集産主義
集産主義(しゅうさんしゅぎ、英語: collectivism)とは、経済思想の用語の一つで、生産手段などの集約化・計画化・統制化などを進める思想や傾向。対比語は個人主義(個人主義的自由主義経済、自由放任経済など)。主な例は社会主義やファシズムなど。なお経済以外の集産主義は集団主義を参照。
用語編集
英語のコレクティビズム(集合主義)を、日本語では通常、人間の場合は「集団主義」、経済の場合は「集産主義」などと訳している。
定義編集
一般的に、社会における自由放任の状態に対して、公共の福祉のために中央集権的な統制の必要を強調する信念や方法などをさす[1]。この用語の意味は拡大し続け、今日では、国家の経済への介入や計画全般を指すまでになった[1]。
概要編集
集産主義者は通常、共同体や社会、国家などに焦点を当てる。集産主義は、共産主義や民主主義から全体主義や国家主義までの異なった政治的および経済的な概念の多くによって、幅広く使用されている(たとえば財団)。
集産主義の形態の1つとされるコーポラティズムの視点では、個人的な部分よりもその合計の方が価値があると考え、個人的な権利よりも集団の権利に優先順位を与える[2][3]。この種の集産主義の哲学的な基盤は、ホーリズムや有機体論にも関連している。特に1つの全体として見た社会を、その社会を構成する個々の個人よりも、より意味または価値を持つとみなす[4]。集産主義は一般には個人主義に反対するが、しかし大多数の哲学的、政治的、経済的なシステムは、集産主義と個人主義の側面の両方をある程度持っている。
集産主義は色々な運動で色々な意味で使われている[注釈 1]。
集産主義は、必ずしも国家や政府や階層的な制度を必要としない。無政府主義の1種である集産主義的無政府主義や無政府共産主義は、集産主義の1種である。初期の著名な共産主義者であるミハイル・バクーニンは集産主義者で、彼らは生産手段の私有から集中財 (collective property) への変換を主張したが、その所有形態は政府よりも、非中央化された共同体のゆるやかな集合によるべきと主張した。
無政府共産主義は、非政府の集産主義の更に包括的な形態で、生産手段だけではなく、労働の生産物も同様に集中化させることを主張する。ピョートル・クロポトキンは、以下のように主張した。「住居や施設や工場が分離された所有に属している限り、賃金の支払いが必要で、施設や工場で働くことを許されるか、他方では家で生活するしかない。所有者は労働者に、日用品の全種類のために、金貨や紙幣や小切手などを支払う。しかし我々はどのようにして、家や施設や工場をもはや私有財産ではなく共同体または国家の所有とした、新しい賃金体系を定義できるだろうか。」[6]
例編集
集産主義は、ソ連型社会主義、ファシズム、ナチズムなどの全体主義政権下で採用された。ファシズムはコーポラティズムにより基幹産業の国営化と統制経済を行った。マルクス・レーニン主義を掲げるソ連型社会主義は産業の国営化と計画経済を行った。
ソ連の集団農場による集団化(Collectivization)は集産主義の典型と言える。イスラエルのキブツも集産主義的な共同体である。このほか日本の統制派による国家総動員法や、アメリカのニューディール政策なども集産主義と呼ばれることがある。
また発展途上国における開発独裁などにおいても、国威発揚や経済力弱体の克服手段として、鉱山などにおいて限定的に採用されている事が多い。
批判編集
フリードリヒ・ハイエクはリバタリアニズムと経験主義の立場から、共産主義もファシズムも集産主義という面では同根であり、根本にはエリートが経済をより良く管理できるという理性至上主義の傲慢な全体主義があると批判している。
またジョージ・オーウェルの小説『1984年』は反全体主義・反集産主義のバイブルとも呼ばれた。この小説に登場する独裁政党の政治思想・イングソック(イングランド社会主義)は、政府宣伝によれば社会主義の一種ということになっているが、支配者たちはその正体を「少数独裁制集産主義」とみなしている。
文献情報編集
- 吉沢昌恭「新自由主義( 1 )」『広島経済大学経済研究論集』第5巻第2号、広島経済大学経済学会、1982年6月、 49-57頁、 ISSN 03871436、 NAID 110000323398。
- 「集産主義計画経済の理論―社会主義の可能性に関する批判的研究」フリードリヒ・ハイエク (1950年)
- 「経済人の終わり―全体主義はなぜ生まれたか」P.F. ドラッカー (1939年)
- 森岡真史「経済体制論争の開幕 : シェフレとルロワ-ボーリュー」『立命館国際研究』第21巻第3号、立命館大学、2009年3月、 639-670頁、 ISSN 09152008、 NAID 110007225601、 NDLJP:8313480。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ a b 日本大百科全書. “集産主義”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2021年12月28日閲覧。
- ^ Chakrabarty, S (2009) The Influence of National Culture and Institutional Voids on Family Ownership of Large Firms: A Country Level Empirical Study Journal of International Management, 15(1)
- ^ Ratner, Carl; Lumei Hui (2003). “Theoretical and Methodological Problems in Cross–Cultural Psychology”. Journal for the Theory of Social Behaviour 33 (1): 72. doi:10.1111/1468-5914.00206 .
- ^ Agassi, Joseph (1960). “Methodological Individualism”. British Journal of Sociology (Blackwell Publishing) 11 (3): 244–270. doi:10.2307/586749 .
- ^ Encyclopædia Britannica、2007年 collectivism - Encyclopædia Britannica Online
- ^ Kropotkin, Peter. Chapter 13 The Collectivist Wages System from The Conquest of Bread, G. P. Putnam's Sons, New York and London, 1906.
関連項目編集
- 開発独裁#開発独裁と共産主義、ニューディーラー、革新官僚
- フリードリヒ・ハイエク#「理性主義」批判
- レッセフェール
- キブツ
- ジュール・ゲード
- フリータウンクリスチャニア(en:Freetown Christiania Denmark)- オスロにある集産主義自治都市
- フリードリヒ・ハイエク - 隷従への道