結納(ゆいのう)とは、将来的な結婚すなわち婚約の成立を確約する意味で品物などを取り交わす日本の習慣。また、そのための儀式及びその品物。

結納の文化 編集

結納の意義 編集

本人の婚姻により両家が親類(親族)となり「結」びつくことをお祝いし、贈り物を「納」め合う儀式。一般的には新郎家から、新婦家へ、結納の品を納める。本来は帯や着物地などに縁起物を添えて贈るが、現代では帯や着物の代わりに金子包み(結納金)を贈る。(結納金を帯地料・小袖料などというのはこの名残り)結納は通常、公の場でなされることはなく、両家の間の私的な儀式・儀礼であるが、結納により「結婚をします」という約束を正式に交わしたことになる。新郎&新婦が主役であるが、親から親へのプロポーズの意味が大きい。 形式は小笠原流伊勢流などの礼法によって体系化されているが、冠婚葬祭を含むその他の儀礼と同様、地域の風習や個人の考えや事情により具体的な行い方は様々である。結納の品々は、慶事の贈り物であり縁起ものであるため、昔はできるだけ華やかで立派に見えるよう大きく飾るという考え方であったが、現在では、現代生活に合ったコンパクトな結納品が主流となっている。また、結納金を包まず、婚約記念品(指輪や時計)だけで結納品を準備したり、結婚式に先立ち新郎新婦の両親や家族らと共に食事会を行い、その席で簡単に婚約の挨拶をして済ませる場合もある。結納の仲人については、最近では立てない場合がほとんどである。

結納の起源 編集

結納の起源は4世紀から5世紀頃、仁徳天皇及び倭国古墳時代に遡る。仁徳天皇の皇太子(のちの履中天皇)が黒媛を妃に迎えるときに贈り物(納采)を贈ったことが最初とされ、宮中儀礼の「納采の儀」として脈々と受け継がれている。皇室の外で結納が行われるようになったのは、ずっと後のことで、室町時代に公家や武家に広まり小笠原流伊勢流などに体系化されていく。そこから庶民の間にまで広まったのはさらにあとで江戸時代末期から明治初期だと言われている。

その語源は、「結いもの」や「云納(いい入れ)」という婚姻を申し込む言葉が転じたものとも言われている。 明治・大正時代から帯や着物など贈り物から、お好みの品を買ってくださいとの意味から、結納金【帯地料・小袖料】を贈るようになった。

結納の手順 編集

結納の最も正式な形は、皇室の納采の儀であるが、民間では略式の方法で行われる。民間で行われる結納は小笠原流伊勢流などの礼法によって体系化されているが、 地域・宗教・家系などそれぞれに伝わる多種多様な手順がある。

一般的に次のような手順で行われる。

判りやすくするため、これから結婚する男性側を「新郎家」、これから結婚する女性側を「新婦家」と表記する。

仲人がない場合

昨今は、仲人無しで両家同士で執り行うケースが多く、両家顔合わせ時や、顔合わせ後、日を改めて執り行う。基本的には大切な贈り物の観点から、先方自宅へお届けするが、祝宴の持て成しの段取りからホテルや料亭で取り交わすケースがある。縁起物の性格から吉日【大安・友引・先勝】を選び、人間の体調が整う最良の時間11時頃に執り行うのが最善とされる。

