2010年アブダビグランプリ

2010年アブダビグランプリは、2010年F1世界選手権最終戦として、2010年11月14日ヤス・マリーナ・サーキットで開催された。正式名称は2010 ETIHAD AIRWAYS ABU DHABI GRAND PRIX

アラブ首長国連邦の旗 2010年アブダビグランプリ
レース詳細
日程 2010年シーズン第19戦
決勝開催日 11月14日
開催地 ヤス・マリーナ・サーキット
アブダビ ヤス島
コース長 5.554km
レース距離 55周(305.470km)
ポールポジション
ドライバー
タイム 1'39.394
ドライバー イギリスの旗 ルイス・ハミルトン
決勝順位
優勝
  • ドイツの旗 セバスチャン・ベッテル
    1:39'36.837
2位
3位

レース前の状況 編集

3チーム、5名のドライバーによって争われてきたドライバーズチャンピオンシップは最終戦で雌雄を決することになった。前戦終了時点のポイントランキングは、韓国GPでトップに立ったフェルナンド・アロンソフェラーリ)が246点、マーク・ウェバーレッドブル)が8点差の238点、セバスチャン・ベッテル(レッドブル)が15点差の231点、ルイス・ハミルトンマクラーレン)が24点差の222点。ジェンソン・バトン(マクラーレン)はすでにタイトル争いから脱落している。

アブダビGPの順位と最終得点
ドライバー 得点(勝数) 優勝 2位 3位 4 5 6 7 8 9 10
アロンソ 246(5勝) 271 264 261 258 256 254 252 250 248 247
ウェバー 238(4勝) 263 256 253 250 248 246 244 242 240 239
ベッテル 231(4勝) 256 249 246 243 241 239 237 235 233 232
ハミルトン 222(3勝) 247 240 237 234 232 230 228 226 224 223
  • 得点は10位までに25-18-15-12-10-8-6-4-2-1点。
  • 同点の場合は優勝回数および上位成績によりランキングが決定する。
  • 太字は無条件でタイトル決定。斜体は条件付きでタイトル決定。

アロンソは2位以内でフィニッシュすれば他者に関係なく自力でタイトルを決められる。ウェバーは5位以上、ベッテルは2位以上が最低必要であり、あとはアロンソの結果次第。ウェバー優勝の場合アロンソが3位以下、ベッテル優勝の場合アロンソが5位以下でないとそれぞれ逆転できない。ハミルトンは優勝しても、アロンソ無得点・ウェバー6位以下・ベッテル3位以下[1]という条件が揃わなければならず、可能性は極めて低い。

上記4ドライバーがチャンピオンを獲得するための条件は以下のとおり。[1]

アロンソ
2位以上=自動的に獲得、3~4位=ウェバー2位以下、5位=ウェバー2位以下/ベッテル2位以下、 6位=ウェバー3位以下/ベッテル2位以下、7位=ウェバー4位以下/ベッテル2位以下、8位=ウェバー4位以下/ベッテル2位以下、9位=ウェバー5位以下/ベッテル3位以下、10位以下=ウェバー6位以下/ベッテル3位以下
ウェバー:最低条件-5位以上
優勝=アロンソ3位以下、2位=アロンソ6位以下/ベッテル2位以下、3位=アロンソ7位以下/ベッテル2位以下、4位=アロンソ9位以下/ベッテル2位以下、5位=アロンソ10位以下/ベッテル3位以下
ベッテル:最低条件-2位以上
優勝=アロンソ5位以下、2位=アロンソ9位以下/ウェバー5位以下
ハミルトン:最低条件-優勝
優勝=アロンソ11位以下/ウェバー6位以下/ベッテル3位以下

