羊たちの沈黙 (映画)
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『羊たちの沈黙』(ひつじたちのちんもく、The Silence of the Lambs)は、1991年のアメリカ合衆国のサイコスリラー映画。監督はジョナサン・デミ、出演はジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレンなど。原作はトマス・ハリスの同名小説。 連続殺人事件を追う女性FBI訓練生と、彼女にアドバイスを与える猟奇殺人犯で元精神科医との奇妙な交流を描く。
羊たちの沈黙 | |
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The Silence of the Lambs | |
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監督 | ジョナサン・デミ |
脚本 | テッド・タリー |
原作 |
トマス・ハリス 『羊たちの沈黙』 |
製作 |
エドワード・サクソン ケネス・ウット ロン・ボズマン |
製作総指揮 | ゲイリー・ゴーツマン |
出演者 |
ジョディ・フォスター アンソニー・ホプキンス スコット・グレン テッド・レヴィン |
音楽 | ハワード・ショア |
撮影 | タク・フジモト |
編集 | クレイグ・マッケイ |
製作会社 | Strong Heart Productions |
配給 |
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公開 |
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上映時間 | 118分 |
製作国 |
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言語 | 英語 |
製作費 | $19,000,000[1] |
興行収入 |
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配給収入 | 🇯🇵7・7億円 |
次作 | ハンニバル |
第64回アカデミー賞で主要5部門を受賞。アカデミー賞の主要5部門すべてを独占したのは『或る夜の出来事』、『カッコーの巣の上で』に次いで3作目である。 本作はアカデミー作品賞を受賞した唯一のホラー映画でもある。2011年にはアメリカ国立フィルム登録簿に新規登録された。
物語の主役である精神科医のレクター博士はアンソニー・ホプキンスが演じ、アカデミー主演男優賞を受賞した。続編である『ハンニバル』でもホプキンスがレクターを演じている。もう一方の主役のFBI訓練生、クラリス・スターリングを演じたジョディ・フォスターもアカデミー主演女優賞を受賞しているが、こちらはホプキンスと異なり、続編には出演していない[注 1]。
あらすじ編集
カンザスシティをはじめとしたアメリカ各地で、若い女性が殺害され、皮膚を剥がされるという連続猟奇殺人事件が発生。逃走中の犯人は、「バッファロー・ビル」と呼ばれていた。
FBIアカデミーの実習生クラリス・スターリングは、バージニアでの訓練中、行動科学課(BSU)のクロフォード主任捜査官からある任務を課される。クロフォードは、バッファロー・ビル事件解明のために、監禁中の凶悪殺人犯の心理分析を行っていたが、元精神科医の囚人ハンニバル・レクターは、FBIへの協力を拒絶していた。クラリスは、クロフォードに代わって事件に関する助言を求めるため、レクターの収監されているボルティモアの州立精神病院に向かう。
レクターは、当初は協力を拒んでいたものの、やがてクラリスに自身の過去を語らせることと引き換えに、助言することを約束する。そして、クラリスは父親の死を受けて伯父に預けられた過去を話し、そこで明け方に伯父が羊たちを屠殺するのを目撃したことがトラウマとなっていることを明かす。
一方、新たに上院議員の娘がバッファロー・ビルに誘拐される事件が発生したため、精神病院院長チルトンは、自身の出世のためにレクターを上院議員に売り込む。議員である母親は、捜査協力の見返りとして、レクターを警備の緩い刑務所へ移送させることを約束する。しかし、レクターは、移送の隙をついて警備の警察官や救急隊員たちを殺害して脱獄を果たす。
クラリスは、レクターが示唆した数々のヒントによって、犠牲者たちの足跡をたどり、訪れたある民家に住む男性がバッファロー・ビルであると確信する。単身で民家の地下室へ踏み込んだ彼女は暗闇の中、間一髪で犯人を射殺し、人質を無事助け出す。
事件は解決し、その後、同期生たちと共に正式なFBI捜査官となったクラリスの元に、逃亡中の身であるレクターから電話が入る。レクターは、彼女のトラウマが解消されたかどうかを尋ね、事件解決と捜査官への就任を祝福し、「I'm having an old friend for dinner.」という言葉でチルトン殺害をほのめかして通話を終えると、彼の背中を追って人混みの中に姿を消す。