出席者は新郎・新婦、両家親が基本であるが、兄弟や祖父母も同席するケースもある。席順は西日本式は父親、母親、本人。東日本式は父親、本人、母親である。

新郎家が新婦家へ訪問する場合
  1. 新郎家が結納品を持参の上、新婦家ご自宅へ訪問する
  2. 新婦家は自宅玄関先で出迎える。
  3. 新郎家は到着後、玄関先では正式な挨拶は控え[1]、招かれた座敷(床の間)に結納品を整える。
  4. 新婦家は座敷で結納品が整うまで待機する。
  5. 新郎家は結納品整えた後、結納目録を新婦家代表(親又は本人)へ挨拶し手渡す。西日本では広蓋・富久紗を使用するケースがある。
  6. 新婦家は結納目録を挨拶し受け取り、目録等を改める。
  7. 新婦家は目録・広蓋・富久紗を別室に預かる。
  8. お茶(関西では昆布茶、関東では桜湯)・お菓子(紅白饅頭など生菓子)を持て成し、会食をする。
  9. 会食お開き後、受書を新郎家へ手渡す。西日本では広蓋・富久紗を使用するケースがある。
  10. 新郎家は受書を受け取りお開きとする。
料亭やホテルで執り行う場合
  1. 新郎家は結納会場へ先着し、結納品を整える。
  2. 新婦家は結納開始時間に入室する。
  3. 新郎家は結納目録を新婦家代表(親又は本人)へ挨拶し手渡す。西日本では広蓋・富久紗を使用するケースがある。
  4. 新婦家は座敷で結納品が整うまで待機する。.
  5. 新郎家は結納品整えた後、結納目録を新婦家代表(親又は本人)へ挨拶し手渡す。西日本では広蓋・富久紗を使用するケースがある。
  6. 新婦家は結納目録を挨拶し受け取り、目録等を改める。
  7. 新婦家は受書を進新郎家へ手渡す。西日本では広蓋・富久紗を使用するケースがある。
  8. 新郎家は受書を受け取り改める。
  9. お茶(関西では昆布茶、関東では桜湯)・お菓子(紅白饅頭など生菓子)を持て成し、会食をする。
仲人がある場合
  • 新郎家からの結納納め
    1. 仲人が新郎家へ赴き、結納品を預かる。
    2. 仲人が結納品を新婦家へ持参し手渡す。
    3. 新婦家で仲人をもてなす。
    4. 新婦家が仲人へ結納品の受書を預ける。
    5. 仲人が受書を新郎家へ持参し手渡す。
    6. 新郎家で仲人をもてなす。
    • 新婦家からの結納返し(正式には結納納めの後日改めて行われるが、最近では同日に行われることが多い。この場合、新婦側の受書と結納返しは一緒に受け渡しされる。古い考えを重んじる者の中には、結納返しを結納と同日に行うことを「つき返し」といって嫌う者もいる)
    1. 仲人が新婦家へ赴き、結納品を預かる。
    2. 仲人が結納品を新郎家へ持参し手渡す。
    3. 新郎家で仲人をもてなす。
    4. 新郎家が仲人へ結納品の受書を預ける。
    5. 仲人が受書を新婦家へ持参し手渡す。
    6. 新婦家で仲人をもてなす。

結納・結納返しののちに花嫁道具を納める荷納め(荷物納め)が行われるが、最近では省略されたり、結納返しと同日に行われることも多い。

略式には、

  • 仲人と新郎家がそろって新婦家へ赴き、双方の結納品の授受を行い、新婦家が饗応する。
  • 新郎家・新婦家・仲人が料亭やホテルなどに一堂に会し、双方の結納品の授受を行い、会食する方法などがある。
  • なお、男性が女性の家に婿に入る婿取り婚の場合は新郎家、新婦家の対応が反対となる。
 
金沢老舗記念館内の津田水引による結納品

結納品 編集

結納の品は現物式と、金封式の2つの形式がある。現物式とはお酒、肴、昆布、友白髪などの結納の品を本物で用意する結納の事。基本的には現物式が日本古来からの正式(伝統的)なもの。金封式は現物で用意する品をお金で代用し「本来は用意しなければならないところお金をお渡しするのでご自分でご用意して下さい」という意味合いとなる。金封式の例としては酒料、肴料、酒肴料などがある。 また、結納の品は全て白木の献上台に乗せる。白木であるという事は一度きりしか使わないという強い意思の表れであり、汚れがなく2度使うことはありませんという意味である。 結納品として用いられる物も地域によって多種多様である。結納品にはそれぞれめでたい意味づけがなされている。結納品は水引で豪華に飾られ、一式で数万円から数十万円がかけられる。おおまかに関東と関西でその内容が異なる。結納品の数は5品・7品・9品など奇数とされる。これは陰陽五行説(陰陽道)により奇数は陽数とよび縁起の良い数、偶数は陰数とよび縁起の悪い数とされたことによる。偶数は2で割れることから「別れる」ことに通じるため避けられるというのは俗説で、最近ではさらに偶数でも2だけはペアだから良いとか、本来の意味が失われつつある。

結納品目名の文字は、寿留女、子生婦などのように縁起を担いでおめでたい当て字を使うが、これはところによって様々でありその地方のしきたりや習慣に従うのがよい。末広は寿恵広、寿栄広など、有志良賀は友白髪、友白賀、共志良賀など、鰹節は松魚(節)、勝(男)武士など、家内喜多留は柳樽、柳多留などの書き方がある。また品物名も指輪は結美和、時計は登慶恵というような当て字を使う場合がある。

関東 編集

関東では、新郎・新婦とも同格程度の結納品を用意し、互いに「取り交わす」ものとされる。

結納品は一式ずつ一つの片木台(白木の台)に乗せられる。新婦側では、頂いた結納金の半額を結納金とする半返しと呼ばれるしきたりがある。結納品自体は関西よりもシンプルな物である。家族書・親族書などが付されることもある。下記は結納品の一例。

