近鉄9020系電車
近鉄9020系電車(きんてつ9020けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道(近鉄)が2000年に導入した一般車両(通勤形電車)で、「シリーズ21」の1系列である。L/Cカーの6両編成で投入された5820系に続く「シリーズ21」の第3弾として、オールロングシートの2両編成で奈良線、大阪線系統に投入された[1][2][3][4][5]
近鉄9020系・9820系電車 | |
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![]() 奈良線を走行する9020系 | |
基本情報 | |
運用者 | 近畿日本鉄道 |
製造所 | 近畿車輛 |
製造年 |
9020系:2000年 - 2008年 9820系:2001年 - 2008年 |
製造数 |
9020系:20編成40両 9820系:10編成60両 |
投入先 |
奈良線・京都線系統 大阪線系統(9020系のみ) |
主要諸元 | |
編成 |
9020系:2両編成 9820系:6両編成 |
軌間 | 1,435 mm |
電気方式 | 直流1500V |
最高運転速度 |
奈良・京都線:105 km/h 大阪線:110 km/h 阪神電車:106 km/h |
車両定員 |
9020系:141名 9820系:先頭車134名、中間車147名 |
全長 | 20,720 mm [1] |
全幅 | 2,800 mm [1] |
全高 | 4,150 mm [1] |
車体高 | 4,110 mm [1] |
車体 | アルミニウム合金 |
台車 |
積層ゴムブッシュ片側支持式ボルスタレス台車 Mc車・M車:KD-311形 [1] Tc車・T車:KD-311A形 [1] |
主電動機 | かご形三相誘導電動機 三菱電機 MB-5085-A [1] |
主電動機出力 | 185 kW [1] |
駆動方式 | WNドライブ |
歯車比 | 6.31 |
制御方式 | IGBT素子VVVFインバータ制御 |
制御装置 |
三菱電機 MAP-194-15VD86 [1] 日立製作所 VFI-HD-1420A |
制動装置 | 電気指令式空気ブレーキ(KEBS-21A) |
保安装置 | 近鉄型ATS・阪神型ATS |
備考 | 電算記号:EE(9020系奈良線用)、EW(9020系大阪線用)、EH(9820系) |
本項では奈良線、大阪線用で6両編成の9820系電車、南大阪線系統用で2両編成の6820系電車についても記述する。
2008年までに9020系・9820系に南大阪線用の6820系を含めた3形式合計で104両が製造された[2][6]が、大部分の98両は奈良線に投入されており[* 1]、大阪線には9020系2両編成1本[2][* 2]、南大阪線には6820系2両編成2本の投入に留まっている[2]。
構造
編集車体
編集車体はアルミニウム合金製で、前面は5820系と同じく貫通型である[7]。塗装はツートンカラーの間に帯が入ったシリーズ21共通の配色で、上部がアースブラウン、下部がクリスタルホワイト、帯がサンフラワーイエローとされた[8]。
前照灯は5820系とともにHIDを採用した[8]。行先表示器も5820系と同じく行先部分がLED、種別部分が方向幕となっている[9]。
車内
編集車内は3220系と同様のロングシートで、座席は脚台のない片持ち式である[8]。乗降扉に一番近い側の座席は、高齢者が立ち上がりやすいよう両側に肘掛けが設けられた「らくらくコーナー」とされた[10]。
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9020系の車内(モケット更新前)
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1人掛け優先座席「らくらくコーナー」(モケット更新前)
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9020系の車内(モケット更新後)
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9020系「らくらくコーナー」(モケット更新後)
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9020系の優先座席(モケット更新後)
主要機器
編集主電動機はかご形三相誘導電動機の三菱電機製 MB-5085-A (185 kW×4) を採用[1]。歯車比は6.31に設定された[10]。制御装置は1C4M制御のIGBT素子(3300 V/1200 A)によるVVVFインバータ制御装置を採用しているが、「シリーズ21」では同一系列内に三菱電機製と日立製作所製が混在している[3]。
集電装置はMc車2基搭載で、2018年4月時点で全編成がシングルアーム式を搭載している[11]。新造時の9023F・9024F・9026F - 9039F・9051Fは下枠交差式を搭載していた[12][6]。
台車は積層ゴムブッシュ式ボルスタレス台車であるKD-311系を装着する[1][3][4]。
ブレーキは電気指令式ブレーキを基本とするが、5820系と同じく従来の電磁直通ブレーキ車との併結運転を可能とするためのブレーキ読替装置が搭載された[10]。併結車両は特に限定されておらず[2]、性能面では営業最高速度110 km/hを確保している[5]。
形式別概説
編集9020系
編集9020系は2両編成の「シリーズ21」で、奈良線用は2000年から2008年にかけて[1][5]、大阪線用は2003年に製造されている[13][5]。電算記号は奈良線用はEE[14]、大阪線用はEW[14]。
制御装置は9021F - 9026F・9028F - 9034Fが三菱電機製、9027F・9035F - 9039F・9051Fが日立製作所製を搭載している。ブレーキ装置は奈良線用編成では全軸片押し踏面制動方式であるが、大阪線用編成ではTc車にディスクブレーキを搭載する。