登場人物編集
- クラリス・スターリング
- FBI訓練生。
- ハンニバル・レクター
- 精神病院に収監されている天才的な精神科医。
- ジャック・クロフォード
- 行動科学課の主任。
- バッファロー・ビル
- 巷を騒がせている連続殺人鬼。
- フレデリック・チルトン
- 精神病院の院長。
- アーディリア・マップ
- クラリスのルームメイト。
- キャサリン・マーティン
- 上院議員の娘。
- ルース・マーティン
- 上院議員。
- バーニー
- 精神病院でレクターを担当する看護師。
キャスト編集
役名 | 俳優 | 日本語吹替 | ||
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VHS版 | テレビ朝日版 | DVD・BD版[注 2] | ||
クラリス・スターリング | ジョディ・フォスター | 勝生真沙子 | 戸田恵子[2] | 佐々木優子 |
ハンニバル・レクター | アンソニー・ホプキンス | 金内吉男 | 石田太郎 | 堀勝之祐 |
ジャック・クロフォード主任捜査官 | スコット・グレン | 有川博 | 家弓家正 | 有本欽隆 |
バッファロー・ビル | テッド・レヴィン | 牛山茂 | 曽我部和恭 | 家中宏 |
フレデリック・チルトン医師 | アンソニー・ヒールド | 小島敏彦 | 堀勝之祐 | 石井隆夫 |
アーディリア・マップ | ケイシー・レモンズ | 松本梨香 | 高山みなみ | 湯屋敦子 |
キャサリン・マーティン | ブルック・スミス | 喜田あゆ美 | 中沢みどり | 水田わさび |
ルース・マーティン議員 | ダイアン・ベイカー | 此島愛子 | 谷育子 | 藤木聖子 |
バーニー | フランキー・R・フェイソン | 中村秀利 | ||
ヘイデン・バークFBI長官 | ロジャー・コーマン | 登場シーンカット | ||
メンフィスのFBI捜査官 | ジョージ・A・ロメロ (ノンクレジット) |
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プレシャス | Darla (タレント犬 ビション・フリーゼ) |
- VHS版吹替
- テレビ朝日版吹替 - 1995年3月19日『日曜洋画劇場』
- DVD・BD版吹替
- 翻訳:小川裕子
反響編集
主な受賞編集
- 第64回アカデミー賞
- 作品賞:エドワード・サクソン/ケネス・ウット/ロン・ボズマン
- 監督賞:ジョナサン・デミ
- 主演男優賞:アンソニー・ホプキンス
- 主演女優賞:ジョディ・フォスター
- 脚色賞:テッド・タリー
- 第57回ニューヨーク映画批評家協会賞
- 第41回ベルリン国際映画祭
- 銀熊賞(監督賞):ジョナサン・デミ
- 第49回ゴールデングローブ賞
- 主演女優賞 (ドラマ部門):ジョディ・フォスター
- 第18回サターン賞
- 第34回ブルーリボン賞
抗議編集
- 本作はバッファロー・ビルの描写にあたって、差別を助長しかねないとしてゲイ団体より激しい抗議を受けた。監督のジョナサン・デミは次作で「フィラデルフィア」を製作し、その声に謙虚に応えた。
製作編集
準備編集
当初、トマス・ハリスから原作権を購入したのは、オライオン・ピクチャーズとジーン・ハックマンであった。当時、オライオン・ピクチャーズとハックマンは提携を結んで権利を購入しており、ハックマン自身が監督を務めると共にジャック・クロフォード役で主演する予定だった[3]。しかし、テッド・タリーが脚本を執筆中にハックマンはプロジェクトから離脱し、その影響で資金調達も途絶えることとなる。だが、オライオン・ピクチャーズは改めて単独で資金調達を担当。後任の監督にジョナサン・デミが決定してからは、プロジェクトは急速に進んだという[4]。
キャスティング編集
クラリス役は当初、ジョナサン・デミの希望でミシェル・ファイファーとメグ・ライアンが候補に上がるが、共に本人がオファーを辞退[5][6]。当初からクラリス役に興味を持ち、デミに自身を売り込んでいたジョディ・フォスターが役を得た[7]。
レクター博士はスタジオ側がショーン・コネリーを希望したが、コネリーはオファーを拒否、第2候補だったホプキンスに役が回ってきた[8]。
本作に登場するバッファロー・ビルの被害者たちの写真は、実在の女優らを使って撮影されたものである。
演技およびタイトル編集
クラリスの上司、ジャック・クロフォードのモデルはロバート・K・レスラーらと共に犯罪捜査におけるプロファイリングの技術を確立したFBI捜査官のジョン・ダグラスである。
アンソニー・ホプキンスによると、レクター博士が発する声は『2001年宇宙の旅』のHAL9000の声と、作家トルーマン・カポーティの話し方を参考にしたという[9]。ちなみに、レクターの日本語吹き替えをVHS版で担当した金内吉男は、HAL9000の吹き替えを持ち役にしていた。
