メインメニューを開く

長時間労働(ちょうじかんろうどう)とは、労働時間が本来予定されている時間数と比較して特に長いこと、又はその状態を指す。

目次

概要編集

労働時間は各種の法令等により上限が定められているが、実際の事業場ではこの上限を超えて使用者が労働者に労働させている例がままみられる。著しい長時間労働は、生産性の低下や、労働者の健康問題を引き起こすことから、長時間労働を規制するための法の枠組みが必要となる。

日本における状況編集

日本では、具体的にどのくらいの時間数を超えれば「長時間労働」にあてはまるかの明確な定義はないが、おおむね以下の指標が目安となる。

就業時間が週40時間
労働基準法第32条に定める1週間の上限労働時間であり、1日8時間で月間では160時間になる。これ以上働くと時間外労働となり、賃金の割増率が上がり、時間外労働の基準点となる。
週間就業時間が60時間以上
総務省労働力調査」では「雇用者のうち週間就業時間が60時間以上の従業者の割合の推移」の項目があり、長時間労働を表す指標の一つとなっている。
月45時間以上の時間外労働
労働基準法36条1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成21年5月29日厚生労働省告示316号)によれば、原則として三六協定による労働時間の延長の上限が月45時間となっている(月間160時間に足すと、トータルで月間205時間労働になる)。
月60時間以上の時間外労働
割増賃金の割増率が引き上げられる。また労使協定に定めることにより、代替休暇の取得が可能となる。
月80時間以上の時間外労働
いわゆる過労死ラインと呼ばれる。脳・心臓疾患の場合、発症前直近の2~6ヶ月間の平均で80時間を超える時間外労働をしている場合には、その業務と発症の関連性が強いと判断され、労働基準監督署業務災害を認定する可能性が高くなる(平成22年5月7日基発0507第3号)。
月100時間以上の時間外労働
過労死過労自殺の前月に100時間を超える時間外労働をしていた場合は、その業務と発症の関連性があると判定され、労働災害が認定される。

日本における長時間労働の要因編集

日本における労働時間の上限は、1日につき8時間、1週間につき40時間である(労働基準法32条)。しかしながら、労働時間を延長する労使協定(いわゆる三六協定)を定めることができ(労働基準法36条)、また各種のみなし労働時間制を採用することにより、労働基準法32条にとらわれない労働時間設計が可能となっている。

長時間労働の発生する最大の要因は、過重な時間外労働にある。時間外労働は三六協定で定めた上限時間数以内に収めなければならないが、三六協定には「特別条項」と呼ばれる例外措置が認められていて、これを駆使すれば、事実上時間外労働の時間数に制限がないことが問題となっている。また労働者の側も、割増賃金を最初から安定収入として当てにした生活設計を描いている者も少なくない。

いわゆる「管理監督者」等、労働基準法41条に定める者については、32条、36条等労働時間に関する規制は適用されないため、一般に時間外労働やそれに伴う割増賃金の概念を考慮する必要はない。しかしながら、管理監督者であっても長時間労働が心身に著しい悪影響を及ぼすことには変わりなく、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある(平成29年1月20日策定労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。近年は名ばかり管理職と呼ばれ、名称だけ役職がついているが、実態は管理職としての権限も与えられておらず、本来割増賃金の支払いの適用除外とされるべきではないのに割増賃金が払われていない従業員の問題が裁判でも多く取り上げられている。

みなし労働時間制を採用すれば、対象となる労働者については実労働時間にかかわらず事前に決めたみなし時間分の賃金を払うのみでよい。しかしながら、みなし労働時間制は採用するための要件や対象となる労働者の範囲が厳格に定められていて、本来対象とならない労働者(裁量権がない、外回り中に携帯電話等で管理されている、等)をみなし労働時間制の下で労働させることはできないこととなっている[1]。厚生労働省「平成28年就労条件総合調査」によれば、何らかのみなし労働時間制を採用している企業は11.7%にとどまっている。みなし労働時間制が適用される労働者についても、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある(平成29年1月20日策定労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。

