紅楼夢(こうろうむ、繁体字: 紅樓夢; 簡体字: 红楼梦; ピン音: Hóng Lóu Mèng; ウェード式: Hung2 Lou2 Meng4)は、清朝中期乾隆帝の時代(18世紀中頃)に書かれた中国長篇章回式白話小説。原本の前80回はなお残っており、完本は114回に達しなかったと推定される。今流通している前80回が曹雪芹(そう・せつきん)の原文、後40回は高鶚(こう・がく)の続作といわれている。『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』と並べて『中国四大名著』と位置づけられる、『紅楼夢』はその首であり、現代中国でも紅楼夢賞・世界華文長編小説賞という文学賞が存在する。

紅楼夢
Hóng Lóu Mèng
徐宝篆の挿絵
徐宝篆の挿絵
著者 曹雪芹
発行日 18世紀中頃
ジャンル 小説
中華人民共和国の旗 中国
言語 中国語
形態 文章芸術、posthumous work
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石頭記(せきとうき・いしき)・金玉縁・情僧録・金陵十二釵・風月宝鑑ともいう。中国の源氏物語ともいわれている[1]


概要編集

上流階級の賈氏一族の貴公子である賈宝玉(か・ほうぎょく)を主人公とし、繊細でプライドの高い美少女の林黛玉(りん・たいぎょく)、良妻賢母型の薛宝釵(せつ・ほうさ)の三角関係を軸に展開する(とは言っても、どろどろした三角関係が小説の中心ではない)。小説は上流階級の生活の細部を描き、主人公たちの交情を克明に記しながら進行する。清代末期から紅楼夢を専門に研究する学問を紅学といい、この言葉は現代でも使用される。毛沢東も愛読し、1950年代の中国で紅楼夢論争も戦わされた。現代中国でも非常に有名な小説であり、映画や演劇、テレビドラマ化されることが多い。

この小説の特徴はストーリー中心のロマンではなく、大貴族の深窓の令息令嬢の心理のひだが繊細に描きこまれていることにある。士大夫経世済民という表向きの世界ではなく、弱くて感じやすい「児女の情」をテーマとするといえる。『三国志演義』の「武」、『水滸伝』の「侠」に対して『紅楼夢』は「情」の文学であるとされる。その一方で、主人公たちは儒教道徳や官僚の腐敗、不正に対する痛烈な批判を口にしており、乾隆盛世と呼ばれた当時の社会に対する批判的色彩も帯びている。また、当時の上流階級の日常生活が登場人物400人を超える規模で細部まで克明に描かれており、文化史的にも価値があるとされる。男女の人情を描いた中国の長篇小説としては『金瓶梅』に次いで古いものであるが、恋愛模様がプラトニックに徹しており情感も洗練を極めている点において好対照の位置にある。 また、主人公である賈宝玉と林薫玉以外にも様々なヒロインが登場し、男女の関係だけでなく、召使や侍女同士での地位や金銭による厳しい派閥争い、主従関係、主人と侍女といったような多くの関係性も描いている作品である。また、道教・仏教の思想も含まれている。

作者と成書背景編集

以下の文章の参考文献は[2]である。

『紅楼夢』の作者曹雪芹は、生活の巨大な変化を経験して、最後に鬱々として死んでいった人であった。彼の名は霑(てん)、字は夢阮(むげん)、号は雪芹(せつきん)、またの号は芹圃(きんぽ)、芹渓(きんけい)といった。生年は未詳、死んだ年は乾隆二十七年壬午年の除夜(西暦一七六三年二月十三日)、一説によると乾隆二十八年癸未の除夜とされ、ほぼ四十余歳の生涯であった。

曹雪芹の先祖はもともと漢人であったが、非常に早く満州籍に入り、漢軍正白旗人に所属した。彼の曾祖父曹璽から、父の曹頫(曹寅の養子で、曹寅の弟の曹荃の実子)の代まで、全部でほぼ六、七十年の久しきにわたって江寧織造(宮廷のために各種の御用物品を購入できる官職)を世襲した。そのうえ、曹璽の妻がかつて康熙皇帝の乳母をしたことがあり、また曹雪芹の祖父曹寅が康熙皇帝の「侍読」になったことがあった。だから曹家はそのとき、財力・権勢が天をおおう勢いの「百年の望族」となった。

曹雪芹は少年時代は、一時期、極めて富貴繁華な貴族生活を経験したことがある。しかし、父が任期中に欠損を出し、さらに皇室内部に権位争奪に巻き込まれて免職、家産没収の処分を受けた。彼は最後に非常に貧乏な日々を過ごした。

『紅楼夢』は、曹雪芹が貧乏暮しをしていた時期に書いたものである。書いていた過程では、また周囲の数人の友人の賞賛と激励を得た。『紅楼夢』が完成に近づこうとしたとき(前八十回はすでに基本的に定稿となっており、その後の部分がさらにいくらか書かれていたのだが、その当時すでに「紛失」していた)、曹雪芹は貧乏のために病気になっても治療ができず、そのうえただ一人の愛児が夭折し、非常に悲しんで、ついにある大晦日の晩に「涙尽きて逝った」[3]

あらすじ編集

  • 以下にあらすじを摘記する[4][5]

『紅楼夢』真正的主角是誰?還是賈宝玉、離開了賈宝玉甚麼都没有了、作者別的人物也都是為了宝玉。芹筆下的賈宝玉実在写得精彩、他写宝玉就採用多鏡頭、多角度宝(訳:紅楼夢の真の主役は誰だろうか)やはり賈宝玉であり、賈宝玉から離れてしまったらなにもかもなくなってしまう、作者が別の人を書くのはすべて賈宝玉のためである。曹雪芹の書いた賈宝玉は精彩であり、彼は多くの視野を用いて、さまざまな角度から賈宝玉を書いている。*誤訳がある可能性あり』)(『紅楼夢』的筆話」 『献芹集』 三〇五項より)とあるように賈宝玉が主人公なのは賈宝玉であることが裏付けられる。

