英雄の証明 (2021年の映画)

2021年の映画

英雄の証明』(えいゆうのしょうめい、原題・ペルシア語: قهرمان‎)は、2021年イランドラマ映画。監督・脚本はアスガル・ファルハーディー、出演はアミール・ジャディディ英語版、サハル・ゴルデュースト、モーセン・タナバンデ英語版など[1]。ふとしたことから美談の英雄として祭り上げられた後に一転してペテン師と非難されて四面楚歌の状態に陥る1人の服役囚の運命の逆転劇を描いている[2]

英雄の証明
قهرمان
監督 アスガル・ファルハーディー
脚本 アスガル・ファルハーディー
製作
  • アレクサンドル・マレ=ギィ
  • アスガル・ファルハーディー
出演者
撮影
  • アリ・ガーズィー
  • アラッシュ・ラメザニ
編集 ハイデー・サフィヤリ英語版
製作会社 メメント・フィルムズ
配給 日本の旗 シンカ
公開 フランスの旗 2021年7月13日 (CIFF)
イランの旗 2021年10月27日
日本の旗 2022年4月1日
上映時間 127分
製作国 イランの旗 イラン
フランスの旗 フランス
言語 ペルシャ語
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2021年7月に第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、グランプリを獲得した[3][4][5]第94回アカデミー賞国際長編映画賞にイラン代表作として出品された[6]

ストーリー 編集

イランの地方都市シラーズ。看板職人のラヒムは、前妻の父からの借金が返せず、訴えられて服役中だった。ある日、ラヒムの恋人ファルコンデが、町で金貨の入ったバッグを拾った。その金貨を金に換えて借金を精算し、刑務所を出ようと画策するラヒム。

ラヒムの刑は、たまの一時帰宅が許されていた。2日間の出所期間中にファルコンデと落ち合い、金貨を売りに行くラヒム。だが、期待した半分の値しか付かず、借金返済を諦めたラヒムは、バッグと金貨を落とし主に返すために、貼り紙をして刑務所に戻った。

落とし主の女性と連絡がつき、姉夫婦の家の住所を教えてバッグと金貨を返すラヒム。ラヒムの善行を知った刑務所の所長たちは、マスコミを呼んで「正直者の囚人」の美談を取材させた。刑務所では最近、囚人の自殺騒ぎがあり、名誉回復の話題を求めていたのだ。一時帰宅を許され、囚人をサポートするチャリティ団体から表彰され、多額の寄付金が集められ、出所後の職まで決まるラヒム。

ラヒムを雇用するはずの「地方審議会」に、何者かから「金貨の美談は作り話」と通報が入った。真実だと証明するために、バッグの落とし主を連れて来いと要求されるラヒム。だが、バッグを返した時、ラヒムの姉は相手の名前を聞いていなかった。探しても落とし主が見つからず、恋人のファルコンデを偽物に仕立てるラヒム。だが、担当者は納得せず、落とし主の夫も連れて来いと言う。怒って、就職の内定を蹴ってしまうラヒム。

「美談は作り話」と密告したのが前妻の父だと疑い、押しかけて殴り合いになるラヒム。その様子は動画に撮られて拡散し、ラヒムの美談は地に落ちた。チャリティ団体からの寄付金も他の囚人に回され、釈放の希望も絶たれるラヒム。そんなラヒムに、動画で世間に無実をアピールしろと持ち掛ける刑務所の職員タヘリ。しかし、それは吃音症のあるラヒムの幼い息子に無理に話させる過酷な撮影だった。耐えられずにタヘリを追い返したラヒムは、残りの刑期を過ごすために、自ら刑務所に戻るのだった。

キャスト 編集

製作 編集

メメント・フィルムズは2020年のヨーローマ映画マーケットでファルハーディーによる脚本を購入した[8]。2020年6月にプリプロダクションが始まり、202012年までに撮影が行われた[9]。製作はシーラーズで行われた。2021年4月、Amazonスタジオがアメリカでの配給権を獲得したことが報じられた[10]

公開 編集

2021年7月13日に第74回カンヌ国際映画祭でプレミア上映され、コンペティション部門でパルム・ドールを争った。また2021年11月28日に第52回インド国際映画祭英語版のクロージング作品として上映された[11]

日本では2022年4月1日に東京(銀座・新宿・渋谷)・仙台・千葉・名古屋・京都・梅田・心斎橋の9館で劇場公開された後、全国計46館以上で順次公開された[12]

評価 編集

批評家の反応 編集

レビュー収集サイトRotten Tomatoesでは126件のレビューで支持率は95%、平均点は8.0/10となり、「『英雄の証明』は脚本家・監督のアスガル・ファルハーディーが取り組み、観客が勝者となる作品だ」とまとめられた[13]Metacriticでは37件の批評に基づいて加重平均値は81/100と示された[14]

