第V因子(だい5いんし、: factor V)は、凝固系を構成するタンパク質で、稀にプロアクセレリン(proaccelerin)または 不安定凝固因子(labile factor)と呼ばれることもある。他の凝固因子とは対照的に、第V因子は酵素活性を持たず、コファクター(補因子)として機能する。第V因子の欠乏は出血の素因となり、一部の変異(最も有名なものは第V因子ライデン変異英語版(factor V Leiden))は血栓症の素因となる。

F5
Protein F5 PDB 1czs.png
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
識別子
記号F5, FVL, PCCF, RPRGL1, THPH2, coagulation factor V
外部IDOMIM: 612309 MGI: 88382 HomoloGene: 104 GeneCards: F5
遺伝子の位置 (ヒト)
1番染色体 (ヒト)
染色体1番染色体 (ヒト)[1]
1番染色体 (ヒト)
F5遺伝子の位置
F5遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点169,511,951 bp[1]
終点169,586,588 bp[1]
RNA発現パターン
PBB GE F5 204713 s at fs.png

PBB GE F5 204714 s at fs.png
さらなる参照発現データ
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000130

NM_007976

RefSeq
(タンパク質)

NP_000121

NP_032002

場所
(UCSC)
Chr 1: 169.51 – 169.59 MbChr 1: 164.15 – 164.22 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

遺伝子編集

第V因子の遺伝子は1番染色体(1q23)に位置している。マルチ銅オキシダーゼ英語版ファミリーと関係しており、凝固第VIII因子相同である。遺伝子の長さは70キロ塩基対にわたり、25のエクソンから構成され、生成されるタンパク質の大きさは約330kDaである。

構造編集

第V因子タンパク質は、A1-A2-B-A3-C1-C2という6つのドメインから構成される。

Aドメインは結合タンパク質セルロプラスミンのAドメインに相同で、同様に三角形を形成する。銅イオンはA1-A3ドメインの相互作用面に結合し、A3ドメインは細胞膜と結合する[5]

Cドメインはリン脂質を結合するディスコイジンドメイン英語版ファミリーに属し、C2ドメインは膜結合を媒介する。BドメインのC末端は、プロテインS英語版による抗凝固因子プロテインCの活性化の際にコファクターとして機能する[6][7]

第V因子から第Va因子への活性化はBドメインの切断と解離によって行われ、活性化後はプロテインCの活性化の補助を行うことはできない。タンパク質はA1-A2ドメインからなる重鎖とA3-C1-C2ドメインからなる軽鎖に分割される。両者はカルシウム依存的に非共有結合性の複合体を形成する。この複合体が凝固促進因子Vaである[6]

生理学編集

第V因子の合成は主に肝臓で行われる。一本鎖の分子として血漿中を循環し、血漿中での半減期は12–36時間である[8]

第V因子は活性化された血小板に結合することができ、トロンビンにによって活性化される。活性化に際し、第V因子は2本の鎖(分子量約110000の重鎖と約73000の軽鎖)へと分割され、それらは互いにカルシウムによって非共有結合的に結合している。活性化された第V因子(第Va因子と呼ばれる)は、プロトロンビナーゼ複合体のコファクターとして機能する。活性化された第X因子(第Xa因子)は、細胞膜表面でプロトロンビンをトロンビンへ変換する際にカルシウムと第Va因子を必要とする。

第Va因子は、血液凝固の主要な生理学的阻害剤である活性化プロテインCによって分解される。トロンボモジュリン英語版の存在下では、トロンビンはプロテインCを活性化して凝固を低下させる機能を持つ。そのため、プロテインCの濃度と作用はトロンビンが自身の活性化を制限するネガティブフィードバックループの重要な決定因子である[9]

疾患における役割編集

第V因子の関与するさまざまな遺伝疾患が知られている。第V因子の欠乏は稀な軽度の血友病(パラ血友病(parahemophilia)またはOwren parahemophiliaと命名されている)と関係しており、その発生率は約100万人に1人である。常染色体劣性型で遺伝する。

第V因子の他の変異静脈血栓塞栓症と関係している。この疾患は血栓症(血栓を形成しやすい傾向)の遺伝要因として最も一般的である。変異のうち最も一般的なのは第V因子ライデン変異で、506番のアルギニン残基がグルタミンに置換されている(R506Q)。血栓形成促進性の第V因子の変異(Leiden、Cambridge、Hong Kong)はすべて、活性化プロテインCによる切断に対する抵抗性(APC抵抗性)を生じさせる。そのため活性化状態が維持され、トロンビンの産生が増加する。