注目はレッドブルチームがチームオーダーを発動するかという点であった。仮にレースがベッテル-ウェバー-アロンソという展開になった場合、ベッテルがウェバーに優勝を譲ってアロンソを抑え込む役割を果たせば、ウェバーのチャンピオン獲得が可能となる。しかし、レッドブルはドイツGP以降フェラーリのチームオーダーを批判し、両ドライバーを公平に競わせる方針を唱えてきた。アロンソも「レッドブルは平等性を説くことに3カ月を費やしてきたのだから、今、同じ哲学を継続するべきだね[2]」とコメントした(アロンソ的にはベッテルが勝った方が条件は楽になる)。ウェバー、ベッテルとも決め事はないとして、メディアの質問をかわしていた[3][4]

また、最終戦は1997年以来タイヤサプライヤーを務めてきたブリヂストンにとって最後のF1レースとなった。(ワンメイクであるため)このレースを終えるとF1通算勝利数は175勝に達する。

予選 編集

 
ポールポジションを獲得したセバスチャン・ベッテル

ヤス・マリーナは元々路面が滑りやすい上に、火曜日と金曜日の午前中に雨が降ったため、コースコンディションはさらに難しくなった。ブリヂストンはスーパーソフト(オプション)とミディアム(プライム)の2種類のタイヤを持ち込んだが、フリー走行ではスーパーソフト側にグレイニング(ささくれ磨耗)の症状が現われた。

予選Q3で、レッドブル勢は燃料を積んだ状態での連続周回アタックという作戦を選んだ。ベッテルは今季10回目となるポールポジションを獲得したが、ウェバーはタイムをまとめきれず5番グリッドに沈んだ。ここ数戦低迷していたマクラーレンは最終型Fダクトの投入が成功し、ハミルトンが2位、バトンが4位を獲得した。ハミルトンはマッサの進路を妨害したとして審議対象になったが、ペナルティーは必要なしと判断された。アロンソは最後のアタックで3番手タイムを記録し、タイトル争いの直接のライバルであるウェバーよりも前からスタートすることになった。

結果 編集

順位 No ドライバー チーム Q1 Q2 Q3 Grid
1 5   セバスチャン・ベッテル レッドブルルノー 1:40.318 1:39.874 1:39.394 1
2 2   ルイス・ハミルトン マクラーレンメルセデス 1:40.335 1:40.119 1:39.425 2
3 8   フェルナンド・アロンソ フェラーリ 1:40.170 1:40.311 1:39.792 3
4 1   ジェンソン・バトン マクラーレンメルセデス 1:40.877 1:40.014 1:39.823 4
5 6   マーク・ウェバー レッドブルルノー 1:40.690 1:40.074 1:39.925 5
6 7   フェリペ・マッサ フェラーリ 1:40.942 1:40.323 1:40.202 6
7 9   ルーベンス・バリチェロ ウィリアムズコスワース 1:40.904 1:40.476 1:40.203 7
8 3   ミハエル・シューマッハ メルセデス 1:41.222 1:40.452 1:40.516 8
9 4   ニコ・ロズベルグ メルセデス 1:40.231 1:40.060 1:40.589 9
10 12   ヴィタリー・ペトロフ ルノー 1:41.018 1:40:658 1:40.901 10
11 11   ロバート・クビサ ルノー 1:41.336 1:40.780 11
12 23   小林可夢偉 BMWザウバーフェラーリ 1:41.045 1:40.783 12
13 14   エイドリアン・スーティル フォースインディアメルセデス 1:41.473 1:40.914 13
14 22   ニック・ハイドフェルド BMWザウバーフェラーリ 1:41.409 1:41.113 14
15 10   ニコ・ヒュルケンベルグ ウィリアムズコスワース 1:41.015 1:41.418 15
16 15   ヴィタントニオ・リウッツィ フォースインディアメルセデス 1:41.681 1:41.642 16
17 17   ハイメ・アルグエルスアリ トロ・ロッソフェラーリ 1:41.707 1:41.738 17
18 16   セバスチャン・ブエミ トロ・ロッソフェラーリ 1:41.824 18
19 18   ヤルノ・トゥルーリ ロータスコスワース 1:43.516 19
20 19   ヘイキ・コバライネン ロータスコスワース 1:43.712 20
21 24   ティモ・グロック ヴァージンコスワース 1:44.095 21
22 25   ルーカス・ディ・グラッシ ヴァージンコスワース 1:44.510 22
23 21   ブルーノ・セナ HRTコスワース 1:45.085 23
24 20   クリスチャン・クリエン HRTコスワース 1:45.296 24