受賞とノミネート 編集

映画祭・賞 [15] 部門 候補 結果
2021 カンヌ国際映画祭 パルム・ドール アスガル・ファルハーディー ノミネート
グランプリ 受賞
フランソワ・シャレ賞英語版 受賞
2021英語版 アジア太平洋映画賞 作品賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
監督賞 アスガル・ファルハーディー 受賞
脚本賞 アスガル・ファルハーディー ノミネート
男優賞 アミール・ジャディディ英語版 ノミネート
2021 バリャドリッド国際映画祭 作品賞 アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 モントクレア映画祭英語版 ナラティブ作品賞 (コンペティション) アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 サンタフェ・インディペンデント映画祭英語版 ナラティブ作品賞 アスガル・ファルハーディー 受賞
2021 ハーフェズ賞英語版[16] 映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー 受賞
映画監督賞 アスガル・ファルハーディー 受賞
映画脚本賞 アスガル・ファルハーディー 受賞
男優賞 アミール・ジャディディ英語版 受賞
モーセン・タナバンデ英語版 ノミネート
映画女優賞 サハル・ゴルデュースト ノミネート
映画撮影賞 アリ・ガーズィー、アラッシュ・ラメザニ ノミネート
映画編集賞 ハイデー・サフィヤリ英語版 受賞
2021英語版 サテライト賞 オリジナル脚本賞 アスガル・ファルハーディー ノミネート
外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021英語版 シカゴ映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 ダラス・フォートワース映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 インディワイア批評家投票英語版 脚本賞 アスガル・ファルハーディー ノミネート
国際映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 ラスベガス映画批評家協会賞 国際映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 オリジナル脚本賞 アスガル・ファルハーディー 受賞
外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー 受賞
2021 ノーステキサス映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 セントルイス映画批評家協会賞 国際映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021 ユタ映画批評家協会賞 非英語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2021英語版 ワシントンD.C.映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 パームスプリングス国際映画祭 ブリッジング・ザ・ボーダーズ賞 アスガル・ファルハーディー 受賞
FIPRESCI賞 (国際長編映画) アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
FIPRESCI賞 (国際脚本) アスガル・ファルハーディー 受賞
FIPRESCI賞 (国際長編映画男優) アミール・ジャディディ英語版 受賞
2022 シカゴ独立批評家賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
オリジナル脚本賞 アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 デンバー映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 コロンバス映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 EDA賞 非英語作品賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 クリティクス・チョイス・アワード 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 ゴールデングローブ賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 サンフランシスコ・ベイエリア映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 ハリウッド批評家協会賞英語版 国際映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート
2022 ノースカロライナ映画批評家協会賞 外国語映画賞 アレクサンドル・マレ=ギィ、アスガル・ファルハーディー ノミネート

出典 編集

  1. ^ Hashemi, Sepideh (2020年6月9日). “Asghar Farhadi casts 2 Iranian leads for "Hero"” (英語). Iranian Students' News Agency. https://en.isna.ir/news/99032012762/Asghar-Farhadi-casts-2-Iranian-leads-for-Hero 2022年1月22日閲覧。 
  2. ^ 英雄の証明(2021)”. WOWOW. 2023年5月24日閲覧。
  3. ^ Roxborough, Scott (2021年6月3日). “Sean Penn, Wes Anderson, Ildikó Enyedi Join 2021 Cannes Lineup” (英語). The Hollywood Reporter. https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/2021-cannes-lineup-1234961248/ 2021年6月3日閲覧。 
  4. ^ Sharf, Zack (2021年6月10日). “Cannes Film Festival 2021 Lineup: Sean Baker, Wes Anderson, and More Compete for Palme d'Or” (英語). IndieWire. https://www.indiewire.com/2021/06/2021-cannes-film-festival-lineup-1234641655/ 2021年6月3日閲覧。 
  5. ^ Lattanzio, Ryan (2021年7月17日). “'Titane' Wins Palme d'Or, Plus Full Cannes Winners List” (英語). IndieWire. https://www.indiewire.com/2021/07/cannes-2021-winners-palme-dor-1234651920/ 2021年7月17日閲覧。 
  6. ^ Ritman, Alex (2021年10月21日). “Oscars: Iran Selects 'A Hero' for International Feature Category” (英語). The Hollywood Reporter. https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-news/oscars-2022-iran-international-feature-asghar-farhadi-a-hero-1235034616/ 2021年10月21日閲覧。 
  7. ^ GHAHREMAN” (英語). Festival de Cannes. 2021年7月17日閲覧。
  8. ^ Roxborough, Scott (2020年2月12日). “Asghar Farhadi's 'A Hero' Heading to Berlin Market” (英語). The Hollywood Reporter. https://www.hollywoodreporter.com/news/general-news/asghar-farhadis-a-hero-heading-berlin-market-1278930/ 2021年5月15日閲覧。 
  9. ^ “Two-time Oscar winner Farhadi's 'A Hero' shooting done” (英語). irandaily.ir. (2020年12月22日). https://irandaily.ir/News/278511.html 2021年5月15日閲覧。 
  10. ^ Keslassy, Elsa; Davis, Clayton (2021年4月30日). “Amazon Studios Scoops U.S. Rights to Asghar Farhadi's 'A Hero' (EXCLUSIVE)” (英語). Variety. https://variety.com/2021/film/global/amazon-studios-asghar-farhadi-a-hero-1234963284/ 2021年5月15日閲覧。 
  11. ^ “Goa to spend Rs 16-18cr on film festival, Centre Rs 9.5cr” (英語). The Times of India. (2021年11月19日). https://timesofindia.indiatimes.com/city/goa/goa-to-spend-rs-16-18cr-on-film-festival-centre-rs-9-5cr/articleshow/87788125.cms 2021年11月19日閲覧。 
  12. ^ 英雄の証明 劇場情報”. 「映画館に行こう!」実行委員会. 2022年3月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月9日閲覧。
  13. ^ "A Hero". Rotten Tomatoes (英語). 2021年12月31日閲覧
  14. ^ "A Hero" (英語). Metacritic. 2021年12月3日閲覧。
  15. ^ A Hero Awards” (英語). IMDb (2021年6月1日). 2021年6月12日閲覧。
  16. ^ “اعلام نامزدهای بخش سینمای بیست و یکمین جشن حافظ” (ペルシア語). خبرگزاری مهر | اخبار ایران و جهان | Mehr News Agency. (2021年11月16日). https://www.mehrnews.com/news/5353113/اعلام-نامزدهای-بخش-سینمای-بیست-و-یکمین-جشن-حافظ 2021年11月16日閲覧。 

関連項目 編集

外部リンク 編集