自主防災組織

自主防災組織(じしゅぼうさいそしき)とは、災害対策基本法第5条2において規定されている、地域住民による任意の防災組織である。

目次

概要編集

主に町内会自治会が母体となって地域住民が自主的に連帯して防災活動を行う任意団体であるが、具体的には町内会・自治会防犯部といった組織や、地域の婦人防火クラブ、その他防災関連のNPOなどがその例である。また、地域住民の構成する消防防災機関としては消防組織法に定める公共機関としての消防団が存在するほか、水防法においては水防団が設置されているが、これらは公共機関としての位置付けであり、あくまで任意の組織である自主防災組織とは一線を画す。

防災NPOの活動も活発化しているほか、市町村、とりわけ消防本部において防災ボランティア等の登録制度を設けているところも多い。また、企業においては一定の危険物を取り扱う事業所については、消防法において自衛消防組織を設置しなければならないとされているほか、石油コンビナートなどの業務を行う特定事業者については石油コンビナート等災害防止法によって自衛防災組織を設置義務付けされている。さらに、原子力事業者については原子力災害対策特別措置法によって原子力防災組織の設置が義務付けされている。これらの組織を総称して『自主防災組織』と称されることもあるが、あくまで便宜的な用法であって、法的にいうところの『自主防災組織』とは、あくまで地域住民などによる地域単位の組織を表す。

結成方法編集

自主防災組織の結成には、各地域を管轄する行政によって決められた基準に基づいて組織作りをする必要がある。組織作りは、町内会・自治会・マンションの管理組合などの既存の地域組織で結成の決議を採択し、設置を決めるのが主な手順である[1]。その過程で行政に相談することも多い。消防法規にもある通り、市町村においても自主防災組織結成を奨励しているのが常である。(兵庫県神河町では、消防団員を除く町民全員を会員としている。)さらに、結成した組織については行政との協力機関として地域防災計画その他行政の消防防災ハンドブック等にも記載され、行政から情報提供などの支援が受けられる。

役割編集

自主防災組織の役割が期待されているのは、防災というように地域住民が協力して日ごろの火災の防止(火の用心の見回り、啓発、防災グッズの購入)や消火訓練、避難訓練を行うことである。実際の火災等の突発事態が発生した場面における自主防災組織の役割は、当局への通報或いは消火器消火栓を住民みずからが駆使しての初期消火および応急処置に努めることにある。また、大規模災害において地域住民同士の連携による避難及び避難生活に必要な活動、災害弱者の情報を把握し、安否確認について必要な情報を消防に連絡する。消防に頼れない状況においては、例えば壊れた建物に閉じ込められた人を身近な工具や自家用車に備え付けのパンタジャッキ等を使用して主体的に救出する。 有事における非常勤公務員の立場にある消防団員や、法律上、設置が義務付けられている事業所等の防災組織(自衛消防隊等)とは異なり、あくまでも住民の善意と自主性に基づく活動である。よって、自主防災組織の構成員には特に公の責任や権利義務というものは発生しない。有事の際には、行政から任意で何らかの協力を要請されることもあるが、これを引き受ける義務はない。

防災をめぐる情勢としては、社会全体に占めるサラリーマン人口の増加や全国的な常備消防の整備率も向上したことにより、消防団はおろか自主防災組織が通常火災等に出動するケースは見られない。しかし、近年は地震や台風など自然災害の頻発により、地域における突発事態に関しては、その役割は大いに期待されているところである。都市化の進展や少子高齢化、核家族化などあらゆる要因があいまってコミュニティの希薄化が顕著である一方、地方分権の進展の中で情報公開の進展により住民の行政活動への関心の高まり行政参加、住民参画といった形で地域住民としての公共活動の高まりも見受けられる。とりわけ、災害に対しては大規模災害時における地方公共団体並びに消防の装備資機材や公共サービス業務のマンパワーも限界が指摘されているところであり、地域住民主体の自主防災活動への取り組みが期待されている。近年の突発事態の事例から導き出される課題は、消防が駆けつけるまでの間、自主防災組織が被害を最小限に食い止めんと努力することができるか否かである。これには、地域住民が消火器や工具の使用方法や応急救護措置の要領、或いは危険な現場から迅速に避難する要領を心得ていることも重要だが、自主防災組織が地域にある消火栓の操法を習得することが鍵となる。

住民の自主的な防災活動及びそうした活動への参加手段としては、地域や職場で自主防災組織を旗揚げするほかにも、消防団への入団、市町村或いは消防署にて設けている公の防災ボランティアへの登録などの方法がある。さらに防災NPOなどの組織がある場合はそちらの選択肢もある。

