統合機動防衛力(とうごうきどうぼうえいりょく、英語Dynamic Joint Defense Force)とは、動的防衛力に代わり2013年12月17日に閣議決定された平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について(25大綱)において示された防衛力整備の基本概念のこと。

概要 編集

2010年の平成23年度以降に係る防衛計画の大綱(22大綱)において、それまで30年以上に渡って堅持されていた「基盤的防衛力」は「動的防衛力」に代えられ、より柔軟に各種事態に対応できるよう示された。しかし、日本周辺および世界の安全保障環境は劇的変化を継続しており、新たに示された概念では対応しきれない事態が想定されるようになる。

2013年9月から12月の間、自民党安全保障調査会・外交部会・国防部会合同会議は8回、公明党外交安全保障調査会は6回、与党安全保障プロジェクトチームは6回、それぞれ検討状況について議論が交わされた[1]。新大綱の検討内容には敵基地攻撃能力の整備や武器輸出三原則の見直しが含まれていた。

同年12月11日、動的防衛力に代わり統合機動防衛力が新たな防衛力整備の基本概念として、与党プロジェクトチームにおいて了承される。同日、総理大臣官邸で開催された有識者会議では安倍晋三首相は「今後のわが国のありようを決定する歴史的な文書になる」と述べている[2]

同年12月17日、政府は国家安全保障戦略と平成26年度以降に係る防衛計画の大綱(25大綱)を発表する。ここにおいて抑止概念は二度目の変更がなされる。新概念である統合機動防衛力は新大綱で示されたグレーゾーン対処や島嶼防衛、ミサイル防衛などの多様に事態に対し、限られた国家資源の有効活用を目指しつつ統合運用のさらなる深化を目指す。

新たに示された25大綱に基づき、能力構築を積極的に推進させるために防衛副大臣を委員長とする統合機動防衛力構築委員会が設置される[3]

統合機動防衛力の要旨は以下に引用する。

  • 装備の運用水準を高め、その活動量を増加させ、統合運用による適切な活動を機動的かつ持続的に実施していくことに加え、防衛力をより強靭なものとするため、各種活動を下支えする防衛力の「質」及び「量」を必要かつ十分に確保し、抑止力及び対処力を高めていくことが必要。
  • 安全保障環境の変化を踏まえ、想定される各種事態について、統合運用の観点から能力評価を実施し、総合的な観点から特に重視すべき機能・能力についての全体最適を図るとともに、多様な活動を統合運用によりシームレスかつ状況に臨機に対応して機動的に行い得る実効的なものとしていくことが必要。

(上記内容を構築すべく)

  • 幅広い後方支援基盤の確立に配慮しつつ、高度な技術力と情報・指揮通信能力に支えられ、ハード及びソフト両面における即応性、持続性、強靱性及び連接性も重視した防衛力

—  [4]

動的防衛力との違い 編集

新大綱では、強力なリーダーシップの下で迅速な意思決定、地方公共団体、民間団体などとも連携を図りつつ、事態の推移に応じ、政府一体となってシームレスに対応することで国民の生命財産と国土防衛をなすと明記される[5]。根底にある考え方は2010年に民主党がまとめた前大綱と大きく変わらないものの、新中期防衛力整備計画では防衛費を増額させ新型ティルトローター機や無人偵察航空機の導入、水陸機動団の新設計画を示すことで防衛力強化の姿勢を示している[6]。新概念では統合運用の徹底、海上・航空優勢の確保や機動展開能力の整備、指揮統制・情報通信能力の強化、幅広い後方支援基盤の確立を挙げている[7]ものの、日本国際問題研究所の小谷哲男は、統合機動防衛力は動的防衛力の更新版であるとの評価を下している[8]

統合機動防衛力は、厳しさが増した日本周辺の安全保障環境に対応不十分になる可能性が生じより烈度の高い事態に対応し得るように、ISR活動を中心とした抑止概念である動的防衛力に代わり、新たな抑止力の考え方としての性格を持たせた。その違いは概念の説明文において「機動性」、「柔軟性」および「多目的性」の文言が「強靱性」および「連接性」に入れ替わったと指摘されている。これにより動的防衛力で示された内容よりも質と量を必要かつ充分に確保し抑止力および対処力を高めると説明されている[9][10]。このように強化された新概念で、ハードおよびソフト両面における即応性、持続性、強靱性および連接性も重視する防衛力に進化している[5]。この新概念が与党プロジェクトチームで了承された際も、「多様な活動を継ぎ目なく機動的に行える、実効的なものにする考え方だ」と評価されている[2]

脚注 編集

  1. ^ 財務省『ファイナンス』、中村 稔 平成26年度新防衛大綱・新中期防と防衛関係費について (PDF) 2014年4月
  2. ^ a b “「統合機動防衛力」掲げる 防衛大綱の基本概念”. 産経ニュース. (2013年12月11日). オリジナルの2016年3月4日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160304194018/http://www.sankei.com/politics/news/131212/plt1312120037-n1.html 
  3. ^ 統合機動防衛力構築委員会”. 防衛省. 2017年8月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月29日閲覧。
  4. ^ 新たな防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画~「統合機動防衛力」の構築に向けて~” (PDF). 防衛省 (2014年1月21日). 2018年11月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年12月29日閲覧。
  5. ^ a b 防衛省 「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)について」
  6. ^ “防衛大綱を閣議決定 武器輸出三原則の見直しへ【争点:安全保障】”. ハフィントンポスト. (2013年12月17日). https://www.huffingtonpost.jp/2013/12/16/basic-defense-program_n_4456761.html 
  7. ^ 防衛省 新たな防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画 「統合機動防衛力」の構築に向けて (PDF)
  8. ^ “Balancing the Rise of Maritime China: Japan’s Dynamic Joint Defense Force” (英語). cogitASIA CSIS Asia Policy Blog. (2014年4月23日). http://cogitasia.com/balancing-the-rise-of-maritime-china-japans-dynamic-joint-defense-force/ 
  9. ^ 参議院『立法と調査』、沓脱和人、今井和昌 「積極的平和主義」と「統合機動防衛力」への転換 2014年2月 (PDF)  
  10. ^ 平成26年度版防衛白書 <解説>「動的防衛力」と「統合機動防衛力」の差異について

参考文献 編集

関連項目 編集