決勝 編集

決勝は「トワイライトレース」として現地時間17時に始まる。開始時点では気温29度、路面温度33度。上位10台はいずれもスーパーソフトタイヤを装着しているが、ブリヂストンの分析では10周ほどしか保たない可能性もあり[5]、ミディアムへ交換するタイミングの判断が重要となった。

スタートでは偶数列のマクラーレンの2台が鋭い加速をみせた。ハミルトンは1コーナーでインを狙うが、ポールシッターのベッテルが際どく首位を守った。逆に、アロンソはバトンに抜かれて4番手に後退した。これにウェバー、フェリペ・マッサ(フェラーリ)が続いて1コーナーを通過した。

ヘアピン手前の6コーナーに差し掛かったところでミハエル・シューマッハメルセデス)がスピンし、ビタントニオ・リウッツィフォース・インディア)のマシンが乗り上げた。散乱した破片を撤去するため、5周目までセーフティーカーが導入された。この間を利用してピットインし、早々とミディアムタイヤに履き替える者もいた。

レース再開後、ベッテルとハミルトンは3番手のバトン以下を引き離してトップ争いを展開する。アロンソはウェバーを後方に従えつつ、4位キープで走行を続ける。リアタイヤのグリップ低下に苦しむウェバーは、状況打開のため11周目にピットインし、ミディアムタイヤに交換した。フェラーリ陣営はこれに反応してマッサをピットに呼ぶが、ウェバーの前でコースに送り出すことはできなかった。

ウェバーがベストタイムを記録したのを見て、アロンソにも15周目にピットインの指示が出される。アロンソは狙い通りウェバーの前をキープしたままコースに復帰したが、セーフティーカー走行中にタイヤ交換を済ませていたニコ・ロズベルグ(メルセデス)とビタリー・ペトロフルノー)に先行を許し、実質的には6番手に後退してしまった。アロンソはペトロフの背後に迫るが、ルノーのマシンは直線スピードが伸びるため、2本のロングストレートでもかわすことができない。ウェバーもアロンソを脅かすほどの勢いがなく、ランキング上位2名は思わぬ苦境に陥った。

 
接近戦を展開するベッテルクビサ小林ハミルトンの4台。

レース序盤に発生したタイヤのグレイニングは、路面にラバーが乗ることで改善傾向に向かい、ハミルトンは23周目、ベッテルは24周目までスーパーソフトで走り切った。両者のピットインの間にバトンが首位に立ち、ベッテルを挟んで、予選11位スタートのロバート・クビサ(ルノー)が3位に浮上した。ハミルトンもアロンソと同様にクビサを抜きあぐね、ベッテルとの差が開いてしまった。バトンはスーパーソフトで40周まで粘り、3番手で復帰した。47周目にはクビサもミディアムからスーパーソフトに履き替え、ペトロフの前で復帰した。

一連のタイヤ交換が終わるとベッテルは首位に再浮上し、危なげなく55周を走り切って今期5勝目のチェッカーを受けた。2位ハミルトン、3位バトンに続き、ロズベルグが4位に入賞した時点でベッテルの大逆転チャンピオン獲得が決定した。タイトル争いの伏兵となったルノー勢が5位、6位でゴールし、アロンソは7位、ウェバーは8位というまさかの順位に終わった。

