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表面麻酔(ひょうめんますい、: : Topical anesthesia)とは、局所麻酔薬によって身体の一部の表面の感覚を麻痺させることを指す。皮膚だけでなく、眼球の表面、の内側、肛門外陰部など、あらゆる部位の感覚を麻痺させるために使用できる[1]。局所麻酔薬は、クリーム、軟膏エアロゾールスプレーローション、ゼリーなどで販売されている。例としては、ベンゾカイン[2]ブタンベン英語版ジブカインリドカインオキシブプロカインプラモキシン英語版プロキシメタカイン英語版(プロパラカイン)、テトラカイン(アメトカイン)などがある[要出典]

表面麻酔に頻用されるアミド型局所麻酔薬リドカインの3D構造模型。中心部がアミド結合である。

適応 編集

表面麻酔は、日焼けや軽度の火傷虫刺されうるしかぶれ、軽度の切り傷や引っかき傷などの症状によって引き起こされる痛みや かゆみを和らげるために行われる[3]

表面麻酔は、眼科検眼科英語版(日本にはない医療職)で、の表面(角膜結膜の一番外側の層)を麻痺させるためにも行われる。下記の状況で用いられる:

  • 圧平眼圧測定英語版を実施する。
  • シルマーテストを行う(シルマーテストは、局所麻酔薬を使用する場合と使用しない場合がある。局所麻酔薬の使用は、シルマーテストの信頼性を損なう可能性があるため、可能な限り避けるべきである)。
  • 角膜や結膜の最上層にある小さな異物を除去する。除去すべき異物が角膜の奥にあるほど、また異物が大きいほど、また除去が複雑であるほど、異物除去の前に、目の表面を十分な強さと時間で麻痺させるために、局所麻酔薬の滴下が必要である。

歯科では、口腔内の軟組織に針が入るため、歯科用局所麻酔薬を投与する前に、口腔内組織の麻酔のために表面麻酔が行われる[4]

一部の局所麻酔薬(オキシブプロカインなど)は耳鼻咽喉科でも使用されている。

現在、早漏の一時的な緩和には、陰茎の亀頭に塗布する局所麻酔薬が一般的に使用されている。ベンゾカインやリドカインは市販薬として入手可能なため、一般的にこの目的で使用されている。

効果時間 編集

局所麻酔の持続時間は、塗布する種類や量によって異なるかもしれないが、通常は30分程度である[要出典]

薬物動態 編集

リドカイン 2mg/kgを咽頭気管内に投与すると、血清中濃度は投与後約10分でおよそ最高濃度である2.5µg/mLに達する[5]。ヒトでの中枢神経中毒症状が発現する血中濃度は5µg/mL、痙攣が起こり得る濃度は12µg/mLである[6]

目の痛みの緩和目的の乱用 編集

外用麻酔薬を過剰に使用すると、角膜組織が深刻かつ不可逆的な損傷を受け[7][8][9][10][11]、さらには失明することすらある[12]。外用麻酔薬の乱用は、アカントアメーバ角膜炎英語版や他の感染性角膜炎と紛らわしい慢性角膜炎として最初は受診される比較的珍しい疾患という点で、正しい診断が困難となる[7][8][10][12][13]。角膜炎が治療に反応せず、強い眼痛を伴う場合、局所麻酔薬の乱用を考慮する必要があり[10]、精神障害および他の薬物乱用の既往が診断に重要な役割を果たす[7][12][13]。乱用の可能性のため、臨床医は盗難の可能性について警告されており、痛みの治療目的で局所麻酔薬の処方を行わないよう勧告されてきた[8][12]

目の痛みは、角膜や結膜の神経が刺激されることで生じるかなり強い神経障害性疼痛であることが多く、オキシブプロカインなどの点眼麻酔薬を不正に入手し(眼科検眼士英語版盗む処方箋偽造する、オンライン薬局英語版で注文しようとするなど)、目の痛みを鎮めるために使用し、最後には角膜に取り返しのつかないダメージを受け、角膜破壊にまで至る(これが悪循環英語版となりさらに痛みが増す)患者も少なくない。そのような患者は、最終的に角膜移植英語版を必要とすることがよくある[注釈 1]

目の痛み、特に神経障害性の目の痛みが長く続く場合は、抗けいれん剤プレガバリンガバペンチン、より重い場合はカルバマゼピン)や抗うつ剤(例えばSSRI三環系抗うつ剤 アミトリプチリン)などの中枢作用物質を用いることが強く推奨される。ごく少量の抗けいれん薬や抗うつ薬でも、目の痛みをほぼ完全に止めることができ、目に全くダメージを与えない。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 英語版からの初訳者注)かつてよりも、個人輸入で局所麻酔薬の入手が容易になったとはいえ、日本ではおそらく、このような事例は多くは発生していない。医学中央雑誌では、2023年3月現在、局所麻酔薬乱用による角膜潰瘍の報告がない。

出典 編集

  1. ^ Healthopedia.com”. 2005年11月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年3月30日閲覧。
  2. ^ 充, 重根; 守, 久保田; 徹夫, 牧野; 隆, 板家; 守弘, 服部; 栄二, 藤森; 尚文, 弥富; 隆夫, 桜井 et al. (1982). “表面麻酔剤20%アミノ安息香酸エチルの効果について”. 歯科薬物療法 1 (1): 48–52. doi:10.11263/jsotp1982.1.48. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsotp1982/1/1/1_1_48/_article/-char/ja/. 
  3. ^ DrLinhart.com
  4. ^ Local Anesthesia for the Dental Hygienist, Logothetis, Elsevier, 2012
  5. ^ キシロカイン液4%添付文書” (2023年9月改訂). 2023年11月22日閲覧。
  6. ^ 精宣, 西川; 隆, 森 (2019). “局所麻酔薬中毒”. 日本臨床麻酔学会誌 39 (4): 391–399. doi:10.2199/jjsca.39.391. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/39/4/39_391/_article/-char/ja/. 
  7. ^ a b c “Corneal complications following abuse of topical anesthetics”. Eur J Ophthalmol 12 (5): 373–8. (2002). doi:10.1177/112067210201200505. PMID 12474918. 
  8. ^ a b c “Topical anesthetic abuse ring keratitis: report of four cases”. Cornea 16 (4): 424–9. (July 1997). doi:10.1097/00003226-199707000-00009. PMID 9220240. 
  9. ^ “Corneal anesthetic abuse and Candida keratitis”. Ophthalmology 103 (1): 37–40. (January 1996). doi:10.1016/s0161-6420(96)30735-5. PMID 8628558. 
  10. ^ a b c “[A clinico-pathological case report of necrotizing ulcerating keratopathy due to topical anaesthetic abuse]” (German). Ophthalmologe 99 (11): 872–5. (November 2002). doi:10.1007/s00347-002-0623-z. PMID 12430041. 
  11. ^ “Toxic keratopathy associated with abuse of low-dose anesthetic: a case report”. Cornea 23 (5): 527–9. (July 2004). doi:10.1097/01.ico.0000114127.63670.06. PMID 15220742. 
  12. ^ a b c d “Topical anesthetic abuse”. Ophthalmology 97 (8): 967–72. (August 1990). doi:10.1016/s0161-6420(90)32458-2. PMID 2402423. 
  13. ^ a b “Topical ocular anesthetic abuse: case report”. Chang Gung Med J 23 (6): 377–81. (June 2000). PMID 10958042. 

関連項目 編集

外部リンク 編集