主人公である賈家・栄国府の次男である賈宝玉は祖先の勲功により代々高官を出し、皇室の姻戚でもある賈氏一族の貴公子である。賈宝玉は勉学が嫌いで、眉目秀麗な祖母の史太君に溺愛され、豪邸に同居する美少女たちと風流生活を送る。科挙に合格するも、現在の名声や富、政治@道徳などを受け入れずに批判し拒み、拒否していた。賈宝玉の父方の従妹である林薫玉は母の賈敏を亡くした後に賈家へと身を寄せることになる。そこで賈宝玉は趣味の合う美少女、林黛玉と相思相愛の関係となるが、お互いの気持ちをうまく伝えられない。ある日、賈宝玉は夢で天地や万物の根源であり、あたかも実在するように見えるまぼろしの境界である太虚幻境という天上世界で、『薄命司』を見つけ内容は理解できぬまま目が覚めてしまったが、少女たちに起こりうる不幸が記載されていた。薛宝釵が住み始めたことや、夢のことなど、もともと病弱だった林黛玉は心が落ち着かない。その後、父の危篤を知らされ、賈宝玉は一度帰省する。そのことが一つの悲劇の始まりにつながる。

賈宝玉と林黛玉は真剣に思いあっていたが、金と玉とが対になる「金玉の縁」を意識してしまい、金に当てはまる薛宝釵を過剰に意識し始める。このことに薄々林黛玉は嫉妬し不安に感じていることを打ち明け、また賈宝玉も薛宝釵のことを打ち明ける。賈宝玉は賈政に折檻されたとき、晴雯に使い古しのハンカチを林黛玉に届けさせるように命じた。ハンカチを見て林黛玉は思いを悟りハンカチに詩をつづった。これを機に二人が不安を抱えたり、言い争いすることはなくなった。

しばらくして詩社を林黛玉を中心とする少女たちが拠り所にするようになってから、大観園はますます少女たちにふさわしい世界へと変化していったと同時に絶頂を迎え、それぞれの個性が発揮されている聯句の会となった。これについて賈宝玉は大観園を外から見ることに喜びを見出している。だが、大観園の外の世界では、賈家は窮地に追いやられていて危機的状況に置かれていた。それは王夫人の姪であり、栄国府の家事を切り盛りする「王熙鳳」の夫の賈璉が鳳熙鳳の誕生日に浮気をしていたことで流産してしまったのが発端で家庭崩壊へとつながっていった。

家庭内のごたごたがひとまず落ち着いてきたとき、賈宝玉たちの誕生日パーティーが開かれる。そこでは身分関係なく同じテーブルに座りパーティーを楽しむという夢のようなことであったが、一夜の過ちであったかのようにその後夫婦の間にさらに亀裂が入り冷め切った関係になってしまったり、側室をもらい損ねる人、主人の威厳が低下、付き人・召使は主人を誹り始める、など修復不可能にまで陥ってしまい、世界の崩壊の一途をたどる。このことは、少女は少女であってほしいという賈宝玉の願いとは相反する出来事であり、その願いは裏切られていった。

その後、賈宝玉は代々賈家が通っているとされる塾に父に命じられて通い始める。病気で伏している林黛玉と顔を合わすことがめったにできなくなってしまい、賈宝玉と薛宝釵の婚約話はどんどん進められ、林黛玉は途方に暮れ死(自殺)を覚悟する。

そのころ奇妙な出来事が起こる。怡紅院の枯れていた春の代表する花でも知られる海棠が季節外れに咲く、通霊宝玉が行方不明になる、など賈家を象徴する事柄がどんどん失われていき、再び窮地に陥る。このことで賈家の繁栄に不安が募り始めたので史太君は賈宝玉と薛宝釵の結婚を急ぎ、当の本人の賈宝玉と林黛玉に知られまいと王熙鳳は内密にことを進めていたが、あることを拍子にそのことが林黛玉の耳に伝わってしまい詩を書きつけたハンカチなどの思い出の品を焼き尽くし、恨みの一言を残すと同時に自殺を図ってしまった。

こんなこととは知らず林黛玉と結婚できると思っていた賈宝玉は結婚式の最中に相手が林黛玉ではなく薛宝釵だと知ることとなる。この時に林黛玉の死と向き合うこととなり一時意識が混濁するも、少しずつ平然を戻していった。これは王熙鳳の考えていた一つの得策であった。

追い打ちをかけるかのようにさらに賈家に崩壊の危機が襲い掛かってきていた。林黛玉や薛宝釵といった少女たちがほとんどいまくなってしまったため、大観園は過疎化し敬遠され勢いを失った。また、賈家の数々の不正行為が明るみにでてきた。お先真っ暗な状態へと変わってしまった。その後、史太君が寿命で亡くなり、筆頭侍女も後を追うかのように首をつってなくなってしまった。葬儀を取り仕切った王熙鳳だったが対処できなかったため、親戚などの信頼を失ってしまった。さらに妙玉を盗まれてしまい、王熙鳳は病に伏してしまい病状は悪化する一方であった。

通霊宝玉を返しに来た僧によって再び夢の中で『薄命司』を読み導きのもとで出家を決意した。出家する日を密かに科挙の受験日と決め、誰にも別れを告げずに受験終了とともに姿をくらました。その姿を江南へと旅立った賈政が目撃したというが、その姿は頭を丸めて意志が固いようだった。必死に追いかけたが追いつくことはできなかった。こうして賈宝玉の出会い、別れ、期待、裏切り、決意といったような様々な出来事を繰り広げてきた生涯は世の中との関係を出家することによって断ち切り、こうして夢幻劇は終わりを告げたのである。

時がたち、空空道人は石に記されたこの物語を見て、これは寂しさを紛らわす為に読み、友達とお酒を飲むのがいいだろう、と言った。絵空事に過ぎないが、つまり、二人はお互いに引かれながらも、ささいな嫉妬から大喧嘩をし、結局、病弱な林黛玉は悲しみを抱いて死亡。なお、曹雪芹が執筆したものが残っているのは80回までであり、黛玉の死や賈家の没落は補作部分になる(ただし、そのような展開になるであろうことは伏線として曹雪芹が明らかにしている)。

舞台編集

以下の文献は[6][7]

