計画的陳腐化(けいかくてきちんぷか、英語: Planned obsolescence)とは、製品寿命を人為的に短縮する仕組みを製造段階で組み込んだり、短期間に新製品を市場に投入することで、旧製品が陳腐化するように計画し、新製品の購買意欲を上げるマーケティング手法のこと。1920年代に、ゼネラル・モーターズ(GM)の礎を築いたアルフレッド・スローンが始めたビジネスモデルバーナード・ロンドンの著書『計画的陳腐化による不況の終焉(Ending the Depression Through Planned Obsolescence)』(1932年)により命名された。

2000年代に入ると、高性能で長く使えるものが結果的には得だとする考えが消費者間に広まり、計画的陳腐化の手法を最初に導入したGMの破綻やAppleiPhone(3GS)やMacの新製品などに代表されるように、メーカーの間にも短期間で大きなモデルチェンジをしない方が得策との認識が広がるとともに、地球温暖化問題を背景とした環境重視という流れも加わり、景気後退の原因ともなる計画的陳腐化の手法はもはや時代遅れとなっている[1]、という声が高まっている。

1923年のシボレーは、年1回モデルチェンジを行う形態を示したが、これが計画的陳腐化の発祥と言われている。

概要 編集

発祥 編集

1920年代に生まれたビジネスモデルで、フォードが単一モデルを大量生産するビジネスモデルだったのに対し、ゼネラル・モーターズ(GM)の礎を築いたアルフレッド・スローンは、部品メーカーなど裾野産業を巻き込んで年1回モデルチェンジを行う形態を示したが、これが当時のアメリカ国民の生活の多様化と合致。モデルチェンジに割賦販売、中古車の下取りなどを組み合わせたビジネスモデルを構築し、現在まで続いた。この手法は、多くの業種に採用され、短期間のモデルチェンジには、技術革新を速やかに製品に反映させるメリットもあった[1]

手法 編集

商品が物理的には壊れていなくても一定期間が経過することで使用不能になるような仕組みをあらかじめ製造段階で組み込んでおくことまたは、商品そのものはまだ充分に使用可能であるにもかかわらず企図した時間の経過にしたがい「時代遅れ」または「非互換」などと陳腐化した印象を消費者に与えるマーケティング手法である。

前者の例としては、電池部分を密閉した設計の電動歯ブラシや、部品交換を阻止する特殊なネジ穴を導入した電子機器充電池式のデジタルカメラ、単に歯車駆動にすればよい部分をわざわざゴムベルト駆動にする(歯車の劣化よりもゴムの劣化のほうが遙かに早い)、カウンターを設けてインク残量に関係なく動作を停止する仕組みを持ったプリンターのインクカートリッジなどが知られている。

後者の手法には、新製品に対し新しいデザインや新しい機能を持たせることで相対的に旧製品を陳腐化させる手法をはじめ、上位互換性のある規格を導入したり逆に互換性の無い規格を導入したりすることで、以前の規格による旧製品の製品寿命を短縮または実質的な余命を絶ったりする手法がある。具体例を挙げると自動車のモデルチェンジや、ソフトウェアのアップグレード(メジャーバージョンアップ)、新機軸の規格導入などが挙げられる。

ポイボス・カルテル 編集

過去には世界中の白熱電球メーカーが電球の寿命を1,000時間に制限するよう性能を恣意的に低品質で固定するポイボス・カルテルを密かに結んだ。これにより(カルテル参加の)どの企業の電球であっても寿命の差が無く、企業は定期的にかつ確実に電球の交換需要を得ることができた。これは計画的陳腐化の極端な例である。

種類 編集

寿命の短命化 編集

製品の本来の寿命より、短い寿命になるように設計する。寿命の短い製品を製造すること自体は違法ではないため、会社が自由に短い寿命に設計できる。しかしながら単純に部品の質を下げるのはただの粗悪品製造であるため、製品の一番短命な部品に合わせ、他の部品の設計寿命を揃えて製造するのがほとんどである。

修理を難しくした陳腐化 編集

高額な修理費用で利益が出るように設計する。

 
iPhoneやiPadやMacBookなどのアップルのデバイスはユーザーにとって修理が難しい[2]

新しい機種を、従来の機種で使われていたパーツやツールでは治せないようにする手法もある。Appleの新型MacBookでは、従来のMacBookのパーツやツールで修理できないように、修理が以前より難しくなるよう改変されている。

サービスを陳腐化 編集

商品の世代を極端に細分化し、新製品だけ対応できる新しいサービスを発表して、対応できない旧製品からの乗り換えを促す。ガラパゴスケータイ全盛期によく行われた。

新しいモデルを発表 編集

マイナーアップグレードの新しいモデルを次々と発表して、新しい機種に乗り換えさせる手法。

プログラムされた陳腐化 編集

決められた回数や期間使用後や、バージョンアップデート後、使えなくする、もしくは質を下げる。ヒューレット・パッカードサムスンセイコーエプソン(機種名:EPSON Stylus C42UXなど)のプリンターでは、ユーザーがインクカートリッジを決められた回数だけ使用後、エラーを表示させ使えなくしていた。

2017年12月、米アップル(Apple)のバッテリー関連の問題が報じられたことをきっかけに、同社がiPhoneの速度を意図的に下げることによって新機種への買い替えを不正に促しているのではないかとの疑惑が浮上。同社に対してはユーザーからの怒りの声が相次ぎ、複数の訴訟にも発展した。2017年12月28日、同社のスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」旧機種(iPhone 6、7、SEなど)の稼働速度を意図的に下げていたことについて謝罪し、一部端末を対象に割引価格でのバッテリー交換を提供すると発表した[3][4]

2018年1月、バッテリーが劣化したiPhoneCPU性能を、アップルが意図的に制限していたことを受け、フランス当局による捜査が開始されたと、ブルームバーグなど複数の海外メディアが報じた。2017年12月27日、フランスの消費者団体HOP(Halte à l'obsolescence programmée)が訴訟を起こしており、それを受けてフランスのパリ検察も1月5日より捜査を開始した。フランスでは製品の計画的陳腐化(旧式化)は違法とされており、最大で2年の懲役、30万ユーロ(約4,000万円)や1年間の売り上げの5%が罰金として課せられる。また、HOPはインクカートリッジに20-40%のインクが残存してるにもかかわらず、プリンターがカートリッジは空であると表示することが証明された[5]エプソンなど、プリンターメーカーも計画的陳腐化で訴えている[6]

脚注 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集