(当時はコスモ石油)以降、アラブ首長国連邦・アブダビ首長国の国策投資会社であるMubadala Investment Company (旧International Petroleum Investment Company (IPIC))が20.76 %の株を保有する筆頭株主となっている。

出典編集

  • 甘利幹夫、山岡博士著 『石油価格はどう決まるか』 2007年12月20日第1刷発行 ISBN 9784788707689
  1. ^ 芥田知至著 『最新石油業界の動向とカラクリがよーくわかる本』 秀和システム 2008年5月21日第1版第1刷発行 ISBN 9784798019673
  2. ^ https://www.noe.jxtg-group.co.jp/binran/document/part01/chapter02/pdf/section07_02.pdf
  3. ^ 石油産業の歴史 第2章 第7節 規制緩和と業界再編の時代
  4. ^ 石油販売業の課題と生き残り策 総合資源エネルギー調査会・第17回資源・燃料分科会(平成28年5月17日)説明資料

関連項目編集