『紅楼夢』の中心舞台である”大観園”は、舞台として、場面として、大観園が『紅楼夢』の世界の中心である。もともとは第十八回の題名にある「天上人間、諸景備わり、芳園応に錫うべし大観の名」のように天上界の風景と人間の風景とを混淆させて作った、真仮相半ばする架空庭園なのであり、元春貴妃の省親のために賈家の中に造営されたものである。第十六回で「東側の一帯からはじめ、東邸の花園を取り囲み、それから北側へかけて、ぜんぶ測量を終わり、三里半の規模でお帰りの別院を建てることになりまして、すでに図面を引かせております」とあるように、庭園部分を占めている。(しかし、現実には大きさが見当もつかないので架空上の屋敷である。)なぜそこにたくさんの女たちがいるのかというと、帰省のためだけに作られた大観園を閉鎖しないために賈宝玉が勉強をそこで一緒に勉強しろと命じられたのが大観園が舞台となるすべての始まりなのだ。また、賈宝玉の他に主人筋の女子としては、林薫玉・薛宝釵・賈探春・賈惜春・賈迎春・李紈・釈妙玉がおり、侍女を含めるとすべてで二十三人ほど常住しており、下働きの女中、下女、園外に住み侍女を連れて移住してきた女怜、始終大観園に出入りしている人たちすべてでおよそ百人近く大観園にいた。大観園の主役はあくまで少女たちであり、宝玉自身の存在価値は少女たちとのかかわりの中で初めて生まれてくる。薫玉が理想の少女として大観園の中心的存在である以上、宝玉はほかの女たちに対してもまた個性を惜しみなく発揮することを願う。少女世界は少女たち自身で築きあげるのだが、宝玉は「汚らわしき」男子なるがゆえに、その世界全体を意識的にとらえ直すことができ、しかもそこで最高の価値を見出すことができる。少女たちが自分自身で築く大観園はそれを保証する場だと先ん験的に信じ込む彼に最初の喜びをもたらす詩社を結成する。しかし詩社には侍女たちが加われないという限界がある。ここで区別を超え、姉妹とともに侍女を加えた世界が築かれることを望む。これは世俗の上下関係をそのまま持ち込んでいる大観園に少女だけを問う世界が築かれることを意味する。この結果、薫玉から詩社、さらに誕生日祝いと、本来では侍女は出席すらできないが、席を用意され一緒に楽しむという大観園は幻想の根拠たるにふさわしく、少女たちが少女として築く世界を成立させている。しかし、賈家の人間関係に初めて亀裂が起き、賈赦が鴛鴦を側室に所有したのが発端である。このことによってわずかな利益も見逃すまいと目を光らせる人間が縄張り意識を持つち、大観園は金儲けの場という性格を押し付けられる。そして侍女たちとばあやたちの争いというかたちで再三火花を散らす。亀裂の重なりが憎悪を深める中で、大観園に対して不審な眼差しが向けられたことによって宝玉は、侍女としてあるべき姿が強制され、少女ということは度外視されたことによって大観園は少女の世界という幻想の現実性の無さを思い知る。

