蔵前駕籠

蔵前駕籠(くらまえかご)は、古典落語の演目の一つ。原話は『今昔物語集』第二十八巻の一編である「阿蘇の史、盗人にあひて謀りて逃げし語」。

主な演者として、林家彦六などがいる。上方では「そってん芝居」という芝居噺で演じられていた。こちらは長らく演じる者がいなかったが、戦時中に東京で聞いた初代桂小南の落語を元に戦後になって3代目桂米朝により復活された。またその弟子の桂吉朝もよく演じていた。

あらすじ編集

茅町にある、「江戸勘」という駕籠屋に一人の男が飛び込んでくる。男は「吉原にやってくれ」と言うが、駕籠屋のほうは渋い顔だ。

維新の騒ぎで世情は混乱を極めており、神田日本橋方面と吉原を結ぶ蔵前通りには、夜な夜な追いはぎが出没していたのだ。集団で現れる追いはぎは、刀を突きつけ「我々は徳川家にお味方する浪士の一隊。軍用金に事欠いておるのでその方に所望いたす。命が惜しくば、身ぐるみ脱いで置いてゆけ」と脅し、相手をフンドシ一丁にして、「武士の情け。フンドシだけは勘弁してやる」と言い捨てるのだ。

迷う駕籠屋を男は褒めたり貶したりしたが、結局「駕籠賃は倍増し、酒手は一人一分ずつ」という条件をつけてようやく行ってもらう事になった。「追いはぎが出たら駕籠をおっぽり出して逃げればいいよ。まさか追いはぎだって駕籠がご所望な訳ないから置いていくだろ。夜が明けたら入れ物だけ取りに来てくれ」。蕎麦屋にあつらえるようなことを言い、何を思ったのか、フンドシ一つを残して着物を全部脱いでしまった。それを丁寧に畳むと、煙草入れや紙入れを間に突っ込み、駕籠の座ぶとんの下に敷いてどっかと座って「さあ、やれ」と言う。風邪でもひかないかと心配する駕籠屋を、男は「向こうに着きゃ暖め手がある」と変なノロケで煙に巻いていよいよ駕籠は出発する。

蔵前通りに差し掛かると、問題の追いはぎが現れ、相手が何か言う前から、駕籠屋は駕籠を放り出して逃げてしまった。十二、三人の黒覆面がばらばらっと駕籠を取り囲む。

「我々は徳川家にお味方する浪士の一隊。軍用金に事欠いておるのでその方に所望いたす。命が惜しくば…これ、中におるのは武家か町人か」

刀の切っ先で駕籠のすだれをぐいと上げると、素っ裸の男が腕組みしている。

「うーん、もう済んだか」

概略編集

簡単な筋で落ちも優れており、演じる人が多い。4代目鈴々舎馬風は「蔵前トラック」という題で改作し、舞台を終戦後の東京、拳銃をもったギャングが「われわれは進駐軍にお味方する一隊……」と名乗るというナンセンスな演出をとった。