歴史編集

第V因子が発見されるまで、血液凝固は4つの因子によって行われると考えられていた。カルシウム(IV)とトロンボキナーゼ(III)が共にプロトロンビン(II)に作用してフィブリノゲン(I)を産生する、というものである。このモデルは1905年にPaul Morawitzによってその概要が示された[10]

他の因子が存在するかもしれないという示唆は、ノルウェーの医師Paul Owren(1905–1990)によってMaryと呼ばれる女性(1914–2002)の出血傾向の調査を通じてなされた。彼女は生涯のほとんどの期間鼻血と月経過多(月経時の過剰出血)に苦しんできたが、プロトロンビン時間の延長がみられ、ビタミンK欠乏症またはプロトロンビンの欠乏をもたらす慢性肝臓疾患のいずれかであることが示唆された。しかし彼女はそのどちらにも該当しておらず、Owrenはプロトロンビンを除去した血漿を用いて異常を正すことでこのことを実証した。Maryの血清を指標として、彼は「失われた」因子(IからIVまではMorawitzのモデルで使用されていたため、彼はVとラベルした)が血液を凝固させる性質を有することを発見した。調査の大部分は第二次世界大戦中に行われ、Owrenは結果を1944年にノルウェーで発表したが、終戦まで国際的に発表することはできなかった。そして1947年になってようやくランセット誌に発表された[10][11]

この新たな凝固因子の可能性に対しては、血液凝固の世界的権威であるArmand QuickとWalter Seegersによって方法論的見地からの抵抗がなされた。しかし他のグループから結果を追認する研究がなされ、数年後には最終的に認められることとなった[10]

当初Owrenは第V因子は他の因子を活性化すると考えており、それを第VI因子と名付けた。第VI因子は、プロトロンビンからトロンビンへの変換を加速する因子であった。後に第V因子がトロンビン自身によって「変換される」(活性化される)ことが発見され、さらに後になって第VI因子は単に第V因子の活性化型であることが判明した。

第V因子の完全なアミノ酸配列は1987年に発表された[12]。1994年には、プロテインCによる不活性化に対する抵抗性を有する第V因子ライデン変異が記載された。この異常は血栓症の最も一般的な遺伝的要因である[13]

相互作用編集

第V因子はプロテインSと相互作用することが示されている[14][15]

出典編集

  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000198734 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000026579 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ “Structural investigation of the A domains of human blood coagulation factor V by molecular modeling”. Protein Science 7 (6): 1317–25. (June 1998). doi:10.1002/pro.5560070607. PMC: 2144041. PMID 9655335. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2144041/. 
  6. ^ a b “The C-terminal region of the factor V B-domain is crucial for the anticoagulant activity of factor V”. The Journal of Biological Chemistry 273 (26): 16140–45. (June 1998). doi:10.1074/jbc.273.26.16140. PMID 9632668. 
  7. ^ “Crystal structures of the membrane-binding C2 domain of human coagulation factor V”. Nature 402 (6760): 434–39. (November 1999). doi:10.1038/46594. PMID 10586886. 
  8. ^ “Factor V deficiency: a concise review”. Haemophilia 14 (6): 1164–69. (November 2008). doi:10.1111/j.1365-2516.2008.01785.x. PMID 19141156. 
  9. ^ Albagoush, Sara A.; Schmidt, Amy E. (2019). StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing. PMID 30521223. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK534802/ 
  10. ^ a b c “The discovery of factor V: a tricky clotting factor”. Journal of Thrombosis and Haemostasis 1 (2): 206–13. (February 2003). doi:10.1046/j.1538-7836.2003.00043.x. PMID 12871488. 
  11. ^ “Parahaemophilia; haemorrhagic diathesis due to absence of a previously unknown clotting factor”. Lancet 1 (6449): 446–48. (April 1947). doi:10.1016/S0140-6736(47)91941-7. PMID 20293060. 
  12. ^ “Complete cDNA and derived amino acid sequence of human factor V”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 84 (14): 4846–50. (July 1987). doi:10.1073/pnas.84.14.4846. PMC: 305202. PMID 3110773. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC305202/. 
  13. ^ “Mutation in blood coagulation factor V associated with resistance to activated protein C”. Nature 369 (6475): 64–67. (May 1994). doi:10.1038/369064a0. PMID 8164741. 
  14. ^ “C-terminal residues 621–635 of protein S are essential for binding to factor Va”. The Journal of Biological Chemistry 274 (51): 36187–92. (December 1999). doi:10.1074/jbc.274.51.36187. PMID 10593904. 
  15. ^ “Binding of protein S to factor Va associated with inhibition of prothrombinase that is independent of activated protein C”. The Journal of Biological Chemistry 268 (4): 2872–77. (February 1993). PMID 8428962. 

関連文献編集

外部リンク編集