1027作戦(1027さくせん、ビルマ語: ၁၀၂၇ စစ်ဆင်ရေး英語: Operation 1027)は、ミャンマー内戦中の2023年10月27日、三兄弟同盟アラカン軍ミャンマー民族民主同盟軍タアン民族解放軍)により実行された軍事攻勢である。民族武装組織が事実上国民統一政府に協力し、大規模な攻勢を図った同作戦はミャンマーの戦局を一変させるものであり[1][2]2021年ミャンマークーデターにより政権を握った軍事政権は「クーデター後最大の後退」を強いられることとなった[2]

1027作戦
ミャンマー内戦 (2021年-)

戦局図(2024年7月)
2022年10月27日 (2022-10-27) -
場所ミャンマーの旗 ミャンマー
衝突した勢力

国家行政評議会

三兄弟同盟

その他の参加勢力

背景

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ミャンマー内戦の戦局

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マンダレーPDFの隊員(2023年)。PDFの勃興により、ミャンマーの戦況は大きく変化した。

2021年ミャンマークーデターを通じ、ミンアウンフライン率いる国家行政評議会(SAC)が、アウンサンスーチー政権を転覆させると、与党であった国民民主連盟(NLD)勢力は国民統一政府(NUG)と、その軍事部門である国民防衛隊(PDF)を樹立し、軍事政権に対抗した。これにより、独立以来続いていたミャンマー内戦の戦況は、さらに激化することになった[1][2]

とはいえ、民族武装勢力(EAOs)の多く[3]、ここではラカイン州を本拠地とするアラカン軍(AA)、シャン州を本拠地とするミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)・タアン民族解放軍(TNLA)からなる三兄弟同盟は、クーデターに際しても、反軍部という立場こそ一致すれどもNUGに与することもなかった。2021年以降の戦局において、主な戦場となったのはザガイン管区などであり、それまで中心的な戦場のひとつであったシャン州における戦闘の強度は比較的低いものとなった。当時、本拠地を失ったMNDAAは大きく弱体化しており、TNLAも軍部との直接衝突は避けていた[4]。また、AAはラカイン州およびチン州で軍部と激しく戦闘していたものの、2022年11月以降は軍部との一時的な停戦協定を結んでいた[5]

しかし、PDFの台頭によりミャンマー軍が逼迫するにつれて、EAOs が軍事政権に対する本格的な攻勢を整える環境も整えられつつあった。『The Diplomat英語版』紙は、三兄弟同盟とともに北部同盟を構築するカチン独立軍(KIA)の本拠地であるライザ英語版近郊で、軍部が空爆をおこなったことも、1027作戦の契機のひとつとなったのではないかと論じている[3]

コーカンを巡る状況

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国境を越えてコーカンから雲南省臨滄市鎮康県に逃れる人びと(2009年)

1027作戦の主要な目標のひとつは、MNDAAの旧領・コーカンの再占領であった。2009年、MNDAAの指導者であった彭家声はミャンマー軍と結んだ白所成に逐われ(2009年コーカン軍事衝突英語版)、同地域は白所成率いるコーカン国境警備隊の支配下に置かれた。敗走した彭家声はMNDAAを再建し、2015年にコーカン侵攻を図るものの(2015年コーカン軍事衝突英語版)、失敗した。彼は2022年にモンラーで客死し、息子の彭徳仁が指揮官を継いだ[4]

コーカン掌握以後、白所成は軍の後ろ盾のもと、自領で様々なビジネスをおこなった。同地域はオンライン詐欺の大規模な拠点(詐欺団地)となり、人身売買の被害者が多く同地で強制労働させられていた[3][6]中華人民共和国政府は、コーカンでおこなわれる犯罪行為を取り締まるべく、ミャンマー政府および白所成に圧力をかけたが、これは功を奏さず、2023年10月20日には、中国の覆面警官を含む中国人60人がコーカンで殺害される事件がおこった(1020事件中国語版[6][7]

白所成のコーカン指導者としての地位を問題視していた中国が、国境地域での軍事行動を黙認したことも、同作戦の背景にあったと考えられている[4][6]。中国は、『BBC』が論じるように、「通常はミャンマーとの国境沿いで活動するすべての勢力に対して抑制的な影響力を見せて」いたが、1027作戦を妨げることはなかった[2]。実際に、中国は1027作戦の直後である11月12日、1020事件の首謀者であると目される明学昌中国語版一族に対して逮捕状を発行しており[8]、『The Diplomat』紙は、これは中国政府による同作戦の暗黙の容認を示すと論じている[9]

経緯

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第1次1027作戦

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シャン州チャウメー郡区・ナウンチョー英語版を進軍するミャンマー軍(10月30日)
 
投降するミャンマー軍兵士(2023年11月・コーリン)