2010年の最終結果は、ベッテルが256点で自身初のドライバーズチャンピオンを獲得。23歳134日での戴冠は、2008年のハミルトンを上回る史上最年少記録となった。2位は252点のアロンソ、3位は242点のウェバー、4位は240点のハミルトン、5位は214点のバトンという順になった。

結果 編集

順位 No ドライバー チーム 周回数 タイム/リタイア Grid Pts.
1 5   セバスチャン・ベッテル レッドブルルノー 55 1:39'36.837 1 25
2 2   ルイス・ハミルトン マクラーレンメルセデス 55 +10.162 2 18
3 1   ジェンソン・バトン マクラーレンメルセデス 55 +11.047 4 15
4 4   ニコ・ロズベルグ メルセデス 55 +30.747 9 12
5 11   ロバート・クビサ ルノー 55 +39.026 11 10
6 12   ヴィタリー・ペトロフ ルノー 55 +43.520 10 8
7 8   フェルナンド・アロンソ フェラーリ 55 +43.797 3 6
8 6   マーク・ウェバー レッドブルルノー 55 +44.243 5 4
9 17   ハイメ・アルグエルスアリ トロ・ロッソフェラーリ 55 +50.201 17 2
10 7   フェリペ・マッサ フェラーリ 55 +50.868 6 1
11 22   ニック・ハイドフェルド BMWザウバーフェラーリ 55 +51.551 14
12 9   ルーベンス・バリチェロ ウィリアムズコスワース 55 +57.686 7
13 14   エイドリアン・スーティル フォースインディアメルセデス 55 +58.325 13
14 23   小林可夢偉 BMWザウバーフェラーリ 55 +59.558 12
15 16   セバスチャン・ブエミ トロ・ロッソフェラーリ 55 +1'03.178 18
16 10   ニコ・ヒュルケンベルグ ウィリアムズコスワース 55 +1'04.763 15
17 19   ヘイキ・コバライネン ロータスコスワース 54 +1 Lap 20
18 25   ルーカス・ディ・グラッシ ヴァージンコスワース 53 +2 Laps 22
19 21   ブルーノ・セナ HRTコスワース 53 +2 Laps 23
20 20   クリスチャン・クリエン HRTコスワース 53 +2 Laps 24
21 18   ヤルノ・トゥルーリ ロータスコスワース 51 リアウィング 19
Ret 24   ティモ・グロック ヴァージンコスワース 43 ギアボックス 21
Ret 3   ミハエル・シューマッハ メルセデス 0 接触 8
Ret 15   ヴィタントニオ・リウッツィ フォースインディアメルセデス 0 接触 16

脚注 編集

  1. ^ a b Kay Tanaka (2010年11月12日). “2010年アブダビGPの見どころ”. ESPN F1. http://ja.espnf1.com/abudhabi/motorsport/story/33822.html 2012年1月26日閲覧。 
  2. ^ “レッドブルドライバーは自由に戦うべきとアロンソ”. ESPN F1. (2010年11月8日). http://ja.espnf1.com/f1/motorsport/story/33446.html 2012年1月25日閲覧。 
  3. ^ “「決めるのはベッテル」とウェバー”. ESPN F1. (2010年11月11日). http://ja.espnf1.com/abudhabi/motorsport/story/33749.html 2012年1月25日閲覧。 
  4. ^ “ベッテル、ウェバー支援"決めてない"”. ESPN F1. (2010年11月11日). http://ja.espnf1.com/abudhabi/motorsport/story/33697.html 2012年1月25日閲覧。 
  5. ^ “浜島裕英 タイヤ"deep"トーク アブダビGP”. STINGER. (2010年11月13日). http://www.f1-stinger.com/f1-news/voice/2010/11/13/011425.html 2011年1月2日閲覧。 

外部リンク 編集

前戦
2010年ブラジルグランプリ
FIA F1世界選手権
2010年シーズン
前回開催
2009年アブダビグランプリ
  アブダビグランプリ 次回開催
2011年アブダビグランプリ