鎮静
鎮静 (ちんせい、英: sedation)とは、一般に医療処置や診断処置を容易にするために、鎮静剤を投与して過敏性や興奮を抑えることである。
概要編集
鎮静剤には、プロポフォール、ケタミン、ミダゾラムなどが含まれる[1]。鎮静とは、いわゆる、麻酔の3要素(鎮静、鎮痛、筋弛緩)の1つを意味する場合もある。この場合、特に全身麻酔における鎮静とは、意識消失(unconsciousness)と呼吸抑制、ないしは無呼吸を伴う深い鎮静であり、気管挿管などの高度な気道確保 (advanced airway management )を必要とする。一般的には、高度な気道確保を伴わない「浅い」ものを鎮静と呼ぶ。
適応編集
鎮静法は通常、内視鏡検査、精管結紮術、歯科治療などの小手術や、再建手術、一部の美容整形手術、親知らずの抜歯、不安感の強い患者が適応となる[2]。歯科における鎮静法には、吸入鎮静(亜酸化窒素を使用)、経口鎮静法、静脈内鎮静法などがある。吸入鎮静は、相対的鎮痛(英: relative analgesia)とも呼ばれることがある[3]。
鎮静剤は、集中治療室でも広く使用されており、人工呼吸を受けている患者が気管チューブを気管に留置されていることに耐えられるようにする[4]。また、長時間の脳波検査を行う際にも、患者をリラックスさせるために使用されることがある[5]。
危険性編集
手術に関連する合併症の40%から50%は鎮静剤が原因であると主張する研究がある[6]。 気道閉塞、無呼吸、低血圧は鎮静中に起こることが珍しくなく、これらの問題を発見し管理するために適切な訓練を受けた医療従事者の存在が必要である。呼吸の抑制以外にも、意図しないレベルの鎮静、術後傾眠、誤嚥[7] 、鎮静剤による副作用などのリスクもある[8]。 また、手術の合併症として、穿孔、出血、反射性失神の誘発などが考えられる[9]。鎮静のリスクを回避するために、医療従事者は徹底した鎮静前の評価を行い、このプロセスには、患者への潜在的リスクと気道確保困難の可能性を示す判断材料に重点を置いた鎮静前の病歴と身体検査が含まれる[10]。 このプロセスにより、鎮静期間を延長する必要があるか、追加の治療処置が必要かを明らかにすることもできる[11]。
鎮静レベル編集
鎮静スケールは、医療現場において、病歴と合わせて患者の鎮静の程度を評価し、鎮静不足(患者が痛みや苦痛を感じる危険性)、過鎮静(呼吸抑制などの副作用があり、死に至る危険性)を避けるために使用される[4]。
鎮静尺度の例としては、MSAT(ミネソタ鎮静評価ツール)、UMSS(ミシガン大学鎮静スケール)、ラムゼイスケール(Ramsay他、1974)、RASS(リッチモンド興奮鎮静スケール)などがある。
アメリカ麻酔科学会は、鎮静を次のように覚醒から全身麻酔まで、連続的なものとして定義している:[12]
- 最小限の鎮静 - 言語刺激に対する通常の反応。
- 中等度鎮静 - 言語/触覚刺激に対して意図的に反応する。(これは通常「意識下鎮静」と呼ばれる)
- 深鎮静 - 繰り返しまたは痛みを伴う刺激に意図的に反応する。
- 全身麻酔 - 痛みを伴う刺激でも覚醒しない。
英国では、深鎮静は意識下鎮静とは異なり、全身麻酔の範疇の一部と考えられている[要出典]。
前述の注意事項に加えて、治療中に合併症を引き起こす可能性のある他の疾患を患っていないかどうかを問診する必要がある。頭部、頸部、脊髄に病変がある場合は、特にに注意する必要がある。
静脈内鎮静編集
成人に対する最も一般的な意識下鎮静法は、ミダゾラムを使用した静脈内鎮静法である。これは、静脈に針を刺して薬を投与する必要があり、用いられる針は静脈留置針とよぶ。
- 歯科治療に対する不安や恐怖心の軽減
- 侵襲的または長時間の歯科治療
- 咽頭反射のある患者
- 歯科治療のストレスにより悪化する可能性のある病状
- 特別なケア(軽度の知的または身体障害者)
- 筋弛緩作用によりその痙性を緩和し得る一部の障害
禁忌:
- 使用する鎮静薬の禁忌に該当する場合[15]
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ Brown, TB.; Lovato, LM.; Parker, D. (Jan 2005). “Procedural sedation in the acute care setting”. Am Fam Physician 71 (1): 85–90. PMID 15663030.
- ^ “Sedation Dentistry for Anxious Patients”. 2014年9月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年9月11日閲覧。
- ^ Howes, M. C. (2004-09-01). “What is “relative analgesia?”” (英語). Emergency Medicine Journal 21 (5): 646–647. ISSN 1472-0205. PMID 15333564 .
- ^ a b “人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン”. square.umin.ac.jp. 2023年1月3日閲覧。
- ^ “脳波等神経生理検査時の鎮静における医療安全に関する提言・指針”. 日本小児神経学会 (2019年10月). 2023年2月5日閲覧。
- ^ Vargo, John (2016). Sedation and Monitoring in Gastrointestinal Endoscopy, An Issue of Gastrointestinal Endoscopy Clinics of North America. Philadelphia, PA: Elsevier Health Sciences. pp. 465. ISBN 9780323448451
- ^ Odom-Forren, Jan; Watson, Donna (2005). Practical Guide to Moderate Sedation/analgesia. St. Louis, MO: Elsevier Mosby. pp. 84. ISBN 0323020240
- ^ Vargo, John (2016). Sedation and Monitoring in Gastrointestinal Endoscopy, An Issue of Gastrointestinal Endoscopy Clinics of North America. Philadelphia, PA: Elsevier Health Sciences. pp. 554. ISBN 9780323448451
- ^ Skelly, Meg; Palmer, Diane (2006). Conscious Sedation: A Handbook for Nurse Practitioners. London: Whurr Publishers. pp. 69. ISBN 1861562667
- ^ Mason, Keira (2011). Pediatric Sedation Outside of the Operating Room: A Multispecialty International Collaboration. New York: Springer. pp. 166. ISBN 9780387097138
- ^ Winter, Harland; Murphy, Stephen; Mougenot, Jean Francois; Cadranel, Samy (2006). Pediatric Gastrointestinal Endoscopy: Textbook and Atlas. Hamilton, Ontario: BC Decker Inc.. pp. 59. ISBN 1550092235
- ^ “Continuum of Depth of Sedation: Definition of general anesthesia and levels of sedation/analgesia” (pdf). American Society of Anesthesiologists (2009年10月21日). 2010年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年11月29日閲覧。
- ^ Girdler, N. M. (2009). Clinical sedation in dentistry. Hill, C. M., Wilson, K. E. (Katherine Elizabeth), 1963-. Chichester, U.K.: Wiley-Blackwell. ISBN 978-1-4051-8069-6. OCLC 230187665
- ^ Malamed, Stanley F., 1944- (2010). Sedation : a guide to patient management (5th ed.). St. Louis, Mo.: Mosby Elsevier. ISBN 978-0-323-05680-9. OCLC 698080026
- ^ “安全な鎮静のためのプラクティカルガイド”. 公益社団法人日本麻酔科学会. p. 20 (2022年6月15日). 2023年4月11日閲覧。