神津 恭介(かみづ きょうすけ)は、高木彬光推理小説に登場する架空の名探偵。初登場は高木のデビュー作でもある『刺青殺人事件』。

人物 編集

本職は東京大学医学部法医学教室助教授(その後、教授職を務め退官)。1920年大正9年)9月25日生まれ[注 1]。血液型はO型。

長身(5尺6寸、約169センチメートル)の美男子で、6カ国語(ギリシアラテン)に長け、学生時代に発表した論文により「神津の前に神津なく、神津の後に神津なし」と評された天才。ピアノの腕前もプロ級である。1943年(昭和18年)頃、陸軍中尉として北京の陸軍病院につとめていた際に、モンゴル人と親しくなり、モンゴル語を学んだことがあるともいう[1]

東京府立第四中学校から第一高等学校理科乙類に入学。この時に『わが一高時代の犯罪』・『輓歌』の事件に遭遇する。その後、東京帝国大学医学部に入学、従軍して外地にいたが帰国し、大学に戻り、法医学教室に所属する。直後に松下研三から『刺青殺人事件』の謎を持ちかけられ、これを解決する。以後『呪縛の家』に登場する一高の元同級生、卜部鴻一が予言した通りに、警視庁の囑託として犯罪事件に関わるようになる。

「氷人」・「木石」と揶揄され、恋愛には縁がないように見えるが、3度ほど自分から恋をしている。初恋の女性は一高時代に知り合った水町知恵子で[2]、その後、オペラ女優水島真理子との恋におちいる[3]。1957年(昭和32年)に東大文学部助教授、井村梅吉の助手、大麻鎮子と相思相愛になり、ゴールイン間近と思われた[4]が、それが実現しなかったことが、『古代天皇の秘密』の中で明らかにされている。

死神の座』事件を解決した礼として、新藤精一郎より「王国の鍵」を貰う。

江戸川乱歩明智小五郎横溝正史金田一耕助と並んで「日本三大名探偵」と称される[5]。名前は、戦後に登場した二人の先輩探偵、金田一耕助と加賀美敬介[注 2]のイニシャルがともにK・Kであることから、それにあやかってイニシャルがK・Kになるようにしたものという[6]

作者はあるインタビューで、神津恭介のことを「彼はいわゆる本格派の系列に入る天才的名探偵です。しかし、余りに天才すぎて現実から浮いてしまいました。それは、彼を想像する時、経済と恋愛を考えなかったのが原因だと思います。そのため私も後でいろいろ苦労しましたよ」と評している[7]

本名で解決する事件のほか、「墨野隴人[注 3]と名乗り5つの事件を解決する[注 4]

刺青殺人事件』の初刊本では「かうづ」とルビが振られており、当初は「神津」の読み方は諸説あって統一されていなかった。『人形はなぜ殺される』のなかで、松下研三から神津に宛てた電報に「カミヅ」(初刊本では「カミズ」)と記されたことで、ようやく読みが確定した[8]

登場作品 編集

長編 編集

など

短編 編集

など

演じた俳優 編集

明智小五郎金田一耕助に比べて回数は少ないが、数回映像化されている。

映画 編集

テレビドラマ 編集

舞台 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 作者の高木彬光と同年同月日生まれで、近松茂道検事と同年生まれでもある。
  2. ^ 角田喜久雄の『高木家の惨劇』などに登場する探偵役で、警視庁捜査第一課長。
  3. ^ バロネス・オルツィの作品に登場する「隅の老人」のもじり。
  4. ^ 『仮面よ、さらば』でその正体が明らかにされる。
  5. ^ 大前田英策と共に登場している
  6. ^ 墨野隴人が神津恭介であることが明かされる。
  7. ^ 刺青(しせい)殺人事件』を原作として、1953年に新東宝で映画化された『刺青(いれずみ)殺人事件』には、松下研三は登場するが神津は登場しない[9]

出典 編集

  1. ^ 成吉思汗の秘密』「7 マルコポーロの記録」より
  2. ^ 『輓歌』より
  3. ^ 魔弾の射手』より
  4. ^ 『成吉思汗の秘密』より
  5. ^ 新保博久『名探偵登場――日本篇』筑摩書房ちくま新書〉、1995年8月20日、33, 36頁。ISBN 4-480-05643-2 
  6. ^ 新保博久『名探偵登場――日本篇』筑摩書房ちくま新書〉、1995年8月20日、33頁。ISBN 4-480-05643-2 
  7. ^ 『邪教の神』解説より(角川文庫、1978年)
  8. ^ 光文社文庫『人形はなぜ殺される 新装版』ISBN 4-334-74050-2 山前譲による「解題」より。
  9. ^ 刺青殺人事件”. Movie Walker. 2020年5月15日閲覧。

関連項目 編集