栄養学疫学において赤肉(英:red meat)、赤身肉は、哺乳動物ので、牛豚羊馬ヤギの肉である[1]。単に食肉)のことである[2]家禽(鳥)や魚は含まない[1]。さらにハムベーコンソーセージといった加工肉 (Processed meat) を分類し、こうした分類から食生活指針の推奨が構成される。赤肉は健康のためにある程度の摂取が必要とされているが、摂取許容上限を超えた場合や、極端に少ない場合は健康リスクとなる[3]

調理された赤肉65グラム。

健康影響編集

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2016年の文献レビューでは、1日100グラム以上の肉が消費された時のリスク増加は、脳卒中と乳がんで11%、心血管疾患死亡率は15%、結腸直腸がん17%、前立腺がん19%であった[4]。また、別の研究は82グラムあたりのリスク増加を見出しており(右図)、1日42グラム以下とした場合、死亡リスクは7.6-9.3%低下する[5]

1日82グラムの摂取によるリスク増加[5]
赤肉 加工肉
死亡リスク 13%増加 20%増加
心血管 10%増加 18%増加
がん 16%増加 21%増加

肉に含まれるヘム鉄は、発がん性物質のN-ニトロソ化合物ニトロソアミンなど)の生成を促進したり[1][注 1]、脂質過酸化生成物 (LPO) の形成を触媒したりする可能性がある[7]。また、特に火の上での高温調理は複素環式芳香族アミンのような発がん性物質を生成する[1]。メディア、特に畜産産業は健康的な食事の一環として肉の消費を奨励しているが、ハーバード公衆衛生大学院英語版によれば、肉の摂取量が多い場合、結腸直腸がん、心臓疾患、糖尿病のリスクが高まることがこれまでの研究で示されているため、家禽(鳥)、魚、豆など他のタンパク質源に比べると、健康を保つために最適な食事ではない[1]ミオグロビンの量が肉の色を決めており、豚では鶏や魚より多いことから、赤肉に分類される[8]

地中海食では、特別な日にだけ肉を食べており、こうした食習慣は理想的である[1]

2015年のアメリカの食生活指針では、持続可能性(サステナビリティ)の概念が導入され、人間の健康と天然資源を維持するために赤肉と乳製品の消費を抑えることに言及している[9]

2002年の世界保健機関の報告書では、動物性タンパク質の摂取量が60gから20gに減少すると、カルシウム必要量が240mg減少するという推定がある[10]

加工肉編集

亜硝酸ナトリウム硝酸ナトリウムといった食品添加物(発色剤)や、燻製処理は、N-ニトロソ化合物ニトロソアミンなど)や多環芳香族炭化水素 (PAH) のような発がん性物質を生成する[1]。これらを使わない加工肉は「無塩せき」と呼ばれ、中小企業の商品に多い[11]。ハーバード公衆衛生大学院の解説では、硝酸塩が使われていないという加工肉は、しばしば天然の硝酸塩が豊富なセロリジュースで保存されており、安全性を判断するにはデータは不十分で、肉自体に他の発がん性物質の形成を促進する物質があるため、硝酸塩が使われていないとする加工肉でも、特別に扱わないということが最善であるとした[1]。塩分や脂肪分も多い傾向にある[12]

この分類は肉の加工肉となっているが、ここに含まれない鶏肉(チキン)七面鳥(ターキー)のホットドッグやベーコンよりは、そうでない未加工の鶏肉や七面鳥を食べた方が良い[1]

イギリスの保健省は、赤肉、加工肉の摂取量を1日あたり70グラムにまで減らすことを勧めている[12]

2002年の世界保健機関の報告書では、動物性タンパク質の摂取量が60gから20gに減少すると、カルシウム必要量が240mg減少し、同様にナトリウムが2.3mg減少するとカルシウム必要量も同じだけ減少するという推定がある[10]

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2007年には、世界がん研究基金 (WCRF) が週に赤肉500g以下を個人の目標として、また公衆衛生上の目標を週に300g以下とし、加工肉についてはできるだけ食べないよう推奨している[2]。日本でもこの報告を基に摂取を控えるようにとしていが、日本人での科学的証拠が明確でなく、2015年時点では判断を取り下げ、健康のためにある程度の摂取が必要としている[3]