2023年10月27日、三兄弟同盟は共同声明を発表し、「1027作戦」の主な目的を以下のように説明した[10][11]

  • 民間人の生命保護
  • 自衛権の主張
  • 領土支配の維持
  • SACによる継続的な砲撃・空爆への毅然とした対応
  • 軍部による圧政の根絶
  • ミャンマー、特に中緬国境付近に蔓延するオンライン・ギャンブル詐欺への対抗

当時、同盟はのべ15,000人の戦闘員を動員する能力を有していた[12]。同作戦には三兄弟同盟のほかPDF・人民解放軍(PLA)・バマー人民解放軍(BPLA)といった諸勢力も参加し、軍部の複数拠点を一斉攻撃した[6]。1027作戦は緒戦から著しい成果をあげた[4]。三兄弟同盟は作戦開始から5日間で軍事政権の基地約90ヶ所を占領し、ムセ郡区英語版の都市であるパンサイ(Phaung Sai)およびチンシュエホー英語版の占領が宣言された。これにより、ミャンマーの輸出額の80%を占めていた、中緬国境の貿易ルートが遮断された[13]。11月5日までに、三兄弟同盟とその連帯勢力は、国軍の軍事基地150ヶ所を占領し、戦車6両を含む多くの兵器を鹵獲した[6]

11月6日には、KIA・AA・PDFの連合軍がザガイン管区のコーリン英語版を占領した。県(District)レベルの中心都市が、抵抗勢力の支配下に入るのははじめてのことだった[14]。11月15日のコーカン自治区・コンジャン英語版占領などを経て[15]、12月1日には、MNDAAがコーカンの首都であるラウカイ英語版への進軍をはじめ[16]、2024年1月5日までに陥落させた(ラウカイの戦い英語版[17]。TNLAもまた、12月7日にチャウメー郡区英語版のモンロン(Monglon)[18]ナムサン郡区英語版の中心都市であり、パラウン自治区の首府であるナムサン英語版を占領した[19]。さらに、12月31日にはチャウメー郡区のモンゴー(Mongngaw)を制圧した[20]

2024年1月11日、軍事政権と三兄弟同盟は中国政府の仲介のもと昆明で会談をおこない、シャン州北部における停戦協定に合意した(海埂協定)[21][22]。同協定はシャン州のみに限定されるものであったが[21]、同地域においてすら依然として断続的な戦闘が続いた[23]。また、軍は2月10日、コーリンを奪還した[24]

第2次1027作戦

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ラーショーの戦いの戦局図

軍部からの度重なる攻撃を受け、TNLAは6月25日に停戦の終了を宣言した。これをもって海埂協定は破棄され、1027作戦の第2波がはじまった[25][26][27]。6月26日にはTNLAによってナウンチョー英語版が陥落したほか、チャウメー英語版も大部分が占領された[28]

TNLAとマンダレーPDFは7月25日にマンダレー管区のモーゴッ英語版を制圧した[29]。さらに、MNDAAは8月3日にシャン州のラーショーを制圧した(ラーショーの戦い英語版)。これにより、同地に拠点を置く、ミャンマー軍北東軍管区司令部が占拠された[30]。8月12日には、マンダレーPDFによってタガウン英語版が占領された[31]