沿革編集

太平洋戦争後、戦後混乱期以降の日本では、大規模な災害はそれ程多くはなく、甚大な被害が生じることは稀であった。そのため、防災の主柱は行政(消防機関や防災部門)が担うこととされ、消防庁などの国家機関は、行政主体の防災力の構築を進めていた。

1995年1月に発生した阪神・淡路大震災は、数千人の死者発生と阪神淡路島地域の行政・経済機能停止という大被害をもたらし、従来の防災観を大きく揺さぶった。この震災を検証したところ、行政がなし得た役割はごく僅かであり、防災のために最も機能したのは地域住民だったことが判明した(被救出者の98%は住民自らの活動による)。消防や警察を含む行政の組織が有する人的資源は、あくまでも平時を想定した規模にとどまり、人的資源を大量に投入する必要のある大規模災害時には絶対的に不足するが、だからと言って大規模災害に備えた組織づくりを断行すれば莫大なコストを費消するため、納税者の負担を考慮すれば現実的に不可能である。そこで着目されたのが、事業者や地域住民の連帯による防災活動であった。地域住民による平時からの自助・共助の営みこそが、緊急時の危機管理において最大の効果を発揮するのである[2]

そこで、1995年(平成7年)以降、行政における消防力・防災力の強化と並行して、住民による自主防災組織の育成が防災行政の重要項目に据えられることとなった。さらに、2000年(平成12年)頃から東海地震、東南海・南海地震などの発生が予測されるようになると、自主防災組織は、防災行政の最重要事項と認識されていき、各自治体はその育成に積極的に取り組むこととなった[3]。平時からの住民の交流の重要性は、2004年、2007年に発生した中越地震においても証明されることになった[4]

また、近年、自然災害やヒューマンエラーといった従来型の脅威に加えて、重要影響事態朝鮮戦争終結後は起きた例はない 日本は日本国憲法第9条第2項に基づき、実際に攻められない限り手を上げない定めになっている)やテロリズム(1970年代以後は起きていない オウム真理教事件は特異な例)など、多様化する国際情勢の中で日本はマルチハザード社会となっており、民間防衛も地域社会にとって重要なテーマとなりつつある。

現状と課題編集

高まる結成率と実態との乖離編集

前述のとおり、阪神・淡路大震災を機に、全国で自主防災組織の結成が進んだ。2009年(平成21年)4月1日現在、1,658市区町村で13万9,316の自主防災組織があり、全世帯に占める自主防災組織の活動カバー率は73.5%である[5]。ただし、県行政レベルで結成率の向上を掲げていることを受けて、市町村によっては、地区町内会長を集めて一斉研修を行い、形式だけを整えさせて結成届けを提出させることで、結成率100%を達成しているところもあり、結成率だけを見ても実態を把握することはできない[6]

実際に、メンバーの高齢化と訓練不足が問題になっており、「実際に災害にどれだけ対応できるか」と疑問を呈する専門家もいる[7]。前述の統計では、各地域では住民の7割が自主防災組織に籍を置いていると解釈することもできるが、実際には活動に参加しない幽霊会員が構成員の大半である。平成不況による格差社会の進行によって、地域住民の個人的な社会的地位や雇用形態に相違が目立っていることも、幽霊会員の増加に輪をかけており、各地域の自主防災組織で定期的に行われている訓練や勉強会への参加者は極めて少ないのが現状である。幽霊会員が構成員の大半を占めていることから、活動するために必要な人数を確保できず、地域によっては自主防災組織が機能不全に陥っている。災害発生時に実質的に機能するのは、せいぜい1~2割との指摘もされている[6]

活性化の条件編集

したがって、弱体化した地域社会(硬直した町内会)に自主防災の機能を持たせようとしてもうまくはいかない。自主防災活動を、地域内外に新たな人間関係(社会関係資本)を生み出していく契機として捉え直し[8]、さらには、暮らしに根ざした新たなコミュニティを形成していく触媒として捉える視点が必要とされている[9]。既存組織をベースとして自主防災組織の役割分担を決め、規約を作成するだけでは新たなつながりはなかなか生まれないし、有効に機能することもない。したがって、既存組織を超えるつながりや「学習」を生み出すためには、地域内外の防災NPOなどの関与・支援も求められている[10]