中央官庁で勤務する官僚は、国会対応に追われ、連日の庁舎泊まり込みや月150時間ほどの時間外労働が常態化しており[2]残業を終えると深夜になることも珍しくないため、霞が関には午前1時でもタクシーが行列を作っている[3]。特に労働政策を所管する厚生労働省は、残業時間の長さから『強制労働』と揶揄されていることから、長時間労働の抑制対策に乗り出している[4]

日本における長時間労働への対策編集

2015年12月25日、広告代理店最大手の電通で、女性新入社員が長時間労働による過労により若くして過労自殺した。この事件を受けて、法人としての電通及びその幹部が送検されたことが大きく報道され、長時間労働の問題が社会的に大きく注目されるようになった。

2016年12月26日に厚生労働省は「過労死等ゼロ緊急対策[5]を発表し、企業に長時間労働対策を求めると同時に、労働基準監督署等による取り締まりを強化する方針を発表した。あわせて、悪質な企業については企業名を公表するとして、その範囲も広くしている。

2017年4月に厚生労働省が発表した「平成29年度地方労働行政運営方針」においては[6]、長時間労働の抑制や過重労働による健康障害の防止がこれまで以上に強調され、労働基準監督署による臨検でも特に重視されている。

企業の側も、適切な長時間労働対策を行うことが求められている。労働時間の適切な管理や、業務の効率化・均等化はもとより、これまであった産業医による長時間労働者への面接指導の規定を改正して、2017年6月からは月100時間超の時間外労働をした労働者の労働時間等の情報を事業者が産業医へ提供することが義務化され、産業医が長時間労働者に対して面接指導を受けるよう勧奨することが、これまで以上に求められるようになった。

面接指導自体は、労働者本人の申出が起点となるものであるが、月100時間超の時間外労働をしなければならないほどの多忙な労働者が自ら申出ることは実際には考えにくいことから、企業の側から労働者の健康に対し適切に配慮することが必要となる[7]

2019年、セブンイレブンの東大阪市の店は人手不足のため、午前1時から午前6時まで閉店。本部は24時間営業を要望するも時短続行ならフランチャイズ契約解除を示唆[8]。オーナーが人手不足を補うため長時間労働し低賃金に陥っている一方で本部は30%以上の高い利益率を誇っているのに、従業員が集まらず廃業しているオーナーもいる。本部はすべての負担をオーナーに押し付けて過労死寸前でも支援しない[9]ファミリーマートも原則24時間営業。一部で営業時間短縮の実験。ローソンも原則24時間営業。一部で加盟店都合による営業時間短縮。ファミリーレストランすかいらーくは2012年から営業時間を順次短縮し2017年に深夜営業を大幅縮小。ロイヤルホストも24時間営業を段階的に減らし2017年に全廃。宅配便ヤマト運輸も宅急便の正午から14時の時間帯指定配達を廃止し従業員の昼休みを確保[10]

脚注編集

  1. ^ 判例として、阪急トラベルサポート事件(最判平成26年1月24日)。みなし労働時間制の要件を定めた通達(昭和63年1月1日基発1号)の内容をほぼ踏襲して、みなし労働時間制の適用を認めなかった。
  2. ^ 官僚だってツラい!? 残業は時給200円、仮眠室に幽霊…官僚OB政治家が叱咤とエール | ニコニコニュース
  3. ^ News Up 眠らない官僚 - NHK
  4. ^ 「強制労働省」過酷な現実 厚労省、ICTで効率化模索 - 朝日新聞
  5. ^ 「過労死等ゼロ」緊急対策厚生労働省
  6. ^ 「平成29年度地方労働行政運営方針」の策定について厚生労働省
  7. ^ 判例として、東芝うつ事件(最判平成26年3月24日)。「労働者本人からの積極的な申告が期待しがたいことを前提としたうえで、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要がある」と判示して、労働者からの申出が無かったことを理由として過失相殺をした二審の判決を破棄した。
  8. ^ 2019年2月22日中日新聞朝刊1面
  9. ^ 2019年2月28日中日新聞朝刊31面
  10. ^ 2019年2月22日中日新聞朝刊1面

関連項目編集