竜馬暗殺』(りょうまあんさつ)は、坂本龍馬が暗殺されるまでの3日間を描いた時代劇映画。ATG映画同人社提携作品。主演は原田芳雄、監督は黒木和雄。映像は16ミリモノクロ幕末をニュース映画のように撮るという狙いからあえて16ミリで撮影してエンラージュ(拡大)し画調をザラつかせるという手法が採られた[1]

竜馬暗殺
監督 黒木和雄
脚本 清水邦夫
田辺泰志
製作 宮川孝至
出演者 原田芳雄
石橋蓮司
桃井かおり
松田優作
中川梨絵
音楽 松村禎三
撮影 田村正毅
編集 浅井宏
配給 ATG
公開 日本の旗 1974年8月3日
上映時間 118分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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概要 編集

黒木和雄にとっては1970年の『日本の悪霊』以来、4年ぶりの新作で、初の時代劇となる。主題が坂本龍馬(本作では坂本竜馬)となったのはちょうどNHK大河ドラマ勝海舟』で幕末ブームが起きており、ATGがそれに乗ったためという(『勝海舟』の放送開始は1月6日。『竜馬暗殺』がATGの企画会議を通ったのは2月10日[2])。ただし、黒木和雄の真意は現代劇をやるということにあったとされる[3]。事実、作中では刀をゲバ棒のように振りかざした乱闘シーンにつづいて「侍たちの内ゲバ日常茶飯事ナリ」と表示されるなど、当時の学生運動に重ね合わせた描写もある。こうした描写も含め、全編に漲る破天荒なエネルギーが本作の特徴と言え、企画段階では「幕末の殺気、殺意」を作品に込めることも話し合われた[2]。また脚本の田辺泰志はこの映画製作に「竜馬と同時代の、パリコンミューンを経験し、世界を変えようと発した詩人のA・ランボオを携えて、加わった」と回顧しており、本編に迸る熱い息吹を今に伝えている。なお、田辺は「幕府を倒したあと、薩長をたゝく」という竜馬の台詞を引いた上で「この映画は今こそ正当に評価されるべし」と述べている[4]

製作背景 編集

本編の製作は新宿ゴールデン街のバー「まえだ」の飲み仲間だった夏文彦(本名・富田幹雄)が黒木和雄に「あんたの映画をプロデュースしたい」と持ちかけたことに端を発する。その後、企画がATGを通った時点で黒田征太郎の応援を仰ぐこととなり、夏文彦と黒田征太郎の企画製作で製作されることになった[5]。製作費を調達したのも夏と黒田で、京都のロケ途中で軍資金(製作費)が底を突き、急遽、新幹線で上京して「まえだ」のママ・前田孝子をはじめゴールデン街のなみじの店3軒で計150万円を調達してなんとか撮影続行に漕ぎ着けたというエピソードも伝えられている[6]。こうしたことから本編は、当時、「ゴールデン街が作った映画」とも呼ばれたという。なお、夏文彦は本編のために作った借金を5年かけて返済したことを主演の原田芳雄が明かしている[7]

ストーリー 編集

時は慶応3年(1867年)11月13日。坂本竜馬は雨の中、密偵、刺客から身を隠すために近江屋の土蔵に身を隠す。土蔵から外を見てみると、隣家の娘、幡を見て、急接近する。しかし竜馬は、幡の許に通っている男が、新撰組隊士・富田三郎であることは全く知らなかった。

14日。その中、久しぶりに弟の右太が幡の家に現れる。竜馬は、ええじゃないかに紛れ、刺客の目をごまかすために化粧をし、友人であり自分の命を狙う中岡慎太郎に会うために出かける。右太も竜馬の後を追う。しかし右太は、鐘や太鼓を鳴らす町民のお祭り騒ぎの中で、竜馬につかまる。そのまま2人は近江屋の妙のもとへ行く。慎太郎は竜馬を殺すつもりはない。その慎太郎は近江屋の奥で陸援隊に監禁されていた。ええじゃないかに紛れ、川岸まで逃げる3人。そこで慎太郎が小声で竜馬に、右太を薩摩藩邸で見たことがあると言う。右太の正体は、竜馬を狙う薩摩藩士・中村半次郎配下の一人だった。慎太郎は、こっそりと右太を襲おうとするが失敗、竜馬に止められる。一方、幡は痴話喧嘩から富田を殺害。

15日。竜馬と慎太郎は、妙のことでもめ、竜馬が調達したはずのライフル5千丁の代わりに写真機がとどく。その写真撮影も失敗し、竜馬はライフルの調達、海援隊の再組織のために長崎に行く、薩長を叩く、奇襲すると言う。逆に慎太郎は薩長につくと言う。最後の杯をくみかわす二人は、逃げ出す機会を待つ。右太は幡に一緒に逃げようという。しかし右太はためらう。その右太は何者かに殺され、竜馬と慎太郎も、外で町民がええじゃないかと騒いでいる頃、暗殺される。幡は竜馬と慎太郎を殺した人間を目撃し、竜馬たちの居場所を教え、ええじゃないかの騒ぎに紛れ込むのだった。

出演者 編集

主なキャスト 編集

坂本竜馬 - 原田芳雄
質屋のせがれ。常に刺客に狙われている。近視でのぞきが得意。
中岡慎太郎 - 石橋蓮司
竜馬の親友で庄屋のせがれ。革命を起こそうとしている竜馬を殺そうとするが、監禁されているところを竜馬にたすけられる。竜馬に2日遅れの男と言われている。
妙 - 桃井かおり
近江屋の娘。かつての竜馬の恋人で、現在は慎太郎の恋人。
右太 - 松田優作
幡の弟で、竜馬らとも親しくなるが、実は薩摩藩士、中村半次郎の配下の一人で、竜馬の暗殺を企んでいた。
幡 - 中川梨絵
竜馬と出会い、関係を持つが、その前に富田三郎と関係を持っていた。しかし痴話喧嘩から、富田を二階から突き落として殺し、竜馬、慎太郎、右太を殺した男を目撃しておきながら、ええじゃないかの騒ぎに紛れ、姿を消す。
当初、幡の役は、別の女優(山川れいか)が演じることになっていたが、病気のために降板、代わって中川梨絵が演じた。

その他キャスト 編集

スタッフ 編集

脚注 編集

  1. ^ 黒木和雄「雨降りだからATGでも思い出してみよう」『キネマ旬報』第708号、1977年5月。 
  2. ^ a b 夏文彦『映画・挑発と遊撃』白川書院、1978年、『竜馬暗殺』製作日誌。 
  3. ^ 田山力哉『日本の映画作家たち 創作の秘密』ダヴィッド社、1975年、黒木和雄 酒と借金とゴダールと。 
  4. ^ 田辺泰志「永遠のアンチヒーロー」『映画芸術』第61巻第4号、2011年10月、32-33頁。 
  5. ^ 黒木和雄「夏文彦追悼 薔薇のトミイここに遊ぶ」『映画芸術』第42巻第1号、1993年4月、180-181頁。 
  6. ^ 外波山文明 (2021年7月4日). “【新宿ゴールデン街交友録 裏50年史】この街が作った映画「竜馬暗殺」中村半次郎役で松田優作を斬った!”. 東スポWeb. 2021年12月11日閲覧。
  7. ^ 原田芳雄、井家上隆幸、荒井晴彦「対談・夏文彦追悼 映画のタイトルが、遺言だった」『映画芸術』第42巻第1号、1993年4月、172-177頁。 

外部リンク 編集