鏡の前のマグダラのマリア

鏡の前のマグダラのマリア』(かがみのまえのマグダラのマリア、: La Madeleine au miroir, : Magdalene at a Mirror)、または『悔悛するマグダラのマリア』(かいしゅんするマグダラのマリア、: Madeleine pénitente)は、フランス17世紀の画家ジョルジュ・ド・ラ・トゥールが1635-40年頃に制作したキャンバス上の油彩画である。画家が描いた4点の『悔悛するマグダラのマリア』のうち1点で、作品はワシントン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されている[1]

『鏡の前のマグダラのマリア (悔悛するマグダラのマリア)』
フランス語: La Madeleine au miroir
英語: Magdalene at a Mirror
作者ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
製作年1635-40年頃
寸法128 cm × 94 cm (50 in × 37 in)
所蔵ナショナル・ギャラリー (ワシントン)

歴史 編集

1937年7月、美術史家シャルル・ステルラン英語版は『悔悛するマグダラのマリア』という絵画が存在することを発表した。パリの古美術商アンドレ・ファビウスフランス語版が所有していたことで、この作品は『ファビウスのマグダラのマリア』と呼ばれた。翌年の1938年の5月、ステルランは新たな論文で、別の『悔悛するマグダラのマリア』を発表した。この作品はパリの収集家カミーユ・テルフ (Camille Terff) が所有していたので、『テルフのマグダラのマリア』と呼ばれた。その後、『ファビウスのマグダラのマリア』は『鏡の前のマグダラのマリア』、そして『テルフのマグダラのマリア』は『灯火の前のマグダラのマリア』(現在、ルーヴル美術館所蔵) として区別されるようになった[2]。本作『鏡の前のマグダラのマリア』は1974年にワシントン・ナショナル・ギャラリーに収蔵された。

解説 編集

ラ・トゥールは少なくとも4回、『悔悛するマグダラのマリア』を描いているが、この主題は画家にとって特別な意義があったのかもしれない。いずれにしても、カトリック教会から非常に奨励された人気のある主題であった。プロテスタントカルヴァン派の「宿命」の概念に対して、ローマ教会は対抗宗教改革の時代に「悔悛」と「赦免」を重要視したからである。本作で、マリアは「本当に赦しというものがあるのだろうか」と問いかけているように見える。彼女の繊細な指は骸骨を撫でつつ、思索的集中力は動的な力となって、風の流れのように画面の唯一の光源であるロウソクの光を屈折させている[3]

夜の闇が宗教的感動を高め、深い神秘主義に沈んだ恍惚の雰囲気が描かれている[4]。マリアの抑制された美しさと闇に沈む虚ろなまなざしは鑑賞者を魅了する[2]

ギャラリー 編集

ラ・トゥールのほかの3点の『悔悛するマグダラのマリア』

脚注 編集

  1. ^ The Repentant Magdalen”. www.nga.gov. 2022年11月24日閲覧。
  2. ^ a b キュザン & サルモン 2005, pp. 54–56.
  3. ^ Walker, John (1995). National Gallery of Art Washington. p. 308. ISBN 0-8109-8148-3 
  4. ^ キュザン & サルモン 2005, pp. 94.

参考文献 編集

  • ジャン=ピエール・キュザン、ディミトリ・サルモン『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール 再発見された神秘の画家』高橋明也 監修、遠藤ゆかり 訳、創元社〈「知の再発見」双書 121〉、2005年2月。ISBN 4-422-21181-1 

外部リンク 編集