出典

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  1. ^ a b ミャンマー軍事政権の「終わりの始まり」、全土で攻勢に出る抵抗勢力が誓う”. CNN.co.jp. 2024年8月16日閲覧。
  2. ^ a b c d ミャンマー軍、クーデター後最大の後退 少数民族武装勢力との戦闘で「国が分裂も」」『BBCニュース』。2024年8月16日閲覧。
  3. ^ a b c ‘Operation 1027’: The End of the Beginning of Myanmar’s Spring Revolution” (英語). thediplomat.com. 2024年8月16日閲覧。
  4. ^ a b c d 長田, 紀之「選挙延期の軍政,内戦で劣勢に : 2023年のミャンマー」『アジア動向年報 2024年版』2024年、415–440頁、doi:10.24765/asiadoukou.2024.0_415 
  5. ^ “Myanmar military, Arakan Army halt hostilities on humanitarian grounds”. Radio Free Asia. (2022年11月28日). https://www.rfa.org/english/news/myanmar/ceasefire-11282022182711.html 2024年8月16日閲覧。 
  6. ^ a b c d e Operation 1027 and Its Consequences | ISP-Myanmar” (英語) (2023年11月14日). 2024年8月7日閲覧。
  7. ^ Gan, Nectar (2023年12月19日). “How online scam warlords have made China start to lose patience with Myanmar’s junta” (英語). CNN. 2024年8月7日閲覧。
  8. ^ Chinese police order arrest of alleged Myanmar crime family over telecoms fraud” (英語). South China Morning Post (2023年11月12日). 2024年8月16日閲覧。
  9. ^ Chinese Authorities Issue Arrest Warrants for Criminal Kingpins in Myanmar’s Kokang Region” (英語). thediplomat.com. 2024年8月16日閲覧。
  10. ^ ULA /, AA (27 October 2023). “Statement” (英語). ARAKAN ARMY. 4 November 2023時点のオリジナルよりアーカイブ。28 October 2023閲覧。
  11. ^ Alliance of 3 ethnic rebel groups carries out coordinated attacks in northeastern Myanmar”. ABC News. 4 November 2023時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月16日閲覧。
  12. ^ “Ethnic rebel groups launch Operation 1027 to seize areas on the Chinese border” (英語). PIME AsiaNews. (28 October 2023). オリジナルの4 November 2023時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20231104221617/https://www.asianews.it/news-en/Ethnic-rebel-groups-launch-Operation-1027-to-seize-areas-on-the-Chinese-border-59450.html 
  13. ^ “Seven Key Points About Myanmar Ethnic Alliance’s ‘Operation 1027’”. The Irrawaddy. (2023‐11‐02). https://www.irrawaddy.com/news/war-against-the-junta/seven-key-points-about-myanmar-ethnic-alliances-operation-1027.html 2024年8月16日閲覧。 
  14. ^ “Myanmar Resistance Seizes First District Level Town in Sagaing as Offensive Expands”. The Irrawaddy. (2023年11月6日). https://www.irrawaddy.com/news/war-against-the-junta/myanmar-resistance-seizes-first-district-level-town-in-sagaing-as-offensive-expands.html 2024年8月16日閲覧。 
  15. ^ Now, Myanmar (2023年11月15日). “Entire infantry battalion surrenders in Laukkai: MNDAA” (英語). Myanmar Now. 2024年8月16日閲覧。
  16. ^ Now, Myanmar (2023年12月1日). “After weeks of preparation, MNDAA says it has entered Laukkai” (英語). Myanmar Now. 2024年8月16日閲覧。
  17. ^ Now, Myanmar (2024年1月5日). “MNDAA captures military command centre outside Laukkai, taking full control of city” (英語). Myanmar Now. 2024年8月16日閲覧。
  18. ^ Myanmar Junta Loses Dozens of Troops, More Bases in Three Days of Resistance Attacks”. The Irrawaddy (8 December 2023). 2024年8月16日閲覧。
  19. ^ Myanmar rebels seize town from military junta despite China-backed ceasefire” (英語). France 24 (2023年12月16日). 2023年12月16日閲覧。
  20. ^ Hein Htoo Zan (2 January 2024). “TNLA Seizes Sixth Shan State Town From Myanmar Junta”. The Irrawaddy. 2024年8月16日閲覧。
  21. ^ a b Brotherhood Alliance, Myanmar Junta Agree to Ceasefire in Northern Shan”. the Irrawaddy (2024年1月12日). 2024年8月29日閲覧。
  22. ^ What is Myanmar’s Three Brotherhood Alliance that’s resisting the military?” (英語). Al Jazeera. 2024年8月9日閲覧。
  23. ^ Myanmar Conflict Unveils Complex Dynamics of China's Interests” (英語). Voice of America (2024年1月20日). 2024年8月9日閲覧。
  24. ^ Myanmar Junta Retakes Town From Civilian Government in Sagaing Region. The Irrawaddy. February 13, 2024 Archived February 13, 2024, at the Wayback Machine.
  25. ^ Pan, Myat (2024年6月25日). “Ceasefire between Brotherhood Alliance and Myanmar military ends in northern Shan State” (英語). Myanmar Now. 2024年8月9日閲覧。
  26. ^ “TNLA: We Will Fight Until Myanmar Junta Falls”. The Irrawaddy. (2024年6月28日). https://www.irrawaddy.com/in-person/interview/tnla-we-will-fight-until-myanmar-junta-falls.html 2024年8月9日閲覧。 
  27. ^ Junta-Aligned Political Parties Urge China to Expedite Haigeng Agreement Implementation” (英語). Burma News International. 2024年8月9日閲覧。
  28. ^ “TNLA Seizes Town and Myanmar Regime Positions in Northern Shan State”. The Irrawaddy. (26 June 2024). https://www.irrawaddy.com/news/war-against-the-junta/tnla-seizes-town-and-myanmar-regime-positions-in-northern-shan-state.html 
  29. ^ TNLA, PDF Seize Myanmar’s Ruby Hub Mogoke From Junta”. the Irrawaddy (July 25, 2024). 2024年8月9日閲覧。
  30. ^ ミャンマー国軍、前例のない打撃 北東軍管区「司令部」を民主同盟軍が占拠、4000人以上降伏か:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年8月9日閲覧。
  31. ^ PDF forces capture Tagaung Town in Mandalay Region” (英語). Burma News International. 2024年8月13日閲覧。