車止め

停止すべき位置を越えて走行してきた、自動車または鉄道車両を強制的に停止させるための構造物。また、自動車の駐車場や鉄道線路の終端に設置される。
車止から転送)

車止め(くるまどめ)とは、停止すべき位置を越えて走行してきた、自動車または鉄道車両を強制的に停止させるための構造物である。自動車の駐車場鉄道線路の終端に設置される。

車止めに衝突した列車(2010年12月29日、ライプツィヒ中央駅での事故[1]

自動車は、運転者が停止位置を知るため故意に車止めへタイヤを接触させることがあり、自動車用の車止めは接触(微速な衝突)が常に生じることを前提とした構造や設置方法が採られる。コンクリート製のものが多い。

鉄道においては、車両が車止めに接触することは異常事態や事故であり稀で、鉄道車両用の車止めは頻繁に車両が接触や衝突することを考慮しておらず、車止め自体が破損することで衝突の衝撃を緩和する構造のものが多い。構造はコンクリート製やバラストを積んだものなどがあり、多くの車止めはそれが機能したのちには復旧工事を必要とする。

自動車の車止め 編集

 
手歯止め(輪留め、輪止め、ハンドスコッチ)
 
ボラード

一般的な自動車は構造上、後退(バック)する際に運転者の視点から後方の安全が確認しづらいため、万一過走しても(速度が高かったり故意に乗り越えようとしなければ)安全な範囲で止まることができるように車止めが設置される。

自動車の前後方向に対して横に長い直方体のコンクリート塊を、駐車スペースの端に車幅に合わせた間隔で2つ置いてあることが多い。直方体の辺のうちタイヤに接する長い一辺を斜め(またはタイヤの形状に沿った円弧状)に削った形の五角柱とし、タイヤへの負担を軽減しているものも増えている。ほとんどの場合において自動車の床下より低く作られ車体そのものには接触しないため、車止めによって止まった場合でもおよそオーバーハングの分だけ車止めからはみ出すことになる。したがって、地面に対して凸となる大きな障害物(塀、建物等)や所有地の境界線などに面した駐車スペースではそのはみ出し分も考慮して車止めの設置位置を決める必要があるほか、運転者自身も駐車しようとする車のおおまかな寸法を知った上でその点を考慮する必要がある。

コンクリート製以外に木製のものやプラスチック製の物もあり、地面に固定されていることもある。コンクリート製のものは車のサイズに合わせて鉄道に比べ小さめに作られているため、ずれる事や乗り越えてしまうことも多々ある。また、余剰となったコンクリートブロック縁石、伏せたU字溝などを代用しているケースもある。最近では環境に配慮した再生ゴム製のリサイクル製品の車止めも多く使われている。ゴム製のものは耐久性も高く長期間の使用に耐えるものが増えてきている。

また、三角形をした携帯用の車止め(手歯止め)もある。材質は、木製、鉄製などがあり、パンク修理などの非常用として折りたたみ式の車止め(輪止め)もある。止まっている車を固定し安全を確保するためのもので、走って(動いて)きた車を強制的に止めるものではない。

なお、棒状に地面から突き立っていて、歩道や公園などへの自動車の進入を防ぐといった目的で用いられる車止めはボラードと呼ばれる。

鉄道の車止め 編集

構造 編集

 
枕木と土砂の車止め(チェコ)
 
油圧式の車止め(日本)
 
日本車輌製造カヤバ工業製の車止め(京王井の頭線渋谷駅
枕木
通常はレールの下に敷かれている枕木を1本ないし数本束ねてレールの上面に渡して針金などで固定し、簡易的な車止めとしているものもある。またそれとは別に、前述の他種の車止めにおいて車両が最初に接触する位置に取り付けられ、車止め本体・車体双方の破損防止のクッション代わりとされる例もある(当然、その役目を果たせるのは衝突の衝撃がごく弱い場合に限られる)。いずれの場合も、大抵は余剰や使い古しなどの木製のものが使われる。
油圧式
油圧式の緩衝装置が列車を迎える形で設置されているもので、万一列車が過走しても低速ならば比較的安全に停止させる事ができる(危険が全く無いという意味ではない)。用地が少なくて済む上に強度・安全性に優れ信頼性も高いが、他種に比べて格段に高価なため、採用されるのは利用客が多く信頼性と安全性が特に要求される大都市の頭端式ホームの終端などごく限定的である。
摩擦式
レールに対し鋼製ブロックを締結した単純な構造でありながら高い効果が認められており、日本でも大手私鉄を中心に採用例が増加している[2]。ドイツのRAWIE社が1909年 [3]に特許を取得。

