貴州料理

中国の貴州省に発祥した漢民族およびその他の少数民族の郷土料理、黔菜、黔味菜
中華料理
母料理
河南料理
八大料理系統
一 山東料理
北京料理
宮廷料理
東北料理
山西料理
西北料理
二 四川料理
雲南料理
貴州料理
三 湖南料理
四 江蘇料理
上海料理
淮揚料理
五 浙江料理
六 安徽料理
七 福建料理
台湾料理
海南料理
八 広東料理
潮州料理
客家料理
順徳料理
その他系統
清真料理
湖北料理
江西料理
広西料理
マカオ料理
超系統料理
薬膳料理
精進料理
台湾素食
麺類
点心

貴州料理(きしゅうりょうり、中国語 貴州菜 Guìzhōu cài、黔菜 Qián cài)は、中華人民共和国貴州省の地方料理。四川料理系の漢族の料理のほか、ミャオ族トン族プイ族スイ族等、貴州省の少数民族料理をも含めることが多い。

概要 編集

貴州省は略称を「黔」(けん)といい、貴州省の料理は、黔菜の他、「黔味菜」と呼ばれることもある。貴州料理は、中華料理の四大菜系の中では、四川料理の系統に含まれる。これは四川省に隣接する地理的な要因と、唐辛子を用いた辛い料理が多いという特徴が共通するためである。しかし、花椒を併用する四川料理が「麻辣」(しびれる辛さ)と表現されるのに対して、貴州料理は「酸辣」(すっぱく辛い)或いは「香辣」(香り高く辛い)と表現されることが多く、酸味を加えた料理が好まれるという違いがある。トウガラシを好む点では、やはり隣接する湖南省湖南料理または雲南省雲南料理との共通性もあるが、他の食材との組み合わせなどで、違いが生じている。中国西南部の人の味覚に関する中国語の俗諺に、「四川人不怕辣,湖南人辣不怕,貴州人怕不辣」というものがある。四川人は辛さを恐れず、湖南人は辣さで威すことはできず、貴州人は辛くないのを恐れる[1]、という様な意味で、三省の内でも貴州の人が最も辛いものを好むことを言っている。辛さに敏感な貴州では、辛い料理を「油辣」(ラー油の辛さ)、「煳辣」(焦がしトウガラシの辛さ)、「干辣」(干しトウガラシの辛さ)、「青辣」(青トウガラシの辛さ)、「糟辣」(糟漬けトウガラシの辛さ)、「酸辣」(すっぱく辛い)、「麻辣」(花椒でしびれるように辛い)、「蒜辣」(にんにくで辛い)の8つに分類するとも言われる。

貴州料理のもう一つの特徴は、「蘸水」(チャンスイ)と呼ぶつけだれを多用することである。料理の種類に合わせて異なる味のたれを用意するのが当たり前となっている。主に、醤油、、トウガラシ、おろしニンニク、ショウガネギコリアンダー花椒ドクダミなどを味付けに用い、豆豉ウイキョウ、揚げた大豆落花生、そぼろ肉などを入れることもある。調理方法としては、炒める、少量の油で揚げ焼きにする、煮込むという料理が多く、鍋料理も盛んである。

貴州省内でも、地域や民族によって、差異があり、大雑把に北部の黔北菜、中央部の貴陽菜、漢族以外の少数民族菜の3つに分かれる。少数民族の料理も味付けに類似性はあり、酸味を好むミャオ族には「三天不吃酸、走路打蹿蹿」(三日すっぱいものを食べないと、歩く足がおぼつかなくなる)という民謡がある。酸味は醸造酢を使うのではなく、家庭で「酸壜」というを使って醗酵させた野菜や米のとぎ汁を使う。

貴州は、全体的に雲貴高原の涼しい気候と石灰岩地の痩せた土地柄のため、貴州料理は山菜や淡水魚を用いた素朴な料理というイメージがある。きのこドクダミやウサギなどの山の幸を多用する。以前は、現地で「娃娃魚」と呼ぶチュウゴクオオサンショウウオのスープも名物であったが、現在は保護されている。特産の生薬である天麻もスープなどの料理に取り入れられる場合がある。果実では、「毛辣角」と呼ばれる酸っぱいトマトやバラ科刺梨が多く自生しており、それぞれ酸湯魚や刺梨酒、刺梨鴨などに使われる。なお、近年は、養殖や輸送、保存技術の発達によって、ホテルや高級レストランでは海水魚やエビなどを使い、貴州風の味付けをし、また見栄えにもこだわるようになっている。