 各回の名 編集
  • 以下に各回の名[8]を挙げる。

第1回

甄士隠夢幻にて通霊玉を知るのこと

賈雨村風塵に閨秀思うのこと

第2回

賈夫人揚州城にて仙逝るのこと

冷子興栄国家を演説るのこと

第3回

賈雨村を縁に夤って旧職に復すのこと

林黛玉父を抛して京都に進むのこと

第4回

薄命の女偏に薄命の男に出会うのこと

葫蘆の僧乱に葫蘆の判決を下すのこと

第5回

幻境に遊びて迷いを十二釵に指すのこと

仙酒を酌みて紅楼夢の曲を聞くのこと

第6回

賈宝玉初めて雲雨の情を試みるのこと

劉姥姥一たび栄国府に進むのこと

第7回

宮花を送って賈璉熙鳳に戯るのこと

寧国府の宴にて宝玉秦鐘に会うのこと

第8回

通霊に比し金鶯少しく意を露わすのこと

宝釵を探り黛玉なかば酸を含むのこと

第9回

風流を恋い情友家塾に入るのこと

嫌疑を起こし頑童学童を閙がすのこと

第10回

金寡婦利を貪って辱を受くるのこと

張太医病の細かきを論じて源を窮むるのこと

第11回

寿辰を慶ぎて寧府家宴を排べるのこと

熙鳳を見て賈瑞淫心を起すのこと

第12回

王熙鳳毒もて相思の局を設くるのこと

賈天祥正に風月の鑑に照らすのこと

第13回

秦可卿死して龍禁尉に封ぜらるるのこと

王熙鳳協けて寧国府を理のこと

第14回

林如海揚州城に捐館るのこと

賈宝玉路に北靜王に謁するのこと

第15回

王鳳姐権を鉄檻寺に弄するのこと

秦鯨卿趣を饅頭庵に得るのこと

第16回

賈元春才もて鳳藻宮に選らばるるのこと

秦鯨卿夭くして黄泉路を逝くのこと

第17・18回

大觀園に才を試み対額を題するのこと

栄国府に歸省して元宵を慶ぐのこと

第19回

情は切々として良ろしき宵に花は語を解するのこと

意は綿々として静かなる日に玉は香を生ずるのこと

第20回

王熙鳳正言もて妬意を弾くのこと

林黛玉俏語もて嬌音を謔うのこと

第21回

賢き襲人嬌嗔もて宝玉を箴むるのこと

俏き平児軟語もて賈璉を救くるのこと

第22回

宝玉曲文を聞きて禪機を悟るのこと

賈政燈迷を作りて讖語に悲むのこと

第23回

西廂記の妙詞戲語に通ずるのこと

牡丹亭の艶曲芳心を警むるのこと

第24回

醉金剛財を軽んじ義俠を尚ぶのこと

癡女児帕を遺して相思を惹くのこと

第25回

魘魔の法にて妹弟五鬼に逢うのこと

紅楼の夢にて通霊雙真に遇うのこと

第26回

蜂腰橋に言を設け心事を伝うるのこと

瀟湘館に春に困しみて幽情を発するのこと

第27回

楊妃滴に揚妃彩蝶に戯るるのこと

飛燕埋に飛燕残紅に泣くのこと

第28回

蔣玉函情もて茜香の羅を贈るのこと

薛宝釵羞じて紅麝の串を籠るのこと

第29回

享福の人福深きに還た福を祷るのこと

痴神の女情厚き上に愈々情をば斟むのこと

第30回

宝釵扇を借りて機は雙敲を帯ぶるのこと

齢官薔を劃して痴は局外に及ぶのこと

第31回

扇子を撕きて千金一笑を作すのこと

麒麟に因りて白首雙星を伏すのこと

第32回

肺腑の訴え心は迷う活ける宝玉のこと

恥辱を含み情は烈し死せる金釧のこと

第33回

手足眈眈小しく唇舌を動かすのこと

不肖種種大いに笞撻を承くるのこと

第34回

情中の情情に因りて妹妹を感ぜしむのこと

錯裡の錯錯を以て哥哥に勧むのこと

第35回

白玉釧親ら蓮葉羹を嘗うのこと

黃金鶯巧みに梅花絡を結ぶのこと

第36回

鴛鴦を繍りて夢は絳芸軒に兆すのこと

分定を識りて情は梨香院に悟るのこと

第37回

秋爽斎に偶たま海棠詩社を結ぶのこと

蘅蕪苑に夜菊花の題を擬すのこと

第38回

林瀟湘菊花の詩に魁奪するのこと

薛蘅蕪螃蟹の詠を諷和するのこと

第39回

村の姥姥是れ口に信せて開合するのこと

情の哥哥偏に尋根究底するのこと

第40回

史太君両たび大觀園に宴するのこと

金鴛鴦三たび牙牌令を宣するのこと

第41回

攏翠庵茶に梅花雪に品うのこと

怡紅院却い蝗虫に遇うのこと

第42回

蘅蕪君蘭言もて疑癖を解くのこと

瀟湘子雅謔して余香を補うのこと

第43回

閑ろに樂しみを取り偶たま金を攢めて壽を慶ぐのこと

情を不しえず暫土を撮み香を為すのこと

第44回

変は不測を生じ鳳姐酷を潑すのこと

喜びは望外に出で平児粧を理むのこと

第45回

金蘭の契互いに金蘭の語を剖くのこと

風雨の夕悶みて風雨の詞を製るのこと

第46回

尷尬の人尷尬の事を免れ難きのこと

鴛鴦の女誓って鴛鴦の偶を絶つのこと

第47回

呆霸王情を調して苦打に遭うのこと

冷郎君禍を懼れて他鄉に走るのこと

第48回

情濫るるの人情の誤りて芸を遊ばんこと思うのこと

雅を慕う女雅の集りて詩を吟ずるに苦しむのこと

第49回

琉璃世界白雪と紅梅と

脂粉の香娃腥を割きて膻を啖うのこと

第50回

蘆雪庵にて爭いて即景の詩を聯ぬるのこと

暖香塢にて雅に春燈謎を製るのこと

第51回

薛小妹新たに懐古の詩を編むのこと

胡庸医乱りに虎狼の薬を用うるのこと

第52回

俏き平兒情もて蝦須鐲を掩うのこと

勇いたつ晴雯病みて雀毛裘を補うのこと

第53回

寧国府除夕に宗祠を祭るのこと

栄国府元宵に夜宴を張るのこと

第54回

史後室陳腐の舊套を破るのこと

王熙鳳戲彩の斑衣に効うのこと

第55回

親女を辱め愚妾閒気を争うのこと

幼主を欺りて刁奴険心を蓄うのこと

第56回

敏き探春利を興して宿弊を除くのこと

時き宝釵小惠もて大体を全うするのこと

第57回

慧き紫鵑情辭もて忙玉を試むるのこと

慈き姨媽愛語もて痴顰を慰むるのこと

第58回

杏子の蔭に仮鳳虚凰を泣くのこと

茜紗の窓に真情痴理を撥るのこと

第59回

柳葉渚の辺に鶯を嗔り燕を咤るのこと

絳芸軒の裏に將を召し符を飛ばすのこと

第60回

茉莉紛薔薇硝に替わり去るのこと

玫瑰露茯苓霜を引き来るのこと

第61回

鼠に投ずる器を忌みて宝玉贓みを暪すのこと

冤を判じ獄を決して平児権を行うのこと

第62回

憨湘雲酔いて芍薬の裀に眠るのこと

獃香菱情もて石榴の裙を解くのこと

第63回

怡紅を寿ぎて群芳夜宴を開くのこと

金丹に死して獨艷親喪を理るのこと

第64回

幽淑の女悲しみて五美吟を題すのこと

浪蕩の子情もて九竜佩を遺るのこと

第65回

賈二舎偸かに尤二姨を娶るのこと

尤三姐柳二郎に嫁がんことを思うのこと

第66回

情小妹情を恥じて地府に帰るのこと

