重装輪回収車
重装輪回収車(じゅうそうりんかいしゅうしゃ)は、陸上自衛隊が装輪装甲車の回収及び整備支援をするために導入した車両である。
導入の経緯
編集1980年代以降、陸上自衛隊は装輪装甲車の装備を拡充してきたが、これら高速の重車輌に追随し、行動不能になった車輌の整備、回収を行なうためには既存の回収車輌は能力不足であった。また、M984等の海外製回収車の中にも要求性能を満たすものがなかった。そのために開発されたのが重装輪回収車であり、平成14年に制式化された。初年度調達価格は、一両約1億4500万円[1]。
要求性能
編集重装輪回収車に要求された性能は以下の通りである。[2]
- ウィンチ能力=地隙に転落した車両を引き上げるのに必要な能力。
- 最大牽引力:約15トン以上
- 吊上げ牽引能力=走行不能な車両を牽引輸送するのに必要な能力。一部の車輪が失われた装輪車輌を輸送する場合、吊上げながら牽引する必要がある。
- 最大吊上げ牽引荷重:約6トン以上
- クレーン能力=車両整備時において大型部品(エンジン、砲塔等)を吊上げるのに必要な能力。
- 最大吊上げ荷重:約10トン以上
- 作業半径:砲塔、エンジン等の積載・卸下が可能
- 機動性能=装輪装甲車に追随するための能力。
- 路上最高速度:約100km/h
- 路外機動性能:装輪装甲車と同程度であり、努めて接地圧が低いこと。
- その他=車両制限令等各種法令に適合性し、平時に於て公道走行等が出来ること。
既存車輌等の問題
編集概要
編集車体は4軸8輪の大型車両で、前四輪で操舵を行う。車体後方にクレーン装置と吊り上げ牽引装置及びウインチを各1基[注 2]、操縦室の後方に予備のタイヤ1つを搭載している。これらの装備により、装輪装甲車両のエンジンや砲塔交換、転落した装輪装甲車両の回収、走行不能となった装輪装甲車両の吊り上げ牽引走行などを行なう。
諸元・性能等
編集派生型
編集重装輪回収車はその余裕のある車体と馬力を活かして、他の装備の搭載車両にも用いられており、いわゆる“ファミリー化”が行われている。
- 03式中距離地対空誘導弾システム[1]
- 捜索兼射撃用レーダ装置車
- 発射装置車
- 運搬・装てん装置車
- レーダ信号処理兼電源車
-
03式中距離地対空誘導弾、捜索兼射撃用レーダ装置車
-
同発射装置車
-
同運搬・装てん装置車
-
同レーダ信号処理兼電源車
- 12式地対艦誘導弾システム
- 発射機
-
12式地対艦誘導弾、発射機搭載車
- レーダ装置
-
対空レーダ装置1号JTPS-P25、レーダ装置車
-
10tトラック(PLS付)
重装輪回収車(B)
編集16式機動戦闘車等の整備・回収支援に使用できるクレーン能力等の性能を向上させた重装輪回収車(B)を2021年(令和3年)度に取得開始[6][7]。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e 「陸上自衛隊の車輌と装備2012-2013」『PANZER 臨時増刊』、アルゴノート社、2013年1月、127頁。
- ^ 平成13年度政策評価書
- ^ a b c d e f g 『自衛隊装備年鑑 2006-2007』朝雲新聞社、79頁。ISBN 4-7509-1027-9。
- ^ 予算執行事前審査等調書(平成22年度第3四半期) p.29-30 防衛省予算監視・効率化チーム(2016年7月5日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ 予算執行事前審査等調書(平成24年度第3四半期) p.1-2 防衛省予算監視・効率化チーム(平成24年10月30日)(2012年11月12日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
- ^ 『新たな重要装備品等の選定結果について』(プレスリリース)防衛省、2020年12月25日 。2020年12月31日閲覧。
- ^ 令和3年度 月別契約情報/随意契約(基準以上)2022年1月26日契約、防衛装備庁。2023年9月19日閲覧
参考資料
編集- 柘植優介「陸自の新しい回収車両 重装輪回収車」『PANZER』435号、アルゴノート社、2008年1月。
- 平成13年度政策評価書(事前の事業評価)(要旨)
- 平成13年度政策評価書(事前の事業評価)
- 車両制限令 - e-Gov法令検索