花の歌」(はなのうた、: Flower Song: Air de la fleur)は、ジョルジュ・ビゼー作曲のオペラカルメン』の第2幕で、ドン・ホセ(テノール)によって歌われるアリアの通称である。冒頭の歌詞から「おまえの投げたこの花を」(La fleur que tu m'avais jetée)の題名でも呼ばれる。形式上は二重唱の一部だが、単独のアリアとしてよく取り上げられる[1]

第2幕の後半に置かれたカルメンとドン・ホセの長い二重唱の場面で、帰営ラッパに気づいて兵営に戻ろうとするドン・ホセに、カルメンは愛を疑う言葉をかける。対してドン・ホセは二人が初めて出会ったとき(第1幕、「ハバネラ」の場面)に受け取った花を取り出し、改めて愛を歌う[2][1]

アンダンティーノ、4/4拍子、変ニ長調。演奏時間は4分程度。コーラングレが奏する「運命の動機」に続いて、「愛をもって」(con amore) と指示された歌が始まる。未完のオペラ『グリゼリディス』(Grisélidis)のためのスケッチを再利用し新しく歌詞をあてはめたものだが、グノーの影響にビゼーの才能による筆致が添えられた[2]旋律は「ビゼーのもっとも完璧な創造物の一つ」と評される[3]

歌詞 編集

フランス語(原詞) 日本語訳

La fleur que tu m'avais jetée
Dans ma prison m'était restée,
Flétrie et sèche, cette fleur
Gardait toujours sa douce odeur;

Et pendant des heures entières
sur mes yeux fermant mes paupières,
De cette odeur je m'enivrais
Et dans la nuit je te voyais!

Je me prenais à te maudire,
A te détester, à me dire;
Pourquoi faut-il que le destin
L'ait mise là sur mon chemin?

Puis, je m'accusais de blasphème,
Et je ne sentais en moi-même
Qu'un seul désir, un seul espoir,
Te revoir, Carmen, oui, te revoir!

Car tu n'avais eu qu'à paraître,
Qu'à jeter un regard sur moi,
Pour t'emparer de tout mon être,
O ma Carmen!
Et J'étais une chose à toi!
Carmen, je t'aime!

おまえが投げた この花を
俺は牢の中でも手放さなかった
しぼんで ひからびてしまっても
甘い匂いは変わらなかった

何時間も 何時間も じっと
まぶたを閉じたまま
その匂いに酔いしれながら
闇の中で おまえを 思い浮かべた

おまえを呪ってやりたいと思った
おまえを憎んで こう言いかけた
なんでまた あんな女に
俺はめぐりあったんだろう?と

そのあとで  そんな自分を責め立てて
気がつけば 俺の望みはただひとつ
ただひとつ 希望はひとつ もう一度 おまえに会うこと
おお、カルメン!おまえに会うことだけ!

なぜなら おまえはやってきて
俺をちらりと見ただけで
もう 俺をとりこにしてしまったんだ
おお!俺のカルメン!
俺はおまえのものだったんだ!
カルメン!おまえを愛している!

注釈 編集

  1. ^ a b 石戸谷結子「カルメン」『『スタンダード・オペラ鑑賞ブック 5 フランス&ロシアオペラ+オペレッタ』音楽之友社、1998年。pp. 93-94.
  2. ^ a b Hugh Macdonald「カルメン」スタンリー・セイディ編、日本語版監修:中矢一義・土田英三郎『新グローヴオペラ事典』白水社、2006年。pp. 265-270.
  3. ^ Hugh Maconald, Bizet. Oxford University Press, 2014. p. 219.

外部リンク 編集