メインメニューを開く

第VIII因子 (だいはちいんし、Factor VIII、FVIII) は、必須の血液凝固タンパク質で、抗血友病因子 (anti-hemophilic factor, AHF) としても知られる。ヒトでは、F8遺伝子にコードされる[5][6]。この遺伝子の欠陥は、X連鎖劣性遺伝血液凝固障害である血友病Aを引き起こす[7]。第VIII因子は肝臓類洞内皮細胞と肝臓以外の体中の内皮細胞で産生される。血管を損傷する傷害が起こるまで、このタンパク質はvon Willebrand因子と呼ばれる別の分子と結合した不活性状態で血流を循環する[8]。傷害に反応して第VIII因子は活性化され、von Willebrand因子から分離される。活性型タンパク質 (第VIIIa因子と書かれる) は、第IX因子英語版と呼ばれる別の凝固因子と相互作用する。この相互作用が、血栓を形成する別の化学反応の連鎖を開始させる[8]

F8
Fviii 2R7E.png
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
識別子
記号F8, AHF, DXS1253E, F8B, F8C, FVIII, HEMA, coagulation factor VIII
外部IDOMIM: 300841 MGI: 88383 HomoloGene: 49153 GeneCards: F8
遺伝子の位置 (ヒト)
X染色体
染色体X染色体[1]
X染色体
F8遺伝子の位置
F8遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点154,835,788 bp[1]
終点155,026,940 bp[1]
RNA発現パターン
PBB GE F8 205756 s at fs.png
さらなる参照発現データ
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000132
NM_019863

NM_001161373
NM_001161374
NM_007977

RefSeq
(タンパク質)

NP_000123
NP_063916

NP_001154845
NP_001154846
NP_032003

場所
(UCSC)
Chr X: 154.84 – 155.03 MbChr X: 75.17 – 75.38 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

第VIII因子は血液凝固に関与する。第VIII因子は第IXa因子の補因子であり、カルシウムイオンリン脂質の存在下で複合体を形成し、この複合体は第X因子を活性型であるXa因子へ変換する。第VIII因子の遺伝子は、選択的スプライシングによって2種類の転写産物を産生する。転写バリアント1は巨大な糖タンパク質であるアイソフォームaをコードし、von Willebrand因子と非共有結合複合体を形成して血漿中を循環する。このタンパク質は複数回の切断が行われる。転写バリアント2は小さなタンパク質であるアイソフォームbをコードしていると推定され、第VIIIc因子のリン脂質結合ドメインを構成する。この結合ドメインは血液凝固活性に必須である[9]

第VIII因子のレベルが高い人は、深部静脈血栓症肺血栓塞栓症のリスクが高い[10]。第VIII因子の補因子としてが必要であり、銅の欠乏は第VIII因子の活性を増加させることが知られている[11]

第VIII因子製剤は、基本的な医療制度で必要とされる最も重要な薬のリストである、WHO必須医薬品モデル・リストに挙げられている[12]

目次

遺伝学編集

 
ヒトでは、F8遺伝子はX染色体のq28に位置している。

第VIII因子は、1984年にジェネンテックの科学者によって特徴づけられた[13]。第VIII因子の遺伝子はX染色体 (Xq28) に位置している。第VIII因子の遺伝子は、イントロンの1つに別の遺伝子が埋め込まれているという、興味深い一次構造を持つ[14]

構造編集

第VIII因子は、A1-A2-B-A3-C1-C2という6つのドメインから構成され、第V因子英語版相同である。

Aドメインは、銅結合タンパク質セルロプラスミンのAドメインと相同である[15]。Cドメインはリン脂質結合性ディスコイジンドメイン英語版ファミリーに属し、C2ドメインは膜への結合を担う[16]

第VIII因子からVIIIa因子への活性化は、Bドメインの切断と放出によって行われる。その結果、タンパク質はA1-A2ドメインからなる重鎖とA3-C1-C2ドメインからなる軽鎖に分割され、双方はカルシウム依存的に非共有結合性複合体を形成する。この複合体が凝固促進因子VIIIaである[17]

生理学編集

第VIII因子は糖タンパク質であり、補因子前駆体である。ヒトにおける血流への放出の主要部位ははっきりしないが、血管糸球体尿細管の内皮細胞、肝臓の類洞細胞で合成され血流へ放出される[18]。血友病Aは肝移植によって回復する[19]肝細胞の移植は効果がないが、肝臓の内皮細胞の移植は効果がある[19]

第VIII因子は、血中で主にvon Willebrand因子と安定な非共有結合性複合体を形成して循環する。トロンビン (第IIa因子) による活性化に伴い、複合体から解離し第IXa因子と相互作用する。第VIIIa因子は第IXa因子の補因子として第X因子の活性化に関与し、第Xa因子は第Va因子の補因子としてより多くのトロンビンを活性化する。トロンビンはフィブリノゲンフィブリンへ切断し、フィブリンは多量体化し第XIII因子英語版によって架橋されて血栓となる。

活性化されたVIII因子はvon Willebrand因子によって保護されていないので、主に活性化されたプロテインC英語版と第IXa因子によるタンパク質分解によって不活性化され、血流からすばやく除去される。