  • 長熨斗(ながのし):のしアワビ。長寿をイメージし、おめでたい贈り物の象徴である。
  • 目録(もくろく):結納品の品名と数量を記載。関東では長熨斗と目録は贈り物と数えない。
  • 金包包(きんぽうづつみ):結納金をいれる。新郎側の結納金は「御帯料」(おんおびりょう)、新婦側からの結納金は「御袴料」(おんはかまりょう)とも。
  • 勝男節(武士)(かつおぶし):鰹節。男性の力強さをイメージ
  • 寿留女(するめ):スルメ。末永く幸せを願うため
  • 子生婦(こんぶ):昆布。子孫繁栄を表す
  • 友白髪(ともしらが):白い繊維。白髪になるまで夫婦仲良く
  • 末広(すえひろ):本来は男持ちの白扇と女持ちの金銀扇子の一対。省略されて白い扇子一本の場合も。末広がりの繁栄を願うため
  • 家内喜多留(やなぎだる):酒樽。家庭円満をイメージ

関西 編集

関西では、結納品は新郎側から新婦側へ「納める」ものとされる。新郎側が新婦宅や結納会場に合わせて、結納品を選ぶ。結納品の基本は、1熨斗(のし)、2末広(すえひろ)、3帯地料(おびじりょう)又は婚約記念品、4柳樽(料)(やなぎだるりょう)、5松魚(料)(まつうおりょう)の5点が基本で、その他は贈り物であるから、婚約記念品の代表的に婚約指輪をはじめ、着物【帯、着物】宝飾品【時計、ネックレス、】を添える。縁起物の性格上、5点、7点、9点、11点と割れない奇数を揃える。新婦側は結納を受け取った証しに受書を渡す。地域によって結納返しとして、頂いた結納品より小さい結納返し品に、結納金の1割の額を、袴地料として結納返しとして贈る。結納品は関東よりも豪華な物となる。家族書・親族書などが付されることもある。下記は結納品の一例。

  • 熨斗(のし):神事や祭典で献上される鮑を、畳表で伸ばし【のし】夫婦の長寿を願う縁起物。「鶴の水引飾り」と、熨斗押えの「打ち出の小槌」が添えられる。
  • 末広(すえひろ) 「寿恵廣」お目出度い事がずっと広がりますように、との意味で婚礼用の儀式扇子を贈る。「亀の水引飾り」が添えられる。
  • 帯地料(おびじりょう)本来は帯や着物を贈っていたが、大正時代頃にこのお金で好みの帯や着物を買ってください、との意味からお金に変わった。今でも、結納の発祥の地=京都の伝統ある家庭ではお金ではなく、帯や着物を贈られる場合もある。関西では大半が帯地料であるが、大阪などは「小袖料」、神戸では「宝金」という)。一般的に「の水引飾り」添えられる。 帯地料が多い理由は、着物の世界では帯が格付けが上位に位置するから。
  • 結美和(ゆびわ):婚約指輪。
  • 高砂(たかさご):ワシは99歳まで、お前は100歳まで、仲良く、お互い長生きしましょう、仲睦まじく添い遂げましょう、との願いを人形に込める。尉(じょう。老翁。)と姥(うば。老婆。)の人形。別名 尉姥人形【じょうとんばにんぎょう】。
  • 寿留女(するめ):関東と同じ意味。
  • 子生婦(こんぶ):関東と同じ意味。
  • 柳樽(料)(やなぎだるりょう):本来は柳で作った樽で夫婦一対でお酒を酌み交わす事から、1対【2本】の日本酒を持参した、現代では持参するのが大変である、との意味でお金で省略している。
  • 松魚(料)(まつうおりょう):本来は雄と雌の真鯛を贈っていたが、持参するのが大変である、との意味でお金で省略している。肴料。一般的に「の水引飾り」添えられる。

酒料。一般的に「の水引飾り」添えられる。

松魚料と柳樽料の合計金額は結納金の1割までを包む。昨今は、結納時には受ける側で祝宴の持て成しを用意する為、持て成される食事代金程度を包むケースが多い。

結納品の水引折型 編集

結納の品は、和紙で包み水引で結ぶが、現在に見る豪華で立体的な包装手法、また造形的な水引結び(水引細工)は大正時代初期に石川県金沢市の津田左右吉(つだそうきち)氏が創案した。それまで平面的であった結納品の包装手法を豪華で芸術的な水引折型に昇華させ加賀水引として金沢の希少伝統工芸として定着した。加賀水引は津田水引折型(石川県金沢市)が現在も継承している。

