詩人の霊感』 (しじんのれいかん、: L'Inspiration du poète: The Inspiration of the Poet) は、17世紀のフランスの巨匠ニコラ・プッサンが1629–1630年頃に制作した油彩画である。画家が手掛けた古典的主題の作品のうちの一点で、17世紀には枢機卿で政治家であったジュール・マザランの収集にあったが、1911年にパリルーヴル美術館[1]に収蔵された。

『詩人の霊感』
フランス語: L'Inspiration du poète
英語: The Inspiration of the Poet
作者ニコラ・プッサン
製作年1629–1630年頃
種類キャンバス油彩
寸法183 cm × 213 cm (72 in × 84 in)
所蔵ルーヴル美術館パリ

概要 編集

中央で竪琴を抱え、右手を差し伸べているのは詩神アポロンで、右手にいる詩人に霊感を授けている。霊感を受けた詩人はペンと紙を手にし、今、詩句を書きとめようとしているところである。左手にいるのはアポロンの支配下にいる芸術と学芸の女神 (ミューズ) たちの一人であるカリオペである。カリオペの足元にいるプットーが手にしている書物には、『オデュッセイア』、『イリアス』、『アエネーイス』と記されていることから、この詩人は叙事詩人であると思われる[2]

詩を書いている人物は誰かということについては諸説がある。候補としてプッサンの友人であったイタリアの詩人ジャン・バッティスタ・マリーノ英語版、プッサンが好んだ同じくイタリアの詩人トルクァート・タッソまたはルドヴィーコ・アリオスト、そして古代ローマの詩人ウェルギリウスと様々な名が挙がってきたが、ウェルギリウスであるという立場の研究者が多い。しかし、特定の誰かを指すのではなく、叙事詩人一般を表しているという考えるエルヴィン・パノフスキーのような研究者もいる[2][3]

アポロンやカリオペなどの人物は古代ギリシャローマの彫刻のように堂々としている。また、アポロンは岩に腰かけているものの、全体として人物像の配置が作る構図は垂直性の強い古典主義的なものである。プッサンは、イタリア盛期ルネサンスの巨匠ラファエロティツィアーノに学んだが、本作にはプッサンの古典主義的傾向がよく表れている[2]

1960年になされたX線撮影による写真と完成作を比較すると、画家が制作の過程でかなりの変更を行ったことがわかる。人物の左後ろには3本の月桂樹の木があるが、本来は4本であった。また、詩人の右足の位置と頭髪も描き直され、プットーも本来はもう一人いた[3]

脚注 編集

  1. ^ ルーヴル美術館の本作のサイト [1] 2022年11月13日閲覧
  2. ^ a b c NHKルーブル美術館VI フランス芸術の華、1985年刊行、44-46頁 ISBN 4-14-008426-X
  3. ^ a b カンヴァス世界の大画家 14 プッサン、1984年刊行、82-83頁、ISBN 4-12-401904-1

外部リンク 編集