輸送起立発射機(transporter erector launcher、TEL)は、地上発射型のミサイルを搭載して輸送し、発射時には搭載したミサイルをそのまま起立させて発射することができる車輌のことである。防衛研究所では「発射台付き車両」と呼称する[1]

ソビエト連邦の保有した2K11輸送起立発射機

概要編集

初期の地上発射型ミサイル(地対空ミサイル弾道ミサイルを含む地対地ミサイル地対艦ミサイル)は地上に固定設置された発射台から発射されていたが、固定式の発射台はひとたび敵に発見されれば攻撃に対して脆弱となり、ミサイルの再配置も困難であるという問題があった。そこで、ミサイルの発射台をトラックトレーラーに搭載して移動式とすることが考えられた。移動式の発射台は自在に移動してどこからでもミサイルを発射できるほか、トンネルや建物の中に隠れておいて偵察衛星偵察機に発見されることを防いだり、空からの攻撃を避けたりすることができ、発射前にミサイルが発見・攻撃される可能性を大きく下げることができる。

地上発射型のミサイルは上方に向けて射ち出されることが多く、特に大気圏外まで高速で上昇する弾道ミサイルは空気抵抗を最小限に抑えるため、垂直に発射される。一方でミサイルを搭載して移動する際にはミサイルをできるだけ水平にした方が移動時の安定性が高い。そこで、通常はミサイルを寝かせておき、発射時にミサイルを「起立」させる方法がとられる。ミサイルを斜め上方に発射する場合、ミサイルを目標がある方向に向けるために発射機は旋回可能になっていることが多い。一方でミサイルを垂直に発射する場合は発射されたミサイルはある程度上昇した後に目標の方向に向きを変えて飛翔するので発射機に旋回機能は無い。

TELは射点につき、発射直前の準備を行っている間が攻撃に対して最も脆弱であるが、比較的古い設計で液体燃料を使用するスカッドミサイルでも発射準備に要する時間は1時間ほど(ミサイルを起立させた後に燃料酸化剤の注入を行う必要がある)で、固体式燃料を使用したミサイルであれば準備時間はさらに短くなると考えられる。移動・隠蔽が容易で事前に発見することが難しいTELと、発射から着弾までの時間が短く迎撃が困難な弾道ミサイルの組み合わせは戦略上の大きな脅威となり得る存在である。実際に、湾岸戦争イラク戦争ではイラクのスカッドミサイルを破壊するために大規模な空爆が行われ(いわゆる「スカッドハント」)、TELの位置を特定するために特殊部隊も投入されたが、スカッドの発射を完全に阻止することはできなかった[2]

なお、MIM-104パトリオットシステムは牽引式の発射機輸送車であり、Mobile Erector Launchers、直訳すれば移動式起立発射機、省略形ではMELと呼称される[3]

レーダー搭載型編集

輸送車兼用起立式レーダー装備発射機(transporter erector launcher and radar、TELAR)はTELと同様にミサイルの輸送・発射能力を持つとともに、目標を捜索・追尾するレーダーシステムやミサイルの軌道を修正するための誘導指令装置などの支援装置を1つの車体にまとめて搭載している。通常の移動式ミサイルシステムはミサイル発射機搭載車の他にレーダーや射撃管制装置、指揮統制装置、中継装置などを搭載した多数の支援車輌から構成され、ミサイル発射機単体での戦闘は行えない。しかし、TELARには自律戦闘能力があり、支援車輌の状態や存在に関わりなく各車が戦闘可能である。また、支援車輌が不要となるために機動力を高めることができ、身軽な運用が可能になる。TELARは地対空ミサイルの発射機として用いられ、特に短距離地対空ミサイルの発射機に多い。これは短距離地対空ミサイルや短距離用レーダーは比較的小型で同一の車体に搭載する余裕があることに加え、前線近くに配置されることから高い機動力を求められるためである。

また、transporter launcher and radar(TLAR)、直訳すれば輸送車兼用レーダー装備発射機は、TELARと同様にミサイル発射機とレーダーを一つの車体に備えるものの、TELARとは異なりミサイルを起立させる能力がない。TLARのミサイルは発射準備位置についた状態で搭載・輸送される。例としては9K330トールがあり、このシステムのミサイル発射機は垂直発射システム(VLS)形式をとっている。

なお、自前のレーダーを持つTELARやTLARであっても他の車輌と連携することがあり、指揮統制車両(CPまたはCPV)とリンクしたり、「目標の取得、指示および誘導レーダー」(TADAGR、または略してTAR)から取得した目標情報を利用したりする場合がある。

主な機種編集

  中華人民共和国

  ロシア

  • 9A39M1装軌式輸送起立発射機
  • S-400トリウームフ防空システム輸送起立発射機
  • SA-4輸送起立発射機
  • 9P113輸送起立発射機
ZIL-135トラックを使用した9K52 ルーナM (FROG-7)の発射機。
MAZ-543の派生型。
MAZ-543の派生型。

  ドイツ/  アメリカ合衆国

  • MAN AG輸送起立発射機

  アメリカ合衆国

  • BGM-109Gグリフォン輸送起立発射機

  北朝鮮

  • 形式不詳(11軸44輪?輸送起立発射機[4]

画像編集

参考文献編集

  1. ^ 略語集”. 防衛研究所. 2020年9月1日閲覧。
  2. ^ 専守防衛下の敵地攻撃能力をめぐって――弾道ミサイル脅威への1つの対応――”. 2020年6月30日閲覧。
  3. ^ FM 44-94 Army Air and Missile Defense Command Operations. Glossary. Part I -- Abbreviations and Acronyms at Federation of American Scientists website
  4. ^ 北朝鮮、新型ICBMを公開 世界最大か”. AFP (2020年10月11日). 2020年10月9日閲覧。

関連項目編集

ソビエト連邦および東側諸国で運用された装輪式車両。9K52 ルーナM (FROG-7)およびBM-27 ウラガンの輸送起立発射機のベースになった。
ソビエト連邦および東側諸国で運用された装輪式車両。多種の輸送起立発射機のベースになった。

外部リンク編集

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