2015年、世界保健機関 (WHO)の一機関である 国際がん研究機関 (IARC) は、主に結腸直腸癌のリスクから、赤肉をおそらく発がん性がある2Aに分類している。加工肉は塩、塩漬け、発酵、燻製などの加工によって処理された肉であり、グループ1に分類される[13]。日本では2015年のIARCの発がん性物質の指定に続く国立がん研究センターによる発表では、日本人の平均的な摂取量、毎日赤肉50グラムと加工肉13グラムであれば、赤肉や加工肉による大腸がんのリスク増加は「無いか、あっても、小さい」とした[14]

IARCの発がん性物質の指定はリスクの大きさを考慮しておらず、ハーバード公衆衛生大学院の推定では、がんのみに限ると世界で喫煙による年間死亡者数は100万人である一方、加工肉1日50グラムの消費増加では3.4万人の死亡増加と少ないことが示されるが、これをさらに心血管疾患、糖尿病、結腸直腸がんとすると2013年のデータがあり[15]、加工肉の摂取量が多いことに起因する年間死亡者は64.4万人である[1]

2016年にアメリカがん研究協会 (WCRF) と世界がん研究基金は、加工肉の消費による胃がんリスクの増加を報告した[16]

がん研究機関のキャンサー・リサーチUK支援のもとでオックスフォード大学が実施した2019年の分析では、赤肉や加工肉を週に4回以上摂取している場合には、2回未満の人々より結腸癌のリスクが20%高いことが判明した[17]。2019年の43の研究からのメタアナリシスでは、赤肉を毎日100グラムごとに胃がんの相対危険度が1.26倍、加工肉の胃がんの相対危険度は毎日50グラムごとに1.72倍であった[18]

日本人の赤肉、加工肉摂取での癌リスクは無いか、低いとされている。これは、日本人の赤肉・加工肉の平均摂取量が一日あたり63g(赤肉50g、加工肉は13g)と低いためである。ただし、欧米でも多いとされる量を摂取すればリスクは上昇する、日本でも摂取量の多い男性上位10%は結腸がん発生率が1.37倍となるとの報告や[19][20]、牛肉の摂取量が一番低かったグループに比べ最も高いグループでは、男性で下行結腸のリスクが、女性では腸がんリスクが高くなる、また、豚肉摂取が最も多いグループでは女性の下行結腸がんリスクが高く、加工肉摂取頻度が最も多いグループの女性で結腸がんリスクは高い。鶏肉では顕著な癌リスク増加は認められなかった。これらの結果から赤肉の摂取により結腸がんリスクが上昇することが示唆されている[21]

メンタルヘルス編集

赤肉はメンタルヘルス、心の健康のためには必要である。赤肉にはうつ病の抑制に関連する亜鉛やビタミン12など優良な含まれ、赤肉の適度な量の摂取が良いとされる。赤肉を殆ど食べない菜食主義者は抑うつや、不安症状の人が多いという横断研究の結果がある。推奨量以下または推奨量以上の赤肉を食べる人は推奨量内の赤肉を食べる人に女性に比べて抑うつや、不安症状の人が多いという横断研究や、赤肉を殆ど食べない菜食主義者は抑うつや、不安症状の人が多いという横断研究の結果がある。うつ病に効果がある食事として地中海式食事があげられ、食材として果物や野菜、全粒穀類、ナッツ、オリーブオイル、中等量の魚、低~中等量の乳製品、低量の赤肉を使っている[22]

脚注編集

注釈編集

  1. ^ 非ヘム鉄も体内で過剰になると、肝障害,糖尿病,内 分泌腺障害などの原因となり、その結果DNAを損傷させ癌の原因となる[6]