なお、四川料理として有名な「宮保鶏丁」について、これを生み出した丁宝楨(丁宮保)が平遠(現織金県)の人なので、貴州料理だという主張する人もいる。重慶の料理として知られる「辣子鶏」も糍粑辣椒という肉厚の唐辛子で作ると貴州の料理となる。

貴州省は茅台酒の産地でもあり、涼しい気候のため、辛い料理に合う白酒が好んで飲まれてきた。他にも董酒、小糊涂神、畢節大麹などの著名な白酒や、ミャオ族伝統の黒いもち米で醸造する黒糯米酒などもある。

歴史 編集

貴州省は漢代夜郎国の時代より、少数民族が多く住む地域であり、抗争も多かったが、食文化での交流もあり、地域独特の食文化は、唐代以降できあがってきたと言われる。特に万暦年間に華北から派兵し、貴州、雲南を平定した際に、華北の食文化と地元の少数民族や土司の料理が融合して、「屯堡大碗」、「坨坨肉」のような独特の地方料理のひな型を形成した[2]代になると土司はその地位を中央政権から奪われたが、地方に派遣された官吏がさらなる料理の融合をもたらし、名物料理を生み出した。

主な料理 編集

漢族 編集

  • 花江狗肉 - 関嶺県花江の犬肉のトウガラシ、ネギ煮
  • 酸豇豆炒肉末 - 酢漬けのささげと豚ミンチ肉の炒め物
  • 烏江魚 - 遵義市を流れる烏江レンギョの激辛鍋
  • 糟辣脆皮魚 - 川魚の唐揚げ、糟トウガラシあんかけ
  • 土司煳辣魚 - 川魚のに焦がし唐辛子、ドクダミなどを刻んで載せ、蒸した蒸し魚
  • 糟辣兎丁 - ウサギ肉の糟トウガラシ炒め
  • 独山塩酸菜 - 独山名物の塩からく酸っぱい漬け菜。鍋料理に使う。
  • 涼拌折耳根 - ドクダミの根のトウガラシ和え
  • 折耳根炒臘肉 - ドクダミの根と干し豚肉のトウガラシ炒め
  • 坨坨肉 - 豚の角煮の一種
  • 金鈎挂玉牌 - もやしを添えた湯豆腐。辛いたれで食べる。
  • 腸旺麺 - 貴陽名物の、かすうどん油かすに似た豚の腸の油揚げと、豚の血の塊を乗せた辛い汁のかん水入り小麦麺
  • 豆花麺 - 遵義名物の柔らかい豆腐を乗せた小麦のつけ麺
  • 酸辣粉 - 酸っぱく辛いライスヌードル
  • 恋愛豆腐果 - 焼き豆腐のネギ、トウガラシ味噌詰め
  • 絲娃娃 - 細切り野菜の手巻き春巻き
  • 米豆腐 - 米をすりつぶした汁に重曹を加えて煮た、または焼いた食品。たれで食べる。
  • 小米鮓 - に豚肉の細切れや砂糖を混ぜて蒸したおこわ風のもの。

ミャオ族(苗家菜) 編集

プイ族 編集

トン族 編集

他地方での普及 編集

北京上海広州などの大都市では貴州料理専門店も複数存在するが、湖南料理ほど中国各地に広く普及している訳ではない。花江狗肉の専門店は地方都市にもある場合がある。ミャオ族料理店も同程度に大都市にできつつある。

脚注 編集

  1. ^ 重慶人、長沙人、貴陽人と言い換えられることもある。
  2. ^ 貴陽市商務局編,『貴陽美食』p3

参考文献 編集

  • 貴州飯店編,『吃在貴州』,1999年,貴州人民出版社,ISBN 7-221-04932-7
  • 貴州人民出版社編,『貴州特産風味指南』,1985年,貴州人民出版社
  • 貴陽市商務局編,『貴陽美食』,2010年,貴州科技出版社,ISBN 978-7-80662-830-0