高垣眸
経歴編集
広島県尾道市土堂生まれ[2][3]。生家は醤油醸造業を営んでいた。幼少から軍艦に憧れ、海に情憬を持ち育った。このため海を舞台にした作品が多い。
1920年早稲田大学英文科卒業[2]。新聞記者を志したが叶わず、同郷の行友李風のいた新国劇脚本部に入る[2]。間も無く兵役のため退職し、復員後26歳のとき[4]、東京府立青梅実科高等女学校(現・東京都立多摩高等学校)の英語教師として赴任[2]。教師の傍ら少年向けの冒険小説を書き始め1925年「少年倶楽部」の『龍神丸』でデビュー[3]。
前年に生まれた長女の名前を採ってペンネームを"高垣眸"とした。この作品は少年伝奇小説として一時代を画した[5]。続いて発表された『豹(ジャガー)の眼』は、次に生まれた長男の名と暮らした青梅市から"青梅昕二"名義で発表[6]。同作品はのち1959年、KRT(現・TBSテレビ)「月光仮面」の後番組、日本初の本格的テレビアクションとしてテレビドラマ化された。
教職は辞し作家に専念、再び"高垣眸"名義に戻しこの後『神風八幡船』、『曼珠沙華』、『決死の将校斥候』、『荒海の虹』、『渦潮の果』、『銀蛇の窟』、『黒衣剣侠』、『科学怪奇怪人Q』、『恐怖のミイラ』など相次いで発表。童話とは異なる面白さ、破天荒なストーリーの中にも、人として選ぶ道を教えた教育者として高垣作品は当時の子供達を熱狂させた。特に1935年に発表した『快傑黒頭巾』は伊藤幾久造の挿絵とともに大評判となり、翌1936年の『まぼろし城』の二作品は戦前から戦後にかけて日活や東映などで何度も映画化された。またNHK少年ドラマシリーズなどでテレビドラマにもなった[7]。
戦時中の1943年、遠縁が専務を務めていた旭造船のある千葉県勝浦市に引っ越し同所に勤務[2]。戦後しばらくたって、同所に特攻兵器「海龍」の発案者で、戦艦大和沈没時の生存者の一人、浅野卯一郎が訪ねて来た[2]。浅野は軍令部で唯一人といわれた科学技術参謀で、自身が書いた原稿を見てくれといわれた。「海野十三にネタを相当送ってるのに、丁寧な返事はくれても肝心の現金を送ってくれない」と嘆き、「この原稿を80円で買ってもらえば、自転車が買える」と言い、二男の高垣葵が隣の部屋でそれを聞いていて「ちょっと読ませてよ」と言い、その話は科学者の恋人が癩病になり、渓流に住むイワナの血と恋人の血を入れ替えるという内容であったが、葵が「こりゃ、面白いや」と言うので原稿を買った[2]。すると「もっと面白い材料がある」と、もっと規模の大きなSF小説の構想を話した。これが『凍る地球』という小説に発展し、当時発行されていた「東光少年」という雑誌に、1949年1月から1950年3月まで連載された[2][8]。共作者としてクレジットされている深山百合太郎(みやまゆりたろう)は浅野卯一郎である[2]。浅野との共同作業で新しい科学知識を習得することができた。浅野は1961年頃亡くなるが、高垣は遺作となった『燃える地球』(1981年)に、深山百合太郎と浅野卯一郎の両方を登場させていて混乱するが、深山百合太郎参謀として登場する方が浅野のモデルという[2]。
その後は漁業問題などに関わり、海洋資源、環境問題など社会的なテーマに取り組み『魚の胎から生まれた男』(1974年)、『魚の食えなくなる日』(1975年)などを発表。1978年[2]『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサー・西崎義展から同作を「瞬間的な映像のままでなく、文学作品として永く残したいから、小説にして欲しい」と直接依頼を受け[2]、熱血小説『宇宙戦艦ヤマト』が1979年7月に、西崎義展案、高垣眸著としてオフィス・アカデミーから出版された[2]。これを手掛けたことで戦後すぐに書いたSF小説(『凍る地球』、『恐怖の地球』)を書く意欲が戻り『燃える地球』を執筆[2]。『凍る地球』、『恐怖の地球』、『燃える地球』は「地球三部作」と言われる[2]。『燃える地球』執筆中に右目を失明し、両足も麻痺して歩けなくなり同作品(1981年)が遺作となった。1983年、老衰のため勝浦市の自宅で死去。享年85。