第VIII因子は肝臓病の影響を受けない。事実、このような状況下では第VII因子のレベルは多くの場合上昇している[20][21]

医療における利用編集

献血由来の血漿から濃縮された第VIII因子か、もしくは遺伝子組換え活性型第VII因子製剤英語版が血友病患者の恒常性を回復するために投与される。

第VIII因子に対する抗体の形成が、出血への治療を受けている患者に対する主要な懸念事項となっている。このような阻害剤の発生は第VIII因子製剤自体を含むさまざまな因子に依存する[22]

汚染スキャンダル編集

1980年代、バクスターバイエルといった一部の製薬企業が、新たな加熱製剤が利用可能になった後も、汚染された第VIII因子製剤の販売を継続したことに対して論争が起こった[23]アメリカ食品医薬品局 (FDA) の圧力のもと、非加熱製剤はアメリカの市場から引き揚げられたが、アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッパの一部の国で販売された。その製品は、バイエルとFDAとの議論で懸念されていた、ヒト免疫不全ウイルスによって汚染されていた[23]

1990年代初頭に製薬企業は遺伝子組換えによって合成された製品の生産を開始し、現在では補充療法による病気の感染はほぼすべての形態で防止されている。

出典編集

  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000185010 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000031196 - Ensembl, May 2017
  3. ^ "Human PubMed Reference:".
  4. ^ "Mouse PubMed Reference:".
  5. ^ “Molecular cloning of a cDNA encoding human antihaemophilic factor”. Nature 312 (5992): 342–7. (1984). doi:10.1038/312342a0. PMID 6438528. 
  6. ^ “Characterization of the polypeptide composition of human factor VIII:C and the nucleotide sequence and expression of the human kidney cDNA”. Dna 4 (5): 333–49. (October 1985). doi:10.1089/dna.1985.4.333. PMID 3935400. 
  7. ^ “Molecular genetics of coagulation factor VIII gene and hemophilia A”. Thrombosis and Haemostasis 74 (1): 322–8. (July 1995). PMID 8578479. 
  8. ^ a b Reference, Genetics Home. “F8 gene” (英語). Genetics Home Reference. 2019年3月10日閲覧。
  9. ^ F8 coagulation factor VIII [Homo sapiens (human) - Gene - NCBI]”. www.ncbi.nlm.nih.gov. 2019年3月10日閲覧。
  10. ^ “Elevated factor VIII levels and risk of venous thrombosis”. British Journal of Haematology 157 (6): 653–63. (June 2012). doi:10.1111/j.1365-2141.2012.09134.x. PMID 22530883. 
  11. ^ “Effects of a diet low in copper on copper-status indicators in postmenopausal women”. The American Journal of Clinical Nutrition 63 (3): 358–64. (March 1996). PMID 8602593. 
  12. ^ 19th WHO Model List of Essential Medicines (April 2015)”. WHO (2015年4月). 2015年5月10日閲覧。
  13. ^ “Characterization of the human factor VIII gene”. Nature 312 (5992): 326–30. (November 1984). PMID 6438525. 
  14. ^ “A transcribed gene in an intron of the human factor VIII gene”. Genomics 7 (1): 1–11. (May 1990). doi:10.1016/0888-7543(90)90512-S. PMID 2110545. 
  15. ^ “Structural investigation of the A domains of human blood coagulation factor V by molecular modeling”. Protein Science 7 (6): 1317–25. (June 1998). doi:10.1002/pro.5560070607. PMC 2144041. PMID 9655335. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2144041/. 
  16. ^ “Crystal structures of the membrane-binding C2 domain of human coagulation factor V”. Nature 402 (6760): 434–9. (November 1999). doi:10.1038/46594. PMID 10586886. 
  17. ^ “The C-terminal region of the factor V B-domain is crucial for the anticoagulant activity of factor V”. The Journal of Biological Chemistry 273 (26): 16140–5. (June 1998). doi:10.1074/jbc.273.26.16140. PMID 9632668. 
  18. ^ Kumar; Abbas; Fausto (2005). Robbins and Cotran Pathologic Basis of Disease. Pennsylvania: Elsevier. p. 655. ISBN 1-889325-04-X. 
  19. ^ a b Kaushansky K, Lichtman M, Beutler E, Kipps T, Prchal J, Seligsohn U. (2010; edition 8) Williams Hematology. McGraw-Hill. 978-0-07-162151-9
  20. ^ “Factor VIII expression in liver disease”. Thrombosis and Haemostasis 91 (2): 267–75. (February 2004). doi:10.1160/th03-05-0310. PMID 14961153. 
  21. ^ R. Rubin; L. Leopold (1998). Hematologic Pathophysiology. Madison, Conn: Fence Creek Publishing. ISBN 1-889325-04-X. 
  22. ^ Lozier J (2004年). “Overview of Factor VIII Inhibitors”. CMEonHemophilia.com. 2008年12月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年1月7日閲覧。
  23. ^ a b 2 Paths of Bayer Drug in 80's: Riskier One Steered Overseas”. The New York Times (2003年5月22日). 2009年1月7日閲覧。

参考文献編集

外部リンク編集