冷二郎一たび朝冷めて空門に入るのこと

第67回

土儀を見て顰卿故里を思うこと

秘事を聞きて鳳姐家童に訊すのこと

第68回

苦尤娘賺されて大觀園に入るのこと

酸鳳姐大いに寧国府を鬧がすのこと

第69回

小巧を弄し借剣を用いて人を殺すのこと

大限を覚り生金を呑みて自ら逝くのこと

第70回

林黛玉重ねて桃花社を建つるのこと

史湘雲偶たま柳絮詞を塡するのこと

第71回

嫌隙の人有心に嫌隙を生ずるのこと

鴛鴦の女は無意に鴛鴦に遇うのこと

第72回

王熙鳳強きを恃んで病を説うを羞ずるのこと

來旺の婦勢に倚りて親を成すを覇するのこと

第73回

癡の丫頭誤って繍春嚢を拾うのこと

懦の小姐累金鳳を問わずのこと

第74回

奸讒に惑いて大觀園を抄検するのこと

孤介を矢い寧国府と杜絶するのこと

第75回

夜宴を開きて異兆悲音を発するのこと

中秋を賞でて新詞に佳讖を得るのこと

第76回

凸碧堂に笛を品いて淒涼を感ずるのこと

凹晶館に詩を聯ねて寂寞を悲しむのこと

第77回

俏き丫鬟屈を抱きて風流に夭するのこと

美しき優伶情を斬りて水月に帰するのこと

第78回

老學士閑ろに姽婳の詞を徴するのこと

癡公子芙蓉の誄を杜撰するのこと

第79回

薛文竜河東の獅を娶るを悔ゆるのこと

賈迎春誤って中山の狼に嫁するのこと

第80回

美しき香菱貪夫の棒を屈受するのこと

王道士妬婦の方を胡謅するのこと

第81回

旺相を占いて四美遊魚を釣るのこと

嚴詞を奉じて両番家塾に入るのこと

第82回

老學究の講義頑心を警むのこと

病める瀟湘の癡魂悪夢に驚くのこと

第83回

宮闈に省して賈元妃恙に染むのこと

閨閫の鬧がせて薛宝釵声を呑むのこと

第84回

文章を試して宝玉に始めて親を提すのこと

驚風を探ねて賈環の重ねて怨を結ぶのこと

第85回

賈存周報ぜられて郎中の任に陞るのこと

薛文起復た放流の刑を惹くのこと

第86回

私賄を受けて老官安牘を翻すのこと

閑情を寄せて淑女琴書を解くのこと

第87回

秋の深きに感じ琴を撫して往事を悲しむのこと

禅寂に坐し心を走らせて邪魔入るのこと

第88回

庭歓を博さんとして宝玉孤児を讃えるのこと

家法を正さんとして賈珍悍僕を鞭うつのこと

第89回

人亡く物在り公子詞を塡すのこと

蛇影杯弓顰卿粒を絶つのこと

第90回

綿衣を失いて貧女嗷嘈を耐えるのこと

果品を送りて小郎叵測に驚くのこと

第91回

淫心を縦にして宝蟾工に計を設けるのこと

疑陣を布きて宝玉妄りに禅を談ずるのこと

第92回

女傳を評して巧姐賢良を慕うのこと

母珠を玩びて賈政聚散を参るのこと

第93回

甄家の僕賈家の門に投靠るのこと

水月庵風月の案を掀翻」く」のこと

第94回

海棠に宴して賈母花妖を賞でるのこと

宝玉を失して通霊奇禍を知るのこと

第95回

訛に因りて実を成し元妃薨逝するのこと

仮を以て真に混じ宝玉瘋癲となるのこと

第96回

消息を瞞して熙鳳奇謀を設くるのこと

機関を泄らして顰児本性を迷わすのこと

第97回

林黛玉稿を焚きて癡情を断つのこと

薛宝釵閨を出でて大礼を成すのこと

第98回

苦しき絳珠魂は離恨の天に帰るのこと

病める神瑛涙は相思の地に灑ぐのこと

第99回

官箴を守りて悪奴同に例を破るのこと

邸報を閲して老舅自ら驚きを担うのこと

第100回

好事を破りて香菱深恨を結ぶのこと

遠嫁を悲しみて宝玉離情を感ずのこと

第101回

大觀園に月夜に幽魂に感じるのこと

散花寺に神簽異兆に驚くのこと

第102回

寧国府骨肉災祲を病むのこと

大觀園符水妖孽を駆るのこと

第103回

毒計を施して金桂自ら身を焚くのこと

真禅に昧して雨村空しく旧に遇うのこと

第104回

酔金剛小鰍は大浪を生ずるのこと

癡公子余痛は前情に触るのこと

第105回

錦衣軍寧国府を査抄するのこと

驄馬使平安州を彈劾するのこと

第106回

王熙鳳禍を致して羞慚を抱くのこと

賈後君天に祷りて禍患を消すのこと

第107回

余資を散じて賈母大義を明らかにするのこと

世職を復して政老天恩に沐すのこと

第108回

強いて歡笑して蘅蕪に生辰を慶ぶのこと

死して纏綿たり瀟湘に鬼哭を聞くのこと

第109回

芳魂を喉ちて五児錯愛を承くるのこと

薛債を還して迎女真元に返るのこと

第110回

史後君寿終わりて地府に帰るのこと

王熙鳳力詘きて人心を失うのこと

第111回

鴛鴦女主に殉じて太虚に登るのこと

狗彘の奴天を欺きて伙盗を招くのこと

第112回

冤孽に活きて妙尼大劫に遭うのこと

讎仇に死して冥曹に赴くのこと

第113回

宿冤を懺いて鳳姐村嫗に託するのこと

旧憾を釈きて情婢癡郎を感ずること

第114回

王熙鳳幻を歴て金陵に返るのこと

甄應嘉恩を蒙りて玉闕に還るのこと

第115回

偏私に惑いて惜春素志を矢うのこと

同類を証して宝玉相知を失うのこと

第116回

通霊を得て幻境に仙緣を悟るのこと

慈柩を送りて故鄉に孝道を全うするのこと

第117回

超凡を阻んで佳人双り玉を護るのこと

聚黨を厭んで悪子獨り家を承くるのこと

第118回

微嫌を記して舅兄弱女を欺るのこと

謎語に驚きて妻妾癡人を諫むのこと

第119回

鄉魁に中りて宝玉塵緣を却くるのこと

皇恩に沐して賈家世沢を延ぶるのこと

第120回

甄士隠太虚の情を詳説すること

賈雨村紅楼の夢を帰結すること

登場人物編集

以下に、主な登場人物とその紹介を列記する[9]

 
賈宝玉(か・ほうぎょく)
 
林黛玉(りん・たいぎょく)
 
薛宝釵(せつ・ほうさ)
 
上京する黛玉
 
太虚幻境(たいきょげんきょう)を訪れる賈宝玉
 
黛玉が花を埋める場面『黛玉葬花

主人公編集

賈宝玉(か・ほうぎょく)
主人公の少年。賈家・栄国府の賈政の次男才能はありや恋愛小説(当時小説や戯曲は下等なものとされていた)には興味を示すが、科挙方面の勉学は大嫌いで、詩の腕も黛玉や宝釵には及ばない。「女は水でできた体、男は泥でできた体でできた体。僕は女を見るとせいせいし、男を見るとむかしてくる」、また、「天地の霊淑ものは、女にだけ集まっている」といってもっぱら一族の美少女・美女たちを相手に様々な趣きの交際や交流を楽しんでいる。黛玉を好きだが素直になれず時々悲しませたり泣かせたりしてしまうこともある。海棠詩社でのは怡紅公子。