二男の高垣葵は民間放送発足時から脚本家として関わり『1丁目1番地』など多くの作品がある。藤子不二雄の『海の王子』の原作者としても知られる。
大衆文学は、大御所作家を除くとやや忘れられた存在となっていたが1996年、講談社が文庫シリーズ「大衆文学館」を刊行するなど、近年高垣を含めて再評価の兆しがある。
著書編集
- 龍神丸 大日本雄弁会、1926 のち少年倶楽部文庫
- 豹の眼 講談社、1928 のち少年倶楽部文庫
- 銀蛇の窟 平凡社、1929
- 快傑黒頭巾 講談社、1935 のち少年倶楽部文庫
- まぼろし城 講談社、1937 のち少年倶楽部文庫
- 黒潮の唄 講談社、1939
- 日本男児 講談社、1939
- 大陸の若鷲 講談社、1940
- 西郷隆盛 偕成社、1941
- ダイアナの瞳 偕成社、1941
- レオナルド・ダ・ヴィンチ 現代科学の父 山海堂出版部 1942
- タイ国の冒険 1942
- 神風八幡船
- 曼珠沙華
- 荒海の虹
- 渦潮の果
- 科学怪奇怪人Q
- 決死の将校斥候
- ご存じ快傑黒頭巾
- 怪奇冒険紅魚喇嘛
- 地球を征服した蟻人
- 天険亀哭城 卍書林 1947
- 凍る地球、「東光少年」1949~1950連載 深山百合太郎との合作[2]『少年小説大系 第5巻 高垣眸集』(三一書房、1987年)に収録
- 竜神のつぼ ポプラ社、1950
- 疾風月影丸 ポプラ社、1950
- 高垣眸全集 2 黒衣剣侠 ポプラ社 1951
- 火の玉王子(同3)
- 青銅髑髏の謎(同10)
- 禿鷲の爪 偕成社 1952
- 怪奇黒猫組 ポプラ社、1953
- 新選組追撃 太平洋文庫 1955
- 真田幸村 偕成社、1955
- 高垣眸全集 全4巻 桃源社 1970
- 未来の大都市
- 恐怖の地球 1973 『少年小説大系 第5巻 高垣眸集』(三一書房、1987年)に収録
- 魚の胎から生まれた男 形象社 1976
- 宇宙戦艦ヤマト 熱血小説 西崎義展案 オフィス・アカデミー 1979.7
- 燃える地球 ポプラ社、1980
- 少年小説大系 第5巻 高垣眸集 三一書房 1987.6
- 魚の食えなくなる日
- 燃える地球 1981 『少年小説大系 第5巻 高垣眸集』(三一書房、1987年)に収録
翻訳編集
脚注編集
- ^ 『高垣眸』 - コトバンク
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 横山政男 「〈快傑黑頭巾〉の高垣眸がSF『燃える地球』に駆けた83歳の"特攻精神"」 『週刊朝日』 1981年2月20日号、朝日新聞社、139-141頁。
- ^ a b 高垣眸特別展 | FMおのみちWeb - エフエムおのみちWeb[リンク切れ]
- ^ 102 黒頭巾と壇一雄 - TOKYO MX
- ^ 高垣 眸 - 吉備路文学館
- ^ 豹の眼 / 財団法人大阪国際児童文学館 子どもの本100選 1868年-1945年
- ^ 発掘ニュースNo.28 少年ドラマシリーズ「快傑黒頭巾」好評公開中!|NHKアーカイブス 番組発掘プロジェクト
- ^ 北原尚彦「地球の危機そっちのけで拳法修業?『燃える地球』」――SF奇書