結納金 編集

結納金とは、結納の際に新郎家から新婦家へ贈られる金銭であり、本来贈られていた帯地や着物地に代わる物である。「御帯料」「小袖料」「帯地料」などと呼ばれる。元々は「この衣装を着て、どうかお嫁に来てください」という意味なので、結納金は「結婚式の式服代」に使うためのお金になるが、実際には、新婚生活の準備資金など、どのように使っても良い。なお、結婚情報誌などで新郎の給料の2か月分ないし3か月分、あるいは全国平均で〇〇万円等と記載されているが、これは雑誌側が提案したものであり、従う必要は無い。本来は、奇数であれば幾らでもよく、一般的には100万円、70万円、50万円、30万円等が用いられる(0を省いた数字で奇数と見る)。「9」は奇数だが「苦」の語呂となるので使わない。「8」は末広がりで縁起が良いイメージがあるが、偶数なので結納金には使わない。奇数を用いるのは、奇数は「分かれない」ため縁起が良いというものである。

先方に敬意を払い、結納金だけ渡すと失礼【礼儀を失う】との観点から、献上台に置き、熨斗・末広を添えて献上する。 関西・近畿地方や九州地方など西日本では、結納品全体は飾った状態で、結納金と目録だけを広蓋盆や白木台などの献上台に載せて新婦側父親に手渡しをする。中部地方・関東地方では、手渡しを行わず、結納金・目録は他の結納品と一緒に飾ったままで、口頭で挨拶を述べる形式が主流である。

また、結納は献上する儀式から、決して支度金とはしない。

支度金とは、目下の者や、妾(めかけ)に使う言葉であり、この場合、失礼な言葉とされる。

新婦側は、一定の金品を、結納返しとして新郎側へ贈る。着物地に対して袴地を贈ったことから、「御袴料」(おんはかまりょう)、「袴地料」とも呼ばれる。

また、男性が入り婿として女性の家に入る場合は、一般的には男性から送る結納金の倍だといわれている。

結納と法律 編集

判例によれば、結納とは「他日婚姻ノ成立スヘキコトヲ予想シ授受スル一種ノ贈与」(大判大6・2・28民録23輯292頁)、「婚姻の成立を確証し、あわせて、婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与」(最判昭39・9・4民集18巻7号1394頁)をいう[2]

結納の法的性質については、一種の証約手付であるとする手付説、婚姻成立を目的とする一種の贈与であるとする贈与説、婚姻成立を解除条件とする付贈与であるとする解除条件付贈与説、折衷説が対立するが、上のように判例は贈与説をとる[3]

結納はその目的たる婚姻が成立すれば返還は問題とはならない[2]。婚姻は届出のある場合に限らず、事実上の婚姻関係(内縁を含む)の成立で足りる(通説・判例。判例として大判昭3・11・24新聞2938号9頁、最判昭39・9・4民集18巻7号1394頁)[4][5]

一方、結納など婚姻の成立を最終目的として授受された金品は、その婚姻が不成立となれば不当利得となり返還義務を生じる[4][6]。事実上の夫婦関係の成立が認められない場合は返還義務を生じる(大判昭10・10・15新聞3904号16頁)[7]。双方の合意解消の場合、各当事者は返還義務を負うことになる(大判大6・2・28民録23輯292頁)[7]。一方的な解消の場合には、解消について責めを帰すべき者(有責者)は返還義務を免れず、また、相手方に対する返還請求についても否定される[7][4]

脚注 編集

  1. ^ 玄関先で正式な挨拶を控える理由は、他言は無用、おしゃべりをして縁起悪い言葉を言わないや、結納は一生に一度だから、結納の挨拶を何回もしないようにと言う意味
  2. ^ a b 青山, 有地, 1989、 167頁
  3. ^ 川井, 2007、9-10頁
  4. ^ a b c 川井, 2007、 10頁
  5. ^ 青山, 有地, 1989、280-281頁
  6. ^ 青山, 有地, 1989、280頁
  7. ^ a b c 青山, 有地, 1989、281頁

参考文献 編集

  • 青山道夫; 有地亨『新版注釈民法(21)親族(1) 総則・婚姻の成立・効果 -- 725条~762条 【復刊版】』有斐閣〈有斐閣コンメンタール、1989年12月。ISBN 4-641-91466-4 
  • 川井健『民法概論5親族・相続』有斐閣、2007年4月。ISBN 4641134863 

関連項目 編集

外部リンク 編集