出典編集

  1. ^ a b c d e f g h i j 国際がん研究機関 (2015-10-26). IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat (Report). http://www.iarc.fr/en/media-centre/pr/2015/pdfs/pr240_E.pdf.  WHO report says eating processed meat is carcinogenic: Understanding the findings”. ハーバード公衆衛生大学院英語版 (2015年11月13日). 2017年5月6日閲覧。
  2. ^ a b World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research (2007). Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective. Amer. Inst. for Cancer Research. p. 370, 382. ISBN 978-0972252225. http://wcrf.org/int/research-we-fund/continuous-update-project-cup/second-expert-report  (推奨については英語版のみ)日本語要旨:食べもの、栄養、運動とがん予防世界がん研究基金米国がん研究機構
  3. ^ a b “赤肉・加工肉のがんリスクについて” (プレスリリース), 国立研究開発法人国立がん研究センター, (2015年10月29日), https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2015/1029/index.html 2020年12月24日閲覧。 
  4. ^ Wolk, A (6 September 2016). “Potential health hazards of eating red meat.”. Journal of Internal Medicine. doi:10.1111/joim.12543. PMID 27597529. オリジナルの8 November 2016時点におけるアーカイブ。. http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joim.12543/full. 
  5. ^ a b Pan A, Sun Q, Bernstein AM, et al. (2012). “Red meat consumption and mortality: results from 2 prospective cohort studies”. Arch. Intern. Med. 172 (7): 555–63. doi:10.1001/archinternmed.2011.2287. PMC 3712342. PMID 22412075. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3712342/. 
  6. ^ 大竹 孝明、生田 克哉、高後 裕「鉄代謝の臨床 鉄欠乏と鉄過剰:診断と治療の進歩 IV.最近の話題 2.鉄と発癌」『日本内科学会雑誌』第99巻第6号、日本内科学会、2010年、 1277-1281頁、 ISSN 0021-5384
  7. ^ Turesky RJ (October 2018). “Mechanistic Evidence for Red Meat and Processed Meat Intake and Cancer Risk: A Follow-up on the International Agency for Research on Cancer Evaluation of 2015”. Chimia (Aarau) 72 (10): 718–724. doi:10.2533/chimia.2018.718. PMID 30376922. 
  8. ^ USDA-Safety of Fresh Pork...from Farm to Table”. Fsis.usda.gov (2008年5月16日). 2013年9月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年9月16日閲覧。
  9. ^ The new focus on sustainability: The Dietary Guidelines for Americans and for our planet”. ハーバード公衆衛生大学院 (2015年6月16日). 2017年9月18日閲覧。
  10. ^ a b joint FAO/WHO expert consultation. "Chapter 11 Calcium", Human Vitamin and Mineral Requirements, 2002.
  11. ^ 垣田達哉「発がん性の指摘ある発色剤、日本ハムが「非使用」宣言の狙い」『Business Journal』、2017年12月11日。2019年4月10日閲覧。
  12. ^ a b Meat in your diet”. 2019年4月17日閲覧。
  13. ^ “IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat” (プレスリリース), 国際がん研究機関(IARC), (2015年10月26日), https://www.iarc.who.int/wp-content/uploads/2018/07/pr240_E.pdf 2021年12月24日閲覧。 
  14. ^ 赤肉・加工肉のがんリスクについて”. 国立がん研究センター (2015年10月29日). 2019年5月26日閲覧。
  15. ^ Forouzanfar MH, Alexander L, Anderson HR, et al. (2015). “Global, regional, and national comparative risk assessment of 79 behavioural, environmental and occupational, and metabolic risks or clusters of risks in 188 countries, 1990-2013: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2013”. Lancet 386 (10010): 2287–323. doi:10.1016/S0140-6736(15)00128-2. PMC 4685753. PMID 26364544. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(15)00128-2. 
  16. ^ Diet, nutrition, physical activity and stomach cancer”. アメリカがん研究協会 and 世界がん研究基金 (2016年4月21日). 2016年4月23日閲覧。
  17. ^ “Diet and colorectal cancer in UK Biobank: a prospective study”. International Journal of Epidemiology: dyz064. (2019-04-17). https://academic.oup.com/ije/advance-article/doi/10.1093/ije/dyz064/5470096 https://doi.org/10.1093/ije/dyz064閲覧。. 
  18. ^ Kim SR, Kim K, Lee SA, Kwon SO, Lee JK, Keum N, Park SM (April 2019). “Effect of Red, Processed, and White Meat Consumption on the Risk of Gastric Cancer: An Overall and Dose⁻Response Meta-Analysis”. Nutrients 11 (4). doi:10.3390/nu11040826. PMID 30979076. 
  19. ^ “赤肉・加工肉のがんリスクについて” (プレスリリース), 国立研究開発法人 国立がん研究センター, (2015年10月29日), https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2015/1029/index.html 2020年12月23日閲覧。 
  20. ^ 赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて”. 国立研究開発法人 国立がん研究センター. 2020年12月23日閲覧。
  21. ^ “日本人における肉類摂取と大腸がんリスク” (プレスリリース), 国立研究開発法人 国立がん研究センター, (2020年7月6日), https://epi.ncc.go.jp/can_prev/evaluation/8496.html 2020年12月24日閲覧。 
  22. ^ 松岡 豊、浜崎 景「食からメンタルヘルスを考える―栄養精神医学の役割と可能性―」『精神神経学雑誌』第118巻第12号、日本精神神経学会、2016年、 880‐894、 ISSN 0033-2658

関連項目編集

外部リンク編集