キャサリン・マーティンがカーラジオに合わせて歌う曲は、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの「アメリカン・ガール」。バッファロー・ビルが女装する時にBGMにしているのは、アメリカの女性歌手ク・ラザローの「グッバイ・ホーセズ」。レクターが移送中の檻の中で聴いているのは、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」である。
タイトルの「羊たち」が指すのは、クラリスの幼少期に救えなかった子羊たちであり、彼女のトラウマである。彼女がFBI捜査官となり上院議員の娘を救うことによって、トラウマを克服する(羊たちの悲鳴が止む)という物語である。
公開編集
クレジットでも確認できるように、本作は元々は1990年に公開予定だった。しかしオライオン・ピクチャーズは同じく1990年に公開だった『ダンス・ウィズ・ウルブズ』とアカデミー賞を分け合うことを嫌い、1991年に延期された。そして同年2月14日のバレンタインデーに公開された。年の早い時期の公開はアカデミー賞には不利と言われていたが、史上3作目の主要5部門を受賞し、2021年現在でも4作目は出ていない。
スピンオフ編集
映画の一年後を描くドラマシリーズ"Clarice"が企画されている[10]。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ a b c “The Silence of the Lambs (1991)” (英語). Box Office Mojo. 2010年7月5日閲覧。
- ^ “フキカエ”. 戸田恵子オフィシャルブログ (2013年9月26日). 2013年9月26日閲覧。
- ^ Tiech, John (2012). Pittsburgh Film History: On Set in the Steel City. Stroud, Gloucestershire: The History Press. p. 63. ISBN 978-1-60949-709-5
- ^ Scott, Kevin Conroy (April 28, 2006). Screenwriters' Masterclass: Screenwriters Discuss their Greatest Films. New York City, New York: HarperCollins. p. 17. ISBN 978-0-571-26158-1
- ^ The Barbara Walters Special, American Broadcast Company, 1992
- ^ Davis, Cindy (2015年4月2日). “'Silence of the Lambs' director admits he didn't want to cast Jodie Foster”. NME. London, England: TI Media. 2018年1月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月14日閲覧。
- ^ Maslin, Janet (1991年2月19日). “How to Film a Gory Story With Restraint”. The New York Times. 2015年1月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月14日閲覧。
- ^ Odam, Matthew (2013年10月26日). “AFF panel wrap: Jonathan Demme in conversation with Paul Thomas Anderson”. Austin American-Statesman. Austin, Texas: Cox Media Group. 2014年11月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月15日閲覧。
- ^ “How Anthony Hopkins Created And Became The Character Of Hannibal Lecter”. LadBible.com. LADbible Group, Inc.. 2021年3月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月5日閲覧。
- ^ “『羊たちの沈黙』ドラマ版、アンチヒーローストーリーに!?主人公クラリスはどのように描かれるのか分析”. 2021年1月3日閲覧。
関連項目編集
- プロファイリング - 本作をきっかけに日本でも広く知られ、使われるようになった言葉。
- ロバート・K・レスラー - 元FBI行動科学課の捜査官。プロファイリング技術の確立に貢献。
- メンガタスズメ - 学名アケロンティア・スティクス(Acherontia styx)。劇中における重要なガジェットであり、ポスターやジャケットにも登場する。
- 羊たちの沈没(原題:The Silence of the Hams) - 本作をパロディしたコメディ映画。