金陵十二釵編集

十二人の主要美少女・美女。

林黛玉(りん・たいぎょく)
宝玉の父方の従妹で幼なじみ。字は顰児。詩才と機知に富む一方病弱で繊細。厭世的悲観的かつ神経質で極めて感受性の強い美少女。母を亡くした後父の林如海の指示により賈家に身を寄せる宝玉が好きだがプライドが高いためか素直になれない。西施趙飛燕にたとえられる華奢で嫋やかな儚げな絶世の美少女。西施同様よく眉を顰めている。海棠詩社での号は瀟湘妃子。
薛宝釵(せつ・ほうさ)
メインヒロインその二。宝玉の母方の従姉。頭脳明晰、人格円満、優等生タイプの少女。実は冷淡な性格で他人と距離を置くようになった。詩も学問も人に優れてよくできるが、それらが女性にとって価値があるものとは思っていない。林黛玉とは正反対の楊貴妃にたとえられる肥満体で大らかで華やかな容姿。控えめに振る舞うことを心掛け海大人びた性格。詩社での号は蘅蕪君。
黛玉とはよく対比され、中国には「恋をするなら林黛玉、妻にするなら薛宝釵」というフレーズもあるという。
史湘雲(し・しょううん)
賈母の実家である史家の一族の少女。宝玉の祖母方の従妹に当たる。両親を早く亡くして叔父に養われているが、快活で率直な物言いをする。豪快な性格で、おしゃべり好きでいたずら好き海人々に愛されている人物棠詩社での号は枕霞旧友。
王煕鳳(おう・きほう)
王夫人の姪賈璉の妻。宝玉の母方の従姉でもある。賈賈赦の息子の賈璉に嫁いだが、栄国府の家事をきりもりする家賈随一のやり手で、気が強く頭脳明晰。奥向きの采配を一手に引き受ける実力者。あ公金を流用して高利貸を営んでいたまり学問はない。
秦可卿(しん・かけい)
宝玉の曾祖父初代栄国公の兄初代寧国公の賈蓉の妻。幼名は可卿。従って年上ながら宝玉を「おじさま」と呼ぶ。優しく落ち着いた人柄で「黛玉と宝釵の長所を併せ持つ」と讃えられ、誰からも慕われる佳人。仙界では、警幻仙姑の妹・兼美(字は可卿)。「の賈珍と密通していたという描写があったが作者が思い直して削除した」という説もあり。また、何かいわくの死に方をした謎の多い人物。
賈元春(か・げんしゅん)
宝玉の実の姉。皇帝に召されて貴妃となった。賈家の繁栄を象徴する人物のひとり。後世の解釈で曹雪芹の生家曹家を庇護していた康煕帝に対比されることがある。里帰りする元春を迎えるために大観園が造営された。
賈迎春(か・げいしゅん)
宝玉の叔父の賈赦の娘で賈璉の異母妹(宝玉の従姉)。宝玉より年上善良だが無力な人物。、他人の言いなりになるころしばしば渾名は二木頭。海棠詩社での号は菱洲。
賈探春(か・たんしゅん)
宝玉の庶妹(腹違いの妹)。賢明で詩才のある美少女で、異母兄宝玉とも親しくしている。同腹の弟がいるが、こちらは愚鈍で母共々なにかと宝玉を陥れることを考えており、探春とはあまり仲が良くない。大観園詩社海棠詩社)が結成されるのは探春の呼びかけによるもの。渾名は玫瑰花(バラ)。詩社での号は蕉下客。
賈惜春(か・せきしゅん)
賈敬の娘で賈珍の妹(宝玉の族妹)。潔癖症で、兄に代表される屋敷の淫蕩な空気を嫌っている。賈母に引取られ、栄国府に養育された。孤独を好み絵早く出家することを望んでいる。心があり、大観園の絵図を描いたことがある。詩社での号は藕榭。
妙玉(みょうぎょく)
賈家に招かれた有髪の尼僧。聡明にして文筆の才あり若くして大観園内の草庵に庵主として招かれたが性狷介、俗人と交わるを潔しとしない孤高の美少女。俗塵にまみれることを一切断り修行に励む。
賈巧姐(か・こうしゃ)
賈璉と王熙鳳の一人娘。大姐(だいじゃ)ともいう名前は、劉ばあさんが七夕に生まれたことに由来して名付けられた。
李紈(り・がん)
宝玉の同母の兄である賈珠の妻(未亡人)。字は宮裁。詩社での号は稻香老農。夫に先立たれ以後、息子の賈蘭の教育に専念し、時に姉妹たちの監修役を務めていた。