2018年4月1日現在、奈良線用は東花園検車区に19編成38両が、大阪線用は高安検車区に1編成2両が配置されている[11]。
← 神戸三宮・大阪難波・京都 近鉄奈良・天理・橿原神宮前 →
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系列名 | 編成名 | 電算名 | Mc モ9020 |
Tc ク9120 | ||
9020系 | 9021F - 9039F | EE21 - EE39 | 9021 - 9039 | 9121 - 9139 |
← 大阪上本町 宇治山田・鳥羽 →
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系列名 | 編成名 | 電算名 | Tc ク9150 |
Mc モ9050 | ||
9020系 | 9051F | EW51 | 9151 | 9051 |
9820系
編集(2023年11月4日 富雄駅 - 学園前駅間)
9820系は2001年に登場した6両編成の「シリーズ21」で、9020系の6両編成仕様または5820系のロングシート仕様である[1][2][3][4][5]。電算記号はEH [15]。
性能面や主要機器は9020系に準拠する[2][4]。本系列では9821F・9823F・9825F - 9828Fは三菱電機製、9822F・9824F・9829F・9830Fは日立製作所製の制御装置を搭載する。パンタグラフは5820系と同様のM車1基搭載による1編成3基搭載とされ、2023年9月時点では9830Fが下枠交差式を搭載している以外は、全てシングルアーム式を搭載している[11]。
増備途中から設計変更が行われ、9823F以降はク9320形にも貫通扉に幌枠および桟板が設けられた(阪神直通運転対応工事と同時に9821F、9822Fにも設置[2])。
2018年4月1日現在、西大寺検車区に10編成60両が配置されている[11]。
← 神戸三宮・大阪難波・京都 近鉄奈良・天理・橿原神宮前 →
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系列名 | 編成名 | 電算名 | Tc1 ク9720 |
M1 モ9820 |
M2 モ9620 |
T サ9520 |
M3 モ9420 |
Tc2 ク9320 | ||
9820系 | 9821F - 9830F | EH21 - EH30 | 9721 - 9730 | 9821 - 9830 | 9621 - 9630 | 9521 - 9530 | 9421 - 9430 | 9321 - 9330 |
改造
編集阪神直通対応改造
編集奈良線所属車は2006年から順次阪神電気鉄道直通運転対応工事を行っており[1]、阪神用の列車選別装置とATSと電鈴が取り付けられている[2][3][4]。9820系でも2007年までに9020系と同内容の阪神電鉄線直通運転対応工事が行われた[2][3][4]。
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阪神大石駅付近を通過する9020系電車
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阪神直通車両に貼付されたロゴマーク
運用
編集奈良線
編集9020系・9820系は近鉄難波線、近鉄大阪線(大阪上本町駅 - 布施駅間)、奈良線、京都線、橿原線、天理線で運用されるほか、2009年3月20日の阪神なんば線開業後は同線経由で阪神本線(神戸三宮駅 - 尼崎駅間)にも乗り入れるようになった。
2両編成の9020系は単独ないし他形式併結による4両 - 10両編成で運用されるが[1][4]、6両固定編成車と併結した8両編成以上で阪神電鉄線直通列車に充当される際は原則として奈良方に増結される[2]。6両編成の9820系は5800系および5820系、1026系 1026F - 1029Fと共通運用で、奈良線、阪神なんば線・阪神本線直通列車、京都線、橿原線、天理線で運用されている。
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近鉄・阪神相直ラッピング車(鶴橋駅にて)
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奈良ラッピング車(EH30編成)
大阪線
編集2両編成の9020系50番台が近鉄大阪線、近鉄山田線、近鉄鳥羽線で運用され、原則他形式と併結して運用される[13][4]。
当初の計画では、9020系や9820系の大阪線および名古屋線新造投入も予定されており、9200系のサ9350形をサ9310形に改番したり[* 3]、大阪線系統での長距離試運転を行うなど[2]、両線に導入する準備が進められていた。しかし、最終的に名古屋線には同形式をはじめシリーズ21が新製配置されることはなく、8A系を中心とする次世代の車両群に移行した。
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9020系(大阪線用 50番台)
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高安駅停車中の9020系電車
アートライナー
編集6820系
編集近鉄6820系電車 | |
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土師ノ里駅付近を走行中の6820系 | |
基本情報 | |
製造年 | 2002年 |
製造数 | 2編成4両 |
投入先 | 南大阪線系統 |
主要諸元 | |
編成 | 2両編成 |
軌間 | 1,067 mm |
最高運転速度 | 100 km/h |
車両定員 | 141名 |
台車 |
電動車:KD-313 [17] 制御車:KD-313A [17] |
主電動機 | 三菱電機 MB-5071-A [17] |
主電動機出力 | 160 kW |
編成出力 | 640 kW |
制御装置 | 日立製作所 VFI-HR-2420C [17] |