強度 編集

車止めがその役目を果たすにも限界はある。土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故のように、車両がある程度以上の速度で衝突した場合、車止めが破壊され車両がそれを乗り越えていくこともある。

限界となる速度は車止め及び車両の種類や構造などによっても異なるが、自動車と比較すると鉄道の場合は低速でも被害が大きくなりがちである。そのため、線路終端の手前に速度照査付きの自動列車停止装置(ATS)や自動列車制御装置(ATC)を設置して列車を予め強制的に減速あるいは停止させ、車止めへの衝突時のショックや車体の損害を少しでも緩和したり、車止めへの衝突そのものを防止しようという取り組みもある。そうでなくても、車止めのすぐ先に民家公道等がある場合や高架の終端など、列車の過走が直ちに乗客や第三者の生命・財産の危機へと直結するような場合に備えて、確実性向上のために複数種の車止めを相互間のバックアップとして併設しているケースは古くから多く見られる。

標識 編集

   
車止標識の例(日本)
安全側線緊急防護装置(タピット)

鉄道の車止めでは、車止め本体と一緒に線路の終端を示す標識が設置されている事がほとんどである。設置条件などによっては反射材を使用して光(主に列車の前照灯によるもの)を反射させたり、電球LEDなどが内蔵され標識自体が発光する機能を備えたものなどがあるが、それら自体はあくまで標識であって車止めではなく、車両を直接的に停止させる機能やその一部を担っているわけでもない。

また、主に安全側線において、短い梯子もしくは柵状の装置が設置されていることがあるが、これは「安全側線緊急防護装置(タピット)」と呼ばれるもので、設置されている場所や形状は似ているが車止めではない(同装置の詳細は安全側線#課題と対策を参照)。

日本における分類 編集

第1種車止め
線路を覆うように砂利を盛っただけのものを言う。設置・撤去が容易であるため、主に安全側線や、近い将来に延伸(=車止めの撤去)の予定がある暫定的な終端等で使われる。砂利は線路下に敷いてあるバラストと同じ材料を使用するため、コスト面ではコンクリート式に比べて有利である。簡単に崩れやすい構造のため、万一の際に車両や乗客・貨物に与えるダメージが小さい反面、強度は高いとは言えない。その強度を補うため設置には数十m単位の細長い用地が必要で、長さは手前1kmの平均勾配で決められている。近年はコスト面からバラスト式の採用も目立ってきている。
第2種車止め
鋼材を櫓型に組んで作られたもの。最も一般的で、引き上げ線電留線などに幅広く使用される。設置に必要な用地が短くて済み、また材料には古レールなどの既存資材を有効活用した例が多く見られる。部分廃止などで新たに設置されるのは大抵このタイプ。
第3種車止め
レールを上方に向かって(逆U字形に)曲げることで車止めの機能を果たすもの。設置にあたって特別な材料や用地を必要としない反面、構造が簡易的で強度はさほど高くない。主に保線材料線等の終端で使われる。
第4種車止め
コンクリートの塊を線路端に置いたもの。制走堤とも言う。設計次第では車止めを挟んで両面から使用できるため、用地の有効活用が求められる留置線で多用される。秋田駅箱根湯本駅新白河駅などでは、同じホームに面し元々1本に繋がっていた線路を改軌などの際にホーム中程で分断し、その両側をそれぞれ行き止まりの別々のホームとして機能させるために採用されている。

脚注 編集

  1. ^ Leipzig : ICE rast im Hauptbahnhof gegen Prellbock”. Bild.de (2010年12月30日). 2013年1月16日閲覧。
  2. ^ バッファストップ”. 伊岳商事. 2019年12月25日閲覧。高性能バッファーストップ”. 伊岳商事. 2019年12月25日閲覧。
  3. ^ HISTORIE” (ドイツ語). A. RAWIE GmbH & Co. KG. 2019年12月25日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集