その他編集

襲人(しゅうじん)
宝玉付きの侍女の筆頭格。もともと史太君に仕えていたが、まじめな仕事ぶりを買われて宝玉付きになる。玉の初体験の相手でもあり、正式では無いが宝玉の役でもある。主人思いの良識的な人格者だが、その「主人思い」はえてして「宝玉に科挙方面の勉強に打ち込んでもらおう」という方向に発揮される。本名は花珍珠で、宝玉が陸游の詩にちなんで襲人と命名した。
晴雯(せいぶん)
宝玉付きの侍女。損得にとらわれない純粋さは襲人以上であり針仕事や口が上手く、艶やかな美人。高級侍女としてお嬢さんのような生活を送っている。宝玉にとっては必要不可欠な存在であったが、その傲慢な性格が宝玉の母の王氏の怒を買い、大観園から追い出された。
平児 (へいじ)
王煕鳳付きの侍女の筆頭格。賈璉の側室でもある。有能で情け深い人柄で煕鳳の秘書役もこなす。煕鳳の勧めで賈璉の妾の立場になったが、これは煕鳳が嫉妬深い本心を隠すためにやったことで(男子が出来ない妻が妾を夫に勧めるのは旧中国では婦人の美徳の一つであった)、それを心得てめったに同衾せず侍女の分を守っている。
香菱 (こうりょう)
宝釵の兄薛蟠の妾。本名は甄英蓮で、甄家の令嬢だったが、4歳で誘拐されたという経緯を持つ自分の姓名や出自を知らない。薛家に買い取られる宝釵によって香菱と命名した。その姿は可卿に似ている。無容姿も性格も申し分ない少女邪気な性格で作詩が好き、大観園に黛玉に弟子入りする。
賈母 (かぼ)
宝玉の祖母(宝玉の父賈政の母)。一族の最長老で最高実力者。宝玉と黛玉を溺愛しており、賈政が宝玉に厳しくできないのは賈母を恐れてのことである。信心深い。平凡社ライブラリー版[誰によって?]では「後室」と訳されている。
劉ばあさん(りゅう・ばあさん)
賈宝玉の母王氏の遠縁の家に娘を嫁がせた老女。素朴で陽気なばあさんわずかな縁を頼りに賈家を訪れ、機王鳳熙に手厚くもてなされ、知が受けて援助を引き出す。
賈政(かせい)
宝玉の父。(史太君の次男)。賈母とその夫賈代善の次男。几帳面で謹厳な人物で、宝玉が勉強に熱心でないことはよく思っていないが、官職が多忙であることと賈母が宝玉を溺愛していることから半ば放任状態。
賈赦(かしゃ)
宝玉の伯父。賈母とその夫賈代善の長男。好色で賈母も「いい年をして」とあまりよく思っていない。賈母お気に入りの侍女をにもらい受けようとして大騒ぎを引き起こしたこともある。隠居の身だが、側室を多く置いている。
賈璉(かれん)
宝玉の従兄。賈赦の長子で栄国府の当主。王鳳熙の夫。しい性格一方女色を好み、召口八丁手八丁でいの妻と関係を持つようになった。その才能は妻に及ばないとず太刀打ちできない 好で遊び好き色こ
賈敬(かけい)
宝玉の祖父である栄国公賈代善の従兄弟である寧国公賈代化の子。物語の時点では隠居の身で、郊外の道教寺院で仙人修業に凝っている。俗塵を嫌うと称して自分の誕生祝いの宴会にも出て来ないほど。
賈珍(かちん)
賈敬の子で寧国府の当主。威烈将軍の職にあるが戦争に行っている様子は全くない。こちらも好色漢で息子の嫁や妻の妹にまで手を出している背徳的な人物。なお、系図上の世代からいうと宝玉と同世代になるがこの世代の賈家の男子は皆名前に玉の字が入るように命名されている。
同様に宝玉の父の世代は敬・赦・政とつくりが共通であり、宝玉の祖父の世代は名前に代の字が入り、宝玉の甥の世代は草冠の付く名前が命名されている。また、賈珍は既婚の息子がいる年齢なので宝玉とは親子ほども年が離れており、親戚としても祖父同士が従兄弟という遠い関係だが、中国の大家族制の慣習上、宝玉は賈珍を「兄さま」と呼ぶ(平凡社ライブラリー版2巻P85[誰によって?])。
薛蟠(せつばん)
宝釵の兄。母の溺愛の中で成長し、贅沢な暮しを送っていた。御用商人としては全く無能な人物。渾名は呆覇王。正妻はステレオタイプの悪女、薛家で大騒ぎを起こした。
鴛王(えんおう)
史太君の筆頭侍女。主人のことをすべてわきまえており、誰からも信頼されている史どちらかといえばきびきびした性格。
金釧児(きんせいじ)
王夫人の筆頭侍女。王夫人の侍女の中では宝玉にとって最も親しみやすい存在。
紫鵑(しけん)
薫玉の侍女。史太君付きだったが、薫玉が賈家にやってきた際に仕えるようになる。病弱で繊細な薫玉を気遣っている。
史太君(したいくん)
宝玉の祖母。家で最も権力がある人物賈経験豊富で視野も広くかユーモアあふれる人物。
薛のおばさま(せつのおばさま)
王夫人の妹で、宝釵の母。姐よりものんびりした性格だが、息子の薛蟠にはたえず悩まされている。
秦鍾(しんしょう)
宝玉の学友で秦可卿の義理の弟。
焦大(しょうだい)
寧国府(賈珍の曹祖父)に従って戦場に赴いたこともある老僕。先祖の苦難を忘れて贅沢にふける主人や召使を罵る。
警幻仙姑(けいげんせんこ)
太虚幻境を司る仙女。絳珠草と神瑛侍者の因縁に決着をつけるべく、大勢の仙女たちを地上につかわす。
甄士隠(しんしいん)
姑蘇の名士。娘の英蓮(香菱)をさらわれ、お屋敷を家事で失うなど、運命の激変に襲われ。
賈雨村(かうんそう)
一族が落ちぶれたのち、姑蘇まで流れてくすぶっていたが、甄士隠の助力によって都に上がり、科挙の中央試験に合格して官界にデビューする。俗世の欲望を超越した甄士隠とそれにしがみつく賈雨村は、前者が真、後者が仮として、物語の主旨を体現する。蘇まで流れてくすぶっていたが、甄士隠の助力によって都に上がり姑科挙の中央試験に合格して官界にデビューする。

評価編集

 
大観園(北京市)

台湾出身の著作家張明澄によれば、胡適蔡元培などの大御所たちは『紅楼夢』をいつもカバンに入れ、数百回も繰り返し読んでいたという。しかも第一回は非常に読みづらく、最後までまともに読める人がいない。二回目はやや面白くなるが二回目くらいではあまり熱中する人はいない。第三回を読み始めると中毒状態になり、仕事や学習をさぼってでも読むようになるという。中国人からアヘン麻雀、『紅楼夢』を取りあげたら、たちまち大発展してアメリカを追い越すだろうとさえ言った。また、『源氏物語』が(日本統治時代も含め)台湾で全く流行しなかったのも『紅楼夢』が原因だという。張明澄自身何度も『紅楼夢』を読んでゆくと、どうしても『源氏物語』が退屈に思えてしまうと述べた[10]

