空っぽの少年」(からっぽのしょうねん、原題: The Empty Child)は、イギリスのSFテレビドラマ『ドクター・フー』のシリーズ1第9話。2005年5月21日にBBC Oneで放送された。後のラッセル・T・デイヴィスの降板を追って番組総責任者と主要脚本家になるスティーヴン・モファットが初めて執筆したエピソードであり、監督はジェームズ・ヘイヴスが担当した。5月28日に放送された「ドクターは踊る」とともに二部作をなす。

空っぽの少年
The Empty Child
ドクター・フー』のエピソード
ガスマスクを着けた少年
話数シーズン1
第9話
監督ジェームズ・ヘイヴス
脚本スティーヴン・モファット
制作フィル・コリンソン
音楽マレイ・ゴールド
作品番号1.9
初放送日イギリスの旗 2005年5月21日
日本の旗 2006年10月31日
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ドクターは踊る
ドクター・フーのエピソード一覧

本エピソードでは異星人のタイムトラベラー9代目ドクターと彼のコンパニオンローズ・タイラーロンドン大空襲の最中の1941年に到着する。彼らは都市が母を求めて彷徨うガスマスクの奇妙な少年に脅かされていることを知る。

本エピソードではジョン・バロウマンキャプテン・ジャック・ハークネスとして初登場し、彼は後に『ドクター・フー』に再登場するほか、スピンオフシリーズ『秘密情報部トーチウッド』の主人公となった。「空っぽの少年」はイギリスで711万人の視聴者を記録した。多くの批評家がこの二部作を番組で最高だと特記し、2006年ヒューゴー賞映像部門短編部門を受賞した。

製作 編集

脚本 編集

本エピソードでは頻繁にローズがスタートレックの登場人物スポックに言及しており、ローズへのドクターの返答として「ドクター誰?」の方が良いという場面は元々「スタートレックよりドクター・フーが好きだ」というメタフィクションの要素であったとDVDコメンタリーで脚本家スティーヴン・モファットが語っている[1]。チューラの船はインドバングラデシュの多国籍料理店チューラにちなんで名づけられており、この店でラッセル・T・デイヴィスから委任を受けてモファットたちが脚本の議論などを行っていた[2]。この会議はビデオ録画されており、完全版シリーズ1のDVDで閲覧可能である。

スティーヴン・モファットはソニック・スクリュードライバーの技術を武器に適用した、ジャックのソニック・ブラスターを登場させた。モファットはこれについて以下のように述べている[3]

「ドクターとジャックの仕掛けや装置は全部セックスに関連している。なぜなら、すべてローズをめぐる2人の張り合いなのだから。」 — 『ドクター・フー Series I DVD-BOX』付属ブックレットより引用

撮影 編集

撮影はバリー島鉄道英語版で行われた[4]バリー島英語版と現在は取り壊されたリゾート Butlins のホリデイキャンプはかつて7代目ドクターのシリーズである Delta and the Bannermen のロケ地に使用されていた[5]。ドクター・コンスタンチンの顔がガスマスクに変形する際の頭骨が割れる音は、あまりに怖すぎるとして制作チームが放送前にカットした[6]。しかし、本エピソードのDVDコメンタリーで脚本家スティーヴン・モファットは、効果音は議論の末に使用されることはなかったと主張した[1]。『Doctor Who Confidential』のエピソード "Fear Factor" によると、完全版シリーズ1ボックスセットに収録されたバージョンに効果音が追加されている[7]

放送と反応 編集

これまでのエピソードと違い次回予告はエンドクレジットの直前ではなく直後に流されており、これはおそらく「UFO ロンドンに墜落」のクリフハンガーが直後の次回予告によりネタバレされたことを受けてのものである。このトレンドは新シリーズの大半の二部作に引き継がれた。キャプテン・ジャックがナノジーンを説明するシーンは本放送でもカナダ放送協会によるカナダでの放送でも音が聞こえなかった。UKTV Gold やアメリカのSyfyでの放送でも、字幕に説明を残してはいるものの削除されており、ローズが "Well, tell them thanks!"[注 1]と発言した理由が伝わらなくなっている。この変更の理由は不明である。

「空っぽの少年」は当夜に視聴者数660万人、番組視聴占拠率34.9%を記録し[8]、最終的な視聴者数は711万人に達した[9]。日本では2006年10月31日にNHK衛星第2テレビジョンで初放送され[10]、地上波ではNHK教育テレビジョンにより2007年10月16日に放送された[11]2011年3月20日には LaLa TV で放送された[12]

