金華山丸(きんかさんまる)は、かつて三井船舶が運航していた貨物船である。1961年竣工。大幅な航行自動化が採り入れられ、「世界初の自動化船」として知られる。

金華山丸
基本情報
船種 一般貨物船
所有者 三井船舶
建造所 三井造船玉野造船所
船級 NKLR
IMO番号 5188132
経歴
起工 1961年3月29日[1]
進水 1961年8月12日[1]
竣工 1961年11月27日[1]
処女航海 1961年12月9日[2]
引退 1979年
最後 解体
要目
総トン数 8,316トン[1]
載貨重量 9,800トン[1]
全長 150.0m[1]
垂線間長 140.054m[1]
19m[1]
深さ 12m[1]
喫水 8.574m[1]
主機関 三井B&W874VT2BF160[3]
出力 12,000馬力[4]
最大速力 21.17ノット(試運転時)[1]
航海速力 18.25ノット[1]
航続距離 10,000海里[1]
乗組員 55名[1]
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歴史 編集

1950年代半ば頃の船舶の増加による乗組員の人員不足を受け、1959年に日本の運輸大臣造船技術審議会に対し、「船舶の自動操縦化の技術的問題点とその解決」について諮問した[4]。同審議会は船体、ディーゼル、タービンの3つの部会を設けて審議し、1960年2月に答申が行われた。運輸省ではこれに基づき研究補助金などの施策を立て、第16次計画造船の1隻である本船に初めて適用された[5]

本船は岡山県玉野市三井造船玉野造船所で1961年(昭和36年)3月29日に起工。同年8月12日に進水、11月27日に船主の三井船舶[注釈 1]に引き渡された[1]。12月9日より処女航海に出航[2]パナマ運河を通る際、ブリッジから直接エンジンを操縦するという、かつて例のない様子を見た水先案内人は驚いてニューヨーク電信を入れた。この情報はアメリカ合衆国連邦政府にまで届き、国防長官や海事局長らがニューヨークに到着した本船を見学に訪れた。世界初の自動化船の入港はニューヨーク・タイムズでも報じられ、欧米諸国でも自動化船の建造機運が高まった[6]。本船の良好な実績から船舶の自動化が推進され、自動化第2船となる春日山丸が建造されたほか[7]、輸出船への採用も増加した[4]。1964年には、世界で初めて機関室の夜間当直を廃したデンマーク船主向けタンカー「セルマ・ダン」が日本で竣工した[8]

本船は1979年までニューヨーク航路や東カナダ~五大湖航路に就航したのち退役[6]。船体が解体された後も機関制御コンソールは保管され、2017年には「日本の造船業が戦後わずか10年で世界のトップに立ち、技術力でも世界の頂点に立った金字塔である」として、第1回ふね遺産に認定[9]。東京・虎ノ門商船三井本社受付に展示されている[10]

構造 編集

船体の基本的な構造は従来の同社の高速定期船とほぼ同じであるが、労働環境改善のため機関室内に防音・防熱の制御室を設け、主機の制御や、温度計圧力計液面計回転計など132個の計器の集中監視を行う[1]。必要に応じて船橋の操舵室からも主機の操縦が行えるよう、同室に遠隔操縦用のコンソールを設けている[11]。大型商船で、主機を船橋から操縦することは、それまで世界でも例を見ないことであった[2]。この他にも、主機燃料油入口温度の自動調整、燃料油清浄機や潤滑油濾器の自動清浄、エンジングラフや排ガス温度の自動記録などの自動制御で省力化が図られている[12]

貨物艙は機関室の前後に3艙ずつ、計6艙。機関室後部の第4貨物艙の第3甲板より下は深油艙が設けられている。機関室前部の第3貨物艙の一部には冷蔵艙があり、冷凍貨物や果物などの保冷貨物に対応する。セントローレンス海路の航行に対応するため、船尾にスターンアンカー、船首にランディングブーム装置を備える[1]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 1964年に大阪商船と合併。現在の商船三井

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q (三井造船 1962, p. 64)
  2. ^ a b c (東京計器 1962, p. 75)
  3. ^ (三井造船 1962, p. 72)
  4. ^ a b c (吉識 2007, p. 143)
  5. ^ (寺本 1970, p. 162)
  6. ^ a b ふね遺産 金華山丸”. 商船三井. 2020年9月9日閲覧。
  7. ^ (大橋 1967, p. 57)
  8. ^ ふね遺産 第1回 応募案件-6 「ふね遺産」:金華山丸のブリッジリモートコントロールスタンド” (PDF). 日本船舶海洋工学会 (2016年12月7日). 2020年9月9日閲覧。
  9. ^ 第1回 ふね遺産の認定結果について”. 日本船舶海洋工学会. 2020年9月9日閲覧。
  10. ^ 三井百科・百景 ふね遺産・金華山丸制御盤”. 三井広報委員会 (2018年2月1日). 2020年9月9日閲覧。
  11. ^ (三井造船 1962, p. 67)
  12. ^ (三井造船 1962, p. 74)

参考文献 編集

  • 三井造船玉野造船所自動制御装置を施した金華山丸について」(PDF)『船の科学』第15巻第1号、船舶技術協会、1962年2月10日、64-74頁、2020年9月9日閲覧 
  • 東京計器製作所「大型商船用主機遠隔操縦装置初航海」(PDF)『船の科学』第15巻第1号、船舶技術協会、1962年2月10日、75-77頁、2020年9月9日閲覧 
  • 大橋智「機関室の夜間当直廃止について」『日本舶用機関学会誌』第2巻第2号、日本マリンエンジニアリング学会、1967年、57-63頁、doi:10.5988/jime1966.2.2_57ISSN 0388-3051NAID 1300013322182020年9月10日閲覧 
  • 寺本俊二「自動化船の歩み」『日本舶用機関学会誌』第5巻第2号、日本マリンエンジニアリング学会、1970年、162-170頁、doi:10.5988/jime1966.5.162ISSN 0388-3051NAID 1300013361762020年9月10日閲覧 
  • 吉識 恒夫『造船技術の進展―世界を制した専用船―』成山堂書店、2007年10月8日。ISBN 978-4-425-30321-2 

関連項目 編集