中華民国時代になって胡適らの新紅学派は作者曹雪芹の人生をありのままに描いた自然主義文学であると提唱した。これに対してマルクス主義の文学者からは「ブルジョワ階級主観唯心主義」であるとする批判が起こり、新中国成立後の1950年代に紅楼夢論争が展開した。マルクス主義派は、紅楼夢を男尊女卑封建主義に反抗する階級闘争文学であると主張したのである。毛沢東も紅楼夢を愛読していたが、公式の発言としては「紅楼夢は歴史政治小説として読むべきで、読み解く鍵は第四回の(賈家をはじめとする豪族高官の情報を記した官界情報の)護官符のくだりにある」と述べた[11][誰によって?]。この解釈の例として蒋和森の「紅楼夢入門」(日本語訳は1985年、日中出版)には、宝玉を論じた章は「封建貴族家庭の反逆児」と題され、「封建制度に不満を抱きながらも人民から大きく遊離した人物」と評されている(P63)。もっとも、こういう中国の政治の影響を受けた解釈には当時から批判もあった。

宮崎市定は「そんなことならなにも<紅楼夢>でなくともよいことだ。(中略)<紅楼夢>に描かれたのは、あくまでも繊細な、優美な感触である」[12]と述べている。合山究は「紅楼夢=仙女崇拝小説」[13]という説を提唱しており、また宝玉が性同一性障害であったという説も唱えている[14]。訳者である伊藤漱平は、大著『「紅楼夢」論』を長年かけまとめた[15]。また近年、フランス語英語ドイツ語訳も相継いで出版されている。

中国本土では何度か映画やテレビドラマにされている。その中で特に評価が高いのが1987年に放映された連続テレビドラマ『紅楼夢』(王扶林監督)で、中国テレビドラマ制作センターと中央電視台(CCTV)の共同制作による。日本でもDVD等で入手可能である。

日本語訳書編集

日本語訳も、早くから多数の抄訳[16]が出版された、以下は完訳版。

版本編集

 
北京の曹雪芹

紅楼夢の写本は、当初約110回存在したと推定されるが、稿本が流出後80回以降が何らかの原因で散佚し、そのまま補足されない状態で作者と思われる曹雪芹が死去。その約三十年後、出版者程偉元の請求のもとで、高鶚が40回を付け加え、活字印刷版の120回本が世の中に出回ることになる。この高鶚の40回にも、もともと存在した前80回の手書きによる稿本にも、程偉元自身によるかなりの添削が入っていると一般に思われる。

現存最古の手抄本「甲戌本」が発掘された1927年まで、紅楼夢は一般に活字印刷版の「程本」で流通しており(詳しくは「程甲本(1791)」と「程乙本(1792)」などと区別される)、物語の内容も「程本」で広く認識されていた。一方、手抄本のほとんどがすべて「脂硯斎重評石頭記」と題しており、それぞれ朱筆あるいは墨で本文の上や行間や脇に「脂硯斎」をはじめとする評論家による評論文字を書き足している。これら手抄本は一般に「脂評本」と称されている。

「脂評本」写本の系列の中で最も内容が古く、原稿に近いとされる「甲戌本(1754)」、「己卯本(1759)」、「庚辰本(1760)」などを詳しく調べると、印刷版の「程本」の原文字に対する添竄が明らかになる。このような添竄は、後継者高鶚と程偉元が書いた後40回の内容が、散逸した原作の精神と乖離すると判断するに十分なものとされている。

なお、現存の全ての「脂評本」系列の手抄本は80回以降の内容について本文を残していないばかりでなく、散佚各回の題名「回目」も残されていない。そこで80回以降の原稿内容は、いわゆる「紅学」の中心問題の一つに数えられるようになった。80回以降の原稿の本文や回目は見つからないが、前80回の本文中の詩文や特定事件の表現手法、それに加え特に評論家脂硯斎や奇笏叟などによる評論文字などから、80回以降の少なくとも一部の内容は暗示または明記されているとみるのが定論である。

紅楼夢を基にした作品編集

関連項目編集

脚注編集

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  1. ^ 『明代小説四大奇書』(浦安迪(Andrew.H.Plaks)、中国和平出版社、1993年)第一章「文人小説的歴史背景」。
  2. ^ 周汝昌著 小山澄夫訳『曹雪芹小伝』汲古書院、2010年7月15日、3-26頁。ISBN 9784762950520
  3. ^ 蒋和森著 小川陽一訳『紅楼夢入門』日中出版、1985年2月10日。ISBN 4817511303
  4. ^ 曹雪芹作 井波陵一訳『紅楼夢』巻1-7、岩波書店、2013年10月25日、新訳。ISBN 9784000286626
  5. ^ 曹雪芹『紅楼夢』伊藤漱平訳、平凡社、1960年12月15日。
  6. ^ 合山究『『紅楼夢』-性同一性障害碍者のユートピア小説』汲古書院、2010年11月10日、209-224頁。
  7. ^ 井波陵一著『紅楼夢と王国維』朋友書店、2008年1月、95-117頁。
  8. ^ 曹雪芹『紅楼夢』伊藤漱平訳、平凡社、1960年12月15日。
  9. ^ 曹雪芹『新訳 紅楼夢』井波陵一訳、岩波書店、2013年10月25日、3-5頁。ISBN 9784000286626
  10. ^ 張明澄『間違いだらけの漢文』久保書店、1971年
  11. ^ 平凡社ライブラリー版12巻P420、訳者解説。
  12. ^ 宮崎市定 『中国文明の歴史9.帝国の繁栄』(新版が中公文庫、「全集」は岩波書店
  13. ^ 合山究『「紅楼夢」新論』(汲古書院、1997年)。著者は、林語堂の訳書もある。
  14. ^ 『紅楼夢』―性同一性障碍者のユートピア小説 汲古書院 2010
  15. ^ 『伊藤漱平著作集 第1~3巻』(研文出版、2005~08年)
  16. ^ 佐藤亮一訳『ザ・紅楼夢 全一冊』(新版、第三書館 1992年)。『要訳 紅楼夢』(王敏訳著、講談社、2008年)ほか
  17. ^ 伊藤訳の初訳は「中国古典文学全集 第24・25・26巻」(平凡社、1958-60年)で、松枝訳と同様に、伊藤訳も数十年かけ改訳が行われた。

外部リンク編集