批評家の反応 編集

SFX』誌は本二部作に全てが詰まっていると主張し、特にモファットの脚本を称賛した[13]。2012年に『SFX』誌のデイヴ・ゴールダーは、「空っぽの少年」を身の毛のよだつような子どものSFエピソードの良い例であるとした[14]。『デジタル・スパイ』誌のデック・ホーガンはキャプテン・ジャック役のバロウマンを好まなかったが、シリーズで特に恐ろしいエピソードであると言い、ドクター・コンスタンチンを演じたリチャード・ウィルソンの巧妙で気味の悪いカメオ出演を高評価した[15]。後に彼は「空っぽの少年」と「ドクターは踊る」をシリーズで最高のエピソードと呼んだ[16]。『Now Playing』誌の批評家アーノルド・T・ブランバーグは本エピソードにBの評価をつけ、オリジナルシリーズの要素を持ってしっかりとしていると表現した一方、視聴者を脅かす描写が多すぎることとバロウマンのジャックに感銘を受けなかったとも綴った[17]

2009年に『Doctor Who Magazine』誌が行った『ドクター・フー』のエピソードの投票では第5位を獲得した[18]。2014年に行われた同様の人気投票では第7位であった[19]。2008年に『デイリー・テレグラフ』誌は番組で4番目に優れたエピソードと認定した[20]。2011年にシリーズ6の後半が放送される以前に、『ハフポスト』は「空っぽの少年」と「ドクターは踊る」を新規視聴者が見なくてはならないエピソード5選のうち1つに選出した[21]

「空っぽの少年」は「ドクターは踊る」とともに2006年ヒューゴー賞映像部門短編部門を受賞した[22]

注釈 編集

  1. ^ 日本語版では「お礼言っといて」

出典 編集

  1. ^ a b スティーヴン・モファット (2005). Commentary for Doctor Who episode "The Empty Child" (DVD (Region 2)). United Kingdom: BBC.
  2. ^ Chula”. London Restaurants. 2006年4月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月28日閲覧。
  3. ^ 『ドクター・フー Series I DVD-BOX』付属ブックレット
  4. ^ Walesarts, Barry Island Railway”. BBC. 2010年5月30日閲覧。
  5. ^ "Weird Science". Doctor Who Confidential. 第1シリーズ. Episode 10. 28 May 2005. BBC. BBC Three
  6. ^ 'Horrible' Doctor Who toned down”. BBC (2005年5月18日). 2013年8月25日閲覧。
  7. ^ "Fear Factor". Doctor Who Confidential. 第2シリーズ. Episode 2. 22 April 2006. BBC. BBC Three
  8. ^ This Week's TV News Coverage”. Outpost Gallifrey (2005年5月28日). 2005年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年12月7日閲覧。
  9. ^ Russell, Gary (2006). Doctor Who: The Inside Story. London: BBC Books. p. 139. ASIN 056348649X. ISBN 978-0-563-48649-7. OCLC 70671806 
  10. ^ 放送予定”. NHK. 2006年11月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月27日閲覧。
  11. ^ 放送予定”. NHK. 2007年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月27日閲覧。
  12. ^ LaLa TV 3月「魔術師 マーリン 2」「ドクター・フー 1&2」他”. TVグルーヴ (2011年1月21日). 2020年2月21日閲覧。
  13. ^ Doctor Who: The Empty Child/The Doctor Dances”. SFX (2005年5月28日). 2006年5月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年4月28日閲覧。
  14. ^ Golder, Dave (2012年12月12日). “10 More Episodes That Every Sci-Fi Show Must Have”. SFX. 2012年12月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月15日閲覧。
  15. ^ Hogan, Dek (2005年5月22日). “No love for the Island”. デジタル・スパイ. 2012年4月28日閲覧。
  16. ^ Hogan, Dek (2005年6月19日). “The Global Jukebox”. デジタル・スパイ. 2012年4月28日閲覧。
  17. ^ Blumburg, Arnold T (2005年5月25日). “Doctor Who — The Empty Child”. Now Playing. 2005年5月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月21日閲覧。
  18. ^ Haines, Lester (2009年9月17日). “Doctor Who fans name best episode ever”. The Register. 2011年8月9日閲覧。
  19. ^ “The Top 10 Doctor Who stories of all time”. Doctor Who Magazine. (2014年6月21日). http://www.doctorwhomagazine.com/the-top-10-doctor-who-stories-of-all-time/ 2014年8月21日閲覧。 
  20. ^ The 10 greatest episodes of Doctor Who ever”. デイリー・テレグラフ (2008年7月2日). 2012年2月11日閲覧。
  21. ^ Lawson, Catherine (2011年8月9日). “Catch Up With 'Doctor Who': 5 Essential Episodes”. The Huffington Post. 2015年9月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年11月28日閲覧。
  22. ^ Hugo and Campbell Awards Winners”. Locus Online (2006年8月26日). 2006年8月27日閲覧。