保安装置 | 近鉄型ATS |
備考 | 電算記号:AY |
6820系は2002年に登場した、南大阪・吉野線用の2両編成による「シリーズ21」である[17][2][3][4][5]。電算記号は AY [18]。最後まで残っていた6000系6009Fを置き換えるために登場した。
主要機器
編集制御装置は日立製作所製を採用しているが[17][3]、主回路は標準軌線車両の1C4M制御に対し本型式では16400系と同様の1C2M制御に変更されて二重系となっており、単独編成での運用を考慮したものとなっている[3][4]。
南大阪線系統の一般車両の最高速度が100km/hとされているため、モータ出力は160 kWである(標準軌線用「シリーズ21」は185 kW)[17][3]。シングルアーム式パンタグラフが採用されている[3][4][11]。
配置と運用線区
編集← 大阪阿部野橋 河内長野・近鉄御所・吉野 →
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系列名 | 編成名 | 電算名 | Tc ク6920 |
Mc モ6820 | ||
6820系 | 6821F・6822F | AY21・AY22 | 6921・6922 | 6821・6822 |
2018年4月1日現在、古市検車区に2編成4両が配置されている[11]。南大阪線系統全域で運用されるが、ワンマン運転には対応していないため道明寺線では運用されない[3]。
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他系列と連結して運転される6820系電車(土師ノ里駅付近にて)
参考文献
編集- 三好好三『近鉄電車 大軌デボ1形から「しまかぜ」「青の交響曲」まで100年余りの電車のすべて』(JTBキャンブックス)、JTBパブリッシング、2016年。ISBN 978-4-533-11435-9 C2065
- 『近鉄時刻表 2009年3月20日ダイヤ変更号 』「The Densha 30 」p.46・p.47(著者・編者 近畿日本鉄道、出版・発行 同左)
- MEDIAX MOOK363 『近畿日本鉄道完全データ DVDBOOK』 p.52・p.53・p.59・p.63・p.66・p.72 (発行 メディアックス 2012年) ISBN 978-4-86201-393-4
- 『私鉄車両年鑑2012 大手15社 営業用車両全268形式完全網羅』 p.32・p.36(発行 イカロス出版 2012年)ISBN 978-4-86320-549-9
- 近畿日本鉄道のひみつ p.114・p.115(発行者 小林成彦、編者・発行所 PHP研究所 2013年)ISBN 978-4-569-81142-0
- 久保隆彦「『シリーズ21』にニューバージョン登場! 近鉄5820系・9020系」『鉄道ファン』2000年10月号(No.474)、交友社、pp.72-78
- 交友社『鉄道ファン』付録小冊子 「大手私鉄車両ファイル 車両配置表&車両データバンク」2007年9月号 - 2009年9月号・2018年8月号
脚注
編集- 注釈
- 出典
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 三好好三『近鉄電車』p.94
- ^ a b c d e f g h i j k l m 『近鉄時刻表 2009年3月20日ダイヤ変更号 』「The Densha 30 」p.46・p.47(著者・編者 近畿日本鉄道、出版・発行 同左)
- ^ a b c d e f g h i j k l MEDIAX MOOK363 『近畿日本鉄道完全データ DVDBOOK』 p.52・p.53・p.59・p.63・p.66・p.72 (発行 メディアックス 2012年) ISBN 978-4-86201-393-4
- ^ a b c d e f g h i j k 『私鉄車両年鑑2012 大手15社 営業用車両全268形式完全網羅』 p.32・p.36(発行 イカロス出版 2012年)ISBN 978-4-86320-549-9
- ^ a b c d e f 近畿日本鉄道のひみつ p.114・p.115(発行者 小林成彦、編者・発行所 PHP研究所 2013年)ISBN 978-4-569-81142-0
- ^ a b 『鉄道ファン』2009年9月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2009 車両配置表&車両データバンク」
- ^ 久保隆彦「『シリーズ21』にニューバージョン登場! 近鉄5820系・9020系」『鉄道ファン』2000年10月号、p.73
- ^ a b c 久保隆彦「『シリーズ21』にニューバージョン登場! 近鉄5820系・9020系」『鉄道ファン』2000年10月号、p.74
- ^ 久保隆彦「『シリーズ21』にニューバージョン登場! 近鉄5820系・9020系」『鉄道ファン』2000年10月号、p.78
- ^ a b c 久保隆彦「『シリーズ21』にニューバージョン登場! 近鉄5820系・9020系」『鉄道ファン』2000年10月号、p.75
- ^ a b c d e f 『鉄道ファン』2018年8月号 交友社「大手私鉄車両ファイル2018 車両配置表」
- ^ 『鉄道ファン』2008年9月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2008 車両配置表&車両データバンク」
- ^ a b 三好好三『近鉄電車』p.127
- ^ a b 三好好三『近鉄電車』p.230
- ^ 三好好三『近鉄電車』p.231
- ^ “大阪・関西万博オリジナルデザインのラッピングトレインを運行します”. 近畿日本鉄道. 2024年2月11日閲覧。 アーカイブ 2023年12月10日 - ウェイバックマシン
- ^ a b c d e f g 三好好三『近鉄電車』p.200
- ^ 三好好三『近鉄電車』p.232
関連項目
編集外部リンク
編集- 鉄路の名優|近鉄企業情報 - 近畿日本鉄道