たとえば、防災マップは地域内で共同作成することによって、はじめて災害に対する意味のある訓練や柔軟な取り決めがはじめて可能になるが[8]、そのなかでNPOの果たす役割が指摘されている。災害に対する知識と経験を有する外部NPOのサポートによって「防災マップを共同作成することで、コミュニケーションが生まれ、役割が生まれ、ルールが生まれる」という「次につながる防災マップ」が不断に作り直されていくのである[11]。他方で、外部のNPOの支援を受けることなく、自主学習により、連合町内会単位で自主防災の枠組みを作り出したことをきっかけとして、連合町内会をコミュニティの単位としたさまざまな社会的活動、経済的活動を生み出すことに成功しているケースもある[12]。個々人の特技が生かせる役割を、自発的に担ってもらう方法もある(アマチュア無線家はトランシーバーの取り扱いと通信技能に長けているので情報通信担当、キャンプ好きの人は糧食供給担当など)。

消防団との相違点編集

消防団と自主防災組織は地域住民が主体となって地域の火災や災害の拡大を予防し抑制していくという点において同じである。但し、消防団は消防組織法に規定された公共機関であって消防団員は非常勤の特別職地方公務員であるのに対して、自主防災組織はほとんどの場合、任意団体である町会や自治会などが主体となる。

よって、消防団員にはある程度の職権を有するとともに技術の習得が望まれ、場合よっては公務員としての制約を受けるが(消防団員の地位を利用して選挙活動、政治活動を禁止するなど)、自主防災組織のそれはあくまで自発的な取り組みに期待されているということである。こうした特徴の違いから消防団員の負傷は一定の報酬及び被服等の支給・貸与とともに公務災害補償の制度が整っており、自主防災組織についても市町村条例等において応急措置従事者及び婦人自主防災クラブ員などが消防作業従事者として消防団員の公務災害補償に関する条例が援用され公的補償を受けることができることがある。但し、自主防災組織は公共機関たる消防団とは異なることから基本的には災害対策基本法ないし市の事業として行った訓練等、その援用には一定の条件があるところが多い。

消防団には公共機関として一定の能力権限の下で災害対策や国民保護における活動が求められるのに対して、自主防災組織は多くの地域住民が協力して被害の拡大を防ぐというものであり、法的な設置根拠、機関の構成、制度、権利義務、目的において基本的に異なる。近年は自主防災組織の強化のために消防団縮小策がとられる傾向もあるが、総務省消防庁としてはこの設置根拠の違いから、それぞれの機能と役割を明確に区別するとともに消防団と自主防災力が相互にバランスよく機能するようにするための施策を推進している[13]

自衛消防団編集

自主防災組織の中には自衛消防団という名称の団体もあるが、これは消防組織法にいうところの消防団や自衛消防組織とは無関係であり、あくまで自主防災組織である。したがって自衛消防団という名称で組織が編成されている場合、役職は団長や副団長などが置かれているなど、消防団と類似した名称が用いられることもあるが、これらは消防団員の階級としての団長・副団長を意味するものではない。中には消防団と自衛消防団が混同されることもあるので、注意をはらう必要がある。とりわけ、消防団では機能別消防団の制度を導入し、自主防災組織との連携を図っているところであり、一層明確な区別が必要とされる。

機能別消防団員制度編集

近年、自主防災組織と同じく地域の防災の担い手であった消防団において、機能別消防団員の制度が整備され、自主防災組織のリーダーを機能別消防団員の一種、大規模災害団員として迎える施策がとられつつある。これは、大規模災害時においてともに地域の災害対策にあたる消防団と自主防災組織の一層の協力関係を形成し、地域防災力の強化を図るものであり、今後、機能別消防団員制度を導入した市町村を中心に自主防災組織のリーダーの機能別消防団員任用の例が増えるものと思われる。

緊急事態との関わり編集

災害対策基本法及び国民保護法などの緊急事態に関連した法律においては避難その他の活動において国民の協力の必要性について規定している。その参加手段として自主防災組織などのボランティア団体があげられており、地域単位での防災活動や災害時の応急処置、屋内退避、地域住民の組織的な避難行動、避難所での炊き出しなどの、非軍事的かつ人道的な活動が期待されている。

特に災害時に地域において同様に活動する消防団との協力は地域住民の安全を図る上で重要とされる。消防団などでもサラリーマン人口の増加その他の要因から、団員数が減っており、より多くの地域住民の参加率を上げるために、消防団で新たに創設された機能別消防団員の制度に基づき、自主防災組織のリーダーに大規模災害団員として入団してもらい、団としての活力を高めるとともに消防団と自主防災組織の連携を強化する対策も検討されている。こうした活動が活性化し、日常から防災に対する行動がとれるように防災に強い地域単位の取り組みが必要との観点から、防災まちづくり(防災都市づくり)、或いは防災コミュニティに対する取り組みも注目されつつある。

関連法編集

災害対策基本法(関連部分の抜粋)編集

  • 第5条 市町村は、基礎的な地方公共団体として、当該市町村の地域並びに当該市町村の住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該市町村の地域に係わる防災に関する計画を作成し、及び法令に基づきこれを実施する責務を有する。
  • 2 市町村長は、前項の責務を遂行するため、消防機関、水防団等の組織の整備並びに当該市町村の区域内の公共的団体等の防災に関する組織及び住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織(第8条第2項において「自主防災組織」という。)の充実を図り、市町村の有するすべての機能を十分に発揮するように努めなければならない。
  • 第7条 前項規定するもののほか、地方公共団体の住民は、自ら災害に備えるための手段を講ずるとともに、自発的な防災活動に参加する等防災に寄与するように努めなければならない。
  • 第8条 2 国及び地方公共団体は、災害の発生を予防し、又は災害の拡大を防止するため、特に次に掲げる事項の実施に努めなければならない。
    • 2 十三 自主防災組織の育成、ボランティアによる防災活動の環境の整備その国民の自発的な防災活動の促進に関する事項

国民保護法(関連部分の抜粋)編集

正式な法律名を「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」という。

  • 第4条 国民は、この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは、必要な協力をするよう努めるものとする。
  • 2 前項の協力は国民の自発的な意思にゆだねられるものであって、その要請に当たって強制にわたることがあってはならない。
  • 3 国及び地方公共団体は、自主防災組織(災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)第五条第二項の自主防災組織をいう。以下同じ。)及びボランティアにより行われる国民の保護のための措置に資するための自発的な活動に対し、必要な支援を行うよう努めなければならない。
  • 第173条 国民は、この法律の規定により緊急対処保護措置の実施に関し協力を要請されたときは、必要な協力をするよう努めるものとする。
  • 2 前項の協力は国民の自発的な意思にゆだねられるものであって、その要請に当たって強制にわたることがあってはならない。
  • 3 国及び地方公共団体は、自主防災組織及びボランティアにより行われる緊急対処保護措置に資するための自発的な活動に対し、必要な支援を行うよう努めなければならない。

脚注編集

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  1. ^ 吉原(2012)
  2. ^ 倉田(1999)
  3. ^ 庄司(2012: 89-90)
  4. ^ 松井(2008)
  5. ^ 消防庁(2009)「第4章[住民等の自主防災活動]1 (2) 自主防災組織等」
  6. ^ a b 伊藤(2012: 214)
  7. ^ 大久保泰「防災力 内実は不安-自治体・地域組織 「形」はできたけど…」『朝日新聞』2010年1月15日。総務省の調査で6割の市町村が住民との連携上の課題として「高齢化・過疎化」を挙げる。瀧本浩一・山口大准教授(消防庁災害時要援護者避難対策検討会委員)のコメント。
  8. ^ a b 大矢根(2010)
  9. ^ 伊藤(2012: 214-5)
  10. ^ 松井(2012)
  11. ^ 伊藤(2012: 217-8)
  12. ^ 伊藤(2012: 223-31)
  13. ^ 後藤(2012)

参考文献編集

  • 伊藤嘉高(2011)「災害〈弱者〉と防災コミュニティ」吉原直樹編『防災コミュニティの基層』御茶の水書房.
  • 大矢根淳(2010)「災害・防災研究における 社会関係資本(Social Capital)概念」『社会関係資本研究論集』1: 45-74.
  • 倉田和四生(1999)『防災福祉コミュニティ』ミネルヴァ書房.
  • 後藤一蔵(2011)「町内会と消防団」吉原直樹編『防災コミュニティの基層』御茶の水書房.
  • 庄司知恵子(2011)「町内会と自主防災組織」吉原直樹編『防災コミュニティの基層』御茶の水書房.
  • 消防庁(2009)『消防白書―消防と医療の連携の推進 消防と医療の連携による救急搬送の円滑化 平成21年版』 日経印刷.
  • 松井克浩(2008)『中越地震の記憶―人と絆と復興への道』東進堂.
  • 松井克浩(2012)「ボランティアと防災実践活動」吉原直樹編『防災コミュニティの基層』御茶の水書房.
  • 吉原直樹編(2012)『防災コミュニティの基層』御茶の水書房.

関連項目編集

外部リンク編集